文書偽造罪②各則——公文書・私文書の構成要件比較
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第14章 取引の安全に対する罪(偽造) ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
155条——公文書の有形偽造 〔短答・論文共通〕

まず155条です。公文書の有形偽造を処罰します。有印——印章か署名がある——公文書の偽造・変造が1項と2項、無印が3項。法定刑も有印の方が重い(1年以上10年以下)です。

ここで確認したいのが「公文書」の定義です。
155条——公文書の定義と運転免許証の具体例 〔短答・論文共通〕

「公文書」の定義は大判明治45・4・15です。「公務所または公務員が、その名義をもって権限内において所定の形式に従って作成すべき文書」。そこが最大のワナです。判断基準は「名義人が公務所・公務員か否か」であって、「文書に書かれた名前が私人か否か」ではない。——名義人は発行者の東京都公安委員会(公務所)です。だから運転免許証は公文書。これは短答でよく問われます。
155条——有印・無印の区別と変造 〔短答・論文共通〕

だから実務上、有印でない公文書はきわめてまれです。3項の無印が出てくる事案は少ない。変造は「非本質的部分の改ざん」。たとえば、貯金通帳の受入年月日を改ざんするだけなら変造です。でも本質的部分を変えて、元の文書との同一性が失われれば「偽造」扱いになります。最昭35・1・12の判例です。変造か偽造かは「本質的な部分か否か」で切ります。
155条——補助的公務員の作成権限(判例) 〔短答・論文共通〕

155条の最後の論点が「補助的公務員の作成権限」です。これは試験でたまに出ます。この係長は代決者(市民課長)の補助をする公務員——補助的公務員です。彼に作成権限があるか、ないかで偽造になるかどうかが変わります。最判昭51・5・6は「一定の基本的な条件に従う限度において作成権限が認められる」と判断しました。条件付きで認める、ということです。「条件を守っていれば権限あり・守っていなければ権限なし」——このシンプルな構造を覚えてください。
156条——虚偽公文書作成等罪(無形偽造・身分犯) 〔短答・論文共通〕

次が156条——公文書の無形偽造です。権限ある公務員が、権限内で、でも内容が虚偽の公文書を作る——これが156条です。主体は「作成権限ある公務員」に限定される真正身分犯。

作成権限のない人が同じことをすれば155条(有形偽造)になります。権限があるかどうかで155条と156条が切れる。ここが短答で問われます。
156条——間接正犯の否定(論証66)と157条の役割 〔短答・論文共通〕

私人Xが市民課長に「この内容で印鑑証明書を作ってください」と虚偽の申請をした。市民課長は権限者なので156条の犯罪を実行できます。Xはその市民課長を道具として利用——これが156条の間接正犯です。通説はこれを否定します。理由は157条の存在。157条は「公正証書原本とか免状とかの重要文書については、こういう間接的な申請行為を独立した犯罪として処罰する」という条文です。そして156条より刑が軽い。その通りです。157条が「限定リスト」になっている——そのリスト以外の公文書については、156条間接正犯不成立・不可罰、というのが通説の理解です。論文で問われた時は通説(否定)で書くのが基本です。ここでは「通説=否定・理由は157条の存在」を押さえてください。
157条——公正証書原本等不実記載等罪(位置づけと客体) 〔短答・論文共通〕

157条の位置づけと客体を整理します。

「登記簿・戸籍簿その他」という文言で分かるように、重要な権利義務関係を証明する文書が1項の対象です。住民票や外国人登録原票もここに含まれます。免状は特権や資格を許与する証明書(運転免許・医師免許等)、鑑札は登録があったことの証票(犬の鑑札など)、旅券はパスポートです。1項より刑が軽い(1年以下)。
157条——詐欺罪との関係 〔短答・論文共通〕

そこが短答でひっかかるポイントです。判例(最判昭27・12・25)は詐欺罪の成立を否定します。157条の犯罪は、公正証書原本への記載や免状等の交付を「受けること」を最初から予定している。虚偽の申立てをして登記をさせた場合、「登記をしてもらう」こと自体が157条の構成要件の中に組み込まれている。詐欺罪は「財物を騙し取る」ことが柱ですが、ここでは財物騙取という特別の行為があるわけではない——157条に吸収される。
158条——偽造公文書行使等罪(行使の定義と携帯の限界) 〔短答・論文共通〕

158条——偽造公文書行使等罪です。公文書偽造の行使版です。

155条から157条までの偽造文書等を行使した場合に成立します。「行使」の定義が重要です。「認識可能な状態に置く」がポイントです。だから郵便で偽造文書を送付した場合は相手に届いた時点で既遂です。行使にもなりません。未遂にもならない。最判昭44・6・18の判例です。持ち歩くだけでは相手に「認識可能な状態に置いた」とはいえない——まだ予備の段階、ということです。答えは「未遂にも成立しない」。予備にとどまります。
158条——罪数(牽連犯の整理) 〔短答・論文共通〕

「偽造→行使→詐欺」という一連のチェーンが全て牽連犯。問題は処断刑ですが、これは最も重い罪の刑で処断されます。
159条——私文書偽造等罪(客体の限定) 〔短答・論文共通〕

私文書系に入ります。159条——私文書偽造等罪。

「権利義務に関する」というのは、借用証書や契約書のように、権利の発生・変更・消滅を内容とするものです。「事実証明に関する」は、社会生活に交渉を有する事項を証明するもの——履歴書や転居届がここに含まれます。
159条——肩書の冒用(論証68)と判断基準 〔短答・論文共通〕

まず問いを立ててみましょう。弁護士でないAが「弁護士A」という名義で文書を作った。名義人は誰か——これが判断のポイントです。最決平5・10・5の判断基準は「文書の性質上、その肩書がなければ作成できない文書かどうか」です。逆に転居届は誰でも作れる——肩書なしでも作成可能——だから名義人は「A」だけ→偽造でない。この論点の詳細な規範と答案の型は論文動画シリーズへ。ここでは判断基準を押さえてください。
159条——代理名義の冒用(論証69) 〔短答・論文共通〕

これは「名義人が誰か」の問題です。そうすると、名義人B・作成者A——Aに代理権はない——A≠B→偽造成立。結論は同じ「偽造成立」。理由が違うだけです。論文ではどちらの立場でも減点されません。名義人論との整合性からは有力説の方が説明しやすいですが。
159条——別名の使用(最判昭59・2・17) 〔短答・論文共通〕

別名の使用も整理しましょう。ペンネームや通称で文書を作った場合です。最判昭59・2・17がその例外を示しました。密入国者が他人の名前で25年以上生活していて、その名義で再入国許可申請書を作った事案です。「在留資格を有するB」が名義人——実際の作成者は「在留資格のないA」——ズレがある→偽造成立。これが総論で学んだ名義人論の各則へのあてはめです。
160条——虚偽診断書作成等罪(私文書無形偽造の例外) 〔短答・論文共通〕

私文書系の最後が160条——虚偽診断書作成等罪です。

医師の診断書・検案書・死亡証書は権利義務に重大な影響を及ぼすことが多い。だから特別に規定されました。そしてここに有名なひっかけがあります。医師が公務員の場合——たとえば国立病院の常勤医師——どうなりますか。公務員である医師が作成する診断書は公文書になります。だから160条ではなく156条(虚偽公文書作成)の問題になる。もう一つの限定が「公務所に提出すべき」という客体要件です。最高裁への提出書類や国立大学への提出書類はここに該当しますが——
161条——偽造私文書等行使罪(罪数整理) 〔短答・論文共通〕

161条は158条の私文書版です。

159条と160条の文書を行使すれば161条。行使の定義は158条と同じです。未遂規定もあります(2項)。ここは短く確認するだけで大丈夫です。
今日の地図(保存版)

では全体をまとめます。違いのポイントを3つ押さえてください。①主体の限定——無形偽造は身分犯(156条=公務員・160条=医師)。②客体の限定——159条は権利義務または事実証明文書に限定(155条の公文書にはこの限定なし)。③156条の間接正犯は不成立(157条の趣旨から)。
牽連犯チェーンと論文頻出論点の整理 〔総まとめ〕

罪数問題は「全て牽連犯」と押さえておけば大丈夫です。論証66(156条間接正犯)・論証68(肩書冒用)・論証69(代理名義冒用)——この3本は論文動画でやります。
次回予告——#71 通貨・有価証券・印章・電磁的記録 〔次回〕

今日で文書偽造は完了。お疲れ様でした。