逃走罪・犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪
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第16章 国家的法益に対する罪 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
今日の軸:「自分の利益を守る」と「他人を巻き込む」の境界線

逃走の罪(97〜102条) 〔短答知識〕

保護法益:国家の拘禁作用(法令に基づく拘束状態の維持)。
97条・98条(逃げた本人が主体)
- 97条:単純逃走。「法令により拘禁された者」が主体。三年以下。
- 98条:加重逃走。3手段のどれかが伴う。
- 手段①(損壊)の着手時期=損壊を開始した時点(最判昭54・12・25)
- 手段②(暴行脅迫)の着手時期=暴行・脅迫行為の開始時点(東京高判昭54・4・24)
- 手段③(通謀のみ)=実行着手がない→未遂にも不成立・不可罰(佐賀地判昭35・6・27)

99条〜101条・102条(外部関与型)
- 99条:被拘禁者奪取。強制的に外から引き剥がす(本人の意思不要)。
- 100条:逃走援助。本人の逃走意思が前提。既遂=援助完了時(実際の逃走不要)。目的犯。
- 101条:看守者等逃走援助。真正身分犯加重(職責あり→重罰)。既遂=逃走した時(100条と逆)。
- 102条:97〜101条すべての未遂を罰する(ただし通謀のみは実行着手なし→102条があっても不成立)。
短答の核心:100条(援助完了時=既遂)と101条(逃走した時=既遂)の対比を混同しない。
犯人蔵匿・隠避罪(103条) 〔短答・論文共通〕

保護法益:国の刑事司法作用(捜査・訴追・裁判の機能全体)。103条の方が97条より保護法益が広い。
「罪を犯した者」の範囲:3説

- A説(真犯人説):無実の人を匿っても不成立→実務で対応困難。
- B説(被疑者説・判例):最判昭24・8・9。実際に犯人だったかは問わない。
- C説(被告人・被疑者説):大谷説。
「蔵匿」と「隠避」の定義

- 蔵匿:場所を提供して匿う。
- 隠避:蔵匿以外の一切の行為(大判昭5・4・5)。変装道具を渡す・偽情報を流す など。
- 身代わり自首も「隠避」(最決平1・5・1)——形式は自首、実質は発見・拘束妨害。
- 故意の内容:罪名まで知らなくてよい。「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者だ」という概括的認識で足りる(最判昭29・9・30)。
犯人自身の自己蔵匿=不可罰

条文に明示規定なし——解釈論。根拠は期待可能性の欠如。犯罪を犯した人間が刑事司法から逃れようとするのは当然に近い自己保存行動。常に「出頭しろ」と要求できない。
犯人による蔵匿の教唆:可罰(論点)

- 判例・通説:可罰(教唆犯成立)(大判昭8・10・18)
- 根拠:防御権の濫用——防御権は「自己の権利を行使する範囲」に限られる。他人を犯罪者にすることは防御権の範囲外。
- この論点の論文答案の型 → 論文動画「犯人蔵匿教唆・証拠隠滅教唆の論証」で解説。
証拠隠滅等罪(104条) 〔短答・論文共通〕

「他人の刑事事件」が要件:自己の事件の証拠を隠しても104条不成立(期待可能性の同じ論理)。
共犯者と共通の証拠の取扱い

- 原則不成立説・原則成立説(西田等)・限定的肯定説(多数説)
- 多数説の結論:もっぱら共犯者の利益のために行った場合→成立、自己の利益目的も含む→不成立。
虚偽供述は「偽造」か

- 原則:当たらない(最判昭28・10・19)——「偽造」は存在しない証拠を新たに作り出すこと。供述自体は証拠の「内容」であって「作出」ではない。虚偽供述は169条偽証罪の問題。
- 例外:虚偽内容を記載した書面を証拠として作成させた場合(最決平28・3・31)。
犯人による証拠隠滅の教唆:可罰
- 判例・通説:可罰(大判明45・1・15・最決昭40・9・16)
- 根拠は103条の教唆と同じ——「自己の行為=期待可能性なし」でも、他人を犯罪に巻き込む行為には期待可能性あり。
- この論点の論文答案の型 → 論文動画「犯人蔵匿教唆・証拠隠滅教唆の論証」で解説。
親族特例(105条) 〔短答・論文共通〕
構造:103条・104条が成立した上で、刑の免除が「できる」(任意的免除)。「不成立」とは書かない。
趣旨:親族が犯人を守るのは「人として当然ともいえる行動」だが、「期待可能性ゼロ」ではない→成立するが免除できるという均衡。
4パターン(試験の引っかけポイント)

| パターン | 行為者 | 103条成立 | 105条 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| (ア)親族が第三者を教唆 | 第三者 | 成立 | 適用なし | 親族への105条適用も否定有力 |
| (イ)第三者が親族を教唆 | 親族 | 成立 | 適用あり | 第三者への準用なし |
| (ウ)犯人が親族を教唆 | 親族 | 成立 | 適用あり | 犯人への準用も肯定(趣旨合致) |
| (エ)親族が犯人を教唆(自己蔵匿) | 犯人 | 非該当 | — | 混合惹起説→親族にも教唆不成立 |
引っかけ:(イ)は第三者への準用なし・(ウ)は犯人への準用あり——この逆転を確実に押さえる。
証人等威迫罪(105条の2) 〔短答知識〕
- 104条との最大の違い:「自己若しくは他人の刑事事件」——自己の事件も含む。
- 理由:「人を直接威迫する」行為は自己の事件でも他人の身体の自由・精神的安全を侵害する→期待可能性の問題とは別の害悪。
- 文書送付も「強談威迫の行為」に当たりうる(最決平19・11・13)。
- 脅迫罪・強要罪との関係=観念的競合。
今日の地図(保存版)

| 条文 | 名称 | 主体 | 既遂時期・特則 |
|---|---|---|---|
| 97条 | 単純逃走 | 拘禁された本人 | — |
| 98条 | 加重逃走 | 同上 | 通謀のみ=着手なし→不可罰 |
| 99条 | 被拘禁者奪取 | 外部第三者 | — |
| 100条 | 逃走援助 | 外部第三者 | 援助完了時(逃走不要) |
| 101条 | 看守者等逃走援助 | 看守者・護送者(身分犯) | 逃走した時(100条と逆) |
| 103条 | 犯人蔵匿・隠避 | 第三者 | 自己蔵匿不可罰・犯人教唆可罰 |
| 104条 | 証拠隠滅等 | 第三者 | 「他人の事件」のみ・犯人教唆可罰 |
| 105条 | 親族特例 | 親族 | 任意的免除(成立した上で) |
| 105条の2 | 証人等威迫 | 誰でも | 自己の事件も含む(104条と違う) |
全体を貫く軸:「自分の利益を守る(期待可能性なし・不可罰)」と「他人を巻き込む(期待可能性あり・可罰)」の境界線。
📝 論文の型
→ 論文動画「犯人蔵匿教唆・証拠隠滅教唆・親族特例の論証」で解説予定(理解回#74 の対の論文シリーズ)。