偽証罪と「虚偽の陳述」の意義
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第18章 国家的法益|国家の存立・国交・国家の作用 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
事故を見た配達員の証言
図:設例
前回の最後に予告したとおり、今日は偽証罪を見ます。虚偽告訴罪は、次の回で扱います。設例です。交差点で事故があり、車の運転手が起訴されました。事故を見ていた配達員が、法廷で宣誓をして、証人になりました。配達員は、相手の車の色は白だった、とはっきり覚えています。ところが、運転手に義理を感じて、わざと、黒でした、と証言しました。後で調べると、相手の車は、本当に黒でした。配達員の記憶のほうが、間違っていたのです。記憶と違うことをわざと述べた証人が、偽証罪になるかどうかは、偽証罪の「虚偽」が何に反することを指すのかを決めたあとで答えます。
図:今日の筋
今日の筋は、この一文です。証人の役目は、体験して覚えていることを、そのまま述べること。その記憶が真実かどうかを決めるのは、証人ではなく、裁判官です。写真を撮った人が、撮ったとおりの写真を出す係で、写真の中身を判定するのは裁判官、というイメージです。この役割分担から、偽証罪の多くが一本でつながります。「虚偽」の意味、誰が罪に問われるか、いつ既遂になるか、被告人が他人にやらせたらどうなるか、までです。
図:今日の地図
地図です。山場は二つあります。一つ目は、「虚偽」とは何に反することか。ここで、設例の答えが出ます。二つ目は、被告人が自分の事件で、他人に偽証させた場合です。前の三回と同じ物差しで解けます。最後に、自白による刑の減免を定めた170条と、鑑定人などの虚偽を定めた171条を見ます。
169条の全文と保護法益
図:104条と169条の比較
前々回、証拠隠滅罪の回で、虚偽の供述は偽証罪に限って処罰するのが刑法の建前だ、と見ました。偽証罪は、宣誓した証人の嘘を罰する、別の条文でした。今日は、その別の条文の中身です。
条文刑法169条
刑法169条(偽証) 法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の拘禁刑に処する。
条文を、四つの切れ目で読みます。
⭐ 論文で書く規範:169条の4つの切れ目 「① 法律により」 「② 宣誓した」 「③ 証人が」 「④ 虚偽の陳述をしたとき」 (条文の読み方)
①から③は、誰が主体になるかの話で、次の節で見ます。④は、山場として、その次の節と既遂時期の節で見ます。法定刑を、104条と並べます。169条は、三月以上十年以下の拘禁刑で、罰金がなく、下限があります。104条は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金でした。同じ証拠まわりの罪でも、宣誓した証人の嘘のほうが、格段に重いのです。宣誓のうえで述べる陳述は、裁判の判断の土台になるものだからだと考えられます。偽証罪の対象は、刑事裁判に限りません。守られているのは、国の審判作用の適正です。審判作用とは、裁判所などが、証拠から事実を認定して、判断を下す働きのことです。民事の法廷でも、行政事件でも、法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をすれば、成立します。104条が「他人の刑事事件」に限っていたのとは、対照的です。短答では、証拠隠滅は刑事事件だけ、偽証は刑事に限らない、と覚えておいてください。
主体は宣誓した証人
図:宣誓のきまり
主体から見ます。169条の罪は、法律により宣誓した証人であることが、成立の条件です。このように、一定の身分を持つ人だけが主体になる罪を、真正身分犯といいます。身分と共犯の回で見た、65条1項の話です。宣誓した証人でない人が嘘をついても、169条は成立しません。宣誓は、法律に基づいて行われます。刑事では、刑訴法154条が、証人には宣誓をさせなければならない、と定めています。民事では、民訴法201条1項が、同じ定めをしています。ですから、宣誓していない人の嘘は、169条になりません。捜査機関に呼ばれた参考人は、宣誓をしませんから、嘘を述べても、偽証罪の主体ではありません。前々回に見た、参考人の嘘が偽証罪でなく別の問題になった理由の一つが、これです。
法律が宣誓をさせないと決めている人がいます。宣誓の趣旨を理解できない人は、宣誓をさせないで尋問する、と刑訴法155条1項が定めています。民事では、十六歳未満の人も、宣誓をさせることができません。そういう人に誤って宣誓をさせて、嘘を述べたとしても、法律により宣誓したとはいえず、本罪は成立しないと解されます。順番にも触れておきます。成立の条件は、宣誓した証人であることで、宣誓と陳述の順番ではありません。宣誓が、陳述のあとになった場合でも、判例は成立を認めています。
図:被告人・当事者・証人
次に、証人になれる人です。事件の当事者は、証人になりません。刑事の被告人は、その事件の証人になりません。理由は、こう説明されます。
⭐ 論文で書く規範:被告人が証人にならない理由 「被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。」 「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。」 (刑訴法311条1項・憲法38条1項)
被告人には、黙っている権利があり、自分に不利益な供述を強いられません。宣誓をさせて、真実を述べさせる証人の仕組みとは、両立しないのです。被告人が法廷で述べるのは、証人尋問ではなく、被告人質問です。したがって、設例の運転手が、自分の法廷の被告人質問で嘘をついても、偽証罪の主体になりません。民事の当事者本人は、証人ではなく、当事者尋問で尋問されます。宣誓させることもできますが、宣誓した当事者が虚偽の陳述をしたときは、偽証罪ではなく、十万円以下の過料です。過料は、刑罰ではない、金銭の制裁です。民訴法209条1項が定めています。犯人蔵匿の103条、証拠隠滅の104条と並べて、一言で整理します。103条は、蔵匿し又は隠避させた者、と書いていて、犯人本人は主体から外れます。104条は、他人の刑事事件、と限っていて、自分の事件の証拠は対象外でした。偽証罪は、宣誓した証人、と書いていて、被告人は証人にならないので、主体になりません。本人が罪にならない結論は同じですが、条文の外し方が違います。本人を外した実質的な理由は、二つ目の山場で見ます。
山場その1 虚偽とは何に反することか
図:証人の役目と2つの見方
山場です。まず、出発点を確認します。証人の役目は、体験して覚えていることを、そのまま述べることです。その記憶が真実かどうかを決めるのは、証人ではなく、裁判官です。証言の信用性は、ほかの証拠と突き合わせて、裁判官が判断します。役割分担の、どこに力点を置くかで、見方が二つに分かれます。主観説は、証人の役目は記憶どおりに述べることだから、虚偽とは、自分の記憶に反することだ、とします。記憶に反する陳述をすれば、たまたま真実に合っていても、裁判官が判断する材料をゆがめる危険を持つ、という考えです。客観説は、虚偽とは、客観的な真実に反することだ、とします。真実に合っている陳述は、審判を誤らせる危険がないからです。判例は、主観説です。
⭐ 論文で書く規範:虚偽の陳述の意義 「虚偽の陳述とは、自己の記憶に反する陳述をいう(判例・主観説)。」 「理由=証人の役割は記憶を正確に述べることであり、記憶に反する陳述は国の審判作用の適正を害する(学説の整理)。」 (判例の結論と、理由づけ)
判例が言っているのは、結論です。理由として説かれる、証人の役目と審判作用の適正は、学説による整理です。
図:2本の物差し
二つの説の違いは、見る場所の違いです。主観説は、証人の頭の中だけを見ます。記憶に反することを述べたか、の一問です。客観説は、まず外の事実を見て、述べた内容が真実に反するかを調べます。そのうえで、本人がそれを認識していたか、つまり故意があったかを見ます。二本の物差しで、設例の配達員の場面を、判定してみましょう。
図:4つの場面
場面は四つです。アは、白と覚えていて、白と証言し、本当の色も白でした。イは、白と覚えていて、白と証言しましたが、本当の色は黒でした。見間違いです。ウは、白と覚えているのに、わざと黒と証言し、本当の色は黒でした。設例そのものです。エは、白と覚えているのに、わざと黒と証言し、本当の色は白でした。主観説と客観説で、それぞれ偽証罪が成立するか、先に自分で答えを決めてください。アは簡単ですが、イとウは迷います。少し考えます。答え合わせです。
図:答え合わせ
アは、どちらの説でも成立しません。イは、主観説では、記憶どおりに述べたので、成立しません。客観説では、述べた内容は真実に反しますから、構成要件には当たります。しかし、本人は真実だと思っていたので、故意がなく、成立しません。短答の落とし穴です。客観説でも、真実に反する陳述をすれば常に偽証罪になる、わけではありません。イは、両説とも不成立です。ウは、割れます。主観説は、記憶に反する陳述なので、成立します。客観説は、述べた内容が真実に合っているので、成立しません。エは、どちらの説でも成立します。もう一つ、割れる場面があります。オです。白と覚えているのに、自分で、本当は黒のはずだ、と判断して、黒と証言した。実際は白だった場合です。客観説では、述べた内容は真実に反しますが、本人は真実だと思っていたので、故意がなく不成立です。主観説は、記憶に反する陳述なので、成立します。証人が、自分で真実を判断してしまう場面で、主観説が最も問題にしている、役割分担に反する場面です。
客観説には、批判が二つあります。一つ目は、人を陥れる目的で、わざと嘘を述べたのに、後で真実だと分かれば罰せられない、という点です。二つ目は、さきほどのオの場面です。記憶に反することを、自分の判断で真実だと思い込んで述べた証人は、内容が真実でなかったときでも、故意がないので罰せられません。証人が自分で真実を判断してしまうことを、止められないのです。設例の答えを出します。配達員は、白と覚えているのに、わざと黒と証言しました。記憶に反する陳述をした以上、偽証罪が成立します。後で、本当に黒だったと分かっても、成立は妨げられません。判例は、主観説に立つからです。
図:大審院の事実
判例を見ます。大審院の判決です。被告人が、自分の詐欺の事件の証人に、ほかの二人を通じて、偽証を頼んだ事件です。原判決が認定した事実から読みます。
判例大審院判決(大正3年4月29日・刑録20輯654頁)
偽証教唆の事実 「上告人は…借用証書中金二十円なる記載を三十円と変造し実際の貸与金二十円なるに拘はらず三十円なりと偽はり其返済を受けたりとの事件に付き…地方裁判所に於て公判の審理を受くるに際し」 「借用証書差入れの当時受授したる金額三十円なることは記憶するも…名義の十円の借用証書を被告に渡したるや否や記憶せざる旨故らに記憶に反する虚偽の陳述を為し偽証を遂くるに至らしめたるものなり」
証人が述べたのは、やり取りした金額が三十円だったことは覚えているが、十円の借用証書を被告人に渡したかどうかは覚えていない、という内容です。これが、わざと記憶に反する陳述でした。ところが、原審は、同じ判決のなかで、詐欺のほうは証拠が不十分として無罪にしていました。弁護人は、詐欺が認められないなら、証言が不実だったとはいえず、偽証教唆も認められないはずだ、と争いました。
判例大審院判決(大正3年4月29日・刑録20輯654頁)
偽証罪は証言の不実を要件としない 「証言の内容たる事実が真実に一致し若くは少くとも其不実なることを認むる能はざる場合と雖も苟くも証人が故らに其記憶に反したる陳述を為すに於ては偽証罪を構成すべきは勿論にして、即ち偽証罪は証言の不実なることを要件と為すものに非ざるが故に裁判所は一面偽証の犯罪事実を認め他面証言の内容が不実ならざることを認むるも二箇の認定は必ずしも相牴触するものと謂ふを得ず。」
判決自身が、偽証罪は証言の不実なることを要件としない、と述べています。証言の内容が真実に一致する場合でも、証人がわざと記憶に反する陳述をすれば、偽証罪になります。だから、偽証を認めつつ、証言が不実とは認められない、としても、二つの認定は矛盾しません。ここで判決の字面から言えるのは、この結論までです。補足を二つ。一つ目、同じ判決は、偽証を教唆した者について、証人の供述が記憶に反することを知っていれば足り、それが真実だと確信していたかどうかは、罪に影響しない、とも述べています。教唆の故意は、証言が記憶に反することの認識で足りるのです。二つ目、記憶は、証言する時点の記憶で判断するのが実務だとされます。ここまでをまとめます。証人の役目は、記憶どおりに述べることで、真実かどうかを決めるのは裁判官です。だから、記憶に反する陳述は、たまたま真実に合っていても、偽証罪になります。写真を出す係が、写真に手を加えて出せば、たまたま実物と合っていても、係の役目に反する、というのと同じです。ここは、論文で論点になりえます。
既遂時期・危険犯・陳述と沈黙
図:既遂時期の線
次は、いつ既遂になるかです。通説は、一回の尋問手続のなかの陳述が、全体として終わったとき、と考えます。証人の陳述は、一連のものとして評価され、信用性も、全体として判断されるからです。設例で確かめます。配達員が、尋問の前半で、わざと黒と述べました。しかし、尋問の終わり近くで、さきほどの色は言い間違いで、本当は白と覚えています、と訂正しました。尋問がまだ終わっていないので、偽証罪は成立しません。一方、尋問が全部終わったあとで、別の日に訂正した場合は、すでに既遂です。あとの訂正は、成立には影響しません。刑の減免の可能性は、後で見る170条の問題です。
嘘の陳述を裁判官が信じなくても、既遂です。偽証罪は、抽象的危険犯とされます。裁判の結論に影響したかは問われず、国の審判作用の適正を害する危険が、陳述の時点で生じれば足りる、とされます。もう一つ。罪の行為は、虚偽の陳述です。黙っているだけ、証言を拒むだけでは、本罪になりません。自己が刑事訴追を受けるおそれのある証言は、拒むことができます。刑訴法146条です。ただし、拒まずに宣誓をして述べたなら、嘘は偽証罪になります。最高裁は、証言拒絶権を放棄して、宣誓のうえ虚偽の陳述をした証人に、偽証罪の成立を認めています。
山場その2 被告人が他人に偽証させた場合
図:運転手が後輩に頼む
もう一つの山場です。さきほど見たとおり、被告人は、自分の事件の証人になりません。運転手が、自分の法廷で嘘をついても、偽証罪にならないのです。では、運転手が、自分の後輩に頼んで、宣誓させたうえで嘘の証言をさせたら、運転手はどうなるでしょうか?結論から言うと、運転手には、偽証教唆罪が成立します。判例の結論です。理由を見る前に、記憶を一つ呼び戻します。前々回を思い出してください。犯人が他人に、証拠を壊してくれ、と頼んだ場合、頼んだ犯人本人に教唆犯は成立するか? 判例はどう考えるか?
図:3つの回の物差し
判例は、頼んだ犯人本人に、教唆犯の成立を認めていました。前の三回で使ったこの物差しを、今日の偽証罪に当てはめます。蔵匿、証拠隠滅、偽証のどれも、自分でやる場合は罪になりません。ただし、条文の外し方は違いました。103条は、犯人本人が主体から外れ、104条は、自分の事件の証拠が対象外で、偽証罪は、被告人が証人にならないのです。ところが、他人にやらせる場合は、三つとも教唆犯が成立します。物差しは、自分でやるのと、他人を巻き込むのとは違う、です。
図:最高裁の決定
最高裁の決定です。偽証を教唆した被告人が上告し、棄却された事件です。弁護人の主張は、二つに分けられます。一つ目は、被告人には黙秘権がある、という点です。二つ目は、自分の事件について他人に偽証させるのは、理論上は自分の事件の証拠隠滅にほかならないから、104条の趣旨により、偽証教唆に問うべきでない、という点です。決定が、二つの主張にどう答えたかを見ます。
判例最高裁判所第二小法廷決定(昭和28年10月19日・刑集7巻10号1945頁)
偽証教唆と黙秘権・104条 「しかし被告人自身に黙秘権があるからといつて、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆の責を免れないことは既には当裁判所の判例とするところであり(昭和二六年(あ)第二六二号、同二七年二月一四日第一小法廷決定参照)、今これを変更する必要を認めない。また刑法一〇四条の証憑の偽造というのは証拠自体の偽造を指称し証人の偽証を包含しないと解すべきであるから、自己の被告事件について他人を教唆して偽証させた場合に右規定の趣旨から当然に偽証教唆の責を免れるものと解することはできない。」
一つ目の、黙秘権があるから、という主張には、黙秘権があっても、教唆の責は免れない、と先例を引いて答えました。次に、二つ目の、104条の趣旨から、という主張には、104条の証拠の偽造は、証拠自体の偽造を指し、証人の偽証を含まないから、104条の趣旨から当然には免れない、と答えました。前々回に見た、証人の偽証は証拠の偽造に含まれない、という言葉は、まさにこの決定のこの部分です。大切なのは、帰属です。最高裁は、防禦権の濫用とも、期待可能性とも、述べていません。その二つは、前の三回と同じく、別のところから挙げられてきた理由です。一つ目は、防禦権の濫用で、大審院の判例以来のものです。防禦権は、自分を守る自由ですが、他人に罪を犯させるところまでは、防禦の範囲に入りません。二つ目は、期待可能性です。学説が挙げるほか、大審院の判決にも、被告人が自分で嘘を述べても罪にならないのは、真実を述べるよう期待できないからで、その理由は、他人に偽証させる場合にまでは及ばない、と述べたものがあります。学説は、条文の外し方は違っても、本人を外した実質的な理由は、103条や104条と共通だ、と見ます。被告人が偽証罪の主体にならないのも、自分の法廷で嘘をつくな、とは期待しにくいからだ、という見方です。しかし、他人に頼むのをやめろ、とは期待できます。後輩に頼まず、自分の事件は自分で争う道が残っているからです。
偽証教唆は成立しない、とする学説もあります。被告人自身が嘘をついても罪にならないのに、他人を使って同じことをしたのを罰するのは、均衡を欠く、という考えです。正犯としてさえ期待できないのなら、より軽い教唆は、なおさら期待できない、という、前の三回と同じ理屈です。虚偽の意味のところで事実を読んだ大審院判決は、いま挙げた判決とは別のものですが、その被告人も、自分の事件の証人に、記憶に反する証言を頼んだ人でした。偽証を教唆した被告人が処罰されること自体は、昔から変わっていません。ただ、事実を読んだほうの判決が、被告人の黙秘権や期待可能性を判断したわけではありません。争われていない点だからです。逆の場面も、一言だけ。証人が被告人をかばって嘘をついたときは、宣誓した証人が記憶に反することを述べたのですから、証人に偽証罪が成立します。被告人の側の事情である黙秘権は、証人の罪を消しません。
170条と171条
図:170条の4つの切れ目
最後に、170条です。偽証した人が、自分から本当のことを言ったときの規定です。
条文刑法170条
刑法170条(自白による刑の減免) 前条の罪を犯した者が、その証言をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。
効果は、減軽し、又は免除することができる、です。任意的で、必ず減免されるわけではありません。減軽は、68条の方式に従います。免除するときは、判決で言い渡します。趣旨は、政策です。自白を勧めて、偽証に基づく誤った裁判や、誤った懲戒処分を防ぐための規定です。裁判が確定する前なら、真実を言えば、判断をやり直せます。誤った裁判を、取り返しのつくうちに直させる動機づけです。前回の105条は、親族の期待可能性が低い、つまり責任が減るから、でした。170条は、責任が減るからではなく、政策です。自白は、偽証したことを具体的に告白することです。時期は、裁判が確定する前までで、確定してしまえば、適用はありません。また、偽証を教唆した人にも適用されうる、と判例は考えています。ただし、効果は、自白した人ごとに別々だとされます。理由は、条文と趣旨から説明できます。170条は、自白したときは、その刑を、と書いていて、軽くなりうるのは、自白した本人の刑です。趣旨は、自白を勧める動機づけでした。他人の自白で自分の刑まで軽くなるのなら、自分から本当のことを言い出す動機になりません。さきほどの運転手と後輩でいえば、偽証した後輩が自白しても、頼んだ運転手が自白しなければ、運転手には使えません。逆に、運転手が自白すれば、後輩が自白しなくても、運転手に使える、とされます。
図:171条の構造
171条です。
条文刑法171条
刑法171条(虚偽鑑定等) 法律により宣誓した鑑定人、通訳人又は翻訳人が虚偽の鑑定、通訳又は翻訳をしたときは、前二条の例による。
主体が、鑑定人、通訳人又は翻訳人に替わるだけです。たとえば、宣誓した通訳人が、証人の言葉を、わざと違う意味に訳して法廷に伝える場面です。宣誓していること、虚偽の行為をしたことは、169条と同じ構造です。前二条の例による、とは、169条と170条の扱いに従う、という意味です。法定刑も、自白による減免も、同じです。
弁別とまとめ
図:弁別ミニ事例
事例を五つ、考えてください。一つ目。宣誓した証人が、見間違いで黒だったと信じて、黒と証言しました。本当は白でした。偽証罪は成立しますか。二つ目。捜査機関の取調べで、宣誓していない参考人が、嘘を述べました。三つ目。被告人が、法廷の被告人質問で、嘘を述べました。四つ目。運転手が後輩に頼み、後輩が宣誓して、嘘の証言をしました。五つ目。偽証した証人が、事件の裁判が確定する前に、自白しました。刑を減軽し、または免除することができます。必ず、ではありません。五つの事例の結論と決め手は、表のとおりです。見るのは、誰が、宣誓していたか、何に反するか、いつ、です。
図:今日の整理
まとめます。
⭐ 論文で書く規範:今日の4点 「① 「虚偽」とは、自己の記憶に反すること(判例・主観説)。証人の役目は、記憶どおりに述べること。」 「② 主体は、法律により宣誓した証人。被告人・民事の当事者は主体にならない。民事の当事者の嘘は過料。」 「③ 既遂は、尋問手続の陳述が、全体として終わったとき。途中の訂正は不成立。」 「④ 被告人が他人に偽証させたら、偽証教唆(判例)。自白は、裁判確定前なら、減免できる(任意的)。」 (要点)
設例の配達員は、わざと黒と証言した以上、本当に黒だったとしても、偽証罪です。見る場所は、証人の頭の中でした。
参照条文
- 刑法169条
- 刑法170条
- 刑法171条