刑法ゼロから刑法#192

証拠隠滅等罪

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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

壊された録画媒体

設例 図:設例

前回の最後に予告したとおり、今日は証拠隠滅罪を見ます。設例です。侵入役の男と見張り役の男が、二人で店に空き巣に入りました。事件のあと、侵入役の男は、二人の姿が映っていた店の防犯カメラの録画媒体を持ち出して、壊しました。問いは二つあります。一つ目は、侵入役の男に、証拠隠滅の罪が成立するか。二つ目は、壊すのを知人に頼み、知人が壊した場合に、頼んだ侵入役の男は罪になるか、です。自分の証拠に手を加えるのは罪にならない、と言われます。それなのに、なぜ結論が分かれうるのか。答えは、条文の、他人の、という語を読んだあとで出します。

今日の地図 図:今日の地図

地図です。前回の103条は、犯人という人をかばう罪でした。今日の104条は、証拠に手を加える罪です。どちらも、守っているのは、国の刑事司法作用、つまり捜査や裁判の働きです。問いは三つです。一つ目は、誰の証拠か。二つ目は、何をしたら手を加えたことになるか。三つ目は、犯人本人が他人にやらせたらどうなるか。一つ目と三つ目は、自分を守るための行為を、どこまで大目に見るか、という同じ物差しで決まります。二つ目は物差しが別で、証拠そのものに手を加えたかどうか、で決まります。

104条の全文と保護法益

104条の構造 図:104条の構造

条文です。

条文刑法104条

刑法104条(証拠隠滅等) 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

保護法益は、前回の103条と同じ、国の刑事司法作用です。捜査、審判、刑の執行といった、刑事手続の働き全体のことです。法定刑は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金で、103条と同じです。二つの条文は、守るものも刑も同じです。違うのは、客体が人か、証拠か、と、それに応じた行為です。条文は、三つの語と、四つの行為でできています。三つの語は、他人の、刑事事件に関する、証拠です。四つの行為は、隠滅、偽造、変造、そして偽造又は変造の証拠の使用です。この順に読みます。設例の問いを解く鍵は、一つ目の、他人の、にあります。

客体——誰の証拠か

自分の事件と他人の事件 図:自分の事件と他人の事件

一語目は、他人の、です。自分の刑事事件の証拠を壊したり隠したりしても、104条は成立しません。条文が、他人の、と限っているからです。限った理由は、期待可能性です。期待可能性の回で見たとおり、期待可能性とは、行為者本人に、その場の具体的な事情を前提として、違法な行為を思いとどまり、適法な行為を選ぶよう期待できること、でした。自分が罰せられるかもしれないときに、自分に不利な証拠を、そのまま残しておけとは、およそ期待できません。前回の103条で、犯人が自分で逃げ隠れしても罪にならなかったのと、同じ型です。

山場は、自分と共犯者の両方の事件の証拠になるものです。これを、共通の証拠と呼びます。設例の録画媒体は、これです。共通の証拠を壊した場合は、説が三つに分かれます。

共通の証拠の3説 図:共通の証拠の3説

一つ目は、肯定説です。成立する、とします。共通の証拠は、見張り役の男の事件の証拠でもあります。他人の刑事事件の証拠であることに、変わりはないからです。批判は、共通の証拠は、自分の事件の証拠でもある、というものです。自分のためにも壊した場合まで成立させると、自分の証拠を壊しても罪にならない、という出発点と合わなくなります。二つ目は、否定説です。成立しない、とします。自分の事件の証拠でもある以上、壊すな、とは期待できない、という考えです。批判は、もっぱら共犯者のためにした場合まで、なぜ不成立になるのか、理由が明らかでないことです。三つ目は、限定的肯定説で、多数説です。もっぱら共犯者の利益のためにした場合には成立する、とします。理由は、他人の、と限った理由から出てきます。限った理由は、期待可能性の欠如でした。もっぱら共犯者のために壊すのなら、自分を守るための行為ではありません。それなら、期待可能性に欠けるとはいえず、成立させてよい、と考えます。

境界のペアで見ます。設例のように、録画媒体に侵入役の男自身も映っていて、自分のためにも壊した場合は、もっぱら共犯者のためではないので、限定的肯定説では成立しません。一方、侵入役の男の事件には関係がなく、見張り役の男の事件の証拠にしかならないものを、見張り役の男をかばうためだけに壊した場合は、成立します。分かれ目は、自分を守る意味があったかどうかです。設例の一つ目の答えです。侵入役の男は、自分のためにも壊しています。肯定説なら成立、否定説と限定的肯定説なら不成立です。多数説で考えれば、不成立になります。

刑事事件と証拠の範囲 図:刑事事件と証拠の範囲

二語目は、刑事事件に関する、です。ここは、普通の感覚と違うので、注意してください。民事裁判のための証拠や、行政事件の証拠を隠したり壊したりしても、104条にはなりません。たとえば、貸したお金をめぐる民事裁判のために、契約書を隠した場合です。不正な行為ですが、条文は刑事事件と限っています。守っているのが、刑事司法の働きだからです。逆に、刑事事件は、裁判が始まっていなくても構いません。捜査中の事件も含まれます。大審院の判決が、現に裁判所に係属している、つまり裁判が進んでいる事件だけでなく、将来、刑事訴訟事件となりうるものも含む、と述べています。趣旨から見ても、裁判が始まる前に証拠を消されると、捜査や裁判の働きは、同じように邪魔されると考えられます。三語目は、証拠です。証拠は、物だけではありません。人も含まれます。捜査の段階の参考人、つまり前回見た、犯人とは別に事情を聴かれる人も、証拠です。この点を述べた判断を見ます。

判例最高裁判所決定(昭和36年8月17日・刑集15巻7号1293頁)

参考人も証拠に当たる 「刑法一〇四条の証憑湮滅罪は犯罪者に対する司法権の発動を阻害する行為を禁止しようとする法意に出ているものであるから、捜査段階における参考人に過ぎない者も右法条にいわゆる他人の刑事被告事件に関する証憑たるに妨げなく、これを隠匿すれば証憑湮滅が成立するものと解すべきであり、」

決定は、犯罪者に対する司法権の発動を阻害する行為を禁止する趣旨だから、と理由を述べています。捜査の段階の、まだ参考人にすぎない者も、他人の事件の証拠になりえます。その人を隠匿すれば、証拠隠滅が成立します。刑事訴訟法でも使う区別を、一つ押さえてください。物や人という存在そのものが証拠で、そこから得られる中身とは、分けて考えます。この区別が、あとの山場で効いてきます。

行為——隠滅・偽造・変造・使用

4つの行為 図:4つの行為

次は、何をしたら手を加えたことになるか、です。行為は四つです。一般に、次のように言われます。隠滅は、証拠の顕出を妨げ、又は証拠としての効力を失わせ、若しくは弱める、一切の行為です。顕出とは、証拠を裁判や捜査の場に出すことです。録画媒体を壊すのも、書類を隠すのも、参考人を隠匿するのも、隠滅です。壊す、隠すだけに限りません。証拠の効力を失わせたり弱めたりするなら、広く当たります。偽造は、存在しない証拠を、新たに作り出すことです。実際には存在しない領収書を作るのが、典型です。変造は、すでにある証拠に変更を加えて、証明力を変えることです。既存の契約書の日付を書き換えるのが、例です。使用は、偽造又は変造された証拠だと知りながら、捜査機関や裁判所に提出するなどして、証拠として使える状態に置くことです。たとえば、偽造した領収書を、捜査機関に出す行為です。

使用は、条文に書かれた独立の行為です。偽造した人と、使用した人が別でも、使用した人には104条が成立します。四つのうち、どれか一つに当たれば足ります。もう一点あります。この罪は、犯人の利益になる行為に限りません。他人を陥れる目的で、無実の人に不利な偽の証拠を作った場合でも、成立すると解されています。守っているのは、刑事司法の働きで、犯人の利益ではないからです。

参考人の嘘の供述は偽造か

嘘の供述は偽造か 図:嘘の供述は偽造か

山場に入ります。参考人が、捜査機関に嘘の話をした場合です。前回は、口裏合わせのうえの嘘の供述が、隠避に当たるかを見ました。今日の問いは、それが証拠の偽造に当たるか、です。別の条文の、別の問いです。原則は、当たりません。理由は二つです。一つ目は、虚偽の供述は、偽証罪に限って処罰するのが、刑法の建前だからです。偽証罪は、宣誓した証人の嘘を罰する、別の条文です。宣誓していない参考人の嘘まで、104条の偽造として罰すると、偽証罪に限った意味がなくなります。二つ目は、104条の証拠は、物や人といった、物理的な存在としての証拠で、そこから得られる供述の内容そのものは含まないからです。参考人という人は証拠ですが、その人が話した嘘の中身は、証拠そのものではありません。嘘を話しても、存在しない証拠が新たに作り出されたわけではないのです。

⭐ 論文で書く規範:証拠の偽造と証人の偽証 「刑法一〇四条の証憑の偽造というのは証拠自体の偽造を指称し証人の偽証を包含しないと解すべきであるから、」 (最高裁判所決定(昭和28年10月19日・刑集7巻10号1945頁))

最高裁も、証拠の偽造は、証拠自体の偽造を指し、証人の偽証を含まない、と述べています。偽証を教唆した事件で、証拠自体の偽造と、証人の偽証を区別した判断です。

書面になった場合の2立場 図:書面になった場合の2立場

立場は二つに分かれます。当たらないとする立場は、原則どおりです。書面になっても、中身は、本人の嘘の供述そのものだから、偽造ではない、と考えます。当たるとする立場は、文書化されたら当たる、とします。書面は物理的な証拠として存在し、証拠としての価値もあるからです。ここで問いです。供述が書面になっただけで、偽造になるでしょうか?判例を見ます。答えは、書面になっただけでは、ならない、です。では何が加わると、偽造になるのか。事実から読みます。

判例最高裁判所決定(平成28年3月31日・刑集70巻3号58頁)

参考人の虚偽供述と証拠偽造(事実) 「……,A,B警部補及びC巡査部長と共謀の上,C巡査部長において,「Aが,……見た。……」などの虚偽の内容が記載されたAを供述者とする供述調書1通を作成し,もって,他人の刑事事件に関する証拠を偽造した,という事案である。」 「(2) Aは,被告人と相談しながら,Dが覚せい剤等を所持している状況を目撃したという虚構の話を作り上げ,二人で警察署へ赴き,B警部補及びC巡査部長に対し,Dの覚せい剤所持事件の参考人として虚偽の目撃供述をした上,被告人らの説明,態度等からその供述が虚偽であることを認識するに至ったB警部補及びC巡査部長から,覚せい剤所持の目撃時期が古いと令状請求をすることができないと示唆され,「適当に2か月程前に見たことで書いとったらええやん」などと言われると,これに応じて2か月前にもDに会ったなどと話を合わせ,具体的な覚せい剤所持の目撃時期,場所につき被告人の作り話に従って虚偽の供述を続けた。C巡査部長は,Aらと相談しながら具体化させるなどした虚偽の供述を,それと知りながら,Aを供述者とする供述調書の形にした。」

事案を整理します。被告人は、参考人と相談しながら、第三者が覚せい剤を持っているのを目撃した、という作り話を作り上げ、二人で警察署へ行きました。警部補と巡査部長は、その話が嘘だと分かりました。そのうえで、目撃した時期が古いと令状を請求できない、と示唆し、適当に二か月ほど前に見たことで書いておけばいい、と言いました。参考人はこれに応じて、話を合わせました。巡査部長は、そうして具体化した嘘の供述を、嘘と知りながら、参考人を供述者とする供述調書の形にしました。

判例最高裁判所決定(平成28年3月31日・刑集70巻3号58頁)

参考人の虚偽供述と証拠偽造(一般論) 「他人の刑事事件に関し,被疑者以外の者が捜査機関から参考人として取調べ(刑訴法223条1項)を受けた際,虚偽の供述をしたとしても,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たるものではないと解されるところ(……),その虚偽の供述内容が供述調書に録取される(刑訴法223条2項,198条3項ないし5項)などして,書面を含む記録媒体上に記録された場合であっても,そのことだけをもって,同罪に当たるということはできない。」

最高裁は、まず一般論として、従来の判例を引いて、参考人として嘘の供述をしただけでは偽造に当たらないと確認しました。そのうえで、その供述が調書に録取されて書面になっても、そのことだけでは当たらない、としました。書面になったら当たる、という立場を、そのまま採ったものではありません。

判例最高裁判所決定(平成28年3月31日・刑集70巻3号58頁)

参考人の虚偽供述と証拠偽造(この事案の判断) 「しかしながら,本件において作成された書面は,参考人AのC巡査部長に対する供述調書という形式をとっているものの,その実質は,被告人,A,B警部補及びC巡査部長の4名が,Dの覚せい剤所持という架空の事実に関する令状請求のための証拠を作り出す意図で,各人が相談しながら虚偽の供述内容を創作,具体化させて書面にしたものである。」 「このように見ると,本件行為は,単に参考人として捜査官に対して虚偽の供述をし,それが供述調書に録取されたという事案とは異なり,作成名義人であるC巡査部長を含む被告人ら4名が共同して虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出したものといえ,刑法104条の証拠を偽造した罪に当たる。したがって,被告人について,A,B警部補及びC巡査部長との共同正犯が成立するとした原判断は正当である。」

そのうえで、この事案は違う、と言います。理由は三つの事情です。一つ目は、架空の事実について、令状請求のための証拠を作り出す意図があったこと。二つ目は、被告人、参考人、警部補、巡査部長の四名が、相談しながら、嘘の供述内容を創作し、具体化したこと。三つ目は、それを、作成名義人、つまり調書を作った者として名前が載る巡査部長を含めて、供述調書の形の書面にしたことです。最高裁は、四名が共同して、虚偽の内容が記載された証拠を新たに作り出した、として、証拠偽造罪の共同正犯を認めました。

偽造になる経路・ならない経路 図:偽造になる経路・ならない経路

線引きを言い直します。

⭐ 論文で書く規範:偽造に当たるかの線引き 「ただ嘘を話して、調書を取られた。→偽造に当たらない。」 「相談して一緒に嘘の中身を作り上げ、書面にした(作成名義人側も加わる)。→偽造に当たる。」 (要点)

決め手は、嘘を話した人が、一人で話したか、一緒に作り上げたか、です。自分の話を調書に取られただけなら、調書の中身は、本人の嘘の供述そのものにすぎません。ところが、作成名義人の側まで加わって、嘘の中身を一緒に作り込み、書面にしたなら、その書面は、もう、話を書き取った記録ではありません。形は供述調書でも、実質は、証拠にするために一緒に作り上げた書面です。だから、新たな虚偽の証拠が、世に出たことになります。侵入役の男の友人が、参考人として呼ばれ、事件の夜、男は私と別の店にいた、と嘘を話し、調書に署名しました。これだけなら、偽造に当たりません。隠避の可能性は、前回見たとおりです。ここで、友人と捜査官が相談して、嘘の内容を作り込み、調書の形にしたなら、今日の判例と同じ型で、偽造に当たります。

犯人自身による証拠隠滅の教唆

成立しない説の当てはめ 図:成立しない説の当てはめ

前回の問いを、一つ思い出してください。犯人が他人に、かくまってくれと頼み、他人が蔵匿した場合、頼んだ犯人本人に教唆犯は成立するでしょうか。判例はどう考えるでしょうか?今日の設例の二つ目が、同じ形です。壊すのを知人に頼んだ侵入役の男に、104条の教唆犯が成立するか、です。教唆は、他人を唆して、犯罪を実行する決意を生じさせることでした。犯人本人は、自分の事件の証拠については、104条の主体から外れます。他人の、に当たらないからです。では、他人に頼んだらどうなるか。前回の二つの説を、そのまま当てはめます。成立しない説の理由は、前回の一つ目の理由と同じ、期待可能性です。犯人は、自分の手で証拠を壊す正犯としてでさえ、やめろとは期待できないので、罪になりません。他人を唆すだけの教唆は、自分の手で壊すより軽い関与の形です。重い形で期待できないのなら、軽い形では、なおさら期待できない、と考えます。

前回との対応 図:前回との対応

成立する説は、判例の結論です。理由は二つ挙げられます。一つ目は、前回見た、防禦権の濫用です。大審院の判例以来、挙げられてきた理由です。防禦権は、前回見たとおり、疑いをかけられた者が、自分を守ろうとして取る、自己防衛の自由です。自分で証拠を壊す範囲は、大目に見られる。しかし、他人を唆して、他人に104条の罪を犯させるのは、その範囲を超える、という考え方です。自分を守るために、罪を犯す人を、新しく一人増やすからです。二つ目は、学説の言う期待可能性です。自分で壊すのをやめろ、とは期待できなくても、他人を巻き込むのをやめろ、とは期待できます。頼まずに、一人で済ませる道が残っているからです。だから、他人を巻き込む場面まで、期待可能性が一律に欠けるとは言えない、と考えます。批判も、前回と同じです。教唆の処罰根拠を、他人を罪に陥れたことに求めるなら、それは、共犯の処罰根拠の回で見た、責任共犯論です。通説は、共犯も、正犯の行為を通じて法益侵害を引き起こしたから罰せられる、という惹起説です。罰する理由を、他人を罪に陥れたことに置くのは、この通説と食い違う、という批判です。大審院の判決が、この教唆の問題の、出発点です。

判例大審院判決(明治45年1月15日・刑録18輯1頁・判決要旨)

犯人自身による証拠偽造の教唆(大審院) 「苟も他人の刑事被告事件に関し証憑湮滅に関する行為を為したる以上は縦令刑事被告人の教唆に因り被告人の為めに之を為したる場合と雖も猶ほ第百四条の罪を構成すべく従て之を教唆したる刑事被告人は同罪の教唆者として論すべきものとす」

事案は、横領の嫌疑で取調べを受けていた被告人が、自分の事件の証拠を偽造させようとして、他人を唆したものです。大審院は、他人の刑事被告事件に関して、証拠に手を加える行為をした以上は、被告人に唆されて被告人のためにした場合でも、104条の罪が成立する、としました。そして、唆した被告人は、その罪の教唆者として扱うべきだ、と述べています。判決要旨の言葉は、証拠隠滅に関する行為、となっていて、104条の罪全体について述べています。

判例最高裁判所決定(昭和40年9月16日・刑集19巻6号679頁)

犯人自身による証憑偽造の教唆(最高裁) 「なお、犯人が他人を教唆して、自己の刑事被告事件に関する証憑を偽造させたときは、刑法一〇四条の証憑偽造罪の教唆犯が成立するものと解すべきであるから、この点について同趣旨の解釈をした原判決の判断は正当である」

最高裁の決定です。詐欺、私文書偽造、横領などの事件の上告を棄却する中で、「なお」と、1文だけ述べたものです。犯人が他人を教唆して、自分の事件の証拠を偽造させたときは、104条の教唆犯が成立する、というものです。この決定は、結論を示すだけで、理由は述べていません。理由として挙げられてきたのは、さきほどの、防禦権の濫用です。ただ、この二つは、どちらも証拠の偽造の事案です。壊させた場合については、別の最高裁の決定があります。

判例最高裁判所決定(令和5年9月13日・集刑332号201頁)

犯人自身による証拠隠滅の教唆(最高裁) 「なお、犯人が他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させたときは、刑法104条の証拠隠滅罪の教唆犯が成立すると解するのが相当である」

偽造だけでなく、隠滅についても、最高裁が、104条の教唆犯の成立を明示しました。この決定も、理由は述べていません。さきほどの昭和40年の決定を、参照しています。なお、この決定には、反対意見が付いています。

設例の回収 図:設例の回収

設例の二つ目に答えます。壊した知人にとって、録画媒体は、侵入役の男と見張り役の男という、他人の刑事事件の証拠です。ですから、知人には、証拠隠滅罪が成立します。頼んだ侵入役の男は、判例では、証拠隠滅の教唆犯です。冒頭の問いに戻ります。自分の証拠を壊すのは罪にならないのに、なぜ結論が分かれうるのか。自分で壊すのは、期待できない行為で、大目に見られます。しかし、他人に頼めば、他人に罪を犯させます。そこまでは大目に見ない、というのが、判例の立場です。論文では、どの説を選んでも構いません。大切なのは、自分で壊しても罪にならない理由と、つなげて書くことです。理由は、期待可能性でした。この理由が、他人を巻き込む場面にも及ぶと考えるなら、成立しない説です。他人に罪を犯させないことなら期待できるので、及ばないと考えるなら、成立する説です。ここは、論文で論点になりえます。

逆向き——第三者が犯人にやらせたら

向きが逆の2場面 図:向きが逆の2場面

向きを逆にします。第三者が、犯人を唆して、犯人自身に、自分の事件の証拠を壊させた場合です。たとえば、侵入役の男の知人が、侵入役の男だけの事件の証拠になる、指紋の付いた道具を、壊しておけ、と唆し、侵入役の男が、自分で壊した場合です。その道具は、見張り役の男の事件には関係がありません。唆した知人に、教唆犯は成立するでしょうか。正犯は、壊した侵入役の男です。自分の事件の証拠を壊したのですから、他人の、に当たりません。104条が定めている型は、他人の刑事事件の証拠を壊すことです。この型に当てはまらないので、正犯が、構成要件にすら該当しません。教唆犯は、共犯の処罰根拠から考えます。共犯の処罰根拠の回で見た、通説の混合惹起説は、二つのスイッチを両方入れる、という考え方でした。自分の関与そのものの違法性と、正犯が実行した行為の違法性の、どちらも欠かせません。共犯は、正犯の行為を通じて法益侵害を引き起こすから罰せられるので、正犯の行為が違法でなければ、共犯を罰する土台がないのです。この場面では、正犯側のスイッチが入りません。構成要件に該当しない、つまり型に当てはまらない行為は、違法かどうかを確かめる前の段階で止まります。違法な正犯の行為が、そもそも無いからです。従属性の回で見た制限従属性説は、構成要件に該当し違法な正犯の行為を、共犯の成立に求める説ですが、この説でも、結論は同じです。ですから、唆した知人に、教唆犯は成立しないと考えられます。ここは、判例の結論としてではなく、共犯の処罰根拠から導く結論として押さえてください。

さきほどの場面では、正犯は頼まれた知人です。知人は、他人の事件の証拠を壊しているので、構成要件に該当し、違法です。正犯側のスイッチが入っています。頼んだ犯人本人の側は、判例が、教唆犯の成立を認めています。今回は、正犯が犯人本人で、構成要件に該当しません。正犯側のスイッチが入らないので、唆した側が、どれだけ悪質でも、教唆犯は成立しない。向きが逆だと、スイッチの入り方が違うのです。

弁別とまとめ

弁別ミニ事例 図:弁別ミニ事例

事例を三つ、考えてください。一つ目。民事裁判のために、契約書を隠した人は、どうなるでしょうか。二つ目。参考人として呼ばれた人が、事件の夜、侵入役の男は別の店にいたと、嘘を話して、調書に署名しました。偽造に当たるでしょうか。三つ目。侵入役の男が、知人に頼んで、壊させました。知人と、頼んだ男は、どうなるでしょうか。知人は、他人の事件の証拠を壊したので、証拠隠滅罪です。頼んだ侵入役の男は、判例では、教唆犯が成立します。軸は、誰の証拠を、何をしたか、誰が、の三つです。

今日の整理 図:今日の整理

まとめます。

⭐ 論文で書く規範:今日の4点 「①他人の刑事事件の証拠が客体。自分の事件は対象外(期待可能性)。共通の証拠は、もっぱら共犯者のためなら成立(多数説)。」 「②行為は、隠滅・偽造・変造・使用の四つ(使用も落とさない)。」 「③嘘の供述は原則として偽造でない。共同して虚偽の書面を作り出せば偽造(判例)。」 「④犯人が他人に頼めば教唆犯が成立(判例)。第三者が犯人に頼んだ場合は、教唆犯は成立しない(と考えられる)。」 (要点)

冒頭の設例の答えです。侵入役の男が自分で壊した場合は、多数説では、自分のためにも壊したので成立しません。知人に頼んで壊させた場合は、知人が証拠隠滅罪の正犯、侵入役の男が教唆犯です。誰の証拠か、と、誰がやらせたか、の二つは、自分を守るための行為を、どこまで大目に見るか、という物差しで、つながっていました。

参照条文

  • 刑法104条

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