信書開封罪と秘密漏示罪
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第14章 個人的法益③|秘密・名誉・信用・業務 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の結びから
図:中身を読まずに開けてすぐ閉じても、犯罪になるのか
前回まで、自由に対する罪を見てきました。今日からは、秘密や名誉、信用や業務といった、社会生活の中の利益を守る罪に入ります。まず1つ目の問いです。家族あての封筒を、中身は一切読まずに、開けてすぐ閉じました。誰の秘密も知らないままです。それでも犯罪になるでしょうか。もう1つ問いを立てておきます。ある人の病名を、担当の医師がしゃべれば犯罪になりうるのに、たまたま病院の廊下で聞いた見舞客がしゃべっても、何の罪にもなりません。漏らした事実は同じなのに、なぜでしょうか。確かに、同じことをしゃべっているのに扱いが違うのは、変な感じがします。
第14章の地図——秘密・名誉・信用・業務
図:秘密・名誉・信用・業務、3つの人格的利益と条文の置き場
これまで、生命・身体を守る罪、それから自由を守る罪と進んできました。今日から入る第14章は、その次の段階です。人が社会の中で生きていくうえで大事な、3つの利益を守ります。1つ目が秘密、知られたくないことを知られない利益です。133条から135条がここに入ります。2つ目が名誉、社会の中での評価です。3つ目が信用と業務、経済活動や社会活動が円滑に営まれる利益で、233条から234条の2に入ります。体そのものを守る段階、動く自由を守る段階の次に、他人にどう見られるか、他人にどう知られるかという、社会生活の中での利益を守る段階に進みます。今日はその入口、秘密を守る2本の条文を見ていきます。
133条 信書開封罪
図:133条は3つの部品——封をしてある信書・開けた・正当な理由がないのに
条文刑法133条
刑法133条(信書開封) 「正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。」
133条を全文で読みます。「正当な理由がないのに、封をしてある信書を開けた者は、一年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する」。まず客体、「封をしてある信書」から見ていきます。「封」とは、信書の内容を外から認識できないように、信書と一体になった形で施す仕組みのことです。封筒に糊付けをするのが典型です。逆に、鍵付きの引き出しに手紙を入れて施錠しても、信書そのものと一体になっているわけではないので、これは「封」にあたりません。「信書」とは、特定の人から特定の人に対して、自分の意思を伝える文書のことです。特定の人には、個人だけでなく会社のような法人も含みます。ただし、単なる図面や写真だけのものは、意思を伝える文書とは言えないので「信書」にはあたりません。
図:開けた瞬間に、もう秘密は危険にさらされている
行為は「開けた」、つまり開封です。ここが今日の1つ目の問いに関わる部分です。条文には「開けた」としか書かれていません。中身を読んだことは要件になっていないんです。さっきの問い、封筒を開けてすぐ閉じただけの場合ですね。読んでいないのに、それでも成立するんですか。成立します。開封という行為があった時点で、もう既遂です。宅配便の集荷所を思い浮かべてください。伝票を見ただけでは中の商品は分かりません。それでも、封をしたままの箱を勝手に開けて中を覗くこと自体を、集荷所のルールは禁じています。中の商品が実際に何であったかは関係ありません。「開けた」という一点だけで、ルール違反は成立します。信書の開封も同じで、中身を実際に読んだかどうかではなく、封という「知られないための仕組み」を破った時点で、秘密はもう危険にさらされている、と考えるんです。
結果を待たずに、行為だけで成立する、ということですか。これを抽象的危険犯と呼びます。前に、脅迫罪のところで一度出てきた考え方です。害悪の告知が伝わっただけで成立し、相手が実際に怖がったかどうかは問わない、というのが脅迫罪でした。133条も同じ設計で、実際に秘密が漏れたという結果までは要求せず、開封という行為だけで処罰します。だから、冒頭の1つ目の問いの答えは、開けてすぐ閉じただけでも、133条は成立する、ということになります。読んでいないから何も知らない、という言い分は、この条文の前では通用しません。
「正当な理由がないのに」という文言は、正当な理由があれば違法性が阻却される、つまり犯罪にならないことを、条文がはっきり示したものです。例えば、法令上の権限に基づいて開封する場合です。大事なのは、開封という行為があっても、正当な理由があれば犯罪にならない、という構造だけです。保護法益は、信書の秘密、つまり中身を知られない利益です。
133条と263条(信書隠匿)の弁別
図:133条と263条の違い——開けたか、隠したか
ここで、隣にある条文と1つ比べておきます。263条、信書隠匿罪です。「他人の信書を隠匿した者は、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する」。133条と同じく信書に関わる罪ですが、守っているものと行為が違います。133条が守るのは、信書の秘密、つまり中身を知られない利益で、行為は「開封」です。263条が守るのは、信書という物の効用、つまり送った人や受け取る人がその信書を使える状態、そのものです。行為は「隠匿」、隠すことです。届いた手紙を、開けもせず、ただ宛先の人に渡さず自分の机に隠しておいた場合、中身は誰にも知られていませんから133条にはなりません。でも、受け取るはずの人が使えない状態にしていますから、263条にあたります。決め手はシンプルで、開けたか、隠したかの1点です。隠匿罪の細かい要件や当てはめは、あとの回で改めて扱います。今日は、この1問だけ切り分けられれば十分です。
134条 秘密漏示罪
図:誰が主体になれるかを、条文が最初から絞っている
ここで、共犯と身分のところで出てきた区別を1つ思い出してください。真正身分犯と不真正身分犯の違い、覚えていますか?真正身分犯は、身分が無いとそもそも犯罪が成立しない類型で、不真正身分犯は、身分が無くても犯罪自体は成立するけれど、身分があることで刑が重くなったり軽くなったりする類型でした。134条は、この真正身分犯の実例です。全文を読みます。
条文刑法134条1項・2項
刑法134条(秘密漏示) 第1項「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。」 第2項「宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。」
1項を読みます。「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する」。2項は、宗教、祈祷、祭祀の職にある者、あった者について、同じ扱いを定めています。条文に職業が並んでいること、そこが今日の一番の対比です。133条は「開けた者」としか書いてなくて、誰でも主体になれました。134条は違います。主体が、条文に列挙された職業の人と、その職にあった者に、はっきり限定されています。身分の無い人は、単独ではこの罪の主体になれません。
図:なぜ職業を限定するのか——信頼して秘密を打ち明ける関係
合鍵を思い浮かべてください。合鍵を渡すのは、家族や、信頼している特定の業者、例えば警備会社の技術者くらいで、通りすがりの人には渡しません。合鍵を持っている人が、その鍵を使って知った家の中の様子を言いふらせば、信頼を裏切ったことになります。医師や弁護士も同じです。患者は症状を、依頼者は事情を、それぞれ打ち明けなければ、診察も弁護もできません。打ち明ける側は、相手を信頼して秘密を明かしているわけです。134条は、この信頼関係を裏切って秘密を漏らす行為を罰する条文です。合鍵をそもそも持っていない人、つまり134条に列挙された職業についていない人が、同じことを言いふらしても、「合鍵を悪用した」という話にはなりません。見舞客は、たまたま知っただけで、134条が対象にしている職業のどれにもあたりません。だから、134条の主体にそもそもなれず、この条文では処罰されないんです。ただし、これは134条の話であって、名誉毀損など他の罪が別に成立するかどうかは、また別の問題です。
「秘密」とは、一般に知られていない事実のことです。「業務上取り扱ったことについて知り得た」は、その職業としての仕事に関連して知った秘密に限る、という意味です。医師が友人として偶然聞いた話は、業務上知った秘密ではありませんから、134条の客体にはなりません。行為は「漏らした」、つまり、まだその秘密を知らない他人に告知することです。こうして見ると、134条も、誰が=列挙された職業の人、何を=業務上知った秘密、どうした=漏らした、の3問で読み切れます。133条との違いは、1問目の『誰が』で最初から絞っているところです。
鑑定人と134条
図:家庭裁判所→鑑定命令→医師→鑑定資料の閲覧・鑑定結果→第三者への開示
ここで、134条をめぐって争われた判例を見ます。判断は3つあります。1つは、医師が裁判所に頼まれて鑑定をした場合も、134条の『医師』の業務にあたるか。もう1つは、誰の秘密までが『人の秘密』に入るか。そしてもう1つは、その秘密を漏らされた本人以外の人が、告訴できるか、です。まず事案です。精神科の医師が、少年事件について家庭裁判所から精神鑑定を命じられました。鑑定資料として、少年らの供述調書の写しの貸出しを受けていたのですが、正当な理由なく、その鑑定資料や鑑定結果を書いた書面を第三者に見せてしまい、少年とその実父の秘密を漏らした、という事案です。
弁護人は、鑑定人としての仕事はあくまで「鑑定人の業務」であって「医師の業務」ではないから、134条1項の「医師」にはあたらない、と主張しました。裁判所から頼まれた鑑定であって、患者を診察したわけではない、という理屈です。
判例最高裁判所第二小法廷決定 平成24年2月13日 刑集66巻4号405頁
鑑定人と秘密漏示罪 本件のように、医師が、医師としての知識、経験に基づく、診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を命じられた場合には、その鑑定の実施は、医師がその業務として行うものといえるから、医師が当該鑑定を行う過程で知り得た人の秘密を正当な理由なく漏らす行為は、医師がその業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏示するものとして刑法134条1項の秘密漏示罪に該当すると解するのが相当である。
判断はこうでした。医師としての知識や経験に基づいて、診断を含む医学的判断を内容とする鑑定を命じられた場合には、その鑑定の実施は、医師がその業務として行うものだと言える。だから、その鑑定を行う過程で知った秘密を正当な理由なく漏らせば、134条1項の秘密漏示罪にあたる、という判断です。決め手は、頼んだのが患者か裁判所かではなく、仕事の中身です。134条は「業務上」としか書いておらず、誰から頼まれた仕事かを問いません。そして、この鑑定は、診断を含む医学的判断、つまり医師の知識と経験そのものを使う仕事でした。さっきの合鍵で言えば、鍵を渡したのが家の持ち主ではなく管理会社だったとしても、その鍵で入った家の中で見たことに変わりはありません。だから、裁判所からの依頼による鑑定でも、そこで知った秘密は「医師がその業務上知り得た秘密」に含まれる、と判断されました。
図:「人の秘密」は本人だけか——実父の秘密と告訴権
判例最高裁判所第二小法廷決定 平成24年2月13日 刑集66巻4号405頁
「人の秘密」の範囲 このような場合、「人の秘密」には、鑑定対象者本人の秘密のほか、同鑑定を行う過程で知り得た鑑定対象者本人以外の者の秘密も含まれるというべきである。したがって、これらの秘密を漏示された者は刑訴法230条にいう「犯罪により害を被った者」に当たり、告訴権を有すると解される。
2つ目の判断は、「人の秘密」には、鑑定を受けた本人だけでなく、鑑定を行う過程で知った、本人以外の人の秘密も含まれる、というものです。この事案では、少年本人の秘密だけでなく、その実父の秘密まで漏らされていました。条文も『人の秘密』と書くだけで、本人の秘密に限る言葉はありません。3つ目の判断は、その実父も、刑事訴訟法にいう「犯罪により害を被った者」にあたり、告訴する権利を持つ、というものです。告訴というのは、被害を受けた人が、捜査機関に犯罪を申告して、処罰を求めることです。これが大事な理由は、このあと見る135条で、この章の罪は、告訴がなければ起訴できないとされているからです。実父に告訴する権利が無ければ、自分の秘密を漏らされても、実父の側からは処罰を求めることができません。135条と合わせて見ると、実父にも、自分の意思で処罰を求める道が開かれている、ということです。
図:鑑定人が医師でなければ——判例の射程
例えば行動心理学の専門家が鑑定人に選ばれ、同じように秘密を漏らしても、134条には列挙されていない職業ですから、この罪にはなりません。この判例が判断したのは、あくまで医師が医学的判断を内容とする鑑定をした場合です。この決定には千葉勝美裁判官の補足意見が付いていて、まさにこの差に触れています。補足意見は、法廷全員の判断そのものではなく、1人の裁判官が個人として付け加えた説明です。秘密を患者との信頼関係の中で知ったものに限って読む解釈も考えられるが、「文理上の手掛かりはなく、解釈論としては無理であろう」とし、134条は医師という身分そのものに着目した構成要件だ、と説明しています。
135条 親告罪
図:告訴がなければ起訴できない——裁判で秘密がさらに広まるのを防ぐ
条文刑法135条
刑法135条(親告罪) 「この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。」
最後の条文、135条です。「この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない」。133条から134条までの罪はすべて親告罪で、告訴が無ければ起訴できません。訴追、つまり起訴という手続が始まると、裁判の過程で、信書の内容や漏らされた秘密が公に取り上げられることになります。せっかく秘密を守るための条文なのに、訴追されることでかえって秘密が広く知られてしまっては本末転倒です。だから、秘密の主体が望まない限り起訴されないように、告訴を要件にしているんです。さきほどの判例で、実父に告訴権があると判断されたのも、この135条があるからこそ意味を持つ話です。
弁別ミニ事例
図:決め手の1語を先に言えれば、条文は自動的に決まる
ここまでの内容を、事例で確認します。私が事例を出すので、まず決め手になる1語を答えてから、条文を確定してください。
図:Aが、Bあての手紙を、中身を見ずに開けてすぐ閉じた
1問目です。Aが、Bあての手紙を、中身を見ずに開けて、すぐ閉じました。何罪で、決め手は何ですか。中身は読んでいませんが、開けているので133条、信書開封罪だと思います。決め手は、開封という行為があったことです。中身を読んだかどうかは要件になっていません。開封という行為があった時点で、抽象的危険犯として既遂です。
図:病院の廊下でBの病名をたまたま聞いたAが、それを言いふらした
2問目です。病院の廊下で、Bの病名をたまたま聞いたAが、それを言いふらしました。何罪で、決め手は何ですか。Aは医師でも何でもなく、たまたま知っただけなので、134条の主体にはあたらず、この罪では不成立だと思います。決め手は、134条に列挙された職業の身分を持っているかどうかです。134条は真正身分犯ですから、身分の無いAは、単独では主体になれません。名誉毀損など他の罪の成否は別に考える必要がありますが、少なくとも秘密漏示罪では不成立です。
図:届いたBあての手紙を、Aが宛先人に渡さず自分の机に隠した
3問目です。届いたBあての手紙を、Aが宛先人に渡さず、自分の机に隠しました。何罪で、決め手は何ですか。開けてはいないので133条ではなく、隠しているので263条、信書隠匿罪だと思います。決め手は、開けたのではなく隠したことです。中身を知られる危険は生じていませんが、Bが手紙を使える状態を奪っているので、263条にあたります。
図:弁護士のAが、受任事件で聞いたBの秘密を、正当な理由なく話した
最後、4問目です。弁護士のAが、受任した事件でBから聞いた秘密を、正当な理由なく第三者に話しました。何罪で、決め手は何ですか。弁護士は134条1項に列挙された職業なので、134条、秘密漏示罪だと思います。決め手は、業務上知り得た秘密を、身分のある者が漏らしたことです。弁護士は134条1項の主体にあたり、受任事件を通じて業務上知った秘密を漏らしていますから、秘密漏示罪が成立します。今日の4問はどれも、誰が、何を、どうしたかの3問だけで答えが出ましたね。
今日の地図(保存版)
図:入口(133・誰でも)と出口(134・特定の職業)、2本の条文で秘密を守る
今日の内容を整理します。秘密を守る条文は2本でした。133条は、誰でも主体になれる代わりに、開封という行為だけで既遂になる抽象的危険犯です。134条は、条文に列挙された職業の人だけが主体になれる真正身分犯で、業務上知り得た秘密を漏らす行為を罰します。そして135条が、この章全体を親告罪として、訴追によってかえって秘密が広まることを防いでいます。冒頭の2つの問い、どちらも答えが出ましたね。封筒を開けてすぐ閉じただけでも、開封という行為があった時点で133条は成立します。医師がしゃべれば犯罪になるのに見舞客がしゃべってもならないのは、134条が真正身分犯で、見舞客には主体としての身分が無いからでした。誰が、何を、どうしたか。この3問さえ立てられれば、133条、134条、そして隣の263条まで、すぐに切り分けられます。
参照条文
- 刑法133条
- 刑法134条1項・2項
- 刑法135条