刑法ゼロから刑法#182

公然わいせつ罪とわいせつ物頒布等罪

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第17章 社会的法益|公共の平穏・取引の安全・風俗 ㉓/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

会員が同意していても罪になるのか

設例T 図:設例T

今日から、風俗に対する罪に入ります。性的自由に対する罪を思い出してください。あの罪には、被害者がいました。設例Tです。Tさんは、料金を払った会員だけが入れる動画サイトを運営していました。わいせつな動画を、会員がいつでもダウンロードできるようにしています。入会は料金さえ払えば誰でもでき、実際に多数の会員がダウンロードしていました。会員は全員、自分の意思で見ていて、苦情を言った人は1人もいません。問いは二つです。罪になるのか。なるなら、ここで守られているのは、誰の、何なのか。答えの骨格を先に言うと、守られているのは、個人の自由ではなく、社会の風俗です。今日は、公然わいせつ罪と、わいせつ物頒布等罪を見て、最後にTさんに戻ります。

守るのは個人ではなく社会の風俗

風俗に対する罪の地図と対比 図:風俗に対する罪の地図と対比

まず、地図です。風俗に対する罪は、三つのまとまりです。一つ目が、わいせつと重婚の罪で、今日の主役です。守るものは、健全な性的風俗、性道徳、性秩序です。社会の側のものなので、社会的法益です。性的自由とは、性的な事柄について、自分で決める自由でしたね。守られるのは、その個人です。だから被害者がいて、本人が自由に同意していれば、成り立たないのが基本です。ただし、年齢が低い相手のように、同意があっても成立する場合が、条文で決められています。第17章の最初に、社会的法益を、町内の空気にたとえました。町内の空気は、誰か一人の持ち物ではありません。だから、その場の一人が、構わないと言っても、空気を汚してよいことにはなりません。同意して手放せるのは、その利益の持ち主だけです。風俗に対する罪も同じで、守っているのが社会なので、個人の同意では消えません。被害者の同意があっても、成立しうる。ここが、一番の違いです。

ただし、罪になるかどうかを決めるのは、次に見る、わいせつの線です。

わいせつの定義——判例の3要件

わいせつの3要件 図:わいせつの3要件

最初に、思い出してください。前に学んだ、わいせつの意味の認識は、どの程度あれば足りるのでしたか?素人的認識で足りる、でした。裁判官と同じ法的な判断までは要らず、普通の人の感覚で、その意味が分かっていれば足りる、でした。あのとき、判例が定めるわいせつの3要件、と呼んだものの中身を、今日ちゃんと読みます。3要件です。一つ目は、徒らに性欲を興奮又は刺戟させること。二つ目は、普通人の正常な性的羞恥心を害すること。三つ目は、善良な性的道義観念に反することです。三つ全部が要る、という整理です。言い換えます。性的羞恥心は、人前で出すのは恥ずかしい、と感じる普通の感覚です。性的道義観念は、性についての社会の最低限の約束事です。要するに、普通の人が見て、これは公に出すものではない、と感じるかどうか、を言葉にしたものです。たとえば、医学書の図や、美術館の裸体の彫刻を見て、普通の人は、公に出すものではない、とは感じません。性的な興味をあおることだけを狙って作られた冊子なら、話は変わります。同じ裸でも、何のために、どう示されているかで、判断が変わります。判例を読みます。わいせつの定義を確立した、チャタレイ事件の大法廷判決です。

判例最大判昭32・3・13 刑集11巻3号997頁(チャタレイ事件)

3要件と社会通念 ……最高裁判所の判決は『徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう』としている……。そして原審判決は右大審院および最高裁判所の判例に従うをもつて正当と認めており、我々もまたこれらの判例を是認するものである。要するに判例によれば猥褻文書たるためには、羞恥心を害することと性欲の興奮、刺戟を来すことと善良な性的道義観念に反することが要求される。 ……裁判所が右の判断をなす場合の規準は、一般社会において行われている良識すなわち社会通念である。この社会通念は、『個々人の認識の集合又はその平均値でなく、これを超えた集団意識であり、個々人がこれに反する認識をもつことによつて否定するものでない』こと原判決が判示しているごとくである。

読みどころは、社会通念です。最後に決めるのは裁判官ですが、その物差しは、裁判官の好みでも、見る人一人ひとりの感じ方でもありません。一般社会の良識です。個々人が、自分は違う、と思っても、わいせつでなくなるわけではありません。守っているのが社会の風俗なので、物差しも、社会の側に置かれるわけです。もう一点。この判決は、性的秩序を守り、最少限度の性道徳を維持することが、公共の福祉の内容をなす、と述べています。さきほどの、健全な性的風俗を守る、という保護法益は、ここにつながります。

判例の変遷——全体として、その時代の社会通念で

わいせつ判断の変遷 図:わいせつ判断の変遷

3要件そのものは、一貫しています。変わってきたのは、当てはめ方です。表にします。最高裁の出発点で3要件が述べられ、チャタレイ事件で是認されて、社会通念で判断する、とされました。次の悪徳の栄え事件で、二つが加わります。一つは、芸術的、思想的な価値があっても、わいせつでありうる、ということです。性生活に関する秩序と健全な風俗を守ることが、国民生活全体の利益に合う、とされたからです。芸術としての価値と、性的な刺激の強さは、別のものです。芸術性が刺激を和らげて、線より下になることはありえます。でも、和らがなければ、刺激はそのまま残り、風俗への害も残ります。もう一つは、全体で見ることです。文書の一部の章句だけでなく、全体との関連で判断します。

芸術性があるというだけで、わいせつにあたらなくなるわけではありません。ただし、芸術性や思想性は、判断の材料にはなります。それを具体的に示したのが、四畳半襖の下張事件です。判断の観点の列挙の部分を読みます。

判例最判昭55・11・28 刑集34巻6号433頁(四畳半襖の下張事件)

判断の観点 文書のわいせつ性の判断にあたつては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、それが『徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの』……といえるか否かを決すべきである。

読みどころは、全体としてみたときに、と、その時代の健全な社会通念に照らして、の二か所です。描写の程度、全体に占める比重、思想との関連、芸術性による緩和などを見て、主として読者の好色的興味に訴えるものか、を総合します。そして物差しは、その時代の社会通念です。つまり、時代によって、線は動きます。昔はわいせつとされたものが今はそうでない、あるいは逆のこともありえます。なお、表現の自由、憲法21条との関係は、憲法の側の話です。ここでは、判断の仕方に絞ります。

174条——公然わいせつ罪

174条の全文 図:174条の全文

条文です。まず、公然わいせつ罪です。

条文刑法174条

刑法174条(公然わいせつ) 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

要素は二つです。公然と、わいせつな行為。刑は、拘留や科料まである、軽い罪です。公然と、とは、判例は、不特定または多数の人が認識できる状態、と解しています。ポイントは、認識できる、です。実際に見た人がいなくても、見られうる状態なら足ります。たとえるなら、シャッターが開いている店先です。通った人がいなくても、開いていれば、見られうる状態です。たとえば、人通りのある駅前で、下半身を露出する。これが典型です。さきほどの3要件を、その行為に当てはめます。相手の被害は要件ではありません。見ている人が同意していても、成立します。性的自由の罪との違いは、公然性、つまり人目があることと、被害者がいなくても成り立つことです。

175条——客体は物とデータ

175条の全文 図:175条の全文

次は、わいせつ物頒布等罪です。条文は長いので、一つずつ見ます。

条文刑法175条

刑法175条(わいせつ物頒布等) わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。

まず客体です。1項前段は、物です。文書、図画、そして電磁的記録に係る記録媒体、つまりDVDやハードディスクのような入れ物も含みます。後段は、データそのものです。電磁的記録その他の記録、です。ここで、整理します。物なら、頒布、つまり配って渡すことと、公然陳列、つまり見られる状態に置くこと。データなら、送信による頒布。物とデータで、行為の名前が分かれています。電子データの時代に合わせて、条文が整えられたからです。罰金も250万円までで、拘禁刑と罰金を併科、つまり両方を同時に科すこともできる点が特徴です。理由は、あとで表で整理します。なお、わいせつな、の意味は、さきほどの3要件です。

頒布とは何か——前段と後段、最決平26

頒布の2つの形 図:頒布の2つの形

頒布から行きます。1項前段の頒布は、不特定または多数の者に、有償か無償かを問わず、交付することです。現実に相手へ渡ったことが要ると解されています。後段の頒布は、不特定または多数の者の記録媒体上に、電磁的記録その他の記録を、存在するに至らしめることです。ここで、設例Tです。会員がダウンロードのボタンを押しているのに、運営者の頒布になるのでしょうか?ボタンを押すのが会員の側でも、運営者の頒布と言えるのか。これを判断したのが、次の決定です。

判例最決平26・11・25 刑集68巻9号1053頁

後段の頒布 刑法175条1項後段にいう『頒布』とは、不特定又は多数の者の記録媒体上に電磁的記録その他の記録を存在するに至らしめることをいうと解される。 ……不特定の者である顧客によるダウンロード操作を契機とするものであっても、その操作に応じて自動的にデータを送信する機能を備えた配信サイトを利用して送信する方法によってわいせつな動画等のデータファイルを当該顧客のパーソナルコンピュータ等の記録媒体上に記録、保存させることは、刑法175条1項後段にいうわいせつな電磁的記録の『頒布』に当たる。 ……被告人らが、同項後段の罪を日本国内において犯した者に当たることも、同条2項所定の目的を有していたことも明らかである。

読みどころは、ダウンロード操作を契機とするものであっても、です。ボタンを押すのは会員でも、その操作に応じて自動的にデータを送る仕組みを、運営者が作っています。会員の操作は引き金にすぎず、データを相手の記録媒体に存在させているのは、運営者です。だから、運営者の頒布です。仕組みを用意し、その仕組みで送られる以上、運営者の行為です。そして、この決定は、国外のサーバを使った事案で、日本国内の顧客のパソコンに記録、保存させたとして、国内で罪を犯した者に当たる、と判断しました。適用範囲の回で見た遍在説では、行為の場所か、結果の場所か、どちらかが日本にあれば、国内犯でした。これで、設例Tで、実際に会員のパソコンにデータが渡ったなら、後段の頒布です。

公然陳列——見られる状態に置く、最決平13

頒布と公然陳列の違い 図:頒布と公然陳列の違い

次は、公然陳列です。頒布が、渡すことなら、公然陳列は、見られる状態に置くことです。相手の手元には、渡りません。その場合を判断したのが、次の決定です。

判例最決平13・7・16 刑集55巻5号317頁

公然陳列の意義 同条が定めるわいせつ物を『公然と陳列した』とは、その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される。 ……ホストコンピュータのハードディスクに記憶、蔵置された画像データを再生閲覧するために通常必要とされる簡単な操作にすぎず、会員は、比較的容易にわいせつな画像を再生閲覧することが可能であった。

読みどころは、直ちに認識できる状態までは必要ない、という部分です。再生のために簡単な操作が要るだけなら、陳列です。比較的容易に見られるなら足ります。この決定は、データを記憶させたハードディスクを、175条が定めるわいせつ物にあたる、とも述べています。料金を払えば誰でも会員になれるなら、見られる相手は限られていません。だから不特定または多数です。反対に、親しい友人二、三人だけに見せるような、特定の少数なら、公然とはいえません。簡単な操作で見られるなら、見ようと思った人は誰でもすぐに見られます。人の目に触れる状態は、もうできている。だから、それで足りるんです。設例Tに戻します。自動送信なら、後段の頒布です。サイトに置いて見られるようにしているだけなら、公然陳列です。どちらの形でも、175条1項になります。

有償頒布目的の所持・保管——設例S

設例S 図:設例S

2項です。設例Sです。Sさんは、わいせつな図画を、大量に自宅に置いていました。自分で楽しむだけで、売るつもりはまったくありません。持っているだけですよね。罪にならないんですか。なりません。2項は、有償で頒布する目的が要ります。有償での頒布の、予備を罰する趣旨だからです。目的がなければ、不成立です。近く売るつもりで置いていたなら、成立します。物なら所持、データなら保管です。ここで、問いです。友人に無料で配るつもりで置いていたら、どうなるでしょうか?条文は有償でと書いているので、無償で頒布する目的は、含まれません。もう一点。頒布を受けた側、設例Tなら会員は、原則として共犯になりません。受け手は、頒布が起きるたびに必ず登場する相手です。立法者はそれを分かっていて、受け手を罰する規定を置かなかった。あえて外した、と読むのが、必要的共犯の回で見た考え方です。ただし、当然予想される範囲を大きく超えて、積極的で執拗に働きかけた場合は、例外的に共犯になりえます。

罪数と、174条・175条・性的自由の罪の弁別

3つの罪の弁別表 図:3つの罪の弁別表

最後に、整理です。その前に、思い出してください。同じ種類の行為が、何度も繰り返されたら、罪はいくつになるのでしたか?繰り返されることが想定される罪なら、包括一罪、でした。罪数の回では、これを営業犯と呼びました。繰り返すことが、最初から構成要件に織り込まれている罪で、わいせつ物頒布等罪がその例でした。繰り返した全体を、立法者が1個の罪として処罰すると決めているので、何回頒布しても数え直さず、原則として包括一罪です。最高裁も、同じ時刻、同じ場所での、わいせつな図画の販売と、販売目的の所持を、包括一罪としています。表で、3つの罪を比べます。守るものは、174条と175条が社会の性風俗、性的自由の罪は、個人の自由です。被害者は、前の二つはいなくてよく、性的自由の罪は、自由な同意があれば、原則として成立しません。

175条が重いのは、物やデータは手元に残り、何度も、多くの人の目に触れうるから、害が大きいと説明されます。人前で一度行為をするより、残って広まりうる方が、風俗への害が大きい、という考え方です。

周辺の条文と、冒頭の答え

今日の整理 図:今日の整理

周辺を、名前だけ出します。重婚罪は、184条です。配偶者のある者が、重ねて婚姻をしたときは、2年以下の拘禁刑で、その相手方も、同様に罰します。また、182条の、16歳未満の者に対する面会要求等の罪は、条文はこの並びにありますが、性犯罪の前段階を捕まえる規定で、性的自由の罪の側で見ました。まとめます。風俗に対する罪が守るのは、個人の自由ではなく、社会の風俗です。だから被害者がいなくても、同意があっても、成立しうる。わいせつの線は、3要件を、全体としてみて、その時代の健全な社会通念で当てはめます。公然わいせつ罪は、人前で行為をする罪、わいせつ物頒布等罪は、物や記録を広める罪です。人の目に触れる状態をつくる、という一点で、つながっています。頒布は相手の手元に渡すこと、公然陳列は見られる状態に置くことです。この論点は、論文で論点になりうる所です。冒頭の答えです。Tさんは、175条1項で成立します。ダウンロードに応じて自動で送る仕組みで、実際に会員のパソコンに渡ったなら、後段の頒布です。サイトに置いて見られる状態にしているだけなら、公然陳列です。会員が同意していても、関係がありません。守っているのは、社会の風俗だからです。

参照条文

  • 刑法174条
  • 刑法175条

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