刑法ゼロから刑法#185

公務執行妨害罪の暴行と脅迫

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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

体には触れていないのに、暴行になるのか

設例I 図:設例I

今日から、国家の作用を守る罪に入ります。その最初が、公務執行妨害罪です。設例Iです。市の職員が、放置自転車の撤去作業をしています。台車に積み上げた、撤去済みの自転車の山を、通りかかったIさんが、職員の目の前で蹴り倒しました。自転車は路上に散らばり、作業は止まりました。Iさんは、職員の体には、指一本触れていません。問いは、職員の体には触れていないのに、公務員に対する暴行と言えるのか、そして、暴行罪の暴行と同じなのか、です。答えを先に言います。触れていなくても、95条の暴行にあたりえます。暴行罪の暴行より広い、広義の暴行だからです。その広さは、守るものが、公務員という人ではなく、公務そのものだ、というところから決まります。

今日の旅程 図:今日の旅程

今日の旅程です。まず、この罪が守るもの。次に、誰に。そして、何を。

95条1項と保護法益——守るのは公務そのもの

刑法95条1項と保護法益 図:刑法95条1項と保護法益

まず、条文です。

条文刑法95条1項

刑法95条(公務執行妨害及び職務強要) 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

この条文は、公務と業務妨害罪の回でも見ました。暴行や脅迫が無ければ、95条は成立しない、という点でした。今日は、この条文が主役です。守るものは、公務が円滑に行われることです。公務とは、国や地方公共団体の仕事のことです。ここで大事なのは、公務員の身体の安全や、身分、地位を守る罪ではない、という点です。公務員が襲われたことを問題にするなら、暴行罪や傷害罪で足ります。95条が、それとは別に置かれているのは、公務員が仕事をしている最中に襲われると、国や自治体の仕事そのものが止まるからです。たとえば、窓口の職員が襲われて、その日の手続が止まれば、困るのは、手続を待っている市民です。公務員だから特別に偉い、という話ではありません。だから、公務員でも、その補助者でもない人に暴行を加えれば、暴行罪の領域です。逆に、行為をする側は、誰でもかまいません。身分が要る罪ではなく、公務員でも、民間人でも、主体になりえます。

要件の骨組み 図:要件の骨組み

要件の骨組みです。条文を左から読むと、三つに分かれます。客体は、公務員。行為は、暴行又は脅迫。時は、職務を執行するに当たり。もう一つ、条文には書かれていない要件として、職務が適法であること、があります。これは、次の次の回で扱います。95条2項の、職務強要と辞職強要も、別の回です。ここから先の要件の広さは、すべて、守るものが公務だという筋で決まります。暴行が、身体に向かなくてよいのも、暴行や脅迫が、公務員に対するもので足りるのも、そして、守られる仕事がどこまでかも、同じ理由で決まります。

客体——公務員とは誰か

刑法7条1項と公務員の3分解 図:刑法7条1項と公務員の3分解

次に、客体の、公務員です。定義は、7条1項にあります。

条文刑法7条1項

刑法7条1項(定義) この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。

三つに分けて読みます。一つ目は、国又は地方公共団体の職員です。国家公務員も、地方公務員も、入ります。二つ目は、法令により公務に従事する議員、委員その他の職員です。議会の議員や、各種の委員が、これにあたります。三つ目は、法令により、という言葉です。公務に就く根拠が、法令にあることを表します。つまり、公務員かどうかは、その人が何者かという、身分で決まります。市の職員は、地方公共団体の職員なので、公務員です。もう一つ、みなし公務員があります。本来は公務員ではないけれど、別の法律が、公務に従事する職員とみなす、と書いているために、刑法上は公務員として扱われる人です。なぜ扱うかというと、守るのは公務という仕事なので、本来は公務員でない人でも、法律が公務を担わせているなら、その仕事は同じように守る必要があるからです。たとえば、検察官の職務を行う指定弁護士や、日本銀行の役員及び職員です。覚え方は、別の法律に、公務に従事する職員とみなす、と書いてあるかどうか、です。

市の職員に頼まれて手伝っているだけの人は、その人自身は、公務員ではありません。ただ、その人に暴行を加えた場合は、また別の筋で考えます。次の節で、補助者として扱います。

行為①——暴行は広い意味で

暴行の4分類と、95条の暴行 図:暴行の4分類と、95条の暴行

まず、復習の問いです。暴行の4つの分類のうち、公務執行妨害罪の暴行は、どの段で、どんな広さでしたか?広義で、人に対するものであれば足りて、身体に限らない、でした。広義です。暴行罪の回の4つを、広い順に言い直します。最広義は、物に向けた力でも足ります。騒乱罪の暴行です。広義は、人に向けられていれば足ります。95条の暴行です。狭義は、人の身体に向けた力で、暴行罪の暴行です。最狭義は、相手の反抗を抑圧する程度の力で、強盗罪の暴行です。95条の暴行は、広いほうから2つめなので、物そのものではなく、人に向いていることが要ります。理由は、保護法益から出てきます。公務員に向けた力は、その場で、公務員の仕事の進行を止めうるからです。定義は、公務員に向けられた、不法な有形力の行使です。暴行罪の暴行は、人の身体に向けられた、不法な有形力でした。95条は、身体でなく、公務員に向けられていれば足ります。有形力は、物理的な力のことで、殴る、押す、蹴る、だけでなく、物を壊す、投げ捨てる、も力の行使です。公務員の体に、直接ではなく、物や第三者に力を加えて、公務員に向けられた暴行を、間接暴行と呼びます。ここで、問いです。設例Iで、Iさんは、職員の体に触れていません。公務員に対する暴行にあたるでしょうか? 考えてから、判例を見ます。

判例最高裁判所判決(昭和26年3月20日・刑集5巻5号794頁)

間接暴行の出発点 「公務員の職務の執行に当りその執行を妨害するに足る暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問うところではない。」 「……被告人はC事務官等が適法な令状後段説示により押収した煙草を、街路上に投げ捨ててその公務の執行を不能ならしめたというのであるから、その暴行は間接には同事務官等に対するものと謂い得る。」

事案は、事務官が、適法な令状によって押収した煙草を、街路上に投げ捨てた、というものです。押収は、公務員が、証拠などの物を取り上げることです。差し押さえも、押収の一つです。最高裁は、暴行が、直接公務員の身体に対するものか、そうでないかは、問わない、としました。職員が使っている物に向けた力も、間接には職員に対するものと言える、という判断です。

設例Iの関係図 図:設例Iの関係図

冒頭の設例Iに答えます。Iさんが蹴り倒したのは、職員が作業のために積んだ、自転車の山です。しかも、職員の目の前で、作業を止めました。自転車の山は、職員が作業に現に使っている物です。暴行罪の回の、警察官の目の前でパトカーを蹴った例と同じ型で、職務に現に使っている物に力を加えれば、その公務員に向けられた有形力の行使と言えます。体に触れていなくても、判例の理屈に当てはめれば、95条の暴行にあたりえます。暴行罪の暴行ではなく、広義の暴行です。決め手は、公務員が職務に使っている物に向けた力が、その公務員の仕事を止めるからです。なお、Iさんが職員の体を突き飛ばしたなら、直接の暴行です。この場合は、狭義にも広義にも入ります。

間接暴行の判例の一覧 図:間接暴行の判例の一覧

同じ筋の判例が、ほかにもあります。一覧にします。差し押さえて置いたアンプルを足で踏み付けて壊した事案は、間接に、司法巡査に対する暴行とされました。司法巡査は、捜査にあたる警察官のうち、巡査の階級の人のことで、公務員です。差し押さえた焼酎入りの甕を、鉈で割った事案も、暴行にあたるとされています。もう一つ、人に向けた例があります。強制執行に当たる執行吏の補助者への暴行です。執行吏は、今の執行官で、裁判所で強制執行を担う公務員です。補助者が、公務員の指揮に従い、その手足となって、職務の執行と密接不可分の関係で関与している人なら、その人への暴行も、公務員に向けられた暴行になります。さっきの、荷物を運んでいた人も、この型です。補助者自身は、公務員でなくてかまいません。共通点は、公務員が職務に使っている物や、保全している物、そして、公務員の手足となっている人に向けられた力を、公務員に向けられたものとみる、ということです。

公務員がその場にいないときの物の損壊について、判例は、面前で行われることが要るかを、正面からは論じていません。判例が言うのは、公務員の職務の執行を妨害するに足る暴行であれば足りる、ということです。これに対して、学説では、公務員の目の届く所での行為に限るべきだ、という見方が有力です。仕事が結果として止まったことだけで罰する形にしないため、です。この見方に立てば、公務員から離れた所で、誰も見ていないときの物の損壊は、暴行になりません。その場に公務員がいないので、力が向かう相手がいない、という点で、暴行罪の回の、誰もいない建物のガラスと同じ扱いになります。一方、設例Iのように職員の目の前なら、どちらの立場でも、あたりえます。公務員が職務に使っている物に向けた力でも暴行になりうるのは、守るものが、公務員という人ではなく、公務そのものだからです。仕事を止める力かどうかで、暴行の広さが決まります。

行為②——脅迫も広い意味で、そして今日の整理

脅迫の広さと、妨害するに足る程度 図:脅迫の広さと、妨害するに足る程度

次は、脅迫です。脅迫は、強要罪の回で、3段階に分けて見ました。広い順に、広義、狭義、最狭義です。脅迫罪の脅迫は真ん中の狭義、強盗罪の脅迫はいちばん狭い最狭義でした。95条の脅迫は、いちばん広い、広義の脅迫です。定義は、およそ人を畏怖させるに足る害悪の告知です。畏怖は、こわがらせることです。脅迫罪の脅迫は、本人又は親族の、生命、身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知に限られていました。95条は、それより広く、誰に害を加えると告げるか、どんな害か、を問いません。公務員の仕事を妨げるに足る脅しなら、足ります。理由は、暴行と同じです。守るものが公務なので、誰に害を加えると告げたかではなく、その脅しで仕事が止まりうるかが問題になるからです。設例Iの職員に、Iさんが、作業を続けるなら、ここにいる人たちの自転車を片っ端から壊す、と告げたとします。害を加えると告げられたのは、居合わせた第三者の財産です。脅迫罪の脅迫にはなりませんが、職員を畏怖させ、作業を妨げるに足りるなら、広義の脅迫には入りえます。

暴行も脅迫も、公務の執行を妨害するに足るもの、であることが要ります。先ほどの判例も、執行を妨害するに足る暴行、と言っていました。実際に職務が止まったかどうかは、別の回で扱います。

今日の整理 図:今日の整理

まとめます。今日は、条文の、誰に、何を、を見ました。守るものは、公務員という人ではなく、公務という仕事です。客体は、公務員で、みなし公務員も含みます。暴行は広義で、公務員に向けられた有形力なら、間接暴行も入ります。脅迫も広義で、誰への害でも、公務を妨げるに足れば足ります。設例Iは、公務員の体に触れなくても、職員が職務に使っている物に向けた力で、公務員に向けられた有形力と言えるなら、暴行にあたりえる、という答えで閉じました。残る問いは、いつ、です。

参照条文

  • 刑法95条1項
  • 刑法7条1項

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