わいせつ罪・賭博罪・礼拝所/墳墓/死体損壊罪
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第15章 風俗に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

わいせつ動画を海外サーバーで配信した人が、なぜ日本の法律で逮捕されるのか。「データは物じゃない」「サーバーは海外だ」という弁護側の主張がなぜ通らないのか——その答えが今日の最重要判例・最高裁平成26年に直結する。第15章は社会的法益の第三弾。テーマはわいせつ・賭博・死体損壊。この三つに共通する軸は、個人の被害ではなく社会全体の価値観・感情・道徳秩序を守る犯罪だという点。そこが今日の柱になる。

今日の地図はこの通り。
第15章の軸:風俗犯の保護法益 〔短答知識〕

まず大きな骨格から。第15章「風俗に対する罪」は三つに分かれる。一つ目がわいせつ・重婚の罪——保護法益は健全な性的風俗・性道徳・性秩序。二つ目が賭博・富くじの罪——保護法益は勤労の美風。三つ目が礼拝所・墳墓に関する罪——保護法益は国民の宗教的感情。「勤労の美風」とは、汗水流して働いて得る、という社会的価値観のこと。偶然の勝敗で稼ごうとするのはその価値観に反する、という考え方から賭博を犯罪にしている。保護法益の違いを即答できるように——それが今日のスタートライン。
わいせつの定義:100年使われてきた言葉 〔短答・論文共通〕

「わいせつ」が法的にどういう意味かは、判例が定義を出している。最高裁昭和26年・第一小法廷判決。
【判例】「わいせつ」の定義(最判昭和26・5・10〔第一小法廷〕) ① いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ ② 普通人の正常な性的羞恥心を害し、 ③ 善良な性的道義観念に反するもの
この三つの要素が「わいせつ」の定義で、短答でも論文でも問われる。「普通人」というのは、社会通念・平均的な感覚で判断するというのが判例の立場。客観化しきれないので、裁判所が事案ごとに判断する。
公然わいせつ罪(174条) 〔短答知識〕
【条文】刑法174条(e-Gov現行・2025施行) 第百七十四条(公然わいせつ)
174条は「公然と行為する」こと。客体は行為であって、モノではない——行為に対する罪である点に注意。「公然と」とは、最決昭和32年が示すとおり不特定または多数人が認識できる状態をいう。路上のように人が見ている可能性があれば「公然と」に当たる。
わいせつ物頒布等罪(175条):法改正のポイント 〔短答知識〕
【条文】刑法175条1・2項(e-Gov現行・2025施行) 第百七十五条(わいせつ物頒布等) 【1項前段】わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。 【1項後段】電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。 【2項】有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
まず175条1項の構造を把握する。大きく2段になっている。前段は「物(記録媒体・DVDなど)を渡す・陳列する」行為。後段は「電気通信の送信によって電磁的記録を頒布する」——つまりデジタル配信で、ダウンロードさせるタイプがこれに当たる。

前段と後段では「頒布」の意味が少し違う。前段の頒布は、不特定または多数の者への有償・無償の交付で、ポイントは相手方への現実の交付が必要なこと(最判昭和34・3・5)。後段の頒布は、不特定または多数の者の記録媒体上に電磁的記録を存在するに至らしめること。たとえば甲がサーバーに動画をアップして、乙がダウンロードする。乙のPCに記録ができた時点で、甲が「頒布した」ことになる。
データ頒布と国内犯:最決平26・11・25 〔短答・論文共通〕

今日の最重要判例、最決平成26年11月25日。事案は、甲が海外サーバーを使ってわいせつ動画の配信サイトを運営し、日本国内の会員にダウンロードさせていた、というもの。問題は二つある。①175条の「頒布」に該当するか。②海外サーバーだから「国内犯」ではないのでは、という弁護側の主張。
①について、最高裁は後段の「頒布」を、不特定・多数人の記録媒体上に電磁的記録を存在するに至らしめること、と定義し、甲の行為がこれに当たると認定した。
②について、刑法1条1項は「日本国内で罪を犯した者に適用」とする(国内犯の原則)。問題は「罪を犯した場所」がどこかである。甲が海外サーバーを操作したのは事実だが、顧客のパソコン(日本国内)に記録が「存在するに至った」のは国内である。つまり実行行為の結果が日本で生じた。サーバーの場所ではなく、データが到達した場所で考える。最高裁は「頒布の実行地は日本国内に含まれる」として国内犯と認定した。
【判例】データ頒布と国内犯(最決平成26・11・25〔刑集68-9-1053〕) 【事案】甲が海外サーバーからわいせつ動画を日本の会員にダウンロードさせた 【①】甲の行為は175条1項後段の「頒布」に該当する 【②】顧客(国内)の記録媒体上にデータが存在するに至った → 頒布の実行地は日本国内に含まれる=国内犯(刑法1条1項)
公然陳列・有償頒布目的所持 〔短答知識〕

「公然陳列」は頒布と何が違うか。陳列は「見せる」こと、頒布は「渡す・存在させる」ことである。最決平成13年は、ハードディスクにわいせつ画像を保存し、会員がダウンロードできる状態に置いた行為を公然陳列と認定した。閲覧に能動的な操作が必要でも、容易であれば公然陳列になる。整理すると、陳列=「不特定多数が視聴できる状態に置くこと」、頒布=「不特定多数の記録媒体に存在するに至らしめること」。
そして2項は有償頒布目的の所持・保管を処罰する。無償頒布目的の所持は対象外——これが短答のひっかけになる。
賭博罪(185条):一時の娯楽とは何か 〔短答知識〕
【条文】刑法185条(e-Gov現行・2025施行) 第百八十五条(賭博) 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
185条。「賭博」の定義は、偶然の勝敗により財産上の利益の得喪を争う行為。この二つが揃えば賭博になる。ただし、ただし書がある。「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」は可罰的違法性に欠けて不成立になる。「一時の娯楽に供する物」とは、飲食物やタバコが典型例で、その場で消費される、財産的価値の乏しいものをいう。友達とのお菓子賭け麻雀は、お菓子が「一時の娯楽に供する物」に当たれば不成立になりうる。現金は当然アウト。お菓子セーフ、現金アウトと整理してよい。財産的価値があるものは除外されない。
常習賭博・賭博場開張(186条) 〔短答知識〕
【条文】刑法186条(e-Gov現行・2025施行) 第百八十六条(常習賭博及び賭博場開張等図利) 【1項】常習として賭博をした者は、三年以下の拘禁刑に処する。 【2項】賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。
186条は2段構成。1項の常習賭博罪は、「常習として」つまり常習性という身分がある人の加重類型で、185条の不真正身分犯である。常習性は、賭博の種類・回数・賭け金の多少・期間・前科などを総合して判断する。一回二回ではなく、ライフスタイルとして賭博をしているかどうかで判断する。
2項の賭博場開張罪・博徒結合罪は、胴元レベルの行為を重く罰する。「賭博場を開張」とは主催者となって賭博の場所を提供すること。「博徒」とは常習的・職業的賭博行為者。「結合して利益を図る」とは縄張りを作り賭博を便宜提供して対価を得る行為をいう。
礼拝所・墳墓に関する罪(188〜192条):保護法益と概観 〔短答知識〕

第三の柱、礼拝所および墳墓に関する罪。保護法益は国民の宗教的感情——死者や神仏への敬虔な気持ち・宗教的慣習を守ることである。188条1項が礼拝所不敬罪、188条2項が説教等妨害罪、189条が墳墓発掘罪。そして今日の試験最重要は190条——死体損壊等罪である。
死体損壊等罪(190条):「遺棄」の意義と不作為 〔短答・論文共通〕
【条文】刑法190条(e-Gov現行・2025施行) 第百九十条(死体損壊等) 死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
190条の客体は死体・遺骨・遺髪または棺に納めてある物。行為は損壊・遺棄・領得である。このうち試験で一番聞かれるのが「遺棄」の意義。判例の定義は、「風俗上の埋葬と認められない方法で死体を放棄すること」。社会の風習として認められる埋葬の方法に沿っていない形で処分することが遺棄である。

「遺棄」には不作為も含まれる。大判大正6年の判例で、不作為による遺棄も含まれるとされた。ただし不作為の場合は法的な作為義務(埋葬義務)があることが前提になる。法的義務のある人とは、親族・配偶者・戸籍法や墓地埋葬法上の届出義務者などである。単なる殺人犯には、通常、被害者を埋葬する法的義務はない。
たとえば、甲が乙を殺してその場から逃げ、放置しただけのケース。作為義務がないから、不作為の遺棄には原則当たらない。これに対し、死体を山に運んで捨てたら、それは作為による遺棄——190条の「遺棄」に当然当たる。殺した後の処理の仕方で190条との罪数関係が変わってくる。
殺人罪と190条の罪数:併合罪 〔論文の骨格〕

殺人犯が死体を山に捨てたら、殺人罪と190条の両方が成立する。そしてその関係は——併合罪である(大判昭和8・7・8)。想像的競合ではない。殺すこと(殺人罪)と死体を遺棄すること(190条)は行為が別だからである。一行為で複数罪が成立する想像的競合ではなく、複数行為の併合罪になる。
論文での処理は、「殺人罪(199条)と死体遺棄罪(190条)は併合罪(45条前段)」。これが答案のパターンとして押さえるべき点になる。
⭐ 論文で書く規範:190条「遺棄」=風俗上の埋葬と認められない方法で死体を放棄すること。作為の遺棄は当然成立、不作為の遺棄は法的な作為義務(埋葬義務)のある者に限り成立(大判大正6・11・24)。殺人犯は通常、埋葬義務がないため放置だけでは不成立。殺人罪と190条は併合罪(大判昭和8・7・8)。(論文の型は論文動画で詳解)
その他の礼拝所・墳墓罪(概観) 〔短答知識〕

残りの礼拝所・墳墓関係の罪を概観しておく。188条1項——礼拝所不敬罪。礼拝所に対して公然と不敬な行為をした者を罰する。法定刑は6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。188条2項——説教等妨害罪。説教・礼拝・葬式を妨害した者を罰する。法定刑は1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金。189条——墳墓発掘罪。お墓を発掘する罪で、2年以下の拘禁刑。191条——墳墓を発掘して死体等の損壊・遺棄・領得まで行った場合の結合犯で、法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑。192条——変死者密葬罪。検視を経ないで変死者を葬った者を罰する罪で、罰則は10万円以下の罰金または科料。死因等を確認する「検視」を経ずに葬ると192条の罪になる。保護法益については、死因確認の司法・行政的利益という見解もある。
今日の地図(保存版)

今日の第15章をまとめる。わいせつ関係——174条(行為の公然性)、175条(前段・後段・2項所持)。最決平26・11・25でデータ配信も「頒布」・国内犯と確定した。賭博関係——185条(偶然の勝敗・一時の娯楽物は除外)、186条(常習賭博=不真正身分犯、賭博場開張)。礼拝所・墳墓関係——保護法益は宗教的感情。190条の「遺棄」は風俗上の埋葬と認められない方法での放棄で、不作為遺棄は作為義務のある者のみ。殺人罪と190条は併合罪。
試験で最重要の点を整理すると、わいせつは最決平26・11・25のデータ頒布論点・国内犯論点、礼拝所は190条の「遺棄」の定義・不作為遺棄の作為義務・併合罪、賭博は「一時の娯楽」のただし書と常習犯の身分犯性格がシンプルな短答知識になる。次回は第16章——公務執行妨害罪など国家的法益に入っていく。
参照条文
- 刑法174条(e-Gov現行・2025施行)
- 刑法175条1・2項(e-Gov現行・2025施行)
- 刑法185条(e-Gov現行・2025施行)
- 刑法186条(e-Gov現行・2025施行)
- 刑法190条(e-Gov現行・2025施行)