刑法 ゼロから刑法#75

偽証罪・虚偽告訴罪

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第16章 国家的法益に対する罪 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

フック

これは「証言した時点で、自分の記憶と一致していたかどうか」で変わる。偽証罪の「虚偽」は主観説——記憶に反するかどうかで決まる。でも虚偽告訴罪の「虚偽」は客観説——全然違う基準。「守ろうとしているもの」が微妙に違うから——そこに一本の筋が通ってる。

目次

S2:偽証罪(169条)の条文・主体・行為。S3:「虚偽」の意義——主観説vs客観説、4象限で整理。S4:被告人の偽証教唆——可罰か不可罰か。S5:自白による刑の減免(170条)。S6:虚偽鑑定等罪(171条)——薄く。S7:虚偽告訴罪(172条)——保護法益・客観説の理由。S8:同意申告・目的犯・自白減免(173条)。S9:対比まとめ。

偽証罪(169条):条文と主体 〔短答知識〕

偽証罪の構造(169条)

刑法169条(偽証罪)

まず169条の条文を確認しよう。「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたとき」——ここに2つの絞り込みがある。まず「法律により」——証言義務の根拠が法律にある場合だけ。刑事裁判の証人、民事裁判の証人、行政審判の証人など。保護法益は国の審判作用の適正——刑事に限らず民事・行政も含む。前回やった証拠隠滅罪(104条)が「刑事司法作用」だったのと比べて覚えておいて。次の絞り込み——「宣誓した」。証言台に立っても宣誓していなければ偽証罪の主体にならない。169条は成立しない。宣誓なし、または宣誓を拒否したなら条文の要件を満たさない。そして最も重要なこと——事件の当事者は証人にはなれない。被告人は「証人適格がない」——証人という地位に就けない。だから被告人自身が嘘をついても169条の主体にならない。法律により宣誓した証人という特定の身分がなければ主体になれない——真正身分犯。鑑定人・通訳人・翻訳人は171条が別に規定している。

「虚偽」の意義:主観説vs客観説 〔短答・論文共通〕

「虚偽」の意義:2説の対立

169条の「虚偽の陳述」——「虚偽」とは何か。2つの学説がある。主観説(判例・通説)——虚偽とは「自己の記憶に反すること」をいう。大判大正3・4・29がこの立場。なぜか——証人の役割は「自分が体験した事実をそのまま正確に語ること」。記憶に反して証言した瞬間、それだけで裁判所に誤った情報が入り込む。審判機能を歪める抽象的危険が生じるわけだから。客観説——虚偽とは「客観的真実に反すること」をいう。こちらの批判は——客観的真実に反していても、証人が真実と信じていれば故意が阻却される。審判機能を実際に害する危険も生じない。主観説から見るとそうなる。記憶通りに言った限り、その証言が客観的に正しいかどうかは証人にはコントロールできない。だから「記憶に反したか」という心の側から問題にする——これが主観説の発想。論文でも問われうる。詳細な規範の書き方は別の論文動画でやるよ。ここでは「なぜ主観説か」の理由まで押さえておいて。

4象限マップ(主観説あてはめ)

4つのマスで整理する。縦軸が「客観的真実に合致するか・反するか」、横軸が「自分の記憶に合致するか・反するか」。主観説からも客観説からも問題なし。主観説からは偽証でない——記憶通りだから。客観説なら客観的真実に反するから原則構成要件該当。主観説からは偽証罪成立——記憶に反したから。主観説でも客観説でも成立。実際の試験で問われやすいのは「記憶合致・客観反する」のマス——主観説なら偽証でない、客観説なら偽証になる。ここが2説の分かれ目。

4象限マップ(客観説あてはめ)

客観説のマスも確認しておく。客観説は「客観的真実に反する」かどうかが基準——「客観的真実に合致」している限り、記憶との一致不一致は問わない。そこが客観説への批判。故意(虚偽を言うという認識)がないから不成立になる。結局これでは主観説と結論が同じになることが多い。でも「故意で打消す」という迂回路を経るより、最初から「記憶基準」にする方がシンプル——これが主観説の優位性の一つだよ。

被告人の偽証教唆 〔短答・論文共通〕

被告人の偽証教唆(可罰性の論点)

次の論点——被告人が証人に偽証を頼んだ場合。判例・通説は教唆犯の成立を肯定する。大判昭和11・11・21、最決昭和28・10・19。「主体になれない」と「教唆犯になれない」は別の話。被告人が偽証罪の主体にならない理由——これは期待可能性の欠如から。被告人が自分のために有利なことを言う、それ自体は人として当然に近い防御行動。だから被告人自身を証人として処罰しない。期待可能性が欠けているのは「自分自身のこと」に限る。他人を偽証という犯罪に巻き込む行為には、定型的に期待可能性がないとは言えない。前回の犯人蔵匿罪の「自己蔵匿は不可罰、教唆は可罰」と同じ構造。刑事司法妨害の罪群を貫く一本の軸。

自白による刑の減免(170条) 〔短答知識〕

170条の自白減免(構造と趣旨)

刑法170条(自白による刑の減免)

170条——偽証した者が自白した場合の特例。「任意的」に刑を減軽または免除できる。裁判所の裁量で減免の可否を決める。偽証した者に自白を促して誤った裁判や懲戒処分を防ぐための政策的規定。「自白すれば刑が軽くなる」という誘因を与えることで、偽証した証人に「今からでも訂正しよう」と思わせる。確定した後から訂正しても誤判防止の目的は達成できない——だから確定前。もう一点重要なのが——教唆犯にも170条が適用される。大判昭和5・2・4。「罪を犯した者」には教唆犯も含まれる(大判昭和5・2・4)。教唆犯が自白した場合も減免の対象——趣旨から考えても筋が通る。教唆犯が動いて「正犯が偽証した」という状況を訂正しようとするなら、それも誤判防止に資する。

虚偽鑑定等罪(171条) 〔短答知識〕

171条の位置づけ

S6は軽く確認。171条——虚偽鑑定等罪。「法律により宣誓した鑑定人・通訳人・翻訳人が虚偽の鑑定・通訳・翻訳をしたとき」——169条・170条の例による(同じ処罰規定が適用される)。構造上は169条と同じ型——宣誓した者が専門的な役割で嘘をつく罪。試験での重要度は低いので概要だけ押さえておけば十分。

虚偽告訴罪(172条):保護法益と客観説 〔短答知識〕

虚偽告訴罪の構造(172条)

刑法172条(虚偽告訴等)

S7——172条、虚偽告訴等罪。まず保護法益を確認しよう。虚偽告訴罪は2層構造第一次的に——「刑事司法作用・懲戒作用」の適正。副次的に——「個人の私生活の平穏」。法益が2つある——これが偽証罪と違うポイント。行為は「虚偽の告訴・告発・その他の申告」。かなり広い。捜査機関への申告ならほぼカバーされる。そして核心——「虚偽」の意義が偽証罪と違う。虚偽告訴罪は客観説(判例・通説)——虚偽とは「客観的真実に反すること」をいう。最決昭和33・7・31。偽証罪の主観説の理由と並べて考えると分かりやすい。偽証罪の主観説の理由——「記憶に反して証言した瞬間、審判を歪める危険が生じる」。虚偽告訴罪の客観説の理由——「客観的真実に合致していれば、捜査・処分が動いても正しい結果になる。刑事司法作用も個人の平穏も傷つかない」。だから客観的真偽が基準になる。申告者の主観(信じていたかどうか)ではなく、「その申告が事実と一致しているか」が「虚偽」の判断基準。

偽証罪vs虚偽告訴罪 対比表

整理するとこうなる。偽証罪——「虚偽」=主観説(記憶基準)。保護法益=国の審判作用の適正(民事・行政も含む)。虚偽告訴罪——「虚偽」=客観説(真実基準)。保護法益=刑事司法・懲戒作用+個人の私生活の平穏。「審判を歪める危険は証言の瞬間に生まれる(主観)、告訴の害は客観的虚偽から生まれる(客観)」——これが軸。

同意申告・目的犯・自白減免(173条) 〔短答知識〕

172条の特殊論点(3点)

172条の特殊論点を3点確認しよう。まず1点目——同意申告の可罰性。これが問題になる。判例(大判大正1・12・20)は可罰性を肯定した。第一次的保護法益が「刑事司法作用・懲戒作用」——国の機能だから。Bが「よりどうぞ」と言っても、刑事司法機能への影響は消えない。被害者的な立場の人が同意しても、国の機能を害することは変わらない——だから同意があっても成立する。2点目——目的犯。172条には「人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で」とある。判例(大判大正6・2・8)と通説は——この目的は未必的なものでよい。「処分を受けさせることになっても構わない」という認識で足りる。「確実に」でなく「未必的に」。3点目——173条の自白減免。これは170条と対応するペアの条文。虚偽告訴をした者が、申告した事件について、裁判確定前または懲戒処分実施前に自白したときは——刑を任意的に減軽・免除できる。全く同じ——誤った刑事事件・懲戒処分を防止する政策的規定。170条(偽証側)と173条(虚偽告訴側)をペアで覚えておけばいい。

今日の地図(保存版)

まとめ

偽証罪(169条)——主体:法律により宣誓した証人(真正身分犯)。宣誓なし→不成立。保護法益:国の審判作用の適正(民事・行政も含む)。「虚偽」の意義:主観説——自己の記憶に反すること(大判大正3・4・29)。被告人の偽証教唆:可罰(大判昭11・11・21、最決昭28・10・19)。理由:他人を犯罪に巻き込む行為には期待可能性あり。170条自白減免:任意的減免、裁判確定前が要件。教唆犯にも適用(大判昭5・2・4)。虚偽鑑定等罪(171条)——宣誓した鑑定人・通訳人・翻訳人が虚偽の鑑定等。前2条の例による。虚偽告訴罪(172条)——保護法益:刑事司法・懲戒作用(第一次)+個人の私生活の平穏(副次)。「虚偽」の意義:客観説——客観的真実に反すること(最決昭33・7・31)。偽証罪の主観説理由:「記憶に反した瞬間、審判機能を歪める危険が生じる」。虚偽告訴罪の客観説理由:「客観的真実に合致すれば司法機能も個人の平穏も傷つかない」。同意申告:可罰(大判大正1・12・20)——第一次保護法益が国家的法益だから。目的犯:未必的なものでよい(大判大正6・2・8)。173条自白減免:170条と同じ趣旨・構造。ただし意図的に記憶と違うことを証言台で言えば——たとえ後で「本当のことだった」と分かっても——偽証罪は成立する。裁判所が求めているのは「あなたが知っていること・記憶していること」。記憶に忠実に証言する——それだけを求めている。客観的な真実の追求は、裁判所全体の仕事。証人一人に背負わせない。

次回予告

第16章・国家的法益の続きに入る予定。国の司法機能を守る罪の全体像が固まってくる。

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