刑法ゼロから刑法#184

内乱罪と外患誘致罪

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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

県庁を占拠した大勢は、何罪になるのか

設例J 図:設例J

第17章の社会的法益は前回で終わり、今回から国家的法益です。設例Jです。Jさんは、数百人の仲間とともに県庁の建物を占拠し、警備の職員を押しのけ、周辺の道路を封鎖しました。Jさんは前もって、この国の政治の仕組みそのものを、暴力でつくり替える、と宣言していました。問いは、同じ暴動の外形でも、第17章の騒乱罪になる場合と、別の罪になる場合が、何で分かれるのか、です。答えの予告だけ先に言います。守るものが、社会の平穏から、国家の存立に上がります。決め手は、Jさんが宣言した目的です。後半では、外国と結んで国を危うくする罪と、外国との関係を守る罪も見ます。

各論の地図の最後の層——国家的法益

3層の地図と国家的法益の二層 図:3層の地図と国家的法益の二層

各論は、守るものによって三つの層に分けて見てきました。個人的法益は、一人ひとりの利益で、第12章から第16章。社会的法益は、社会全体の安全や信用で、第17章。そして国家的法益は、国家の働きで、今日からの第18章です。社会的法益は、社会の構成員みんなの利益でした。たとえば放火は、町の人みんなの安全を危うくします。国家的法益は、国家という組織そのものを守ります。国の仕組みを壊そうとする行為が、その代表です。国家的法益は、さらに二つに割れます。一つ目は、国家の存立です。国が国として存在し続けることで、内乱の罪と外患の罪が入ります。今日の中心です。二つ目は、国家の作用です。国の仕事が適正に行われることで、公務執行妨害や、犯人蔵匿、偽証、賄賂などが入ります。

国交に関する罪は、この二つのあいだに置かれた小さな帯です。国家的法益の並びの中にありますが、守る対象は外国の利益と見る説が多数です。最後に見ます。もう一つ、第6章で見た、被害者の承諾の話を思い出してください。守っているのが個人でなく、社会や国家のときは、一人が同意しても罪は消えません。国家の存立は、誰か一人の持ち物ではないからです。

内乱罪——守るのは国家の存立

内乱罪の保護法益と危険犯 図:内乱罪の保護法益と危険犯

内乱罪の条文です。長いので、まず全体を読み、そのあと分けて見ます。

条文刑法77条

刑法77条(内乱) 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。 一 首謀者は、死刑又は無期拘禁刑に処する。 二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の拘禁刑に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の拘禁刑に処する。 三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の拘禁刑に処する。 2 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。

まず、守るものです。内乱罪が守るのは、国家の存立です。国の統治の仕組みを、内部から暴力で壊すことを、処罰します。殺人罪なら、人が死んで初めて成立しますよね。内乱は、国の仕組みが壊れるまで待たないんですか。待てません。試合にたとえます。反則をした選手は、審判が裁けます。でも、審判席ごと壊してしまう人は、壊された後には裁けません。内乱が成功すれば、裁く側の国家が、もう存在しないのです。だから、結果が出てから罰する侵害犯としては、作りようがありません。暴動の段階で処罰する、本来的な危険犯です。次に、主体です。内乱罪は、そもそも一人では成り立ちません。条文が、最初から多数人の暴動を前提にしています。先に、復習の問いです。必要的共犯のうち、同じ目的に向かう多数人の集団的な行為を、それ自体で一つの型にしたものを、第9章の共犯の回で、何と呼びましたか?

集団犯、多衆犯、です。内乱罪と騒乱罪が、その例でした。

暴動の意味と目的の三つの分解 図:暴動の意味と目的の三つの分解

行為は、暴動です。多数人による集団的な暴行や脅迫で、その程度は、一地方の平穏を害するほどです。暴行は、騒乱罪と同じ、最広義の暴行です。人に向かう力だけでなく、物に向かう有形力も含みます。脅迫も、騒乱罪と同じ広義の脅迫です。ここまでは、騒乱罪と同じです。違いが出るのは、目的です。条文を三つに分けます。一つ目は、国の統治機構を破壊すること。二つ目は、その領土において国権を排除して権力を行使すること。たとえば、一部の地域から国の権力を追い出して、自分たちが権力を握ることです。三つ目は、その他、憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することです。壊乱は、壊して乱すことです。議会や選挙のように、憲法が決めた政治の基本の仕組みを、壊して乱すことを指します。この目的は、故意の外に、もう一つ要る主観です。第2章で見た、目的犯です。暴動をする認識があるだけでは足りません。そのうえで、この三つのどれかを目指していなければ、内乱罪になりません。ここで、問いです。設例Jで、Jさんが、ただ腹が立ったから暴れただけで、政治の仕組みを変える目的は無かったとします。同じ暴動は、何罪になるでしょうか?

目的が無いなら、内乱罪にはならなくて、騒乱罪だと思います。

設例Jの関係図 図:設例Jの関係図

冒頭の設例Jに答えます。何百人もの仲間で県庁を占拠し、道路を封鎖したのは、暴動の外形です。そこにJさんは、政治の仕組みそのものをつくり替える、と宣言していました。これは、憲法の定める統治の基本秩序を壊乱する目的です。だから、内乱罪です。目的が無く、ただ怒りで暴れたなら、騒乱罪です。ルールを破るのか、ルールブックそのものを書き換えようとするのか、の違いです。守るものが、一地方の社会の平穏か、国家の存立か、で罪が分かれます。

内乱罪の刑と騒乱罪との対比 図:内乱罪の刑と騒乱罪との対比

刑を見ます。関与の程度で、三段階に分かれます。一段目は、首謀者で、死刑又は無期拘禁刑です。二段目は、謀議に参与し、又は群衆を指揮した者が、無期又は3年以上の拘禁刑。その他諸般の職務に従事した者が、1年以上10年以下の拘禁刑です。三段目は、付和随行し、その他単に暴動に参加した者で、3年以下の拘禁刑です。付和随行は、第17章の騒乱罪で見た、他人の行動に引かれてついていくだけの人です。内乱罪の首謀者は、死刑まであります。国家の存立を壊そうとする罪は、それだけ重いのです。未遂は、2項で罰します。ただし、除かれるのは、3号の者だけです。条文の読み方に注意してください。2項は、同項第三号に規定する者について、この限りでないと言っています。つまり、1号と2号は、職務に従事した者を含めて、未遂も罰します。付和随行は、最も軽い関与で、刑も軽いので、未遂までは拾わない、と読めます。最後に、他の罪との関係です。暴動の内容として行われた殺人や放火などは、別の罪にならず、内乱罪に吸収される、と判例は解しています。吸収とは、別の罪として数えず、内乱罪一つで評価することです。ここは、騒乱罪と違います。第17章の騒乱罪で吸収されたのは、暴行と脅迫だけで、建造物侵入などは、別の罪として成立しました。条文の刑も違います。騒乱罪の首謀者は10年以下ですが、内乱罪の首謀者は死刑まであります。国外犯も一言です。77条から79条は、第1章で見た、2条のすべての者の国外犯に列挙されています。日本という国そのものへの攻撃にあたる罪なので、国外で外国人が犯しても、適用されます。

内乱の周辺——予備・陰謀、幇助、自首による免除

内乱の周辺の条文 図:内乱の周辺の条文

77条の周りに、三つの条文があります。78条は、予備と陰謀です。内乱の予備又は陰謀をした者は、1年以上10年以下の拘禁刑です。予備は、内乱を実行する目的で、その準備をすること。陰謀は、内乱の実行を2人以上で計画し、合意することです。陰謀まで罰するのは、刑法典で、内乱の78条、外患の88条、私戦の93条の3つだけでした。また、第12章で見た殺人予備の201条には、199条の罪を犯す目的で、という書き込みがありました。78条には、その書き込みがありません。ただ、予備である以上、内乱を実行する目的の準備をいう、と読みます。79条は、内乱等幇助です。兵器、資金、食糧を供給し、その他の行為で、前二条の罪、つまり77条と78条の罪を幇助した者を、7年以下の拘禁刑にします。総則の幇助とは別に、独立の罪として、刑が定められています。先に、復習の問いです。第11章で見た刑法42条1項は、自首をしたとき、刑をどうすると定めていましたか?

減軽することができる、です。任意的減軽でした。80条は、それよりさらに強い規定です。条文は、前二条の罪を犯した者であっても、暴動に至る前に自首したときは、その刑を免除する、です。読みどころは三つです。一つ目は、対象です。78条と79条の罪で、77条そのものは入っていません。二つ目は、時期です。暴動に至る前です。三つ目は、効果です。必ず免除する、必要的免除です。減軽してもしなくてもよい、から、必ず免除、へ強くなっています。条文の構造から読めます。暴動に至る前に引き返せば、内乱が起きるのを未然に防げます。必ず免除すると約束しておけば、準備した人が引き返す理由になります。暴動に至った後は、国家の存立が実際に危うくなっているので、この規定は使えません。77条の罪や、暴動に至った後の自首は、42条1項の一般ルールに戻り、減軽することができる、にとどまります。守るものを先に決めると、重い刑と必ず免除が、同じ筋でつながります。

外患に関する罪——外から国の存立を脅かす

設例Oの関係図 図:設例Oの関係図

内乱は、内部から国家の存立を脅かす罪でした。外患は、外部から脅かす罪です。日本に対して外部から武力を行使させたり、外部からの武力行使に加担したりします。守るものは、内乱と同じ、国家の存立です。設例Oです。Oさんは、外国政府の担当者と会い、日本を軍事的に攻撃してほしい、協力する、と合意しました。のちに、その国は、実際に日本の領土へ砲撃しました。条文を読みます。

条文刑法81条

刑法81条(外患誘致) 外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。

刑は、死刑だけです。刑法典で、法定刑が死刑だけの罪は、この条だけです。他の死刑の条には、死刑又は無期、のように選択肢があります。裁判所に、刑を選ぶ余地がありません。ただし、酌量減軽はできます。死刑を減軽した場合は、無期又は10年以上の拘禁刑になります。読み方です。外国と通謀して、とは、外国の政府などと、意思を通じ合うことです。日本国に対し武力を行使させた、とは、外国が実際に日本に対して武力を行使することです。既遂になるのは、外国が実際に武力を行使したときです。内乱と比べます。内乱罪は、暴動の段階で罰する危険犯で、首謀者でも、死刑か無期かを選べました。81条は、外国の武力が実際に日本に向けられて、はじめて既遂になります。国家の存立への危険が、現実の武力行使にまで至った段階をとらえる罪で、刑は死刑だけです。ここで、問いです。設例Oで、外国と通謀して、武力行使をさせようと働きかけたけれど、外国がまだ攻撃していないとき、81条は成立するでしょうか?

武力を行使させた、が要件だから、既遂にはならない気がします。既遂ではありません。ただし、87条が、81条と82条の未遂を罰しています。81条の行為は、二段でできています。外国と通謀すること、そして武力を行使させることです。通謀までは済んだのに、武力の行使という結果に届かなかった。だから、既遂ではなく、未遂です。通謀のうえ働きかけたが、攻撃が行われなかったOさんは、未遂として処罰されます。実際に砲撃が行われた元の設例Oは、81条の外患誘致罪の既遂です。

誘致と援助の違い 図:誘致と援助の違い

82条は、外患援助です。

条文刑法82条

刑法82条(外患援助) 日本国に対して外国から武力の行使があったときに、これに加担して、その軍務に服し、その他これに軍事上の利益を与えた者は、死刑又は無期若しくは二年以上の拘禁刑に処する。

誘致と援助の分かれ目は、武力行使の前か後か、です。81条は、まだ行使されていない武力を、通謀して行使させます。82条は、すでに行使された武力に、加担して利益を与えます。設例Oで、砲撃が始まった後に、その国の軍に加わった人がいたとします。Pさんとします。Pさんは、すでに始まった武力行使に加担して、軍務に服しています。だから、82条の外患援助です。88条は、81条又は82条の罪の予備又は陰謀を、1年以上10年以下の拘禁刑にします。ここで、内乱との対比です。内乱には、80条の自首による必要的免除がありました。外患には、自首の免除の規定が、条文のどこにもありません。80条が対象にするのは、前二条、つまり内乱の78条と79条だけだからです。外患で自首したときは、42条1項に戻り、減軽することができる、にとどまります。国外犯も一言です。81条、82条、87条、88条も、2条のすべての者の国外犯に列挙されています。

国交に関する罪——外国との関係を守る

国交に関する罪の守るもの 図:国交に関する罪の守るもの

最後は、国交に関する罪で、92条から94条の三つです。外国との関係に関わる罪です。守るものには、争いがあります。国際法上の義務に基づいて、外国の利益を守る、と見る説が多数説です。日本の対外的な安全や、外交上の利益を守る、と見る説もあります。92条です。

条文刑法92条

刑法92条(外国国章損壊等) 外国に対して侮辱を加える目的で、その国の国旗その他の国章を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金に処する。 2 前項の罪は、外国政府の請求がなければ公訴を提起することができない。

読みどころは三つです。一つ目は、目的です。外国に対して侮辱を加える目的が要る、目的犯です。外国を侮辱する目的で、その国の国旗を汚した人は92条です。同じ行為でも、侮辱の目的がなければ、92条になりません。二つ目は、対象です。条文は、その国の国旗、と言っています。日本の国旗は、この条の対象ではありません。三つ目は、2項です。外国政府の請求がなければ、公訴を提起できません。これは、訴訟条件です。訴訟条件とは、裁判にかけるために、満たしていなければならない条件のことです。決め手は、この罪が、外国に対する侮辱を問題にしていることです。侮辱された外国が、処罰を望むかどうかを、まず外国政府に委ねる形になっています。保護法益は、外国の利益と見る説が多数です。93条です。

条文刑法93条

刑法93条(私戦予備及び陰謀) 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、三月以上五年以下の拘禁刑に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。

私的に、とは、国の意思によらずに、個人や集団が勝手に、という意味です。条文が処罰するのは、予備と陰謀だけです。陰謀まで罰する3つの条文の、最後の1つです。ただし書の自首は、80条と同じ型の、必要的免除です。42条1項の、減軽することができる、とは違います。外国での戦闘に参加するために、仲間と準備を相談した人は、93条の陰謀です。自首すれば、刑が免除されます。

中立命令違反罪 図:中立命令違反罪

94条は、中立命令違反です。外国が交戦している際に、局外中立に関する命令に違反した者を、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金にします。局外中立とは、戦っている国のどちらにも味方しない立場のことです。何に違反すれば罪になるのかは、条文には書かれていません。そこが、この罪の作りです。命令の内容は、条文に書かれていません。命令が内容を補う罪です。条文は、外国が交戦している際に、と言っています。どの国とどの国が戦うかは、前もって決められません。だから、中立として何をしてはいけないかは、その戦争ごとに出る命令に任せ、条文は、命令に違反したら罰する、という枠だけを決めている、と読めます。

整理表と弁別ミニ事例

国家の存立と国交の罪の比較 図:国家の存立と国交の罪の比較

一枚に整理します。内乱は、国家の存立を内部から守る罪で、目的犯、刑は最大で死刑、自首は暴動に至る前なら必ず免除です。外患は、国家の存立を外部から守る罪で、81条は死刑のみ、自首の免除はありません。国交は、外国の利益を守ると見る説が多数で、刑は5年以下の拘禁刑までです。93条のただし書だけ、自首の必要的免除があります。事例を三つ、条文を選んでください。事例1。大勢が集まって暴れた。目的が、政治の仕組みの変更だった場合と、ただ腹が立っただけだった場合は、どうなるでしょうか?仕組みの変更が目的なら、内乱罪で、腹が立っただけなら、騒乱罪です。事例2。外国から日本への武力行使がすでに始まっているときに、その軍に加わった。武力行使の前に、外国と合意した場合は、どうなるでしょうか?

すでに始まった後に加わったのは、82条の外患援助で、前に合意したのは、81条の外患誘致です。事例3。外国の国旗を、侮辱する目的で汚した。別に、外国での戦闘に参加するため、仲間と準備を相談した。どうなるでしょうか?国旗は、92条で、外国政府の請求が要ります。準備の相談は、93条の陰謀で、自首すれば免除です。ここまでが、国家の存立と、国交の罪でした。

今日の整理——設例Jと設例Oの答え

今日の整理 図:今日の整理

まとめます。国家的法益は、国家の存立と、国家の作用に分かれます。今日は、存立を守る内乱と外患、その隣の国交の罪を見ました。設例Jです。暴動の外形は、騒乱罪と同じでも、統治の基本秩序を壊乱する目的があったので、内乱罪です。設例Oです。外国と通謀して、実際に武力が行使されたので、81条の外患誘致罪です。通謀のうえ働きかけたが攻撃が行われなければ、未遂として処罰されます。守るものを先に決めると、危険犯という作りも、重い刑も、暴動に至る前の自首で必ず免除する政策も、一本の筋でつながります。外患で自首しても、42条1項の任意的減軽に戻るだけです。

参照条文

  • 刑法77条
  • 刑法81条
  • 刑法82条
  • 刑法92条
  • 刑法93条

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