刑法ゼロから刑法#112

未成年者略取誘拐罪と営利目的等略取誘拐罪

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第13章 個人的法益②|自由に対する罪 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

実の父親が子を連れ去ったら

実の父親が、無理やり連れ去ったら 図:実の父親が、無理やり連れ去ったら

前回で、意思決定の自由を守る2つの罪、脅迫罪と強要罪が固まりました。今日からは、場所的な移動と、保護される関係を守る罪、略取・誘拐の罪に進みます。身の代金目的の事件は、この分野のごく一部です。まず先に、身近な場面を1つ考えてみましょう。離婚係争中の父親と母親がいて、子どもは母親のもとで暮らしているとします。ある日、父親が、無理やりその子を連れ去ったとします。これは、略取誘拐罪になるでしょうか。先に答えを言っておきます。実の父親でも、略取の罪の入り口には当たりえます。鍵は、224条が守っているものが、1つではなく2つある、という点です。なぜそうなるのかを、今日の内容を一通り見たあとで、この場面に戻って確かめます。

略取と誘拐——2つの手段

暴行・脅迫で連れて行くか、だまして連れて行くか 図:暴行・脅迫で連れて行くか、だまして連れて行くか

略取・誘拐の罪は、条文の中で「略取」と「誘拐」という2つの言葉が出てきます。まず、この2つの区別を押さえておきます。略取は、暴行または脅迫を手段として、誘拐は、欺罔または誘惑を手段として、人を、それまでの生活環境から離脱させ、自分または第三者の事実的な支配下に置く行為です。事実的な支配下に置くとは、法律上の権利とは関係なく、現実に、自分の思いどおりにできる状態に置くことです。力ずくで連れて行けば略取、だまして連れて行けば誘拐です。たとえば、腕をつかんで無理やり車に押し込めば略取、「お菓子を買ってあげる」とうそをついてついてこさせれば誘拐にあたります。この2つを合わせて、「拐取」と呼びます。今日学ぶ224条・225条は、どちらも略取と誘拐の両方を処罰の対象にしています。以前学んだ監禁罪との違いも、ここで確認しておきます。監禁罪が見ているのは、一定の場所から出られなくすることでした。子どもを、その子の自宅の部屋に鍵をかけて閉じ込めるだけなら、監禁罪の問題にとどまります。拐取の罪が見ているのは、それまでの生活の場から引き離して、自分の支配下に置くことです。その子を車に乗せて自分の家へ連れて行けば、こちらの問題になります。車の中で出られなくしていれば、監禁罪にもあたりえます。

224条——未成年者略取誘拐罪の条文

客体は、18歳未満の未成年者 図:客体は、18歳未満の未成年者

では、224条の全文を確認しましょう。

条文刑法224条

刑法224条(未成年者略取及び誘拐) 「未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。」

客体は「未成年者」です。未成年者かどうかは、現行の民法4条によって決まります。成年年齢は18歳ですから、224条の未成年者も18歳未満の者を指します。2022年4月に改正民法が施行されて、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。それにともなって、224条の「未成年者」が指す範囲も、18歳未満に変わっています。試験でも、この現行の基準で押さえておいてください。たとえば、17歳の高校生を連れ去れば224条の客体ですが、18歳の誕生日を過ぎた高校3年生は、同じ高校生でも、もう224条の客体ではありません。

保護法益は2つある

自由と、監護権の、2階建て 図:自由と、監護権の、2階建て

ここが、今日いちばん大事なところです。224条が守っているものは、1つではありません。保護法益は2つあります。1つは、被拐取者本人の自由です。連れ去られた本人にとって、それまでの生活環境から引き離されること自体が、自由の侵害です。もう1つは、親権者など、その未成年者を監護している人の監護権です。監護権とは、子どもを手元に置いて世話をし、守り育てる権利のことです。たとえ話で考えてみます。子どもは、親権者という管理人がいる、家の中で暮らしているようなものだと思ってください。誰かがその子を家の外に連れ出して、自分の手のうちに置いてしまうと、2つのことが同時に起きます。1つは、子ども自身が、自分の生活の場を奪われること。これが自由の侵害です。もう1つは、管理人である親権者が、自分の管理下から子どもが消えるという事態です。これが監護権の侵害です。この2つは、別々のダメージなので、片方だけを消しても、罪は消えません。なぜ、監護権まで守る必要があるのか。生まれたばかりの赤ちゃんを考えてみてください。赤ちゃんは、自分でどこかへ行こうという自由を、まだほとんど使えません。守るものが本人の自由だけだとすると、眠っている赤ちゃんを抱えて連れ去っても、何が侵害されたのかが説明しにくくなります。監護権も守っているからこそ、自分では動けない幼い子どもも、この罪の客体になるのです。

未成年者本人が同意していても

本人の同意だけでは、管理人の管理は消せない 図:本人の同意だけでは、管理人の管理は消せない

この「2つある」ということの、いちばん直接の帰結が、これです。未成年者本人が、ついて行くことに同意していたとしても、224条は成立しえます。たとえば、15歳の中学生が、SNSで知り合った大人に「うちに来ない?」と誘われ、自分から「行く」と言って、親に黙ってその大人の家へついて行った場面です。本人の同意は、自由の侵害のほうは確かに消します。ですが、監護権の侵害のほうは、本人の同意では消えません。監護権は、親権者のものだからです。以前、被害者の承諾を見たときに、承諾とは、法益を持つ本人が、自分の法益を手放すことだと確認しましたね。自由は本人の法益なので本人が手放せますが、監護権は本人の法益ではないので、本人には手放せません。管理人に無断で、子ども自身が「ついて行っていいよ」と言っても、管理人の管理を、子ども本人が勝手に打ち切ることはできません。ですから、未成年者本人が同意していても、親権者に無断で連れて行けば、224条は成立します。境界線をもう1つ確認しておきます。逆に、親が了承したうえで、本人も喜んで、親戚の家に泊まりに連れて行く場合は、自由の侵害も監護権の侵害も、どちらも起きていませんから、224条は成立しません。

別居中の親による連れ去り——最高裁の判断

親権者の1人であることは、入り口の話ではない 図:親権者の1人であることは、入り口の話ではない

ここまでの帰結が、さらに一歩進んだ場面が、判例で問題になっています。共同親権者の1人である父親が、もう1人の共同親権者である母親のもとで暮らしていた子どもを、無理やり連れ去った事案です。最高裁の判断は、2つの段階に分かれます。1つ目は、構成要件に当たるか。2つ目は、親権者であることで、違法性が阻却されるか、です。犯罪かどうかは、まず条文の型に当てはまるかを見て、当てはまれば原則として違法、特別な事情があるときだけ例外的に違法性が阻却される、という順番で判断するのでしたね。224条の条文は、誰が連れ去ったかを限定していません。ですから、親権者であることは、1つ目の型の段階では効かず、2つ目の例外の段階で初めて問題になります。

判例最高裁第二小法廷決定・刑集59巻10号1901頁

別居中の共同親権者による子の連れ去り 「保護されている環境から引き離して自分の事実的支配下に置いたのであるから、その行為が未成年者略取罪の構成要件に該当することは明らかであり、被告人が親権者の1人であることは、その行為の違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断において考慮されるべき事情であると解される。」

判決文が構成要件に当たる理由として挙げているのは、平穏に暮らしていた子どもを、有形力を用いて連れ去り、保護されている環境から引き離して、自分の事実的支配下に置いた、という点です。これを、先ほどのたとえ話で読み解いてみます。この事案では、子どもは、もう1人の管理人である母親のもとで、平穏に暮らしていました。父親が、その保護されている環境から子どもを引き離して、自分の支配下に置いた以上、母親という、もう1人の管理人の管理は破られています。自分自身も、管理人の1人であることは、この「連れ出したかどうか」という入り口の場面では効いてきません。

親権者でも、違法性は阻却されなかった 図:親権者でも、違法性は阻却されなかった

構成要件に該当したあとの、違法性が阻却されるかどうかという、別の段階です。最高裁は、この事案で、監護養育のうえでその行動が現に必要だったといえるような特段の事情は無く、連れ去りの態様も粗暴で強引であり、子どもはまだ2歳の幼児で、連れ去ったあとの監護についても確かな見通しが無かった、という事情から、違法性は阻却されないと判断しました。親権者であることは、違法性が「例外的に」阻却されるかどうかを考える材料にすぎません。ここで、冒頭の問いに戻ります。離婚係争中の父親が、母親のもとで暮らしていた子どもを無理やり連れ去った場合、どうなるでしょうか。

母親という管理人のもとから、子どもを引き離して自分の支配下に置いているので、構成要件には該当する。父親も親権者だという事情は、違法性が例外的に阻却されるかどうかの判断で考慮されるだけ、ということです。無理やり連れ去ったという事情そのものからは、監護上の必要性のような特段の事情がうかがえない限り、違法性が阻却されることは考えにくく、未成年者略取罪が成立しうる場面になります。ただし、この決定が判断したのは、特段の事情が無く、連れ去りの態様も粗暴だった事案についてです。たとえば、母親のもとで子どもが暴力を受けていて、父親が守るために連れ出したような場面は、監護養育のうえで現に必要だったといえるかという、特段の事情の問題として、別に検討されることになります。

225条——営利目的等略取誘拐罪の条文

客体は「人」——未成年者にも成年者にも及ぶ 図:客体は「人」——未成年者にも成年者にも及ぶ

次は225条です。全文を確認しましょう。

条文刑法225条

刑法225条(営利目的等略取及び誘拐) 「営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。」

225条の客体は「人」ですから、未成年者だけでなく、成年者も含みます。もう1つの違いが、条文の冒頭にある「営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で」という部分です。

225条の保護法益と目的犯

目的が無ければ、225条は成立しない 図:目的が無ければ、225条は成立しない

225条の客体が未成年者である場合、保護法益は224条と同じで、被拐取者の自由と、親権者等の監護権の2つです。客体が成年者である場合は、監護権という発想がそもそも成り立ちませんから、自由だけが保護法益になります。225条は、故意のほかに、一定の目的を持っていることが要件になる、目的犯です。この目的が無ければ、225条は成立しません。条文に並んでいる目的は4つです。営利の目的は、自分が財産上の利益を得る、または第三者に得させる目的です。わいせつの目的は、被拐取者を、性的な行為の相手にする目的です。試験で特に重要なのが、この2つです。残る2つは、結婚の目的、被拐取者と婚姻関係を結ぶ目的と、生命または身体に対する加害の目的、被拐取者の生命・身体を害する目的です。たとえば、自分の店でただ働きさせて儲けるために、20歳の女性をだまして連れて行けば、営利の目的による誘拐として225条にあたります。同じ20歳の女性を、特にこうした目的も無く連れ回しただけなら、客体が成年者なので224条にもあたらず、今日の2つの条文の外になります。相手が16歳なら、目的が無くても224条は成立します。この4つの目的のどれかがあるかどうかが、225条の分かれ目です。

224条と225条の関係

目的があれば、225条の一罪だけが成立する 図:目的があれば、225条の一罪だけが成立する

よいところに気づきました。未成年者を、225条に定める目的で拐取した場合、224条と225条を別々の罪として重ねて成立させるのではなく、225条の営利目的等略取・誘拐罪の一罪だけが成立します。理由は、先ほど見たとおり、未成年者が客体のとき、225条はもともと自由と監護権の2つを守っているからです。224条が守るものは、重い225条の中ですでに全部評価されているので、224条を別に数えると、同じ侵害を二重に罰することになります。

未遂罪・親告罪の一言

224条だけが、親告罪 図:224条だけが、親告罪

最後に2点、一言だけ触れておきます。224条・225条とも、未遂罪を罰する規定があります。もう1つ、224条の罪は親告罪です。被害者側の告訴が無ければ起訴できません。これに対して、225条は親告罪ではありません。

今日の地図(保存版)

224条に、目的が1つ加わると225条になる 図:224条に、目的が1つ加わると225条になる

今日の内容を整理します。224条は、未成年者を客体とし、被拐取者の自由と、親権者等の監護権という2つの保護法益を持つ罪でした。この「2つある」という1点から、未成年者本人の同意だけでは足りないこと、親権者自身の行為でも構成要件に該当しうることの両方が導かれました。225条は、客体が人一般に広がり、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害という4つの目的を要件とする、目的犯でした。224条に、一定の目的が加わって、客体も広がったものが225条、というイメージですね。この対比の軸1本から、今日学んだ要件のほとんどが説明できます。

参照条文

  • 刑法224条
  • 刑法225条

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