刑法 ゼロから刑法#58

詐欺罪①——欺罔・錯誤・処分行為(処分意思)・財産的損害/1項詐欺と2項詐欺

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第12章 財産に対する罪 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入=交付罪としての詐欺と因果の連鎖 〔短答・論文共通〕

導入=交付罪としての詐欺と因果の連鎖。詐欺罪246=人を欺いて錯誤に陥れ、瑕疵ある意思に基づく処分行為(交付行為)によって財物・財産上の利益を移転させる罪。盗取罪(窃盗・強盗=意思に反して奪う)と違い、被害者「自身」が渡す。予定された因果の連鎖=①欺罔行為→②錯誤→③錯誤に基づく処分行為(交付)→④財物(1項)/財産上の利益(2項)の移転→⑤財産的損害。連鎖が途中で切れれば→重要でない嘘・機械相手=不成立/窃盗/錯誤に陥らない=未遂/処分行為がない(抜き取られただけ)=窃盗/損害なし=不成立。自前の喩え=詐欺は「住人本人に玄関の鍵を開けさせて入る泥棒」/窃盗は「留守に鍵をこじ開けて入る泥棒」。鍵を開けたのは住人本人=これが処分行為。軸=この鎖のどこを見ているかで各論点を位置づける。盗取罪との最大の違い=処分行為の有無。

導入です。詐欺と窃盗の、構造の違いから。窃盗・強盗は、犯人が「取る」罪です。これを盗取罪と言います。詐欺は違います。被害者自身が、騙されて自分で渡す。交付罪です。喩えで言います。詐欺は、ある泥棒です。宅配のフリをして、住人本人に玄関の鍵を開けさせて入る。これが処分行為です。窃盗は。住人は開けていない。だから処分行為がない。この処分行為を保証するのが、因果の連鎖です。①欺罔→②錯誤→③処分行為→④移転→⑤損害。この五つがつながって、初めて詐欺の既遂です。未遂・不成立・窃盗に落ちます。

因果連鎖フロー(どこで切れるか) 〔短答・論文共通〕

🔴 詐欺の因果連鎖フロー(背骨)。①欺罔行為(人を欺く・重要事項)→②錯誤(相手が現実に誤信)→③処分行為(瑕疵ある意思で渡す)→④移転(財物=1項/利益=2項)→⑤財産的損害(目的不達成の損害)。各矢印の下に「ここで切れると」注記=①と②の間で切れる=重要でない嘘/機械相手→不成立・窃盗/②で切れる=錯誤に陥らない(見抜く)→詐欺未遂/③で切れる=処分行為がない(抜き取り)→窃盗/④⑤で切れる=損害なし→不成立(不可罰)。★①〜⑤の5つが鎖でつながって初めて詐欺既遂。詐欺は被害者自身が③処分行為で渡す交付罪(盗取罪との最大の違い=処分行為の有無)。自前の喩え=詐欺は住人本人に鍵を開けさせて入る泥棒/窃盗は留守に鍵をこじ開けて入る泥棒。

フローで、鎖を一枚にしました。左から見てください。各矢印の下に、切れた時の行き先があります。重要でない嘘や、機械相手。詐欺不成立か、窃盗です。相手が見抜いて錯誤に陥らない=詐欺未遂。処分行為がない=抜き取られただけ=窃盗です。損害がない=詐欺不成立、不可罰の嘘です。各論点は「鎖のどこを見るか」で位置づきます。

客体・保護法益(手短に) 〔短答〕

客体・保護法益(手短に)。保護法益=財産(通説)。客体=財物(1項)/財産上の利益(2項)。手段(欺罔・錯誤・処分行為)は1項2項で共通。窃盗・強盗の「財物」は動産が中心だが、詐欺の財物は不動産も含む(騙して所有権移転登記をさせる等)。国・地方公共団体に対する詐欺も成立しうる(財産主体たりうる)=軽く触れる程度(深掘りは#59)。この回では客体は深追いしない。背骨は欺罔→錯誤→処分行為→損害の連鎖(財産上の利益の意義・不法領得の意思総論は#53既出=当てはめのみ)。

客体を、軽く押さえます。保護法益は財産です。財物が1項、利益が2項。手段は共通です。詐欺の財物は、不動産も含みます。騙して登記を移させる、なども詐欺で拾えます。成立しえます。財産の主体ですから。深掘りは#59です。

核心①=欺罔行為(重要事項を偽る・三類型) 〔論文の骨格〕

核心①=欺罔行為(重要事項を偽る・三類型)。欺罔行為=②錯誤を惹起し、かつ③処分行為に向けられた行為。だから機械(自販機・ATM)への不正取得は錯誤の主体がなく詐欺ですらない(→窃盗・後述)。程度=重要事項性=相手が真実を知れば処分しなかったという、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ること(判例の近時の定式=最決平22・7・29系)。社会的に相当な誇張は欺罔にあたらない。🔴三類型(判断軸=「信義則上 告げる義務があるか」):①作為=明示の虚言。②挙動による欺罔=行為自体が表示(支払う気がないのに飲食を注文=注文が「支払意思あり」を表示/譲渡目的を隠して口座開設申込み=申込が「自分で使う」を表示)。③不作為による欺罔=信義則(民1条2項)上の告知義務があるのに黙る。例=レジで多めに渡された釣銭をその場で気づき黙って受け取る(釣銭詐欺・最決昭30・7・7)。※誤振込を知った名義人が窓口で告げず払い戻す=告知義務あり→不作為の欺罔(最決平15・3・12)。誤振込の詳細処理は#59送り。

核心①、欺罔行為です。鎖の一つ目。ただ、嘘なら何でも詐欺、ではありません。重要な事項を偽ること。交付の判断の基礎となる事項です。相手が真実を知っていたら、渡さなかったという所です。世界一うまい、くらいの誇張では詐欺になりません。これが判例の近時の定式にもなっています。三つあります。判断軸は、告げる義務があるか、です。作為。はっきり嘘を言う。これは分かりますね。挙動による欺罔。行為それ自体が、真実を表示する。支払う気がないのに、飲食を注文する。口座も同じ。譲渡目的を隠して開設を申し込む。黙っていても、挙動が嘘をついている。三つ目は。信義則上の告知義務があるのに、黙る。例えば釣銭です。その場で気づいて黙って受け取る=釣銭詐欺です。告げる義務があるか。あれば不作為の欺罔になります。

欺罔行為の三類型フロー 〔論文の骨格〕

🔴 欺罔行為の三類型(判断軸は「信義則上 告げる義務があるか」)。①作為(明示の虚言)=はっきり嘘を言う/例=偽の投資話を信じ込ませて出資させる/最も典型的な欺罔。②挙動による欺罔=行為それ自体が真実を表示/例=支払う気がないのに飲食を注文(注文=「支払意思あり」を表示)/譲渡目的を隠して口座開設申込み(申込=「自分で使う」を表示)。③不作為による欺罔=信義則(民1条2項)上の告知義務があるのに黙る/例=レジで多めに渡された釣銭を、その場で気づいて黙って受け取る(釣銭詐欺)。★いずれも欺罔行為=交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ること(社会的に相当な誇張は除外)。判断軸=「信義則上 告げる義務があるか」。※誤振込を知った名義人が窓口で告げず払い戻す=告知義務あり→不作為の欺罔(最決平15・3・12)。誤振込の詳細処理は#59送り。

三類型を、一枚にしました。三つのカードです。作為は、はっきり嘘。投資詐欺などが典型です。行為が表示するパターン。飲食注文と、口座開設です。告知義務があるのに黙る。釣銭詐欺ですね。告げる義務があるか、で作為と不作為を分けます。告知義務ありで不作為の欺罔。詳細は#59に送ります。

核心②の前提=錯誤(機械は錯誤に陥らない) 〔短答・論文共通〕

核心②の前提=錯誤(機械は錯誤に陥らない)。欺罔行為により相手方が現実に錯誤(誤信)に陥ることが必要。鎖の②。錯誤に陥らせなければ③処分行為に進まない。🔴最重要=機械は錯誤に陥らない。錯誤の主体は「人」。偽コインで自販機から商品を取得/拾ったキャッシュカードでATMから現金を引き出す=詐欺は未遂すら成立せず窃盗(詰まり②の答え)。欺罔行為はしたが相手が錯誤に陥らなかった場合(見抜かれた)=③処分行為に至らない=詐欺未遂。軸=機械相手は鎖が①②で切れて窃盗/人が見抜けば②で切れて未遂。錯誤は「人の誤信」で初めて成立する。

鎖の二つ目、錯誤です。詰まり②の答え。そして最重要が、機械は錯誤に陥らない。錯誤の主体は、あくまで人です。機械は錯誤に陥らない。だから詐欺ではありません。窃盗です。詐欺は未遂すら成立しません。同じく窃盗です。相手が機械ですから。錯誤に陥らない=処分行為に進まない=詐欺未遂です。錯誤は「人の誤信」で初めて成立する、が軸です。

核心③=処分行為・処分意思(詐欺と窃盗の分水嶺) 〔論文の骨格〕

核心③=処分行為・処分意思(詐欺と窃盗の分水嶺・論証31/32)。処分行為=錯誤による瑕疵ある意思に基づいて、財物の占有(または財産上の利益)を相手に終局的に移転させる行為。処分行為の有無が窃盗(盗取罪)と詐欺(交付罪)を分ける分水嶺(詰まり①の答え)。(イ)終局的移転=店内で試着させるだけ(その場限り)→終局的移転でない→着て逃げれば窃盗(広島高判昭30・9・6)/試乗のため単独運転させる(終局的に手放す)→終局的移転=詐欺(東京地八王子支判平3・8・28)。🔴(ウ)処分意思①1項(論証31)=本に挟んだ1万円札の事案。店主は「本」の移転は認識するが「1万円札」の移転は認識なし。通説(呉採用)=個々の財物まで認識不要・なんらかの財物(本)の移転認識で足りる→詐欺/判例(意識説)=特定財物の認識必要→否定=窃盗。本の認識すらなければ(抜き取り)窃盗。🔴(ウ)処分意思②2項(論証32)=ホテルの一時外出の事案。主人は「債務免除」の認識なし。通説(呉採用)=代金債権の準占有が終局的に移転すること(客を離脱させること)の認識で足りる→2項詐欺/判例=債務免除の意思表示を要する(最決昭30・7・7)→否定。終局的移転の認識すらなければ未遂。軸=処分意思を不要にすると窃盗と区別できなくなる(キャッシュカードすり替えの伏線=#59送り)。

核心③、処分行為です。処分行為=瑕疵ある意思で、占有を終局的に移す。そこがポイント。試着と試乗で、対比してみます。店内で試着させるだけ=終局的移転ではない。終局的に渡してないので、窃盗です。試乗は。それは終局的に手放した=処分行為あり=詐欺になります。次が処分意思。被害者が何を認識すれば処分か。店主は本の移転は認識、でも1万円は知らない。考え方が二つ。判例は意識説です。特定の財物、つまり1万円札の認識が必要。認識なし=否定。通説は無意識説。呉もこちらです。個々の財物まで認識は不要。なんらかの財物の認識で足りる。だから処分行為あり=詐欺になります。本の移転すら認識がない=抜き取りなら、窃盗です。2項も同じ構造です。ホテルの一時外出で見ます。主人は、債務免除なんて認識していません。判例は、債務免除の意思表示が必要=否定です。債務免除の認識でなく、準占有の終局的移転の認識で足りる。客を終局的に離脱させること、の認識です。外出させた。終局的移転の認識すらなければ、未遂どまりです。不要にすると、窃盗と区別できなくなるからです。詳しくは#59で。ここは原理を押さえます。

処分意思の分水嶺図(論証31/32) 〔論文の骨格〕

🔴 処分意思の分水嶺(被欺罔者は「何を」認識して渡せば処分か・論証31/32)。1項詐欺(論証31)=本に挟んだ1万円札を知って、知らない店主から本を100円で買う(店主は本の移転は認識、1万円札は認識なし)。判例=意識説=特定財物(1万円札)の移転認識が必要→認識なし→処分行為否定→詐欺×・窃盗。通説(呉採用)=無意識説=なんらかの財物(本)の移転認識で足りる→詐欺〇(本の認識すらなければ抜き取り=窃盗)。2項詐欺(論証32)=ホテル宿泊客が「少し外出する、代金は後で」と外出許可を得て逃走(主人は債務免除の認識なし)。判例=意識説=債務免除の意思表示をさせることを要する→外出許可は処分行為でない→詐欺×(最決昭30・7・7)。通説(呉採用)=無意識説=代金債権の準占有が終局的に移転すること(客を離脱させること)の認識で足りる→2項詐欺〇。★争点=被欺罔者が「何を」認識して渡せば処分か。処分意思を不要にすると窃盗と区別できない(キャッシュカードすり替えは#59)。

分水嶺の図です。左が1項、右が2項。判例は意識説で、否定=窃盗。なんらかの財物の認識で足りる、でした。判例は債務免除の意思表示が必要=否定。外出させた認識があれば、2項詐欺です。論文では、無意識説を立てて当てはめます。

📝 論文の型

★コア規範|被欺罔者の認識の要否①(1項詐欺・処分意思)。詐欺罪は、被欺罔者の瑕疵ある意思に基づく処分行為によって財産が移転する交付罪である。そこで処分行為といえるには、被欺罔者がなんらかの財物(占有)を移転させることの認識(処分意思)を有することを要する。もっとも、個々の財物(その量目)の移転まで認識する必要はないと解する(無意識的処分行為説)。復元キー=①詐欺は瑕疵ある意思に基づく占有移転という構造=処分意思は必要②しかし個々の財物(量目)まで要求すると典型類型を除外し不当③→なんらかの財物の移転認識があれば足りる④本(外形)の移転すら認識がなければ処分行為否定=窃盗⑤処分意思を不要にすると窃盗と区別できない。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(なんらかの財物を移転させることの認識/個々の財物の移転まで認識する必要はない)のみ。

一つ目の型、被欺罔者の認識①1項です。論証31。なんらかの財物を移転させることの認識。この一つ。詐欺は瑕疵ある意思に基づく占有移転の構造。でも量目まで要求すると、典型類型を外して不当。本の認識すらなければ窃盗、まで言えれば完璧です。

答案の型|被欺罔者の認識①(1項詐欺)。【事例】甲は、書籍に1万円札が挟まっているのを見つけ、これに気づいていない古書店主Xから、その書籍を代金100円で買い受けた。甲に1項詐欺罪が成立するか。【問題提起】Xは書籍を交付する認識はあるが、挟まれた1万円札を交付する認識はない。被欺罔者が個々の財物(1万円札)を認識していない場合に処分行為(処分意思)が認められるか(被欺罔者の認識の要否)が問題となる。【規範】処分行為には なんらかの財物の移転認識で足りる=個々の財物の量目まで認識する必要はない。外形の移転すら認識がなければ窃盗。【あてはめ】Xは書籍という なんらかの財物を交付する認識を有している。個々の財物(1万円札)の認識は不要であるから、処分行為が認められ、甲には書籍に挟まれた1万円札を含めて1項詐欺罪が成立する。

答案の型です。本に挟んだ1万円札の設例。規範で、なんらかの財物の認識で足りる、と立てる。個々の財物の認識は不要で、1項詐欺が成立します。

論文の型:被欺罔者の認識②2項 〔論文〕

★コア規範|被欺罔者の認識の要否②(2項詐欺・処分意思)。2項詐欺の処分行為は、被欺罔者に債務免除の認識までは不要であり、財産上の利益(代金債権等の準占有)が終局的に移転することの認識があれば足りると解する(無意識的処分行為説)。復元キー=①判例=債権者を欺いて債務免除の意思表示をさせることを要する(最決昭30・7・7)②しかし移転客体を認識させない典型類型(後払いで逃走等)を除外するのは不当③→準占有が終局的に移転することの認識で足りる④終局的移転の認識すらなければ(一時離席等)処分行為否定=未遂どまり⑤処分意思を不要にすると窃盗(利益窃盗は不可罰)との区別が崩れる。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(債務免除の認識までは不要/準占有が終局的に移転することの認識)のみ。

二つ目の型、被欺罔者の認識②2項です。論証32。準占有が終局的に移転することの認識。ここが核です。債務免除の意思表示を要する。これと対比します。判例だと、移転を認識させない類型を外して不当。一時離席の認識しかなければ、未遂どまりです。

答案の型|被欺罔者の認識②(2項詐欺)。【事例】甲は、宿泊代金を支払う意思も能力もないのにホテルに宿泊し、「散歩して戻る、代金は帰ってから払う」と告げて支配人Bから外出の許可を得たうえ、そのまま逃走した。甲に2項詐欺罪が成立するか。【問題提起】Bは甲に債務を免除する認識を有していない。被欺罔者が債務免除を認識していない場合に処分行為(処分意思)が認められるか(被欺罔者の認識の要否)が問題となる。【規範】債務免除の認識までは不要=準占有が終局的に移転することの認識で足りる。終局的移転の認識すらなければ未遂。【あてはめ】Bは甲を終局的にホテルから離脱させること(外出させること)を認識して許可している。債務免除の認識は不要であるから処分行為が認められ、甲には宿泊代金債務を免れたことにつき2項詐欺罪が成立する。

答案の型です。ホテルの一時外出で逃走した設例。規範で、準占有の終局的移転の認識で足りる。債務免除の認識は不要で、2項詐欺が成立します。

核心④=財産的損害(形式説 vs 実質説) 〔論文の骨格〕

核心④=財産的損害(形式説 vs 実質説・論証33)。詐欺罪は個別財産に対する罪=財産的損害の発生が必要(大決昭3・12・21)。損害が鎖の⑤。詰まり④=価格相当の対価があっても詐欺は成立しうるか。形式的個別財産説(かつての通説)=財物・利益を交付したこと自体が損害。→批判=損害要件が事実上不要になり、詐欺の成立範囲が広すぎる。実質的個別財産説(現在の通説・呉採用/判例もこの方向)=①被害者が取得しようとしたものと②現に給付されたものの間に、経済的に重要な価値の差(隔絶)があるかで損害を判断。価格相当でも、取引目的が達成されなければ損害あり。価格相当給付の場合分け=(ⅰ)効能どおりの薬を相当価格で買う=①②に重要な隔絶なし→損害なし/(ⅱ)市価相当の按摩器を「万病に効く特殊治療器」と偽って買わせる=①「特別な治療器」②「ただの按摩器」=重要な隔絶あり→損害あり=詐欺成立(最判昭34・9・28=電気按摩器・ドルバイブレーター事件)。※公的証明書・通帳・搭乗券の損害各論(最決平22・7・29系)は#59送り。

核心④、財産的損害です。詰まり④の答え。そこが論点。まず、詐欺は個別財産に対する罪です。損害の中身に、二つの考え方があります。形式説。財物や利益を渡したこと自体が損害、とする。いい所です。それが批判で、損害要件が空洞化します。実質説。呉も通説も、こちらです。取得しようとした物と、現に給付された物を比べる。経済的に重要な価値の差、隔絶があるかで判断します。取引の目的が達成されなければ、損害ありです。場合分けします。まず、効能どおりの薬を相当価格で買う。隔絶なし=損害なしです。次が按摩器の事案。市価相当の按摩器を、万病に効く特殊治療器と偽って売る。特別な治療器。でも実際は、ただの按摩器でした。だから損害あり=詐欺成立です。これが実質説です。公的証明書などは#59に送ります。

財産的損害 対比+場合分け 〔論文の骨格〕

🔴 財産的損害 形式説 vs 実質説+価格相当給付の場合分け(論証33)。形式的個別財産説=損害の内容=財物・利益を交付したこと自体が損害/価格相当給付=代金を受領すれば常に損害=詐欺成立/批判=損害要件が空洞化=成立範囲が広すぎる。実質的個別財産説(呉採用)=損害の内容=①取得しようとしたものと②現に給付されたものの経済的に重要な隔絶/価格相当給付=目的が達成されなければ損害/達成なら損害なし/立場=現在の通説・判例もこの方向(最判昭34・9・28)。場合分け=(ⅰ)効能どおりの薬を相当価格で買う=①②に重要な隔絶なし→損害なし/(ⅱ)市価相当の按摩器を「万病に効く特殊治療器」と偽る=隔絶あり→損害あり=詐欺〇。★詐欺は個別財産罪=損害必要。①と②の経済的に重要な隔絶で判断=価格相当でも目的不達成なら損害あり(公的証明書等の各論は#59)。

対比表です。左が形式説、右が実質説。形式説は、交付自体が損害。実質説は、隔絶で判断。形式説は常に損害。実質説は、目的不達成なら損害です。薬は隔絶なしで損害なし。按摩器は隔絶ありで損害あり。実質説を立てて、隔絶を当てはめます。

★コア規範|財産的損害(詐欺罪における損害の要否・内容)。詐欺罪も財産犯である以上、財産的損害の発生を要する。その有無は、①被害者が交付(取得しようと)したものと②欺罔者が現に給付したものとの間に、経済的に重要な価値の差(隔絶)があるかで判断する(実質的個別財産説)。価格相当の対価があっても、取引の目的が達成されなければ損害を肯定しうる。復元キー=①詐欺は個別財産に対する罪=損害必要②形式説(交付自体が損害)は損害要件を空洞化させ不当③→交付物と給付物の経済的に重要な価値の差(隔絶)で判断④隔絶があれば価格相当の対価があっても損害を肯定(按摩器・最判昭34・9・28)⑤効能どおりの物を相当価格で買えば隔絶なし=損害なし。圧縮根拠=逐語固定は採点キーワード(経済的に重要な価値の差/価格相当の対価があっても)のみ。

三つ目の型、財産的損害です。論証33。経済的に重要な価値の差。価格相当の対価があっても。詐欺は個別財産罪=損害必要。形式説は空洞化で不当。隔絶があれば、価格相当でも損害ありです。両極を示せれば、当てはめが安定します。

答案の型|財産的損害。【事例】甲は、市価相当の普通のマッサージ器を、「これは中風・神経痛など万病に効く特殊な治療器である」と偽り、その効能を信じたXに市価相当の価格で買い受けさせた。甲に1項詐欺罪が成立するか。【問題提起】Xは支払った価格に相当する物を取得しており、外形的には損害がないとも見える。価格相当の対価がある場合に財産的損害が認められるか(損害の要否・内容)が問題となる。【規範】損害は交付物と給付物の経済的に重要な隔絶で判断=価格相当でも目的不達成なら損害あり。【あてはめ】Xが取得しようとしたのは「万病に効く特殊な治療器」であるのに、現に給付されたのは「価格相当の普通のマッサージ器」であり、両者には経済的に重要な隔絶がある。よって財産的損害が認められ、甲に1項詐欺罪が成立する。

答案の型です。万病に効くと偽った健康器具の設例。規範で、経済的に重要な隔絶で判断、と立てる。給付されたのはただの按摩器=隔絶あり=詐欺成立。

1項詐欺/2項詐欺・不法領得の意思・条文 〔短答・論文共通〕

1項詐欺/2項詐欺の区別・不法領得の意思・法定刑。客体で区別=財物→1項詐欺(246条1項)/財産上の利益→2項詐欺(246条2項)。手段(欺罔・錯誤・処分行為)は共通。例=物を騙取(1項)/債務を免れる・役務を受ける(2項)。不法領得の意思=詐欺にも必要(#53で扱った道具=当てはめのみ。総論は再解説しない)。法定刑=246条=十年以下の拘禁刑(1項・2項とも同じ)。未遂罰=250条(鎖が途中で切れた未遂を処罰)。軸=1項2項は客体が違うだけで、欺罔→錯誤→処分行為→損害の組み立ては同じ。手段は1本で覚える。

最後に、1項2項の区別と条文です。財物なら1項、財産上の利益なら2項です。共通。欺罔・錯誤・処分行為は、1項2項で同じです。詐欺にも必要。ただ#53の道具なので、当てはめだけ。条文を読みます。

刑法246条(詐欺)。1項=人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。2項=前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。→1項=財物を客体とする詐欺(十年以下の拘禁刑)/2項=財産上の利益を客体とする詐欺(「前項の方法により」=欺罔・錯誤・処分行為は1項と共通・刑も同じ)。因果の連鎖=①欺罔→②錯誤→③処分行為→④移転→⑤損害。被害者自身の処分行為で財産が移転する交付罪。e-Gov現行(2025年6月施行の改正後表記=拘禁刑に統一)。

十年以下の拘禁刑です。前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は得させる。1項と同じ欺罔・錯誤・処分行為。手段は共通という意味です。同項と同様とする=十年以下の拘禁刑です。

刑法250条(未遂罪)=この章の罪の未遂は、罰する。→第三十七章(詐欺及び恐喝の罪=246〜251)の未遂を処罰する。詐欺の因果の連鎖(①欺罔→②錯誤→③処分行為→④移転→⑤損害)が途中で切れた場合(相手が錯誤に陥らない・処分行為に至らない等)に詐欺未遂が成立する根拠。e-Gov現行。

未遂罰の根拠が、250条です。鎖が途中で切れた未遂を、ここで処罰します。見抜かれて錯誤に陥らなかった場合などです。

1項詐欺/2項詐欺 対比表 〔短答・論文共通〕

1項詐欺/2項詐欺 対比表(客体で区別・手段は共通)。観点=客体/1項=財物(不動産も含む)/2項=財産上の利益。観点=例/1項=物を騙取する/2項=債務を免れる・役務を受ける。観点=手段/1項=欺罔→錯誤→処分行為→損害(共通)/2項=「前項の方法により」=1項と同じ。観点=法定刑/1項=十年以下の拘禁刑/2項=十年以下の拘禁刑(同じ)。★客体が財物なら1項・財産上の利益なら2項。違うのは客体だけで、欺罔→錯誤→処分行為→損害の組み立て・刑は共通(不法領得の意思は#53)。

対比表です。左が1項、右が2項。例は、物を騙取するか、債務を免れるか。共通です。2項は「前項の方法により」で1項を引いています。十年以下の拘禁刑で、揃っています。

短答ひっかけ

ここはひっかかる(短答・論文まとめ)。①因果の連鎖=①欺罔→②錯誤→③処分行為→④移転→⑤損害。どこかで切れれば未遂/不成立/窃盗(背骨)。②🔴欺罔行為=重要事項を偽る(交付の判断の基礎)。作為/挙動(飲食注文・口座開設)/不作為(告知義務=信義則・釣銭)の三類型=判断軸は信義則上の告知義務。③🔴機械は錯誤に陥らない=自販機・ATMは詐欺でなく窃盗(錯誤の主体は人)。④🔴処分行為=終局的移転=詐欺と窃盗の分水嶺(試着=窃盗/試乗=詐欺)。処分意思=1項はなんらかの財物の認識で足りる(論証31・無意識説/判例は意識説)/2項は準占有の終局的移転の認識で足りる(論証32/判例は債務免除の意思表示を要する)。⑤🔴財産的損害=実質的個別財産説(経済的に重要な隔絶/価格相当でも損害ありうる=按摩器・論証33)。形式説は損害要件を空洞化させる。⑥1項=財物/2項=財産上の利益(客体で区別・手段共通)/十年以下の拘禁刑・未遂250/客体に不動産含む・国/地方も主体(#59深掘り)。

整理します。①背骨は、五つの鎖。②欺罔は重要事項を偽る。三類型がある。③機械は錯誤に陥らない=窃盗。④処分行為は終局的移転=詐欺と窃盗の分水嶺。⑤損害は実質説=隔絶で判断、価格相当でも損害あり。十年以下の拘禁刑、未遂250まで押さえれば完璧です。

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#58 今日のまとめ。軸=詐欺は交付罪=被害者自身が処分行為で渡す。①欺罔→②錯誤→③処分行為→④移転→⑤損害の鎖を通し、どこで切れれば未遂/不成立/窃盗かを見る。①欺罔行為=交付の判断の基礎となる重要な事項を偽る。作為/挙動(飲食注文・口座開設)/不作為(告知義務=信義則・釣銭)の三類型(判断軸=告知義務)。②錯誤=相手が現実に誤信/🔴機械は錯誤に陥らない=自販機・ATMは窃盗(未遂すら不成立)。③🔴処分行為=瑕疵ある意思に基づく終局的移転=詐欺と窃盗の分水嶺(試着=窃盗/試乗=詐欺)。処分意思=1項=なんらかの財物の認識で足りる(論証31)/2項=準占有の終局的移転の認識で足りる(論証32)。④🔴財産的損害=実質的個別財産説=経済的に重要な隔絶があれば価格相当でも損害あり(按摩器・論証33)。⑤1項=財物/2項=財産上の利益(客体で区別・手段共通)/十年以下の拘禁刑・未遂罰250。→次は#59 詐欺罪②(訴訟詐欺・無銭飲食・誤振込・キャッシュカードすり替え・電子計算機使用詐欺246の2・準詐欺248 等の応用類型)。

まとめます。軸は、詐欺は交付罪=被害者自身が渡す。欺罔は重要事項を偽る。三類型がありました。処分行為は終局的移転=詐欺と窃盗の分水嶺。損害は実質説。価格相当でも、隔絶があれば損害あり。論文の型が三つ乗る、濃い回でした。次が応用類型。#59、詐欺罪②。訴訟詐欺・無銭飲食・誤振込に入ります。お楽しみに。

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