放火罪②——110建造物等以外放火・公共の危険の認識要否(論証61・62)・111延焼・116失火・117の2業務上失火
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第13章 公共の安全に対する罪 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
#66の復習——幹から枝へ 〔短答・論文共通〕

#66の復習を一枚の表で確認します。焼損した事実だけで危険が擬制される。109②には「公共の危険を生じなかったときは、罰しない」というただし書がある。109②と110、どちらも具体的危険犯ですが、条文の書き方が微妙に違います。その違いが、論証61と論証62で理由づけが分かれる原因になっています。「公共の危険という状態」が要件なのは分かった。では、行為者はその状態を「認識していないといけないのか」。そこが論点です。
110条 建造物等以外放火罪——全文カード 〔短答・論文共通〕

110条の全文です。ここで「前二条」というのは、108条と109条です。正確には「前二条に規定する物以外の物」。具体的には何だと思いますか。つまり、それ以外の物。自動車、オートバイ、家の門、塀、庭の木、家財道具の類です。建物でも汽車でもない、あらゆる物が110条の客体になりえます。「前項の物が自己の所有に係るとき」。刑が軽くなります。1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。でも、どちらも「よって公共の危険を生じさせた」という要件が入っている。公共の危険が発生しなければ、110条は成立しません。
110条——客体の具体例と判断基準 〔短答・論文共通〕

建物でなければ、火をつけて公共の危険を生じさせれば110条が問題になります。最高裁の判断(最決平成15年4月14日)でも、110条の公共の危険は、不特定または多数人の生命・身体・財産への危険が一般人の印象から感じさせる状態、という基準です。#66で確立した基準そのままです。110条は成立しません。自分の物を燃やしたなら、器物損壊にもなりません。他人の物なら261条の器物損壊が成立します。不可罰です。112条と113条をよく見てください。処罰されるのは「108条及び109条第1項の罪の未遂」と「108条または109条第1項の罪を犯す目的での予備」だけ。110条は含まれていません。公共の危険が発生する前の未遂段階は、条文がないので不可罰。
短答ひっかけ

いい疑問です。故意犯について、普通は「犯罪事実の認識が必要」ですよね。でも、109②と110の具体的危険犯で、「公共の危険の発生」は客観的要件です。だとすると、それを「認識」する必要があるか、ということが問題になります。「知らなかったけど発生した」という場合に、故意を問えるか。そういう場合です。判例と通説で見解が分かれています。
不要説と必要説の対比 〔短答・論文共通〕

2つの学説を対比して見てください。根拠は条文の文言です。110条の「よって公共の危険を生じさせた」や、109②のただし書「公共の危険を生じなかったときは、罰しない」。不要説は、この文言を「処罰条件」または「加重結果」として読みます。公共の危険は客観的に発生していればそれでよい、認識まで要らない、と。特に110条について、器物損壊罪の加重犯と構成して、公共の危険は加重的な結果だから認識不要、という立場です。こちらの理由づけは、自己所有物への放火という出発点から始まります。自分の物置を燃やすことは、それ自体は犯罪じゃない。そこだけが犯罪となる理由です。だとすれば、その「公共の危険を生じさせること」についての認識がなければ、責任主義の観点から故意犯として罰せないはず、と必要説は言います。
論証61と論証62——理由づけが異なる 〔短答・論文共通〕

ここが論証61と62の違いの核心です。自己所有物の放火は本来適法、というのが出発点です。「なぜ罪になるか」の答えは一つ、公共の危険を生じさせたから。だから認識が必要。他人の自動車や門に火をつけた場合は、器物損壊罪に当たります。でも110①はそれより重い。なぜか。刑が重くなる理由が「公共の危険を発生させたこと」にある。だとすれば、その部分の認識がないと、なぜ器物損壊より重く罰せられるのかが責任主義から説明できない。論証61は「本来適法だから公共の危険でのみ可罰」、論証62は「器物損壊より重い理由が公共の危険発生にあるから」。理由づけは違うが、どちらも必要説に至ります。問われている条文が109②・110②か、110①かで出発点を変えることが大事です。
批判と反論——「認識が必要なら109②と110②が消えるのでは?」 〔短答・論文共通〕

「認識が必要なら、109②や110②がほとんど成立しなくなるんじゃないか」という批判です。公共の危険を認識する、ということは、「一般人の印象から危険を感じさせる状態が生じること」を認識する、ということですよね。それって、隣の建物に延焼する危険を感じ取っている、ということにならないか。108条や109条第1項の「現住建造物が燃えるかもしれない」という認識になって、より重い108条の未必の故意が認められるんじゃないか、という批判。それが批判の内容です。でも、通説はこれに反論します。「公共の危険の認識」と「延焼の故意(延焼の認容)」は別物だ、という切り返しです。延焼の故意があるというのは、「現住建造物が燃えてもいい」と容認していることです。でも、「危険な状態が生じるかもしれない」と認識しながら、「でも延焼はしないだろう、してほしくない」という状態はありえます。認識(予見)と容認(認容)は別の心理的事実です。
「認識≠延焼の故意」——住宅街の物置設例で腑に落とす 〔短答・論文共通〕

具体例で腑に落としましょう。住宅が密集する地区で、Aが自分の庭の物置に火をつけた場面を想像してください。風が吹いていて、隣家まで数メートル。Aは火をつけながら「隣家に延焼するかもな」と感じています。でも同時にAは「風向きからして延焼はしないだろう。絶対に延焼してほしくない」と思っている。そのとき、Aの心の中に2つのことが共存しています。「隣家に延焼するような危険な状態が生じることの認識」と「延焼は絶対に嫌だという気持ち」。そこが「公共の危険の認識」と「延焼の故意」の違いです。認識はある。でも認容(容認)はない。だから109②や110②が成立する。111条の延焼罪が加わります。結果的加重犯として、過失で延焼させれば重くなる。「危険を予見しながら延焼は望まない・容認もしない」という状態が現実に存在するので、必要説を採っても109②・110②は消えない、ということです。
共通核心規範 〔短答・論文共通〕

「一般人の印象からみて危険を感じさせる状態が生じること」の認識、です。具体的に「どの建物が燃えるか」「隣家まで延焼するか」という細かい延焼先の認識まで必要ではない。そのレベルの認識で「公共の危険の認識あり」と言えます。逆に言うと、延焼の具体的な認識がなくても、公共の危険の認識はある。これが論証61・62の共通の核心規範です。
📝 論文の型

論文の型を確認します。公共の危険の認識の要否。逐語で覚えるのはこの太字キーワードだけです。あとは趣旨から復元してください。一歩目。本来適法。そこだけが犯罪となる理由。四歩目は批判への反論。109②・110②が消えない理由です。器物損壊より重い理由が公共の危険発生にある、という入口です。

答案の型です。規範は必要説のコア規範を使います。延焼は容認していない→延焼の故意なし。逐語で覚えるのは太字キーワードだけ、あとは趣旨の鎖で復元してください。
111条 延焼罪——条文カードと構造 〔短答〕

111条。延焼罪の全文です。「前条第2項」は110条2項のことです。そこから延焼して「108条・109条1項」の物に延焼した、という構造です。自己所有の軽い物(109②・110②)を燃やしたら、他人の重い物(108・109①)に延焼が及んだ。その重い結果を問責するための加重規定です。110②(自己所有の物以外放火)から110①(他人所有の物)への延焼。刑は3年以下の拘禁刑と軽い。
111条——結果的加重犯の構造 〔短答〕

不要です。111条は結果的加重犯の構造を取っています。基本犯の故意があって、加重結果について過失があれば成立するというものです。自己所有の物を燃やす故意があって。延焼の結果について過失がある、つまり「延焼するかもしれないのに不注意だった」で足ります。認容(故意)があれば、直接108条や109条①の放火罪になる可能性があります。111条の延焼罪は、そこまでの認容はないが不注意で延焼を招いた場合の規定です。基本犯は必ず109②か110②の「自己所有物の放火」です。
116条 失火罪——全文カード 〔短答〕

116条。失火罪の全文です。「失火により」というのが過失犯、ということを示しています。放火罪が故意犯だとすると、失火罪はその過失犯バージョンです。現住建造物や他人所有の非現住建造物を過失で焼損した場合です。自己所有の非現住建造物や、建造物等以外の物への失火で、かつ公共の危険が発生した場合です。ここが2項の特徴です。自己所有110条物への失火は、公共の危険が発生して初めて罰せられます。罰金刑だけです。過失犯ですから。
116条 失火罪——構造の整理 〔短答〕

客体と公共の危険の要件の有無です。現住建造物を過失で燃やしたなら、それだけで危険が十分あると言えるからです。自己所有の非現住建造物や建造物以外の物は、軽い客体ですから、過失で燃やしても公共の危険が発生しないケースがある。だから公共の危険発生も要件にしてあります。108・109①(故意・抽象的危険犯)→116条1項(過失)。109②・110(故意・具体的危険犯)→116条2項(過失・公共の危険要件あり)。という対応関係です。
117条の2 業務上失火・重失火——全文カード 〔短答〕

117条の2。業務上失火・重失火罪の全文です。116条(失火罪)の加重類型です。「業務上必要な注意を怠った」か「重大な過失」がある場合の加重です。通じるところがあります。判例(最決昭和60年10月21日)によれば、117条の2の「業務」とは、職業として火気の安全に配慮すべき社会生活上の地位をいう、とされています。そのサウナ事案が最決昭和60年10月21日です。職業的に火を使う、または火の管理をする立場の人に、より高い注意義務を課すわけです。「重大な過失」は、注意義務違反の程度が著しい場合です。業務上かどうかに関わらず、とんでもなく不注意だったというケースです。失火でも「業務上」や「重大な過失」があれば、拘禁刑まで問えます。
周辺条文(114条・117条・118条)——概観のみ 〔短答〕

周辺の条文を概観だけしておきます。火事の際に消防の邪魔をした場合の罪です。1年以上10年以下の拘禁刑と重い。社会的法益を守る条文です。火薬やボイラーなどを破裂させて108・109・110の客体を損壊した場合です。1項が故意犯、2項が過失犯。失火罪との関係で117の2が参照します(「116条又は前条第1項」の「前条第1項」が117条1項)。ガスや電気・蒸気を漏出させて危険を生じさせた場合(1項)と、致死傷が生じた場合(2項)です。試験との関係では重要でない条文です。名前と位置を覚えておけば十分です。
ここはひっかかる——放火罪②まとめ 〔短答・論文共通〕

未遂と予備は不可罰、という点も重要です。112条・113条は108と109①のみ。論証61は109②・110②の「本来適法」からの入口。論証62は110①の「器物損壊より重い理由」からの入口。三つ目が「認識≠延焼の故意」という反論。四つ目が111条延焼罪。結果的加重犯です。108と109①は延焼客体ですよ、ひっかかりやすい。六つ目が117の2。業務上失火・重失火。3年以下の拘禁刑又は150万円以下の罰金。
今日の地図(保存版)

まとめます。必要説が通説。自己所有物放火は本来適法、公共の危険でのみ犯罪になる、だから認識必要。論証61(109②・110②)と論証62(110①)で理由づけが違う点も押さえておいてください。116条失火罪は過失の放火。50万円以下の罰金。今日で第13章 放火・失火の罪が完結しました。#66が幹(108・109・焼損・公共の危険の意義)、#67が枝と核心論点(110・認識要否・延焼・失火)。放火罪はこの軸で理解していれば、答案が書けます。
次回予告——#68 騒乱罪・往来妨害罪 〔予告〕

第13章の続きです。放火の次は、暴力による社会の秩序破壊(騒乱)と、交通インフラへの攻撃(往来妨害)。公共の危険という軸はそのまま続きます。ただ、今度は「火」ではなく「群衆の暴力」と「道路・鉄道への妨害」に変わります。関与の程度で刑の差がある、という構造が面白い論点です。今日で第13章 放火・失火の罪が完結しました。第13章、お疲れさまでした。