刑法 ゼロから刑法#73

公務執行妨害罪「職務の適法性」・封印等破棄・談合罪

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第16章 国家的法益に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

フック

それは「職務が適法かどうか」によって変わるんだよ。実は三段階のチェックリストで整理できるんだ。刑法第16章、国家的法益の罪。公務執行妨害・職務強要・封印等破棄・強制執行妨害・談合——それと内乱・外患の概観もやる。

目次

盛りだくさんだけど、軸は「職務の適法性」の一本。

第16章の全体像:国家的法益の二層構造 〔短答知識〕

国家的法益の分類

まず全体像から。刑法の保護法益は三層になってるっていう話、これまでもやってきたね。個人的法益——生命・身体・財産・名誉・プライバシー。社会的法益——公共の安全・風俗・信用。そして今日から第三層。国家的法益。「国家」に対する罪は、さらに二層に分かれる。一つ目が国家の存立に対する罪——内乱罪・外患罪。国そのものを脅かす行為。二つ目が国家の作用に対する罪——公務執行妨害・司法妨害・汚職など。国の機能を妨げる行為。保護しているものが「国家」というだけで、罪の性質は全然違う。

内乱罪(77条)・外患罪(81条):国家の存立を脅かす罪 〔短答知識〕

【条文】刑法77条(e-Gov現行・2025施行) 第七十七条(内乱)

77条は内乱罪。保護法益は憲法の定める統治の基本秩序。「暴動」とは、多数人による集団的な暴行・脅迫で、一地方の平穏を害するに足りる程度のもの。多数人の集団行動が要件。また「国の統治機構を破壊し……目的として」とあるね。目的犯だよ。刑は3ランクに分かれる。首謀者は死刑または無期拘禁刑——最高刑は死刑。謀議参与・指揮者は無期または3年以上の拘禁刑。付和随行——つまり流されてついていっただけの人は3年以下。ここは短答で問われることがある。首謀者の刑と付和随行者の刑の違いを押さえておいて。

【条文】刑法81条(e-Gov現行・2025施行) 第八十一条(外患誘致)

外患誘致罪、81条。外国と示し合わせて、日本に軍事攻撃させる行為。刑法で唯一の絶対的法定刑——死刑しかない。国家の存立そのものを最高度で脅かす行為だから、刑も最重。外国の武力行使に加担して軍務に服したりする行為。81条と異なり相対的法定刑——試験ではほぼ不問。試験では内乱・外患は「保護法益と法定刑の重さ」を押さえておけば十分。国交に関する罪(83〜89条)は試験との関係で重要度は低い——概観のみでOK。

公務執行妨害罪(95条1項):基本構造 〔短答・論文共通〕

【条文】刑法95条(e-Gov現行・2025施行) 第九十五条(公務執行妨害及び職務強要)

メインテーマに入ろう。95条1項が公務執行妨害罪。保護法益は適法な公務の円滑な執行。最初から「適法な」って書いてるわけじゃないんだけど、解釈でそう読む。なぜかは後で説明する。主体は「者」——何人でも犯せる(身分犯じゃない)。「公務員」は刑法7条1項——国・地方公共団体の役員・職員等。広い。税務署員・消防士・裁判官——全員含む。「暴行」の意味——ここは重要。公務員に向けられた不法な有形力の行使。しかも間接暴行も含む。最判昭37・1・23——公務員の身体に直接触れなくても、公務員が乗っている車を揺さぶる、公務員の周囲に物を投げつけるなども「暴行」に当たる。「暴行・脅迫」が職務に向けられていれば。

「職務を執行するに当たり」の範囲

次に「職務を執行するに当たり」という要件。職務の執行は具体的・個別的に特定された職務の開始から終了までが含まれる。さらに——時間的・場所的に一体をなすべき準備行為も含まれる(最判昭45・12・22)。例えば令状を持って被疑者宅に向かっている途中の警察官——まだ職務を「執行」してるわけじゃないけど、その準備段階。これも「職務を執行するに当たり」に含まれる。だから、その警察官を途中で邪魔したら公務執行妨害罪になりうる。職務の執行が完了した後は対象外。警察官が職務を終えて帰宅途中で暴行されても、これは公務執行妨害罪じゃなく単なる傷害罪。本罪は抽象的危険犯——実際に職務が妨害されたかどうかは問わない。暴行・脅迫をすれば成立。罪数について——暴行・脅迫は本罪に吸収される。傷害・恐喝・強盗・殺人が伴う場合は観念的競合。

職務の適法性:なぜ要件になるのか 〔論文の骨格〕

適法性が要件の理由

「職務の適法性」——なぜ要件になるのか。「公務員の身分を守る」という法律ではないから。保護法益は適法な公務の円滑な執行——つまり公務の機能そのものを守る法律。違法な職務執行を守る理由はない。違法な逮捕・違法な捜索——これらを無条件に保護すると、公権力の濫用を後押しするだけ。そういうこと。だから「職務が適法」でないと犯罪は成立しない——これが判例・通説の立場。では「適法」かどうかをどう判断するか。

職務の適法性:3要件 〔短答・論文共通〕

適法性の3要件(絞り込み図)

判例・通説は3つの要件を立てる。順番に確認しよう。要件①:抽象的職務権限その公務員の「役職・ポジション」として、この種の職務を行う権限が一般的にあるか。警察官→逮捕する権限あり。これは①クリア。税務署員→刑事事件で被疑者を逮捕する権限はない。①でアウト。まず「誰がやっているか」の適格性チェック。要件②:具体的職務権限この事案で、この時点で、法律が要求する要件が揃っているか。逮捕状が発付されているか——されていれば②クリア。現行犯逮捕なら令状不要だけど、現行犯の要件(刑訴212条)が揃っているか。「権限はあるけど、この場面では発動できる状況じゃない」という場合は②でアウト。要件③:法律上の手続・方式の重要部分の履践法律が要求する手続の「重要な部分」を踏んでいるか。令状呈示(刑訴222条・110条)——被疑者に令状を見せること。これが重要な手続の典型例。ただし「重要部分」に限られる。細かい手続の瑕疵まで問うと、公務が守られなくなる。重要な部分が履践されていれば適法——それがポイント。この3要件が全て揃って初めて「適法な職務執行」として95条の保護を受ける。

具体例で3要件チェック

具体例でチェックしてみよう。ケース1:警察官Aが逮捕状を持って被疑者宅に行き、逮捕状を呈示して逮捕しようとした。被疑者が抵抗した。適法。抵抗したら公務執行妨害罪成立。ケース2:警察官Aが逮捕状を持っているが、呈示せずに逮捕しようとした。被疑者が抵抗した。令状呈示は「重要な手続」——③アウト、職務は不適法。抵抗しても公務執行妨害罪にならない。①アウト——税務署員には逮捕権限がない。不適法。公務執行妨害罪にならない。

適法性の判断基準:行為時標準説 〔短答・論文共通〕

3説の比較表

3要件が揃っているかどうか——いつの時点で判断するか。これが次の論点。例えばこういうケース。警察官が「被疑者Xだ」と判断して逮捕した。後で裁判で「実は無実だった」と判明した。この場合、逮捕した時点の職務は「適法」だったか「不適法」だったか。これが「どの時点の情報で判断するか」という問題。3つの考え方がある。①純客観説(事後客観説):後で裁判になってから、全情報を使って判断する。「後から見て、本当に被疑者だったかどうか」を基準にする。その通り。最終的に無罪判決が出たケースでは、逮捕中の抵抗が全部公務執行妨害にならなくなる。公務員が萎縮して職務を遂行できなくなる——公務保護の目的と矛盾する。だからこれは採らない。②主観説:公務員が「自分は適法だと思っていた」と信じていればOK。公務員の主観だけで適法性が決まるなら、違法な職務も「思ってた」と言えば保護されてしまう。これも採らない。③行為時標準説(判例・通説)行為の時点で存在した客観的事情から見て適法かどうかを判断する。後で判明した事実は考慮しない。行為の時点の客観情報だけ。判例——最決昭41・4・14(判時449号64頁)が採用。消防士が「火事だ」という通報を受けて出動し、ドアを破って進入した。後で誤報とわかった。行為時(出動した時点)に客観的に「火事だと合理的に判断できる事情」があった→適法。後から誤報とわかっても「あの時の職務は違法だった」にはならない。「外形的要件を満たしていれば」保護される——これが判例の立場。だから結果的に無罪になった逮捕でも、行為時に逮捕の要件を満たしていた外形があれば適法として扱われる。

適法性の錯誤:事実の錯誤説 vs 二分説 〔論文の骨格〕

適法性の錯誤・二分説のフロー

次は「適法性の錯誤」。少し難しいけど、論文頻出論点だよ。暴行した側(被疑者)の話。「この逮捕は違法だ」と思って抵抗した——でも実は適法な逮捕だった。この場合、故意(犯意)はあるのか?それが論点。「適法性」の認識がないとき、公務執行妨害罪の故意が欠けるか。これには2つの処理方法がある。事実の錯誤説:適法性の認識は実質的に「事実の認識」の問題。「公務員が職務執行しているという状況の認識」=「事実の認識」として処理。素人目線で「なんか手続きをやってるな」という程度の認識があれば故意成立。この説だと故意が成立しやすい——公務員保護に手厚い。二分説(多数説):処理を二段階に分ける。第一段階:「公務員が権限行使をしている状況にある」という事実認識→これは事実の錯誤の問題。この事実を認識していれば故意の事実認識あり。第二段階:「その職務執行が適法かどうか」という法的評価の認識→これは違法性の錯誤の問題(責任論)。違法性の錯誤は原則として故意には影響しない(故意は事実認識+違法性の意識の可能性で足りる立場)。二分説の結論は——「公務員が職務執行をしているという状況を認識していれば故意あり」。「適法か違法かの評価を誤った」のは違法性の錯誤として別処理。事実の錯誤説だと、「俺は違法だと思ってた」と言えば常に故意なしになり、公務執行妨害罪が空洞化してしまうから。二分説なら「事実は知っていた→故意あり」として、公務保護の実効性を保てる。この論点は論文で書けるようにしておいて。論文動画で詳しくやるよ。

論文で書く規範:論文の論点あり (論文動画「職務の適法性の論点」で詳解)

職務強要罪(95条2項):: 短答知識

職務強要罪の3類型

95条2項——職務強要罪。さっき条文を見たね。「公務員にある処分をさせ、若しくはさせないため、またはその職を辞させるために、暴行または脅迫を加えた者」1項は「職務執行の邪魔をする」行為。2項は「特定の処分をさせる・させない・辞職させる」ために暴行脅迫する行為。目的犯だよ。3つの目的のどれかがあって初めて成立。「辞職させる目的」——辞職そのものを強要する。辞職して公務員の身分を失わせることで国家作用を侵害する。95条1項2項で法定刑は共通。

封印等破棄罪(96条):: 短答知識

【条文】刑法96条(e-Gov現行・2025施行) 第九十六条(封印等破棄)

96条——封印等破棄罪。保護法益は強制執行の適正かつ円滑な実施。裁判所の執行官が財産に差押えシール(封印表示)を張る——それを破ったり剥がしたりする行為が「損壊」。さらに「その他の方法により……命令若しくは処分を無効にした」——封印を破らなくても、封印の効力を実質的に無効にする行為も含む。それは次の96条の2が対応する。96条は封印・差押え表示の損壊と命令・処分の無効化がメイン。

強制執行妨害罪群(96条の2〜96条の5):: 短答知識

強制執行妨害罪群の概観

96条の2から96条の5——強制執行妨害の罪の群。全部保護法益は共通で強制執行の実効性。96条の2(強制執行妨害目的財産損壊等)——目的犯(強制執行を妨害する目的)。財産を隠匿・損壊・仮装譲渡、または仮装の債務負担、財産の現状改変による価格減損、不利益条件での譲渡など。96条の3(強制執行行為妨害等)——偽計または威力で強制執行の執行行為(立入り・占有者確認等)を妨害。または申立権者に暴行・脅迫して申立てを妨害する行為。96条の4(強制執行関係売却妨害)——偽計または威力で強制執行の競売・売却の公正を害する行為。96条の5(加重類型)——報酬を得または得させる目的で96条〜96条の4の罪を犯した場合、刑が加重される。5年以下の拘禁刑または500万円以下の罰金(併科あり)。96条の2から5までは「強制執行を守る」一連の犯罪群として整理しておいて。

競売等妨害罪・談合罪(96条の6):: 短答知識

【条文】刑法96条の6(e-Gov現行・2025施行) 第九十六条の六(公契約関係競売等妨害)

96条の6——競売等妨害と談合罪。1項が競売等妨害罪——偽計または威力で公の競売・入札の公正を害する行為。保護法益は競売・入札の公正。「公正な価格を害しまたは不正な利益を得る目的で談合した者」。ここで「公正な価格」の解釈が論点になる。2つの学説がある。競争価格説(通説):競争入札が正常に機能したとすれば形成されたであろう市場価格。適正利潤価格説:業者が適正な利潤を得られる合理的価格。競争価格説が通説。市場メカニズムによる自由競争を保護するという趣旨に合致する。適正利潤価格説だと「妥当な利潤の範囲内なら談合してもいい」という解釈になりかねない。短答で問われることがある。「公正な価格=競争価格」と押さえておいて。96条の6・1項は抽象的危険犯——公正を害する行為をすれば成立、実際に被害が出なくても。2項(談合罪)は目的犯——「公正な価格を害する目的」または「不正な利益を得る目的」が必要。

今日の地図(保存版)

まとめ板書

国家的法益の罪は国家の存立(内乱・外患)と国家の作用(公務執行妨害等)の二層。内乱罪——保護法益=憲法の統治基本秩序。暴動=集団的暴行脅迫。目的犯。首謀者=死刑/無期拘禁刑。外患誘致81条——絶対的法定刑(死刑のみ)。刑法最重。公務執行妨害罪(95条1項)——保護法益=適法な公務の円滑な執行。「職務の適法性」3要件——①抽象的職務権限 ②具体的職務権限 ③手続・方式の重要部分の履践。適法性の判断基準——行為時標準説(最決昭41・4・14):行為時点の客観事情で判断。適法性の錯誤——二分説(多数説):事実認識(状況)は事実の錯誤・適法性評価は違法性の錯誤として二分処理。職務強要罪(95条2項)——目的犯・3類型(処分させる/させない/辞職させる)。封印等破棄(96条)——封印・差押え表示を損壊等。強制執行の実効性保護。強制執行妨害罪群(96条の2〜5)——財産隠匿・執行行為妨害・売却妨害・加重類型。競売等妨害・談合(96条の6)——「公正な価格」=競争価格説(通説)。論文では3要件を挙げて、行為時標準説で当てはめる——この流れが骨格になる。論文での書き方は論文動画シリーズで詳しくやるよ。

次回予告

「犯人を逃がした」「証拠を隠した」——刑事司法の妨害を守る罪。

参照条文

  • 刑法77条(e-Gov現行・2025施行)
  • 刑法81条(e-Gov現行・2025施行)
  • 刑法95条(e-Gov現行・2025施行)
  • 刑法96条(e-Gov現行・2025施行)
  • 刑法96条の6(e-Gov現行・2025施行)

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