刑法 ゼロから刑法#74

逃走罪・犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪

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第16章 国家的法益に対する罪 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

今日の軸:「自分の利益を守る」と「他人を巻き込む」の境界線

今日の地図。3ライン・7セクション。逃走の罪(97〜102条)+犯人蔵匿・隠避罪(103条)+証拠隠滅等罪(104条)+親族特例(105条)+証人等威迫罪(105条の2)。貫く軸=自分の利益を守る行為(期待可能性なし=不可罰)vs 他人を巻き込む行為(期待可能性あり=可罰)。


逃走の罪(97〜102条) 〔短答知識〕

逃走の罪(97〜102条)の主体・行為・既遂時期。97条=単純逃走(本人主体・三年以下)。98条=加重逃走(本人主体・三手段:損壊/暴行脅迫/通謀・三月以上五年以下)。99条=被拘禁者奪取(第三者主体・強制的な引き剥がし)。100条=逃走援助(外部第三者・既遂=援助完了時=逃走不要)。101条=看守者等逃走援助(身分犯加重・既遂=逃走した時)。102条=全条の未遂を罰する。

保護法益:国家の拘禁作用(法令に基づく拘束状態の維持)。

97条・98条(逃げた本人が主体)

  • 97条:単純逃走。「法令により拘禁された者」が主体。三年以下。
  • 98条:加重逃走。3手段のどれかが伴う。
    • 手段①(損壊)の着手時期=損壊を開始した時点(最判昭54・12・25)
    • 手段②(暴行脅迫)の着手時期=暴行・脅迫行為の開始時点(東京高判昭54・4・24)
    • 手段③(通謀のみ)=実行着手がない→未遂にも不成立・不可罰(佐賀地判昭35・6・27)

加重逃走の3手段と着手時期。手段①損壊・手段②暴行脅迫・手段③通謀(通謀単独は予備段階=不可罰)。

99条〜101条・102条(外部関与型)

  • 99条:被拘禁者奪取。強制的に外から引き剥がす(本人の意思不要)。
  • 100条:逃走援助。本人の逃走意思が前提。既遂=援助完了時(実際の逃走不要)。目的犯。
  • 101条:看守者等逃走援助。真正身分犯加重(職責あり→重罰)。既遂=逃走した時(100条と逆)。
  • 102条:97〜101条すべての未遂を罰する(ただし通謀のみは実行着手なし→102条があっても不成立)。

短答の核心:100条(援助完了時=既遂)と101条(逃走した時=既遂)の対比を混同しない。


犯人蔵匿・隠避罪(103条) 〔短答・論文共通〕

103条の全体構造。客体=「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」or「拘禁中に逃走した者」。行為=蔵匿(場所提供)or 隠避(蔵匿以外の一切の行為)。保護法益=国の刑事司法作用(捜査・訴追・裁判機能)。

保護法益:国の刑事司法作用(捜査・訴追・裁判の機能全体)。103条の方が97条より保護法益が広い。

「罪を犯した者」の範囲:3説

「罪を犯した者」3説。A説=真犯人説(本当に実行した者のみ)。B説=被疑者説(判例・最判昭24・8・9):犯罪の嫌疑を受け捜査対象になっている者を含む。C説=被告人・被疑者説(大谷説)。試験=B説(被疑者説)を軸に。

  • A説(真犯人説):無実の人を匿っても不成立→実務で対応困難。
  • B説(被疑者説・判例):最判昭24・8・9。実際に犯人だったかは問わない。
  • C説(被告人・被疑者説):大谷説。

「蔵匿」と「隠避」の定義

「蔵匿」=場所を提供して犯人を匿う。「隠避」=蔵匿以外の方法で犯人の発見・拘束を妨げる一切の行為(大判昭5・4・5)。身代わり自首も「隠避」(最決平1・5・1)。故意=「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者だ」という概括的認識で足りる(最判昭29・9・30)。

  • 蔵匿:場所を提供して匿う。
  • 隠避:蔵匿以外の一切の行為(大判昭5・4・5)。変装道具を渡す・偽情報を流す など。
  • 身代わり自首も「隠避」(最決平1・5・1)——形式は自首、実質は発見・拘束妨害。
  • 故意の内容:罪名まで知らなくてよい。「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者だ」という概括的認識で足りる(最判昭29・9・30)。

犯人自身の自己蔵匿=不可罰

犯人自身の自己蔵匿=不可罰の根拠=期待可能性の欠如。刑事司法から逃れようとするのは自己保存の当然の行動→法律が「逃げるな」と常に要求できない。ただし他人を巻き込む行為は別の話。

条文に明示規定なし——解釈論。根拠は期待可能性の欠如。犯罪を犯した人間が刑事司法から逃れようとするのは当然に近い自己保存行動。常に「出頭しろ」と要求できない。

犯人による蔵匿の教唆:可罰(論点)

犯人による蔵匿教唆。判例・通説=肯定(大判昭8・10・18)。根拠=防御権の濫用。犯人の防御権は自己の権利を行使する範囲に限られる。他人を犯罪者にすることまで正当化されない。「自分が逃げる=期待可能性なし・不可罰」vs「他人を犯罪に引き込む=期待可能性あり・可罰」。

  • 判例・通説:可罰(教唆犯成立)(大判昭8・10・18)
  • 根拠:防御権の濫用——防御権は「自己の権利を行使する範囲」に限られる。他人を犯罪者にすることは防御権の範囲外。
  • この論点の論文答案の型 → 論文動画「犯人蔵匿教唆・証拠隠滅教唆の論証」で解説

証拠隠滅等罪(104条) 〔短答・論文共通〕

104条の全体構造。要件=「他人の刑事事件」に関する証拠を隠滅・偽造・変造・偽造変造証拠の使用。「他人の」が核心=自己の刑事事件は期待可能性なし→不可罰。行為類型=隠滅・偽造・変造・偽変造証拠使用。三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金。

「他人の刑事事件」が要件:自己の事件の証拠を隠しても104条不成立(期待可能性の同じ論理)。

共犯者と共通の証拠の取扱い

共犯者の証拠隠滅3説。原則不成立説:自己の事件でもある→期待可能性なし。原則成立説(西田等):他人の事件でもある→成立しうる。限定的肯定説(多数説):もっぱら共犯者の利益のためなら成立・自己の利益目的も含む場合は不成立。

  • 原則不成立説・原則成立説(西田等)・限定的肯定説(多数説)
  • 多数説の結論:もっぱら共犯者の利益のために行った場合→成立、自己の利益目的も含む→不成立。

虚偽供述は「偽造」か

虚偽供述は「偽造」か。原則=「偽造」に当たらない(最判昭28・10・19)。「偽造」=存在しない証拠を新たに作り出すこと。供述はそれ自体が証拠の内容→証拠の「作出」ではない。虚偽供述は169条偽証罪が処罰。例外=虚偽内容を記載した書面を証拠として作成させた場合(最決平28・3・31)。

  • 原則:当たらない(最判昭28・10・19)——「偽造」は存在しない証拠を新たに作り出すこと。供述自体は証拠の「内容」であって「作出」ではない。虚偽供述は169条偽証罪の問題。
  • 例外:虚偽内容を記載した書面を証拠として作成させた場合(最決平28・3・31)。

犯人による証拠隠滅の教唆:可罰

  • 判例・通説:可罰(大判明45・1・15・最決昭40・9・16)
  • 根拠は103条の教唆と同じ——「自己の行為=期待可能性なし」でも、他人を犯罪に巻き込む行為には期待可能性あり。
  • この論点の論文答案の型 → 論文動画「犯人蔵匿教唆・証拠隠滅教唆の論証」で解説

親族特例(105条) 〔短答・論文共通〕

構造:103条・104条が成立した上で、刑の免除が「できる」(任意的免除)。「不成立」とは書かない。

趣旨:親族が犯人を守るのは「人として当然ともいえる行動」だが、「期待可能性ゼロ」ではない→成立するが免除できるという均衡。

4パターン(試験の引っかけポイント)

親族特例の4パターン。(ア)親族が第三者を教唆して犯人を匿わせた→第三者に103条成立・105条適用なし・親族への105条適用否定の見解が有力。(イ)第三者が親族を教唆した→親族に103条成立・105条適用あり・第三者への準用なし。(ウ)犯人が親族を教唆した→親族に103条成立・105条適用あり・犯人への準用肯定(趣旨合致)。(エ)親族が犯人を教唆して自己蔵匿させた→犯人は構成要件非該当(自己蔵匿不可罰)→混合惹起説から親族にも教唆不成立。

パターン行為者103条成立105条備考
(ア)親族が第三者を教唆第三者成立適用なし親族への105条適用も否定有力
(イ)第三者が親族を教唆親族成立適用あり第三者への準用なし
(ウ)犯人が親族を教唆親族成立適用あり犯人への準用も肯定(趣旨合致)
(エ)親族が犯人を教唆(自己蔵匿)犯人非該当混合惹起説→親族にも教唆不成立

引っかけ:(イ)は第三者への準用なし・(ウ)は犯人への準用あり——この逆転を確実に押さえる。


証人等威迫罪(105条の2) 〔短答知識〕

  • 104条との最大の違い「自己若しくは他人の刑事事件」——自己の事件も含む
  • 理由:「人を直接威迫する」行為は自己の事件でも他人の身体の自由・精神的安全を侵害する→期待可能性の問題とは別の害悪。
  • 文書送付も「強談威迫の行為」に当たりうる(最決平19・11・13)。
  • 脅迫罪・強要罪との関係=観念的競合

今日の地図(保存版)

まとめ整理表。100条と101条の既遂時期の対比・103条と104条の「自己行為不可罰」の共通根拠(期待可能性)・犯人教唆の可罰性(防御権の濫用・他人を巻き込む行為)・親族特例4パターンの場合分け・証人等威迫は自己の事件も含む。

条文名称主体既遂時期・特則
97条単純逃走拘禁された本人
98条加重逃走同上通謀のみ=着手なし→不可罰
99条被拘禁者奪取外部第三者
100条逃走援助外部第三者援助完了時(逃走不要)
101条看守者等逃走援助看守者・護送者(身分犯)逃走した時(100条と逆)
103条犯人蔵匿・隠避第三者自己蔵匿不可罰・犯人教唆可罰
104条証拠隠滅等第三者「他人の事件」のみ・犯人教唆可罰
105条親族特例親族任意的免除(成立した上で)
105条の2証人等威迫誰でも自己の事件も含む(104条と違う)

全体を貫く軸:「自分の利益を守る(期待可能性なし・不可罰)」と「他人を巻き込む(期待可能性あり・可罰)」の境界線。


📝 論文の型

論文動画「犯人蔵匿教唆・証拠隠滅教唆・親族特例の論証」で解説予定(理解回#74 の対の論文シリーズ)。

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