刑法ゼロから刑法#105

危険運転致死傷罪

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第12章 個人的法益①|生命・身体に対する罪 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の受け——自動車運転者は211条の外へ

同じ人身事故なのに、Aに適用される条文が2つに分かれる 図:同じ人身事故なのに、Aに適用される条文が2つに分かれる

前回、業務上過失致死傷罪を扱った最後に、タクシー運転手のAが起こした事故は、本来なら業務者にあたりうるけれど、自動車の運転者である以上、今は211条ではなく別の法律で処断される、と触れました。今日はその中身です。自動車運転死傷行為処罰法という法律です。正式名称は長いのですが、中身はシンプルで、自動車の運転によって人を死傷させた場合の刑を、まとめて定めています。ここでAの事故を、もう一度使います。Aが前方をよく見ずに歩行者をはねて死なせたなら、この法律のある条文が適用されます。ところが、もしAが飲酒していて、正常な運転ができない状態で同じ事故を起こしていたなら、適用される条文が丸ごと変わり、法定刑も大きく跳ね上がります。

今日は、この特別法が何を軸に条文を振り分けているのか、1本の筋で持ち帰ってもらいます。

なぜ刑法典を出たのか

かつては211条だけで処理されていた 図:かつては211条だけで処理されていた

本題に入る前に、少しだけ沿革を確認します。前回確認した211条前段、業務上過失致死傷罪の法定刑は、何年以下の拘禁刑でしたか?5年以下でした。かつて、自動車運転による死傷事故も、すべてこの211条前段、5年以下の拘禁刑で処理されていました。ところが、悪質な飲酒運転などによる重大な事故が相次ぎ、この法定刑では実態に見合わないという批判が高まりました。そこでまず、特に悪質な運転を重く処罰する規定が刑法典の中に新設され、その後、自動車運転による過失致死傷までを含めて、刑法典から切り離し、専用の特別法として独立させました。以後も、悪質な妨害運転による重大事故などを受けて、この法律は繰り返し改正され、処罰の対象が広げられてきています。

この特別法は、事故の結果の重さでなく、行為者が事故の直前にどんな運転を選んでいたかで、条文を振り分けています。大きく2つの入口があります。1つは、通常の不注意という入口。もう1つは、あえての危険な運転行為という入口です。この2つを、順番に見ていきます。

5条——過失運転致死傷罪

出発点は、通常の不注意という入口 図:出発点は、通常の不注意という入口

条文自動車運転死傷行為処罰法5条

自動車運転死傷行為処罰法5条(過失運転致死傷) 「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」

これが5条です。自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。中身は、211条前段の業務上過失致死傷罪とほとんど同じ発想です。通常の不注意で人を死傷させた、という骨格は変わりません。「運転上必要な注意を怠り」とは、過失の一般理論で見た注意義務違反、つまり結果を予見できたのに、それを回避する義務を果たさなかったことを指します。前回の業務者を思い出してください。業務者は、その立場ゆえに人を傷つける結果を引き起こしやすいから、通常人より重い注意義務を負い、211条前段で重く処罰されました。5条は、この発想を自動車の運転に切り出したものです。ただし5条は、業務者かどうかを問いません。業務の3つの要素を検討するまでもなく、自動車を運転していれば5条です。自動車は、ほんの少しの不注意で人の命を奪いうる道具です。その死傷事故の実態からみて、211条前段の5年以下では足りないと考えられたため、5条は7年以下に引き上げられているのです。

ただし書もありますね。傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる、とあります。これは、軽い怪我なら罪にならない、ということですか。そこが短答でよく狙われる点です。条文は「免除することができる」であって、「免除する」ではありません。「できる」は、裁判所が情状を見て免除してもよい、という任意的な免除です。必ず免除されるわけではありません。しかも、免除の余地があるのは、傷害が軽い場合だけです。死亡結果や重い傷害には、そもそも免除の余地がありません。「傷害が軽ければ絶対に不処罰になる」と丸暗記すると、この条文の作りを取り違えます。例えば、駐車場でバックしていて歩行者の足に軽く当たり、打撲で済んだという場合なら、免除の余地があります。同じ不注意でも、相手が骨折して長く入院したなら、傷害が軽いとは言えず、免除の余地はありません。

4条——発覚免脱罪

事故の"後"の逃げ得を許さない規定 図:事故の”後”の逃げ得を許さない規定

条文自動車運転死傷行為処罰法4条

自動車運転死傷行為処罰法4条(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱) 「アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、十二年以下の拘禁刑に処する。」

これが4条です。少し長いので、流れで捉えてください。まず、アルコールや薬物の影響で、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転していた人が——つまり、運転できなくなるほどではないものの、その手前の段階で運転していた人が——不注意で人を死傷させたとします。その人が、事故の後、自分がアルコールや薬物の影響を受けていたことの発覚を免れる目的で、さらに酒を飲んだり、その場を離れて体内の濃度を下げようとしたりすると、この4条が成立します。俗にいう「逃げ得」を許さないための規定です。もし発覚免脱の行為だけを別に処罰しなければ、事故直後に飲酒の影響を隠してしまえば、この後で見る、危険な運転そのものを罰する、より重い2条や3条の適用を免れられることになりかねません。それを防ぐために、隠す行為そのものを独立に、重く処罰しているのです。

4条の12年以下の拘禁刑は重いです。証拠を隠す行為をそのままにしておくと、危険運転致死傷罪の実効性そのものが失われてしまう、という判断があります。

6条——無免許運転による加重

どの罪も、無免許なら重さが変わる 図:どの罪も、無免許なら重さが変わる

条文自動車運転死傷行為処罰法6条

自動車運転死傷行為処罰法6条(無免許運転による加重) 「1 第二条(第五号を除く。)の罪を犯した者(人を負傷させた者に限る。)が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、六月以上の有期拘禁刑に処する。 2 第三条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は六月以上の有期拘禁刑に処する。 3 第四条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、十五年以下の拘禁刑に処する。 4 前条の罪を犯した者が、その罪を犯した時に無免許運転をしたものであるときは、十年以下の拘禁刑に処する。」

もう1つ、5条とセットで押さえておきたいのが6条です。6条は4つの項に分かれていますが、共通する形は同じです。その罪を犯した時に無免許運転をしていたなら、法定刑がさらに引き上げられます。順に見ていきます。1項は、2条の罪のうち5号を除いたもので、しかも人を負傷させた場合に限って、無免許なら6か月以上の有期拘禁刑になる、と定めています。2条の罪で人を負傷させた場合は、無免許でなければ15年以下の拘禁刑です。この後で詳しく見ます。無免許だと6か月以上の有期拘禁刑になるので、15年という上限のしばりが外れます。有期拘禁刑の上限は原則20年ですから、上限が外れて幅がぐっと広がる形の加重です。ここで2つ、注意しておきたい点があります。1つは、1項の対象は人を負傷させた場合だけで、人を死亡させた場合には、この無免許加重の規定自体がありません。2条の死亡はもともと1年以上の有期拘禁刑という重い法定刑になっているため、というのが条文の作りから読める理由づけです。もう1つは、5号、この後で見る未熟運転類型だけが、この加重の対象から外れているということです。理由は、この後もう一度触れます。

2項は3条です。3条の罪を犯した者が無免許運転だったときは、人を負傷させた場合は15年以下の拘禁刑、人を死亡させた場合は6か月以上の有期拘禁刑になります。3条はもともと、負傷が12年以下、死亡が15年以下ですから、どちらも引き上げられています。3項は4条です。4条の12年以下の拘禁刑が、無免許なら15年以下に引き上げられます。4項は5条です。5条の7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金というところから、無免許なら10年以下の拘禁刑に引き上げられます。無免許運転は、2条の類型の1つではなく、どの条文が適用された場合でも、その上に乗ってくる加重要因として別枠で扱われている、ということを押さえてください。ここまでが、通常の不注意という入口の側です。5条を基本形として、4条が事故後の逃げ得を防ぎ、6条がどの罪にも無免許という要因を上乗せする。ここから先は、もう1つの入口、あえての危険な運転行為の側に進みます。

2条の全体像——11の類型を7つの性質グループで掴む

危険な運転を、あえて選んで走った場合 図:危険な運転を、あえて選んで走った場合

ここからが今日いちばんの山場です。2条、危険運転致死傷罪。法定刑は、人を負傷させれば15年以下の拘禁刑、死亡させれば1年以上の有期拘禁刑です。5条と比べると、けた違いに重くなっています。条文は、危険な運転のパターンを11通り列挙していますが、丸暗記しようとすると必ず崩れます。性質で束ねると、7つのグループに整理できます。酩酊・薬物影響、高速度走行、未熟運転、異常操作、妨害運転、信号無視、通行禁止道路の7つです。ここで、料理人を2人思い浮かべてください。1人目は、集中を欠いて手元がずれ、隣の見習いの手を傷つけた。これはただの不注意で、5条の側です。2人目は、周りに人がいる厨房で、目隠しをしたまま包丁を振り続けた。人を切るつもりはありません。でも、危ないと分かっている振り方を、自分で選んでいます。7つのグループは、この2人目の『選んだ危ない振り方』の種類が違うだけです。自分の運転が危険だと分かっていながら、法律が危険だと類型化した運転を、あえて選んだ、という1点に、7つとも合流します。入口が7通りあるだけで、出口は1つです。この後、7つを順番に見ていきますが、この1点だけは見失わないでください。

①酩酊・薬物影響類型

アルコール・薬物の影響で、正常な運転が困難な状態 図:アルコール・薬物の影響で、正常な運転が困難な状態

条文自動車運転死傷行為処罰法2条1号・2号

自動車運転死傷行為処罰法2条1号・2号(酩酊・薬物影響類型) 「一 アルコール影響正常運転困難状態(身体に血液一ミリリットルにつき一・〇ミリグラム以上又は呼気一リットルにつき〇・五ミリグラム以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為 二 薬物影響正常運転困難状態(薬物の影響により正常な運転が困難な状態をいう。次条第一項において同じ。)で自動車を走行させる行為」

1号がアルコール、2号が薬物です。1号には、数字による基準が書き込まれています。血液1ミリリットルにつき1.0ミリグラム以上、または呼気1リットルにつき0.5ミリグラム以上のアルコールを保有している状態は、それだけで正常な運転が困難な状態にあたります。数値さえ超えていれば、もうそれで決まりということですか。そこは決まりです。立証しやすいように、数値で足切りする作りになっています。ただし条文は、それだけでは終わっていません。「その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」という受け皿が、同じ1号の中に置かれています。数値に届かない場合でも、実質的に判断して、正常な運転が困難な状態と言えることがあります。

この実質判断の場面で効いてくるのが、次の規範です。

⭐ 論文で書く規範:「正常な運転が困難な状態」の判断 アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいい、前方を注視してそこにある危険を的確に把握して対処することができない状態もこれに当たる。判断は、事故の態様、事故前の飲酒量・酩酊状況、事故前の運転状況、事故後の言動、飲酒検知結果等を総合的に考慮する。 (規範(最決平23・10・31))

判例は、アルコールの影響により道路交通の状況等に応じた運転操作を行うことが困難な心身の状態をいうとし、前方を注視して危険を的確に把握し、対処できない状態もこれにあたるとしています。判断にあたっては、事故の態様や、事故前の飲酒量・酩酊状況、事故前の運転状況、事故後の言動、飲酒検知結果などを総合的に考慮するとしています。例えば、数値上は1.0ミリグラムに届いていなくても、車線をふらふらと越え続け、前方の歩行者に気づくのが遅れて急ブレーキを繰り返しているなら、実質判断であたる可能性が高いです。これに対して、少し飲酒はしているものの、数値にも届かず、車線も保ち、歩行者や信号にもきちんと反応できているなら、正常な運転が困難な状態とは言えません。その段階は、この後見る3条の対象になってきます。

②高速度走行類型

数値基準と、その受け皿 図:数値基準と、その受け皿

2つ目のグループ、高速度走行です。ここには2つの号があります。1つは、進行を制御することが困難な高速度で走行する行為。これは、その場その場の道路状況にあわせて、実質的に制御できていたかどうかで判断されます。もう1つは、違う判断の仕方をするんですか。します。もう1つは、道路の法定最高速度を、一定の幅を超えて上回る速度で走行する行為です。こちらは基本的に、数値そのもので判断できる類型です。道路の最高速度が時速60キロメートル以下なら、その最高速度に時速50キロメートルを上乗せした速度以上、時速60キロメートルを超える道路なら、最高速度に時速60キロメートルを上乗せした速度以上です。例えば、最高速度が時速40キロメートルの道路なら、時速90キロメートル以上で走れば、この類型にあたります。

数値さえ超えていなければ、絶対にこの類型にはならないんですか。そこは言い切れません。この号には、もう1段受け皿があります。数値そのものにわずかに届かない速度でも、道路や交通の状況からみて、重大な交通の危険を回避することが著しく困難な高速度であり、かつ、その数値に準ずる速度だといえるなら、やはりこの類型にあたります。数値基準を置くことで立証をしやすくしつつ、その数値のすぐ手前で同じように危険な走行がすり抜けないよう、受け皿を用意している、という作りになっています。

③未熟運転類型

無免許そのものではなく、技能不足自体を捉える 図:無免許そのものではなく、技能不足自体を捉える

3つ目、未熟運転類型です。進行を制御する技能を有しないで走行する行為を捉えています。無免許運転そのものではありません。免許を持っているかどうかは関係なく、その運転行為を実際に安全にコントロールできる技能を持っていたかどうかが問題になります。さっき6条のところで、この類型だけ無免許加重の対象から外れる、と触れましたが、理由はここにあります。技能を欠いていたという事実自体に、無免許運転に近い実質がすでに含まれているからです。

④異常操作類型

あえて制御を失わせる操作 図:あえて制御を失わせる操作

4つ目、異常操作類型です。殊更にタイヤを滑らせたり浮かせたりすることで、あえて進行の制御を困難にした状態で走行する行為です。曲芸のように車体を滑らせたり、前輪を浮かせたりする走行が典型です。酩酊や速度と違い、行為者は自分の操作で、意図的に車の制御が効かない状態を作り出しています。危険な運転を、直接その操作自体で作り出している類型です。

⑤妨害運転類型

あおり運転を、要件の違いで書き分ける 図:あおり運転を、要件の違いで書き分ける

5つ目、妨害運転類型です。いわゆるあおり運転にあたる類型で、3つの号に分かれています。7号は、人の通行や車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入したり、著しく接近したりしたうえで、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転する行為です。7号の速度の要件は、実際に危険な結果が起きたことを求めるものではありません。重大な交通の危険を生じさせるような性質の速度で運転すること自体が要件で、この号の中で、それとは別に具体的な危険が発生したことまで求めているわけではありません。8号は少し違います。車の通行を妨害する目的で、相手の車が、すでに重大な危険が生じることとなる速度で走行しているときに、その車の前方で停止したり、著しく接近することとなる方法で運転する行為です。ここでは、危険な速度で走っているのは相手の車です。

7号も8号も、道路の種類は限定されていません。通常の道路でも高速道路でも成立します。ところが9号は違います。9号は場所が高速自動車国道や自動車専用道路に限定されたうえで、妨害目的で前方に停止するなどの方法で運転することにより、走行中の相手の車を実際に停止させたり、徐行させたりした場合に成立します。7号と8号は、自分がどう運転したかという行為の中身で決まります。9号だけは、それによって相手を実際に止めた、あるいは徐行させた、という結果が生じたことまで要件に入っています。高速道路上で停止や徐行をさせられることの危険は、通常の道路よりもはるかに大きいので、結果まで組み込んだ規定になっているのです。

⑥信号無視類型

「殊更に無視」の中身 図:「殊更に無視」の中身

条文自動車運転死傷行為処罰法2条10号

自動車運転死傷行為処罰法2条10号(信号無視類型) 「十 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」

6つ目、信号無視類型です。赤色信号などを殊更に無視し、かつ重大な交通の危険を生じさせる速度で走行する行為です。

⭐ 論文で書く規範:「殊更に無視」の判断 「殊更に無視し」とは、およそ赤色信号に従う意思のないものをいい、赤色信号であることの確定的な認識がない場合であっても、信号の規制自体に従うつもりがないため、その表示を意に介することなく、たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行する行為も、これに含まれる。 (規範(最決平20・10・16))

そこまでは要求されていません。判例は、殊更に無視したといえるのは、およそ赤色信号に従う意思のない場合をいい、赤色信号であることの確定的な認識がない場合でも、信号の規制自体に従うつもりがないなら含まれる、としています。例えば、急いでいて信号をよく見ないまま、たぶん赤だろうと思いつつ、どの色であっても止まる気は無く交差点に進入したなら、殊更に無視したといえます。青だと思い込んで進んでしまった、うっかりのケースはどうなりますか。そこが境界線です。前方の信号表示を見誤り、青だと思い込んだまま進んでしまった、という単なる見落としや誤認であれば、信号の規制自体に従う意思を放棄しているとまでは言えず、この類型にはあたりません。信号を守るつもりが最初からない、という規範に対する姿勢の違反が問われています。

⑦通行禁止道路類型

禁止された道路を、危険な速度で進む 図:禁止された道路を、危険な速度で進む

最後、7つ目、通行禁止道路類型です。通行が禁止されている道路を、重大な交通の危険を生じさせる速度で進行する行為です。歩行者専用の道路や、一方通行の逆走など、そもそも自動車が通ってはいけない場所を、危険な速度で走る行為を捉えています。これで7グループ、確認できました。

2条・3条の法的性質——結果的加重犯

故意が必要なのは、危険な運転行為そのものだけ 図:故意が必要なのは、危険な運転行為そのものだけ

ここまで見た7つの類型は、それぞれ道路交通法の上でも、犯罪として定められている行為です。2条・3条は、この道路交通法上の危険な運転行為をあえて行い、その上で死傷結果まで生じさせた場合を処罰する規定です。この構造を何と呼ぶか、覚えていますか。基本の行為に故意があって、重い結果は過失でもよい、というのは、結果的加重犯でした。結果的加重犯の一般理論そのものは、以前に別の回でまとめています。今日は、この一般論を2条・3条にそのまま当てはめます。故意が必要なのは、7つの類型のどれかにあたる危険な運転行為そのものです。死傷結果まで意図していたかどうかは問われません。

「自分は今、正常な運転が困難な状態だ」とまで自覚している必要はありません。ハンドル操作がうまくいかない、思うように車を制御できない、というレベルの事実を認識していれば足ります。目隠しをして包丁を振っていた料理人が、「目隠しのせいで刃先の狙いが定まらない」と自覚しながらあえて振り続けていれば、それで基本行為の故意はそろいます。「誰かを切ってしまうだろう」とまで思っている必要は無い、というのと同じ発想です。例えば、ノンアルコールだと言われて出された飲み物に、実は酒が混ぜられていて、本人は飲酒した自覚がまったく無いまま運転した場合です。危険の元になる事実を知らないので、あえて選んだとは言えず、2条は成立しません。前方への注意を怠っていれば、残るのは5条です。

3条——準危険運転致死傷罪

2条と3条を比較する——時間の流れが1段階違う 図:2条と3条を比較する——時間の流れが1段階違う

条文自動車運転死傷行為処罰法3条1項

自動車運転死傷行為処罰法3条1項(準危険運転致死傷) 「アルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、アルコール影響正常運転困難状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は十五年以下の拘禁刑に処する。薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、薬物影響正常運転困難状態に陥り、人を死傷させた者も、同様とする。」

最後に、3条、準危険運転致死傷罪です。アルコールや薬物の影響で、走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転を始め、その影響で走行中に、アルコール影響正常運転困難状態、あるいは薬物影響正常運転困難状態に陥り、人を死傷させた場合に成立します。負傷なら12年以下、死亡なら15年以下の拘禁刑です。出発点の重さが1段階違います。2条1号は、走り出した時点ですでに、数値基準を満たすか、実質的に見て正常な運転が困難な状態にありました。これに対して3条は、走り出した時点では、まだ支障が生じるおそれがある、という、1号の数値にも届かない低い段階にとどまっていれば足ります。その低い段階から走行を始め、走っているうちに、その影響で本当に困難な状態へ落ちていった場合が3条です。Aで言えば、店を出た時点ですでに千鳥足で、まっすぐ歩けないほど酔っていたなら2条1号です。これに対して、酒気帯びにあたる程度の酒を飲んで『これくらいなら』と走り出し、30分ほど走るうちに酔いが回って、蛇行するようになってから歩行者をはねたなら3条です。

だからこそ、法定刑も2条より一段軽く設定されています。2条は15年以下・死亡なら1年以上の有期拘禁刑、3条は12年以下・死亡なら15年以下の拘禁刑です。最初から自覚的に危険な状態で走り出した2条の方が、行為者の非難としては重い、という評価です。

今日の地図(保存版)

通常の不注意か、あえての危険行為か——出口はここで分かれる 図:通常の不注意か、あえての危険行為か——出口はここで分かれる

今日の内容を、冒頭のAの事故に戻して振り分けます。もしAが、単に前方をよく見ておらず、よそ見をしていただけなら、それは通常の不注意です。5条、過失運転致死傷罪が適用され、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金にとどまります。Aが飲酒していて正常な運転が困難な状態だったなら、あえての危険な運転行為という、もう1つの入口に切り替わります。2条1号、危険運転致死傷罪が適用され、15年以下の拘禁刑、死亡させていれば1年以上の有期拘禁刑という、けた違いに重い刑に乗ります。同じ「人身事故を起こした」という結果は変わらないのに、運転行為の中身しだいで、適用条文も法定刑も丸ごと変わるんですね。今日の筋を、もう一度だけ確認します。この特別法は、事故の重さでなく、行為者が事故の直前にどんな運転を選んでいたかで条文を振り分けています。通常の不注意という入口が5条、あえての危険な運転行為という入口が2条・3条。2条の7グループは、入口の形こそ違いますが、行き着く先はすべて同じ、危険だと分かっている運転をあえて選んだ、という1点です。この1本の軸さえ持ち帰れば、11の号を丸暗記する必要はありません。

参照条文

  • 自動車運転死傷行為処罰法5条
  • 自動車運転死傷行為処罰法4条
  • 自動車運転死傷行為処罰法6条
  • 自動車運転死傷行為処罰法2条1号・2号
  • 自動車運転死傷行為処罰法2条10号
  • 自動車運転死傷行為処罰法3条1項

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