窃盗罪②——実行の着手・既遂時期・親族相盗例・使用窃盗・電気窃盗
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第12章 財産に対する罪 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
核心①=実行の着手時期(占有侵害の現実的危険) 〔論文の骨格〕

最初の核心、着手です。窃盗の未遂は、どこから始まりますか。243条で、窃盗の未遂は罰せられます。だから問題になる。

実行の着手という概念です。総論#29でやりました。よく覚えています。窃盗では、結果は占有侵害。ここでも軸は占有です。では、原則はどこか。違います。ここが疑問①。侵入だけでは着手になりません。侵入は、住居侵入罪。窃盗とは別の罪です。原則は、財物の物色を開始した時点。物を探し始めた時です。ただし、事案で着手点がズレます。ここが面白い所。自前のイメージで言います。着手は「アラームがどこで鳴るか」。普通の家は、金庫を物色し始めて鳴る。これが原則。でも、土蔵や倉庫は違う。中に財物しかなくて、人も住まない。だから侵入した時点で、もうアラームが鳴る=着手です。電気器具商の深夜侵入も、物色の前でも、レジへ向かえば着手。スリは、もっと特殊。ありかを探る「当たり行為」があります。どのポケットに財布があるか、軽く触れて確かめる行為です。当たり行為では着手でない。ポケットの外側に手を触れた時点で着手。建物に入っただけでもアラームの圏外。覚えておいてください。
着手時系列フロー+事案対比 〔短答・論文共通〕

四つの事案を、時間軸の上に並べました。屋内侵入盗は、物色を始めた時点でアラーム。土蔵は、いちばん左。侵入した時点で着手します。電気器具商は、レジへ向かった時点。物色の少し前です。服に手が触れた時点。当たり行為は、その手前で着手前。軸は一つ。占有侵害の危険が、現実化したのはどこか、です。
核心②=既遂時期(取得説・占有取得時) 〔短答・論文共通〕

次は既遂。窃盗は、どこで完成しますか。疑問②です。それが直感ですが、違います。もっと早いんです。判例は取得説。占有を取得した時点で、もう既遂です。占有者の占有を侵害して、自分の占有に移せば既遂。不要です。安全な場所まで運ぶ必要はありません。万引きを考えてください。商品をポケットに入れたら。だから、店を出る前でも既遂。これが疑問②の答えです。自前のイメージで言うと、自分のカゴに移した瞬間。カゴは自分の支配圏。商品を移せば、占有はもう移っている。では、大きな物はどうでしょう。材木や大型家電。だから、持ち上げる、搬出口へ運ぶなど、事案で判断します。判断要素は、物の大小・搬出の容易さ・支配の程度です。
既遂の占有取得フロー 〔短答〕

既遂をフローで確認します。問いは一つ。小型品なら、ポケットやバッグに入れた時点で既遂。大型品は、持ち上げや搬出で、事案ごとに判断します。占有取得時に既遂、場所的移動は不要。これが核です。
🔴 核心③=親族相盗例244(条文構造) 〔論文の骨格〕

親族相盗例です。疑問③に入ります。そこが、いちばんの誤解。まず条文の構造から見ます。244条1項。配偶者・直系血族・同居の親族との間の窃盗は。その間の窃盗は、刑を免除します。必ず免除です。ここが核心。免除されるのは「刑」だけ。犯罪は成立しています。法的性質が、一身的処罰阻却事由なんです。分解します。犯罪は構成要件該当・違法・有責で成立しますね。親族相盗例は、その三段階には触れません。成立した上で、最後の「処罰する」段階だけ差し控える。自前のイメージで言いましょう。赤信号の交差点です。赤信号は無視できない。でも、ここだけは切符を切られない交差点。違反、つまり犯罪は成立。罰だけ免除。これが核です。では2項。それ以外の親族との間は、どうなると思いますか。こちらは、刑の免除ではなく、親告罪になります。告訴がなければ、起訴できない。被害者が訴えなければ動かない。そして3項。親族でない共犯には、適用しない。その他人は、普通に処罰されます。免除も親告罪もなし。同乗者は、ちゃんと切符を切られる。家族でないからです。一身的処罰阻却事由だから、こう説明できるんです。
条文を確認——244条(親族間の犯罪に関する特例) 〔約束③(条文全文)〕

核心の条文を、全文で見ます。244条です。色分けしました。第235条の罪、つまり窃盗などを犯した者は、その刑を免除する。緑が2項。前項に規定する親族以外の親族との間。赤が3項。前二項の規定は、親族でない共犯には適用しない。趣旨は、法は家庭に入らず。性質は、一身的処罰阻却事由です。
親族相盗例 効果マトリクス 〔短答・論文共通〕

効果を、表で整理します。三つの場合があります。2項の親族なら、親告罪。3項の他人なら、通常処罰。適用される犯罪も押さえてください。窃盗と不動産侵奪。詐欺・恐喝・横領・背任に準用されます。財産犯の多くです。強盗です。悪質だから、家庭内でも免除しない。詳しくは#56で。257条に、別系統の特例があります。これは#64で扱います。
🔴 核心③の難所=双方要件・錯誤・内縁・準用 〔論文の骨格〕

ここからが難所。性質を押さえると、論点が三つ出てきます。一つ目が双方要件、二つ目が錯誤、三つ目が内縁です。設例で考えます。父Bが、友人Cから時計を預かっていました。その時計を、子のAが盗みました。さて、Aは免除されますか。いい所に引っかかりました。でも、時計の所有者は誰でしたか。Aは、占有者の父とは親族。でも、所有者の友人とは他人。判例は、双方に親族関係が必要、とします。一方でもダメです。趣旨に戻ります。法は家庭に入らず、でしたね。所有者が他人なら、被害は家庭の外にはみ出している。だから趣旨が及ばない。Aは免除されません。これが論証19です。後で型にします。二つ目、錯誤です。親族でないのに、親族だと誤信して盗んだ場合。結論から言うと、犯罪の成否には影響しません。また性質です。親族関係は、処罰阻却事由。故意の対象ではない。故意は、構成要件に該当する事実の認識です。親族かどうかは、犯罪の成立要件ではなく、処罰の段階の話。適用されるかは、客観的に親族かどうかだけで決まります。三つ目、内縁です。内縁の配偶者には、適用がありません。判例は、内縁には適用も準用もしない、とします。刑の免除という効果が、あまりに重大だからです。重大な効果ほど、範囲を明確にすべき。だから法律上の配偶者に限る。三つの帰結は、ぜんぶ「一身的処罰阻却事由」から出ています。
一身的処罰阻却事由の位置づけ図 〔論文の骨格〕

性質を、図で見ます。犯罪成立の階段です。ここまでで犯罪は成立。無罪ではありません。親族相盗例は、この処罰の段階だけを差し控えます。うまい言い方です。だから、三つの帰結が出ます。全部、犯罪は成立しているから、で説明できます。
📝 論文の型

論証19。法は家庭に入らず、一身的処罰阻却事由。この二つがまず核。所有者を含めた全当事者が親族関係。そして、双方と親族関係。あとは趣旨から復元します。まず性質から。趣旨は、法は家庭に入らず。家庭内で収めるため。占有者と所有者が違えば、双方と親族関係が必要。

答案の型です。父が預かった時計を子が盗む設例で通します。規範で、性質と趣旨を立て、双方要件を導く。被害が家庭内にとどまらないから、趣旨が妥当しない。趣旨から双方要件を導く流れが、勝負所です。
親族相盗例 双方要件の関係図 〔短答・論文共通〕

双方要件を、関係図で確認します。三人います。AとBは、緑の線。親族あり。占有者とは親族でも、所有者とは他人。一方が欠けています。図で見ると、親族の○と×が一目で分かりますね。
論文の型:親族相盗例②錯誤の処理 〔論文〕

もう一つの型、錯誤の処理です。論証20。一身的処罰阻却事由、処罰阻却事由は故意の対象でない。犯罪の成否には影響しない。この三つだけ逐語固定です。性質を立て、故意の対象は構成要件該当事実、と確認する。適用されるかは、客観的に親族かどうかだけで決まります。

答案の型です。親族でないのに親族と誤信した設例です。規範で、性質と、故意の対象でないことを立てる。逆に、客観的に親族なら、非親族と誤信しても免除。性質から一貫して書けるのが、この論点の強みです。
核心④=使用窃盗(#53/#54総論済・当てはめ) 〔論文の骨格〕

次は使用窃盗。疑問④です。ちょっと借りたら窃盗か。半分正解です。鍵は、前回の不法領得の意思。今回効くのは、権利者排除意思の方です。これを欠く一時使用は、被害が軽くて不可罰。使用窃盗です。賃貸借や使用貸借によらねば使えない態様で、使う意思があるか。例えば、自転車を5分使ってすぐ戻すなら。でも、自動車を数時間乗り回すなら。自動車は、財産的価値が大きい。数時間でも、影響が重い。だから排除意思あり。窃盗になります。判例も、約4時間乗り回す意思で乗り出した時点で窃盗、と。当然に排除意思あり。これは迷わず窃盗です。軸は、賃貸借等によらねば使えない態様か、です。
使用窃盗の権利者排除意思フロー 〔短答・論文共通〕

フローで確認します。問いは一つ。イエスなら排除意思あり。自動車や乗り捨て。ノーなら排除意思なし。自転車を短時間で返す。線引きは、物の価値と、利用態様の重さです。
核心⑤=電気窃盗245(財物擬制と射程) 〔短答〕

最後の核心、電気窃盗です。疑問⑤。電気は盗めるのか。いい疑問。245条が、電気は財物とみなす、と定めています。

なぜ、わざわざ書くと思いますか。通説では、財物は有体物に限られます。電気はエネルギーで、有体物でない。だから本来は財物でない。逆に言うと、わざわざ書くのは、本来財物でない証拠です。では、情報はどうでしょう。データそのもの。ところが、情報それ自体は財物でない。窃盗になりません。電気は245条で明文がある。でも情報には、そんな条文がない。それに、窃盗には利益を奪う2項がない。前回やりました。だから、情報をコピーしただけでは、窃盗にならない。そこで、媒体です。情報を書いた紙やUSBを持ち去れば。その媒体について、窃盗が成立します。入れ物は財物。営業秘密なら、不正競争防止法で別途守られます。
財物と電気・情報の境界図 〔短答〕

四つに分けた境界図です。左から見ます。電気は、財物○。ただし245条による擬制です。最後、媒体。紙やUSBは財物○。これは別論で窃盗。明文があるか、有体物か。この二つが境界を決めます。
短答ひっかけ

整理します。①着手は、占有侵害の現実的危険。原則は物色開始。②既遂は取得説。占有取得時で、場所的移動は不要。③親族相盗例。1項免除・2項親告罪・3項非親族不適用。双方要件・錯誤・内縁。この三つの難所が出ました。自転車は不可罰、自動車は窃盗。⑤電気は財物、情報は×。
今日の地図(保存版)

まとめます。①着手は、占有侵害の現実的危険。原則は物色開始。②既遂は取得説。占有取得時で、場所的移動は不要。犯罪は成立し、刑だけ免除。無罪ではありません。④使用窃盗は権利者排除意思、⑤電気は財物・情報は×。暴行で財物を奪う罪に入ります。
論文の型:実行の着手(窃盗) 〔論文〕

三つ目の型、実行の着手です。占有侵害の現実的危険、物色を開始。まずこの二つ。土蔵への侵入・財物のありかへの接近。この前倒しの語です。総論の定義を、窃盗の占有侵害に当てはめる。スリの当たり行為は着手前、も忘れずに。

答案の型です。屋内侵入盗で、物色中に発見された設例です。規範で、占有侵害の現実的危険と、原則・修正を立てる。物色を始めた時点で危険が生じ、着手=窃盗未遂。土蔵なら侵入時、と修正を使い分けられれば完璧です。