クレジットカード詐欺・詐欺の未遂と罪数
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
クレカで買い物、店は損してる?
図:引落し日、口座は空だと分かっていた
引落し日には口座が空っぽだと分かっていながら、自分名義のクレジットカードで買い物をしたとします。店は、後日カード会社から代金を必ず受け取ります。さて、この店は何か損をしたと言えるでしょうか。誰を被害者と見るかによって、答えは変わります。今日はその組み立て方から見ていきます。
クレジットカードの三者関係——なぜ店は取りはぐれないのか
図:会員・加盟店・信販会社、3人の関係
まず、クレジットカードの決済には、会員、加盟店、信販会社という3人が登場します。会員が加盟店で買い物をすると、加盟店は会員に商品を渡します。次に、信販会社が加盟店に立替払いをします。最後に、会員が信販会社に利用代金を支払います。ここで大事なのは、最後の支払いに会員が失敗しても、加盟店はすでに受け取った立替払いを返さなくてよい、という点です。未払いのリスクは、信販会社が引き受けています。クレジットカードの決済も、これと同じ三者関係です。来場者が会員、模擬店が加盟店、実行委員会が信販会社にあたります。「加盟店は取りはぐれない仕組み」というこの前提こそが、これから見ていく全部の出発点です。取りはぐれないのなら、加盟店には損が無いように見えます。だからこそ、詐欺の成否が問題になるのです。
条文刑法246条
刑法246条(詐欺) 1項:人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。 2項:前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
詐欺罪の条文を、あらためて見ておきます。1項は財物、2項は財産上の利益です。これから見る自己名義のカードの問題は、この1項と2項、どちらで組み立てるかという対立です。
自己名義・支払意思も能力も無い——問題の所在
図:加盟店に、錯誤も損害も無いのでは
加盟店は結局代金を受け取れて、しかも最初からそういう決済の流れを認識して取引しています。だから、加盟店には錯誤も財産的損害も無いのではないか、という疑問が生まれます。この疑問を突き詰めれば、詐欺罪の成立を否定する見解にもたどり着きます。ただ、多数説は詐欺罪の成立を肯定します。問題は、どう理論を組み立てて肯定するかです。ここで、2つの構成が出てきます。その場合は、買い物の時点で嘘がありません。欺罔行為が無い以上、詐欺にはならず、カード会社にお金を返せないという、お金の貸し借りの問題にとどまります。詐欺になるのは、最初から払う意思も能力も無いのに、それを隠して使う場合です。
1項詐欺説——加盟店を被害者と見る
図:加盟店を被欺罔者・処分行為者・被害者と見る構成
1つ目は、加盟店を被欺罔者、処分行為者、そして被害者そのものと見る構成です。1項詐欺説といいます。会員に支払う意思も能力も無いと知っていれば、加盟店は信義則上、取引を拒否したはずです。だから、加盟店には錯誤があり、その錯誤に基づいて商品を交付したと見ます。加盟店は、信販会社と契約を結んでカードを扱っています。払うつもりの無い客だと知りながら売れば、そのつけを契約の相手である信販会社に回すことになります。それは契約相手への信義に反するので、知っていれば断ったはずだ、と見るのです。加盟店は結局、信販会社から立替払いを受け取れますよね。それでも損害があると言えるんですか。そこが1項詐欺説の弱点です。この説は、財物や利益を手放したこと自体を、もう財産的損害だと見る立場と相性がよい構成です。第16章の財産的損害の回で見た、形式的個別財産説を思い出してください。
手放したこと自体を損害と見るなら、加盟店が後で代金を受け取れるかどうかは関係がありません。逆に、実質的にみて損をしたかどうかを見る実質的個別財産説からは、加盟店は結局代金を受け取れる以上、損害が説明しにくくなります。ここに、もう1つの構成が出てくる理由があります。
2項詐欺説——信販会社を被害者と見る
図:加盟店を被欺罔者・処分行為者、信販会社を被害者と見る構成
もう1つが、加盟店を被欺罔者・処分行為者としつつ、被害者は信販会社だと見る構成です。2項詐欺説といいます。前回見た三角詐欺の型に当てはめると、被欺罔者である加盟店が、被害者である信販会社の財産を処分しうる地位と権限を持っているかが問題になります。加盟店には、加盟店契約に基づいて、信販会社に代わって立替払いを実行する権限がある、と見るわけです。この構成では、会員は商品の交付を受けた瞬間に、加盟店に払うべき代金を、信販会社が代わりに引き受けて払ってくれる状態になります。つまり、加盟店への代金債務を免れるという財産上の利益を得ます。その裏側で、信販会社は加盟店への立替払いの債務を負担します。この負担こそが、実質的な財産的損害だと見るわけです。利益も損害も商品を渡した瞬間にそろうので、既遂の時期は商品が交付された時点です。
しかも実行委員会は、料理を手放してはいません。背負わされたのは、模擬店に払う義務という負担です。物ではなく利益が問題になるので、1項ではなく2項の詐欺として組み立てるのです。だからこの構成は、実質的にみて損をしたかを見る実質的個別財産説と相性がよくなります。「誰が損をしたか」という当てはめの違いは、財産的損害をどう見るかという、第16章の対立がそのまま反映された結果でもあります。だから、どちらを採るかは損害の見方とセットで決まります。損害を形式的に見るなら1項詐欺説、財産的損害の回で通説として立てた実質的な見方をとるなら、2項詐欺説が筋の通る組み合わせです。なお、下級審の裁判例の多くは1項詐欺説によっています。ここは、論文で論点になりうる部分です。
他人名義のカード・承諾が無い場合
図:窃取したカードでの利用
続いて、他人名義のカードを使う場合です。まず、名義人の承諾が無い場合、たとえば盗んだカードを使う場合を考えます。この場合、加盟店は、目の前の利用者が名義人本人ではないと知れば、当然に取引を拒否したはずです。だから錯誤・交付は問題なく認められます。自己名義の場合と違って、ここでは損害の説明にも困りません。加盟店には、加盟店契約上、利用者が名義人本人かどうかを確認する義務があります。この義務を怠ると、信販会社から立替払いを拒否されるおそれがあります。つまり、実質的にみて損をしたかを見る立場からも、加盟店に財産的損害を認めることができます。だから、1項詐欺説と2項詐欺説を対立させるまでもなく、1項詐欺罪の成立で説明が完結します。
他人名義のカード・承諾がある場合——判例の理由づけ
図:名義人の許可があっても1項詐欺
さっきの模擬店の例でいうと、友達から「使っていいよ」って言われて、その友達名義の食券を使ったようなものですよね。本人が許しているのに、まだ問題があるんですか。そこが今日の山場です。結論から言うと、名義人の承諾があっても、結論は変わりません。1項詐欺罪が成立します。
判例最高裁判所決定(平成16年2月9日)
名義人の承諾があっても1項詐欺は左右されない 仮に、被告人が、本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は左右されない。
判例は、名義人からカードの使用を許されていて、代金は名義人が支払ってくれると思い込んでいたという事情があったとしても、詐欺罪の成立は左右されない、としています。クレジットカードの仕組みそのものに理由があります。会員規約上、カードは名義人本人しか使えず、他人への譲渡や貸し借りは禁じられています。加盟店規約でも、加盟店には目の前の利用者が会員本人かを確認する義務が課されています。つまり、模擬店の食券にたとえるなら、「この食券は本人しか使えません」という規約が最初からある以上、友達同士でどんな約束をしていても、模擬店や実行委員会にとっての意味は変わらないのです。判例が詐欺の中身として見ているのは、利用者が名義人本人になりすまし、カードを使う正当な権限があるかのように装った、という点です。名義人が許していても、規約上その権限は本人以外には生まれません。だから嘘は嘘のままで、加盟店が本当のことを知れば取引を断ったはず、という関係も変わらないのです。
だからこそ、承諾の有無にかかわらず、結論は1つに収束します。ただし、この判例が決めたのは、加盟店をだました詐欺が成り立つかどうかまでです。名義人との約束を超えて使い込んだ場合に、名義人との関係で何が成り立つかは、別の問題として残ります。ここも、論文で論点になりうる部分です。
周辺の犯罪
図:売上票の署名、預かったカードの使い込み
クレジットカードの不正使用では、隣接する犯罪が問題になることもあります。売上票に他人の名前で署名すれば、本当は自分が書いたのに、名義人が書いた文書であるかのように装うことになります。文書を作った人を偽るので、私文書偽造罪・同行使罪が成立しえます。文書偽造は別の回で扱います。また、名義人からカードを預かった人は、名義人のために使い方を任されている立場です。その約束の範囲を超えて使い込めば、任された務めに背いて、名義人に代金の支払いという損害を負わせることになります。そこで、名義人との関係で背任罪が成立しえます。こちらも別の回で扱います。今日は、どこにつながるかだけ押さえてください。
未遂——詐欺の鎖の総まとめ
図:詐欺の鎖、入口で切れれば未遂にもならない
条文刑法250条
刑法250条(未遂罪) この章の罪の未遂は、罰する。
ここで、詐欺罪の未遂を確認しておきます。250条は、この章の罪の未遂を罰すると定めています。ここまで見てきたクレジットカード詐欺は、欺罔行為、錯誤、処分行為、財物や利益の取得という、詐欺の4つの輪がすべてつながって初めて成立します。欺罔行為から始まって、その後ろの錯誤や処分行為や取得のどこかで切れたなら、詐欺の未遂です。ここまでは、刑法250条が処罰します。ただし、そもそも入口の欺罔行為そのものが認められない場合は、未遂にすらなりません。欺罔行為といえるためには、相手を錯誤に陥らせるものであること、その錯誤を通じて処分行為に向かわせるものであること、この2つが必要でした。さらに財産的損害の回で見たとおり、その処分行為が財産的損害を生じさせるようなものでなければ、やはり欺罔行為には当たりません。
さっきの自己名義の話で、加盟店に錯誤も損害も無いのではという疑問があったのも、結局はこの入口の話だったんですね。詐欺の回を通じて見てきた「鎖」は、この入口を具体的な場面ごとに確かめる作業だったとも言えます。2つの条件と損害のどれか1つでも欠ければ、欺罔行為そのものが認められず、詐欺は未遂すら成立しません。
罪数①——1項詐欺と2項詐欺
図:商品を詐取したあと、代金債務も免れた場合
ここからは、罪数の整理です。まず、払うつもりが無いのに「ツケで」と偽って商品を受け取り、店を出ようとしたところで代金を求めてきた店主に「もう払いました」と嘘をついて、請求をあきらめさせた場合を考えます。1項詐欺と2項詐欺が、それぞれ成立するようにも見えます。1項詐欺と2項詐欺、それぞれ別の条文に当たるようにも見えますが、実際には包括して1個の詐欺罪と扱われます。両方の行為が守っている利益は実質的に同一で、しかも時間的・場所的に接着しているからです。同じ経済的利益をめぐる、切れ目のない一連の行為だと評価するわけです。
罪数②——1項詐欺と2項強盗
図:先に詐欺、あとから強盗
もう1つ、1項詐欺で商品を受け取ったあと、代金の支払いを免れるために暴行を用いる場合があります。だまし取った商品と、暴行で免れた代金は、実質的に同じ1つの被害です。詐欺と強盗という種類の違う罪が混ざっていても、同じ被害を二重に罰しないよう、重い2項強盗罪で1回だけ評価します。これが、2項強盗罪の混合包括一罪です。無銭飲食の場面で詳しく見た考え方と同じです。
罪数③——窃取・詐取した通帳での払戻し
図:通帳の占有と、払戻された現金は別の利益
次は、窃取または詐取した通帳を使って、窓口で払戻しを受けた場合です。通帳そのものの占有を侵害する行為と、払戻しによって現金の占有を侵害する行為は、別個の法益にあたります。判例も、この払戻しの行為を、盗んだ物のただの後始末とは扱わず、新たな法益侵害を伴う別の犯罪と評価しています。罪数の最初の回で見た、不可罰的事後行為の限界の事案そのものです。さっきの1項詐欺と2項詐欺は1個にまとまったのに、今度はまとまらないんですか。そこが罪数の物差しです。さっきの場合は、商品の代金という同じ経済的利益をめぐる話でした。今度は、通帳という物と、払戻しで得た現金という、別の利益が問題になっています。払戻しは、通帳を奪った罪が予定している被害の射程の外に出て、払戻しに応じた側、判例の事案では郵便局が持つ現金という、新たな法益を侵害しています。だから、盗んだ物の後始末として不可罰にはならず、別の罪が成り立つのです。窃取した通帳なら窃盗罪と詐欺罪の併合罪、詐取した通帳を使ったなら、詐欺罪2つの併合罪になります。
罪数④——偽造罪との関係
図:手段・目的の関係、ただし通貨は別扱い
最後に、偽造罪との関係です。文書を偽造して、それを行使し、人をだまして財物を得る場合、偽造・行使・詐欺という一連の流れは、手段・目的の類型的な関係にあります。以前見た牽連犯の考え方がそのまま当てはまり、牽連犯として扱われます。有価証券の偽造と行使、そして詐欺の関係も同じです。通貨だけは扱いが違います。通貨を偽造して行使し、人をだます場合、判例・通説は詐欺罪を独立に扱わず、偽造通貨行使罪の中に吸収させます。牽連犯にはならないのです。この扱いを支える説明として、よく挙げられるのは次の考え方です。偽札と知らずに受け取った人が、あとで偽札だと気づいて使ってしまった場合を、法律は特に軽く罰すると決めています。そこで詐欺罪を別に成立させると、その軽く扱う趣旨が崩れてしまう、というわけです。
今日の地図(保存版)
図:1項説と2項説の対比、包括一罪と併合罪の対比を一枚で
覚えるポイント — クレジットカード詐欺・未遂・罪数、場面ごとの答え
- 自己名義=1項説(加盟店が被害者・形式的損害)/2項説(信販会社が被害者・実質的損害)
- 他人名義・承諾なし=1項詐欺(加盟店に実質的損害)
- 他人名義・承諾あり=なお1項詐欺(カードは名義人本人しか使えない仕組み)
- 未遂=欺罔行為の2条件か損害を欠けば未遂にすらならない
- 罪数=同じ利益の一連の行為→包括一罪/射程外の新たな法益→併合罪/類型的な手段・目的→牽連犯(通貨偽造は吸収)
今日を振り返ります。クレジットカードの三者関係では、加盟店は取りはぐれない仕組みになっています。それでも、自己名義の不正使用では、加盟店を被害者と見る1項詐欺説と、信販会社を被害者と見る2項詐欺説の2つの構成があり、それぞれ形式的個別財産説、実質的個別財産説と結びついていました。他人名義の場合は、承諾のあるなしにかかわらず、カードの仕組みそのものを理由に1項詐欺で説明が完結します。未遂は、詐欺の鎖のどこかが切れたときの話であり、そもそも欺罔行為の2つの条件か損害を欠けば未遂にすらなりません。罪数は、物差しを使い分けます。同じ利益をめぐる切れ目のない一連の行為なら包括一罪、先の罪の射程の外で新たな法益を侵害すれば併合罪、手段と目的が類型的に結びつけば牽連犯です。通貨の偽造だけは、詐欺が偽造通貨行使罪に吸収されます。
参照条文
- 刑法246条
- 刑法250条