刑法 ゼロから刑法#55

窃盗罪②——実行の着手・既遂時期・親族相盗例・使用窃盗・電気窃盗

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第12章 財産に対する罪 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

核心①=実行の着手時期(占有侵害の現実的危険) 〔論文の骨格〕

核心①=実行の着手時期。窃盗の未遂は罰する(243条)。実行の着手(43条)=結果発生の現実的危険を含む行為の開始(総論#29)=窃盗では他人の占有侵害の現実的危険を生じさせる行為。原則=財物の物色を開始した時点。住居侵入だけでは着手でない(侵入は住居侵入罪130で別個・窃盗の着手ではない)。もっとも占有侵害の危険が物色前に生じる事案では前倒し。土蔵・倉庫(人が住まず財物しかない)=侵入(外扉を破って開く)時点で着手(名古屋高判昭25・11・14)/電気器具商の深夜侵入=物色前でもレジへ向かった時点(最決昭40・3・9)/スリ=ありかを探る「当たり行為」では着手でなくポケットの外側に手を触れた時点で着手(最決昭29・5・6)。自前イメージ=着手は「アラームがどこで鳴るか」。

最初の核心、着手です。窃盗の未遂は、どこから始まりますか。243条で、窃盗の未遂は罰せられます。だから問題になる。

刑法243条(未遂罪)=第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。→235条(窃盗)の未遂が罰されるから「どこから着手か(未遂の始まり)」が問題になる。e-Gov現行(条番号列挙はFCで最終確認)。

実行の着手という概念です。総論#29でやりました。よく覚えています。窃盗では、結果は占有侵害。ここでも軸は占有です。では、原則はどこか。違います。ここが疑問①。侵入だけでは着手になりません。侵入は、住居侵入罪。窃盗とは別の罪です。原則は、財物の物色を開始した時点。物を探し始めた時です。ただし、事案で着手点がズレます。ここが面白い所。自前のイメージで言います。着手は「アラームがどこで鳴るか」。普通の家は、金庫を物色し始めて鳴る。これが原則。でも、土蔵や倉庫は違う。中に財物しかなくて、人も住まない。だから侵入した時点で、もうアラームが鳴る=着手です。電気器具商の深夜侵入も、物色の前でも、レジへ向かえば着手。スリは、もっと特殊。ありかを探る「当たり行為」があります。どのポケットに財布があるか、軽く触れて確かめる行為です。当たり行為では着手でない。ポケットの外側に手を触れた時点で着手。建物に入っただけでもアラームの圏外。覚えておいてください。

着手時系列フロー+事案対比 〔短答・論文共通〕

🔴 実行の着手 時系列フロー+事案対比。横軸=住居侵入→物のありかへ接近→物色を開始→財物を取得 の時間軸。各事案の着手点=屋内侵入盗=物色を開始した時点/土蔵・倉庫(人が住まず財物しかない)=侵入(外扉を破って開く)時点(前倒し)/電気器具商の深夜侵入=レジ(現金のありか)へ向かった時点/スリ=ポケットの外側に手を触れた時点(当たり行為は着手前)。※住居侵入だけでは着手でない(住居侵入罪130で別個)。窃盗の着手=他人の占有侵害の現実的危険を生じさせる行為=原則 物色開始。危険が物色前に生じる事案(土蔵・接近・スリ)は前倒し。

四つの事案を、時間軸の上に並べました。屋内侵入盗は、物色を始めた時点でアラーム。土蔵は、いちばん左。侵入した時点で着手します。電気器具商は、レジへ向かった時点。物色の少し前です。服に手が触れた時点。当たり行為は、その手前で着手前。軸は一つ。占有侵害の危険が、現実化したのはどこか、です。

核心②=既遂時期(取得説・占有取得時) 〔短答・論文共通〕

核心②=既遂時期。窃盗の既遂=占有者の占有を侵害し、財物を自己(or第三者)の占有に移した時点(取得説・最判昭24・6・14)。場所的移動は不要=安全な場所まで運ぶ必要はない。他人の支配下にある物を自己の支配下に移せば、その時点で既遂。占有取得の有無=物の大小・搬出の容易さ・占有者の支配の程度で判断。小型品(万引き)=商品をポケット・バッグに入れた時点で既遂(店を出る必要なし)。大型品(材木・大型家電 等)=持ち上げ・搬出口へ運ぶなど事案ごとに支配移転を判断。自前イメージ=既遂は「自分のカゴに移した瞬間」。買い物カゴ(自分の支配圏)に移せば占有は移る。店を出るかは関係ない。

次は既遂。窃盗は、どこで完成しますか。疑問②です。それが直感ですが、違います。もっと早いんです。判例は取得説。占有を取得した時点で、もう既遂です。占有者の占有を侵害して、自分の占有に移せば既遂。不要です。安全な場所まで運ぶ必要はありません。万引きを考えてください。商品をポケットに入れたら。だから、店を出る前でも既遂。これが疑問②の答えです。自前のイメージで言うと、自分のカゴに移した瞬間。カゴは自分の支配圏。商品を移せば、占有はもう移っている。では、大きな物はどうでしょう。材木や大型家電。だから、持ち上げる、搬出口へ運ぶなど、事案で判断します。判断要素は、物の大小・搬出の容易さ・支配の程度です。

既遂の占有取得フロー 〔短答〕

🔴 既遂時期 占有取得フロー。財物を自己(or第三者)の占有に移したか?→小型品(万引き 等)=ポケット・バッグに入れた時点で既遂→店を出る前でも既遂(占有はもう移っている)/大型品(材木・大型家電 等)=持ち上げ・搬出口へ運ぶ等 事案ごとに判断→支配移転を個別判断(物の大小・搬出容易性・占有者の支配の程度)。★規範=窃盗の既遂=占有者の占有を侵害し財物を自己(or第三者)の占有に移した時点(取得説・最判昭24・6・14)。場所的移動は不要=安全な場所まで運ぶ必要はなく、他人の支配下の物を自己の支配下に移せばその時点で既遂。

既遂をフローで確認します。問いは一つ。小型品なら、ポケットやバッグに入れた時点で既遂。大型品は、持ち上げや搬出で、事案ごとに判断します。占有取得時に既遂、場所的移動は不要。これが核です。

🔴 核心③=親族相盗例244(条文構造) 〔論文の骨格〕

🔴 核心③=親族相盗例244。趣旨=「法は家庭に入らず」(家庭内のもめごとは家庭内で)。窃盗235・不動産侵奪235の2・これらの未遂に適用。1項=配偶者・直系血族・同居の親族との間→刑を免除(必要的免除)。2項=それ以外の親族との間→親告罪(告訴がなければ起訴できない)。3項=親族でない共犯には適用しない(非親族の共犯は通常どおり処罰)。法的性質=一身的処罰阻却事由(通説・判例)=犯罪は成立し違法性・責任は阻却しない・刑罰権だけ差し控える(無罪ではない)。自前イメージ=「赤信号は無視できないが切符だけ切られない交差点」。違反(犯罪)は成立/罰だけ免除/同乗者(非親族の共犯)はちゃんと切符を切られる(3項)。

親族相盗例です。疑問③に入ります。そこが、いちばんの誤解。まず条文の構造から見ます。244条1項。配偶者・直系血族・同居の親族との間の窃盗は。その間の窃盗は、刑を免除します。必ず免除です。ここが核心。免除されるのは「刑」だけ。犯罪は成立しています。法的性質が、一身的処罰阻却事由なんです。分解します。犯罪は構成要件該当・違法・有責で成立しますね。親族相盗例は、その三段階には触れません。成立した上で、最後の「処罰する」段階だけ差し控える。自前のイメージで言いましょう。赤信号の交差点です。赤信号は無視できない。でも、ここだけは切符を切られない交差点。違反、つまり犯罪は成立。罰だけ免除。これが核です。では2項。それ以外の親族との間は、どうなると思いますか。こちらは、刑の免除ではなく、親告罪になります。告訴がなければ、起訴できない。被害者が訴えなければ動かない。そして3項。親族でない共犯には、適用しない。その他人は、普通に処罰されます。免除も親告罪もなし。同乗者は、ちゃんと切符を切られる。家族でないからです。一身的処罰阻却事由だから、こう説明できるんです。

条文を確認——244条(親族間の犯罪に関する特例) 〔約束③(条文全文)〕

刑法244条(親族間の犯罪に関する特例)。1項=配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。2項=前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。3項=前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。→1項=刑の免除/2項=親告罪/3項=非親族共犯不適用。趣旨=法は家庭に入らず。性質=一身的処罰阻却事由(犯罪は成立・刑だけ免除)。e-Gov現行(2項「同項に規定する罪」をFCで最終確認)。

核心の条文を、全文で見ます。244条です。色分けしました。第235条の罪、つまり窃盗などを犯した者は、その刑を免除する。緑が2項。前項に規定する親族以外の親族との間。赤が3項。前二項の規定は、親族でない共犯には適用しない。趣旨は、法は家庭に入らず。性質は、一身的処罰阻却事由です。

親族相盗例 効果マトリクス 〔短答・論文共通〕

🔴 親族相盗例244 効果マトリクス。誰との間か→効果→条文・趣旨。配偶者・直系血族・同居の親族(244条1項)→刑を免除(必要的免除)→犯罪は成立し刑だけ免除=一身的処罰阻却事由。それ以外の親族(244条2項)→親告罪(告訴がなければ起訴できない)→告訴を待って訴追の当否を判断。親族でない者・共犯を含む(244条3項)→通常どおり処罰→非親族の共犯には特例は及ばない。※適用される犯罪=窃盗235・不動産侵奪235の2・これらの未遂/準用=詐欺・恐喝・横領・背任(251・255)。強盗には不適用(悪質=#56)/盗品等罪は257で別系統の特例(#64送り)。趣旨=法は家庭に入らず。

効果を、表で整理します。三つの場合があります。2項の親族なら、親告罪。3項の他人なら、通常処罰。適用される犯罪も押さえてください。窃盗と不動産侵奪。詐欺・恐喝・横領・背任に準用されます。財産犯の多くです。強盗です。悪質だから、家庭内でも免除しない。詳しくは#56で。257条に、別系統の特例があります。これは#64で扱います。

🔴 核心③の難所=双方要件・錯誤・内縁・準用 〔論文の骨格〕

🔴 核心③の難所。性質が一身的処罰阻却事由だから3つの帰結=①非親族の共犯に及ばない(3項)②錯誤は犯罪成否に影響しない(論証20)③所有者を含む全関与者が家庭内にある必要(論証19)。所有者と占有者が異なる場合=犯人と占有者・犯人と所有者の双方に親族関係が必要(最決平6・7・19・論証19)。一方でも親族でなければ不適用。錯誤=親族関係は処罰阻却事由=故意の対象でない→親族でないのに親族と誤信/逆の誤信があっても犯罪の成否・罪責に影響しない(論証20)。内縁の配偶者は適用も準用もなし(最決平18・8・30=刑免除という重大な効果ゆえ範囲を明確に=法律上の配偶者に限る)。準用=詐欺・恐喝・横領・背任(251・255)/強盗には不適用(#56)/盗品等罪は257で別系統(#64送り)。「親族」=民法準拠。

ここからが難所。性質を押さえると、論点が三つ出てきます。一つ目が双方要件、二つ目が錯誤、三つ目が内縁です。設例で考えます。父Bが、友人Cから時計を預かっていました。その時計を、子のAが盗みました。さて、Aは免除されますか。いい所に引っかかりました。でも、時計の所有者は誰でしたか。Aは、占有者の父とは親族。でも、所有者の友人とは他人。判例は、双方に親族関係が必要、とします。一方でもダメです。趣旨に戻ります。法は家庭に入らず、でしたね。所有者が他人なら、被害は家庭の外にはみ出している。だから趣旨が及ばない。Aは免除されません。これが論証19です。後で型にします。二つ目、錯誤です。親族でないのに、親族だと誤信して盗んだ場合。結論から言うと、犯罪の成否には影響しません。また性質です。親族関係は、処罰阻却事由。故意の対象ではない。故意は、構成要件に該当する事実の認識です。親族かどうかは、犯罪の成立要件ではなく、処罰の段階の話。適用されるかは、客観的に親族かどうかだけで決まります。三つ目、内縁です。内縁の配偶者には、適用がありません。判例は、内縁には適用も準用もしない、とします。刑の免除という効果が、あまりに重大だからです。重大な効果ほど、範囲を明確にすべき。だから法律上の配偶者に限る。三つの帰結は、ぜんぶ「一身的処罰阻却事由」から出ています。

一身的処罰阻却事由の位置づけ図 〔論文の骨格〕

🔴 一身的処罰阻却事由の位置づけ。犯罪成立の階段=構成要件該当→違法→有責→【ここまでで犯罪は成立(無罪ではない)】→処罰(刑罰権の行使)。親族相盗例は、この最後の「処罰」段階だけを差し控える=処罰阻却事由(犯罪の成立は否定されない)。だから3つの帰結=①非親族の共犯には及ばない(3項=犯罪は成立しているので共犯者は普通に処罰)②錯誤は犯罪成否に影響しない(処罰阻却事由は構成要件要素でない=故意の対象でない・論証20)③所有者を含む全関与者が家庭内にある必要(双方要件・論証19)=趣旨「法は家庭に入らず」を貫くから。

性質を、図で見ます。犯罪成立の階段です。ここまでで犯罪は成立。無罪ではありません。親族相盗例は、この処罰の段階だけを差し控えます。うまい言い方です。だから、三つの帰結が出ます。全部、犯罪は成立しているから、で説明できます。

📝 論文の型

★コア規範|親族相盗例①適用要件(双方要件)。244条1項は「法は家庭に入らず」という法政策に基づく一身的処罰阻却事由である。その趣旨を実現するには、所有者を含めた全当事者が親族関係にあることを要する。したがって、財物の占有者と所有者が異なる場合は、犯人と占有者・犯人と所有者の双方と親族関係が必要であり、一方でも欠ければ本条の適用はない。復元キー=①性質=一身的処罰阻却事由(犯罪は成立・刑だけ免除)②趣旨=法は家庭に入らず③帰結=趣旨を妥当させるには所有者を含めた全当事者が家庭内(親族関係)にある必要④当てはめ=占有者・所有者が異なれば犯人と占有者・犯人と所有者の双方と親族関係が必要⑤一方でも欠ければ不適用(最決平6・7・19)/内縁は適用も準用もなし(最決平18・8・30)。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(法は家庭に入らず/一身的処罰阻却事由/所有者を含めた全当事者が親族関係/双方と親族関係)のみ。

論証19。法は家庭に入らず、一身的処罰阻却事由。この二つがまず核。所有者を含めた全当事者が親族関係。そして、双方と親族関係。あとは趣旨から復元します。まず性質から。趣旨は、法は家庭に入らず。家庭内で収めるため。占有者と所有者が違えば、双方と親族関係が必要。

答案の型|親族相盗例①適用要件(双方要件)。【事例】甲は、父Bが友人Cから預かって占有していた時計を盗んだ。甲とBは親族だが、甲と所有者Cは親族でない。甲に244条1項の適用があるか。【問題提起】占有者Bとは親族だが、所有者Cとは親族でない。占有者・所有者の一方とのみ親族関係があれば足りるかが問題となる。【規範】244条1項は一身的処罰阻却事由(法は家庭に入らず)。趣旨を実現するには所有者を含む全当事者が親族関係にある必要=占有者・所有者の双方と親族関係を要する。【あてはめ】甲は占有者Bとは親族であるが、所有者Cとは親族関係にない。被害は家庭内にとどまらず、趣旨が妥当しない。よって甲に244条1項の適用はなく、刑は免除されない。

答案の型です。父が預かった時計を子が盗む設例で通します。規範で、性質と趣旨を立て、双方要件を導く。被害が家庭内にとどまらないから、趣旨が妥当しない。趣旨から双方要件を導く流れが、勝負所です。

親族相盗例 双方要件の関係図 〔短答・論文共通〕

🔴 親族相盗例 双方要件の関係図。事案=父Bが友人Cから預かって占有する時計を、子Aが盗んだ。Aは占有者Bとは親族だが、所有者Cとは親族でない。犯人A—占有者B=父(Aの親族・親族○)/犯人A—所有者C=友人(Aと無関係・親族×)。★規範(論証19)=244条1項は「法は家庭に入らず」に基づく一身的処罰阻却事由。その趣旨を実現するには所有者を含めた全当事者が親族関係にある必要→占有者・所有者の双方と親族関係を要する(一方でも欠ければ不適用・最決平6・7・19)。本件Aは免除されない。

双方要件を、関係図で確認します。三人います。AとBは、緑の線。親族あり。占有者とは親族でも、所有者とは他人。一方が欠けています。図で見ると、親族の○と×が一目で分かりますね。

論文の型:親族相盗例②錯誤の処理 〔論文〕

★コア規範|親族相盗例②錯誤の処理。244条1項は「法は家庭に入らず」に基づく一身的処罰阻却事由であり、処罰阻却事由は故意の対象でない(構成要件要素ではない)。したがって、親族関係についての錯誤があっても、犯罪の成否には影響しない。復元キー=①性質=一身的処罰阻却事由(犯罪は成立・刑だけ免除)②故意(38条1項)の対象=構成要件該当事実→処罰阻却事由は構成要件要素でない=故意の対象でない③帰結=親族関係の有無の錯誤は故意を阻却せず犯罪の成否・罪責には影響しない④誤信①=非親族を親族と誤信→客観的に非親族なら適用なし(誤信は無意味・通常処罰)⑤誤信②=親族を非親族と誤信→客観的に親族なら適用あり(錯誤と無関係に免除)。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(一身的処罰阻却事由/処罰阻却事由は故意の対象でない/犯罪の成否には影響しない)のみ。

もう一つの型、錯誤の処理です。論証20。一身的処罰阻却事由、処罰阻却事由は故意の対象でない。犯罪の成否には影響しない。この三つだけ逐語固定です。性質を立て、故意の対象は構成要件該当事実、と確認する。適用されるかは、客観的に親族かどうかだけで決まります。

答案の型|親族相盗例②錯誤の処理。【事例】甲は、相手方が自己の親族でないのに親族であると誤信して、その財物を盗んだ(逆に、親族なのに非親族と誤信した場合は)。甲に244条1項の適用があるか。【問題提起】親族関係についての錯誤が、犯罪の成否や刑の免除にどう影響するかが問題となる。【規範】244条1項は一身的処罰阻却事由。処罰阻却事由は故意の対象でないから、親族関係の錯誤は犯罪の成否に影響しない。適用は客観的な親族関係の有無で決まる。【あてはめ】親族と誤信しても客観的に非親族であれば適用はなく通常どおり処罰される。逆に非親族と誤信しても客観的に親族であれば、錯誤と無関係に1項が適用され刑が免除される。いずれも犯罪の成否には影響しない。

答案の型です。親族でないのに親族と誤信した設例です。規範で、性質と、故意の対象でないことを立てる。逆に、客観的に親族なら、非親族と誤信しても免除。性質から一貫して書けるのが、この論点の強みです。

核心④=使用窃盗(#53/#54総論済・当てはめ) 〔論文の骨格〕

核心④=使用窃盗。不法領得の意思のうち権利者排除意思を欠く一時使用(無断の一時使用)は、被害が軽微で不可罰(使用窃盗)。線引き=社会通念上、賃貸借・使用貸借によらねば使えない態様で利用する意思(権利者を排除して自己の物として利用する意思)があるか。自転車を短時間使ってすぐ元に戻す意思=排除意思否定→不可罰。自動車は短時間(数時間)でも財産的価値が大きい→賃貸借等によらねば使えない態様=排除意思肯定→窃盗(最決昭55・10・30=約4時間乗り回す意思で乗り出した時点)。乗り捨て目的=当然に排除意思あり→窃盗。総論(権利者排除+利用処分の2要素)の根拠は#53済→ここは権利者排除意思の当てはめの軸のみ。

次は使用窃盗。疑問④です。ちょっと借りたら窃盗か。半分正解です。鍵は、前回の不法領得の意思。今回効くのは、権利者排除意思の方です。これを欠く一時使用は、被害が軽くて不可罰。使用窃盗です。賃貸借や使用貸借によらねば使えない態様で、使う意思があるか。例えば、自転車を5分使ってすぐ戻すなら。でも、自動車を数時間乗り回すなら。自動車は、財産的価値が大きい。数時間でも、影響が重い。だから排除意思あり。窃盗になります。判例も、約4時間乗り回す意思で乗り出した時点で窃盗、と。当然に排除意思あり。これは迷わず窃盗です。軸は、賃貸借等によらねば使えない態様か、です。

使用窃盗の権利者排除意思フロー 〔短答・論文共通〕

🔴 使用窃盗 権利者排除意思フロー。無断で一時使用した→賃貸借・使用貸借によらねば使えない態様で利用する意思か?→YES=権利者排除意思○(自動車を数時間乗り回す/乗り捨て目的)→窃盗235(最決昭55・10・30=自動車一時使用)/NO=権利者排除意思×(自転車を短時間使ってすぐ戻す)→不可罰(使用窃盗・被害が軽微)。★不法領得の意思のうち権利者排除意思を欠く一時使用は不可罰。線引き=社会通念上、賃貸借等によらねば使えない態様で利用する意思があるか。自動車は短時間でも財産的価値が大きく排除意思肯定(約4時間乗り回す意思で乗り出した時点)。総論の根拠は#53済。

フローで確認します。問いは一つ。イエスなら排除意思あり。自動車や乗り捨て。ノーなら排除意思なし。自転車を短時間で返す。線引きは、物の価値と、利用態様の重さです。

核心⑤=電気窃盗245(財物擬制と射程) 〔短答〕

核心⑤=電気窃盗245。245条=「この章の罪については、電気は、財物とみなす」=財物概念の拡張規定。通説(有体性説)=財物=有体物(固体・液体・気体)に限る→電気はエネルギーで有体物でない→本来は財物でない→明文で財物と擬制(管理可能性説に立てば当然の注意規定・#53済)。「電気は財物でないことを前提とした文言」だから有体性説と整合的。射程=情報それ自体は「財物」でない(窃盗に2項〔利益〕窃盗はない)→情報窃盗は窃盗にならない。ただし情報が記録された媒体(紙・USB等)を持ち去れば、媒体について窃盗が成立しうる/営業秘密は不正競争防止法(営業秘密侵害罪)で別途保護。自前イメージ=財物の境界=有体物○/電気=245で○(擬制)/情報そのもの×/入れ物(媒体)○。

最後の核心、電気窃盗です。疑問⑤。電気は盗めるのか。いい疑問。245条が、電気は財物とみなす、と定めています。

刑法245条(電気)=この章の罪については、電気は、財物とみなす。→財物=有体物(通説・有体性説)だと電気は本来あたらない→明文で財物と擬制(窃盗・強盗・詐欺・恐喝に準用=251条)。情報それ自体は財物でない(明文なし)。e-Gov現行(#53で財物の意義は既出)。

なぜ、わざわざ書くと思いますか。通説では、財物は有体物に限られます。電気はエネルギーで、有体物でない。だから本来は財物でない。逆に言うと、わざわざ書くのは、本来財物でない証拠です。では、情報はどうでしょう。データそのもの。ところが、情報それ自体は財物でない。窃盗になりません。電気は245条で明文がある。でも情報には、そんな条文がない。それに、窃盗には利益を奪う2項がない。前回やりました。だから、情報をコピーしただけでは、窃盗にならない。そこで、媒体です。情報を書いた紙やUSBを持ち去れば。その媒体について、窃盗が成立します。入れ物は財物。営業秘密なら、不正競争防止法で別途守られます。

財物と電気・情報の境界図 〔短答〕

🔴 財物の境界図。有体物=財物○(固体・液体・気体/本来の財物・有体性説)→窃盗の客体。電気=財物○(擬制)(エネルギーで有体物でない→245条で財物とみなす)→窃盗の客体(電気窃盗)。情報それ自体=財物×(データ・知識そのもの/窃盗に2項〔利益〕なし)→窃盗にならない。媒体(紙・USB等)=財物○(情報が記録された有体の入れ物)→媒体について窃盗・別論。※245条「この章の罪については、電気は、財物とみなす」=財物概念の拡張(擬制)。情報それ自体は財物でないが、媒体を持ち去れば媒体について窃盗。営業秘密は不正競争防止法で別途保護。

四つに分けた境界図です。左から見ます。電気は、財物○。ただし245条による擬制です。最後、媒体。紙やUSBは財物○。これは別論で窃盗。明文があるか、有体物か。この二つが境界を決めます。

短答ひっかけ

ここはひっかかる(短答・論文まとめ)。①着手=占有侵害の現実的危険(原則 物色開始)/侵入だけでは着手でない/土蔵=侵入時・電気器具商=レジへ接近・スリ=服に触れた時(当たり行為は着手前)。②既遂=取得説(占有取得時・場所的移動不要・最判昭24・6・14)/万引きはポケットに入れた時点で既遂(店を出る前でも)。③🔴親族相盗例244=1項 刑の免除/2項 親告罪/3項 非親族共犯不適用/性質=一身的処罰阻却事由(犯罪は成立・無罪ではない)。③-2 双方要件=所有者・占有者が異なれば双方に親族関係が必要(最決平6・7・19)/錯誤は犯罪成否に影響せず/内縁は不適用(最決平18・8・30)/強盗は不適用。④使用窃盗=権利者排除意思で線引き(自転車短時間×=不可罰/自動車は数時間でも○=窃盗・最決昭55・10・30)。⑤電気窃盗245=電気は財物とみなす(財物擬制)/情報それ自体は財物でない(窃盗にならない)/媒体は財物=別論。

整理します。①着手は、占有侵害の現実的危険。原則は物色開始。②既遂は取得説。占有取得時で、場所的移動は不要。③親族相盗例。1項免除・2項親告罪・3項非親族不適用。双方要件・錯誤・内縁。この三つの難所が出ました。自転車は不可罰、自動車は窃盗。⑤電気は財物、情報は×。

今日の地図(保存版)

#55 今日のまとめ。軸=窃盗罪は他人の占有を意思に反して移す罪。その移転がどこで始まり(着手)どこで完成し(既遂)、移転が起きても処罰しない例外(親族・一時使用)と客体の境界(電気・情報)。①着手=占有侵害の現実的危険(原則 物色開始・侵入だけでは着手でない/土蔵・スリ・電気器具商で前倒し)。②既遂=取得説(占有取得時・場所的移動不要・最判昭24・6・14/万引きはポケットに入れた時点)。③🔴親族相盗例244=1項 刑の免除/2項 親告罪/3項 非親族共犯不適用・性質=一身的処罰阻却事由/双方要件(平6・7・19)・錯誤・内縁不適用(平18・8・30)。④使用窃盗=権利者排除意思で線引き(自転車×/自動車○・最決昭55・10・30)。⑤電気窃盗245=電気は財物とみなす(財物擬制)/情報それ自体は財物でない・媒体は別論。次は#56 強盗罪①(236・1項/2項強盗・反抗抑圧)。

まとめます。①着手は、占有侵害の現実的危険。原則は物色開始。②既遂は取得説。占有取得時で、場所的移動は不要。犯罪は成立し、刑だけ免除。無罪ではありません。④使用窃盗は権利者排除意思、⑤電気は財物・情報は×。暴行で財物を奪う罪に入ります。

論文の型:実行の着手(窃盗) 〔論文〕

★コア規範|実行の着手(窃盗)。窃盗罪の実行の着手(43条)は、他人の占有侵害の現実的危険を生じさせる行為の開始をいう。原則として財物の物色を開始した時点に認められる。もっとも、占有侵害の危険が物色前に生じる場合(土蔵への侵入・財物のありかへの接近 等)は、その時点で着手が認められる。復元キー=①着手の定義=結果発生の現実的危険を含む行為の開始(総論#29=実質的客観説)②窃盗への当てはめ=結果(占有侵害)の現実的危険を生じさせる行為=占有侵害の現実的危険③原則=財物の物色を開始した時点(住居侵入だけでは着手でない=侵入は住居侵入罪130で別個)④修正=危険が物色前に生じる事案は前倒し(土蔵への侵入/電気器具商でレジへ接近/スリで服に触れる)⑤スリの「当たり行為」は着手でなくポケットの外側に手を触れた時点で着手。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(占有侵害の現実的危険/物色を開始/土蔵への侵入・財物のありかへの接近)のみ。

三つ目の型、実行の着手です。占有侵害の現実的危険、物色を開始。まずこの二つ。土蔵への侵入・財物のありかへの接近。この前倒しの語です。総論の定義を、窃盗の占有侵害に当てはめる。スリの当たり行為は着手前、も忘れずに。

答案の型|実行の着手(窃盗)。【事例】甲は、財物窃取の目的で深夜に他人方に侵入し、屋内で金品を探し始めたところで家人に発見された。窃盗の実行の着手が認められるか。【問題提起】侵入の時点で着手があるのか、物色を開始した時点で着手があるのかが問題となる。着手前であれば窃盗未遂は成立しない。【規範】着手=他人の占有侵害の現実的危険を生じさせる行為の開始。原則 物色開始時。危険が物色前に生じる事案(土蔵への侵入・財物のありかへの接近)は前倒し。【あてはめ】本件は通常の家屋への侵入窃盗であり、侵入のみでは占有侵害の現実的危険は生じていない。甲が屋内で金品を物色し始めた時点で、占有侵害の現実的危険が生じたといえる。よってその時点で実行の着手が認められ、窃盗未遂が成立する。

答案の型です。屋内侵入盗で、物色中に発見された設例です。規範で、占有侵害の現実的危険と、原則・修正を立てる。物色を始めた時点で危険が生じ、着手=窃盗未遂。土蔵なら侵入時、と修正を使い分けられれば完璧です。

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