構成要件的故意——「わざと」とは何か
主観的構成要件要素の中心=故意を扱う回。本質は規範に直面しながらあえて行為に及んだ点への非難で、中身は認識+認容(認容説)。未必の故意と認識ある過失の境を整理する。
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第2章 構成要件 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
主観的構成要件要素の中心が故意。故意犯が原則で、過失犯は特別規定がある場合のみ処罰される(38条1項)。
故意とは
【条文】刑法38条1項(故意) 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
この「罪を犯す意思」が故意。中身は、客観的構成要件要素の認識・認容(通説=認容説)。
故意の本質=規範に直面し反対動機の形成が可能であったのに、あえて行為に及んだ点への強い道義的非難。だから故意犯は過失犯より重く処罰される。
故意と過失の境(認容説)
- 認識説(A説・少数):犯罪事実の認識だけで故意。
- 意欲説(B説):犯罪事実の実現を意欲・希望してはじめて故意(→範囲が狭すぎる)。
- 認容説(C説・通説):認識に加えて認容(結果が起きてもかまわない=認めて受け入れる)を要する。
→ 認容説の核心は、意欲(積極的に望むこと)までは不要で、認容で足りる点。認識説・意欲説・認容説の三段階対立として整理する。
両者の分かれ目(未必の故意 vs 認識ある過失):
| 認識 | 認容 | 結論 | |
|---|---|---|---|
| 未必の故意 | 「起きるかも」 | あり(起きてもかまわない) | 故意 |
| 認識ある過失 | 「起きるかも」 | なし(起きないと軽信) | 故意なし(過失) |
→ 認容の有無が故意と過失のメルクマール。意欲(積極的に望むこと)までは不要。
認識・認容の対象
認識・認容の対象は客観的構成要件要素(実行行為・客体・結果・因果関係)。
- 因果関係:客観的構成要件要素である以上、認識・認容の対象となる。ただし細部の認識は不可能なので大筋の認識で足りる(→ 因果関係の錯誤の処理に接続。事実の錯誤の回で扱う)。
- 結果的加重犯の重い結果:認識・認容は不要(→ 結果的加重犯の回で扱う)。
故意の種類
| 区分 | 種類 | 内容 | 例(自前) |
|---|---|---|---|
| 確定的 | 確定的故意 | 結果を意図、または確実と認識 | 心臓を狙って撃つ |
| 不確定的 | 未必の故意 | 結果発生自体が不確定+認容 | 当たるかも+かまわない |
| 不確定的 | 概括的故意 | 客体の個数・どれに当たるか不確定 | 満員のエレベーターで刃物 |
| 不確定的 | 択一的故意 | 複数客体のどちらに生じるか不確定 | 並ぶ2人のどちらかに1発 |
→ いずれも認識+認容があり、すべて故意。発生自体が不確定なのが未必の故意。
規範的構成要件要素の認識(種類の定義は #9 で導入済)
「人」「物」のように見れば分かる要素は、その事実の認識で足りる。これに対し「わいせつ」のような価値判断を要する規範的要素は、物体の認識だけでは足りず意味の認識が要る。ただし法律家のような正確な評価までは不要で、素人的(門外漢的)認識で足りる(∵素人的にでも分かれば反対動機を形成できた=故意の本質)。芸術のつもりでも、ふつうに見て卑猥と分かれば故意あり(=芸術と誤信した規範的構成要件要素の錯誤でも素人的認識があれば故意は否定されない。その先の細かい処理は錯誤論の回 #17/#18で扱う)。
📝 論文の型|故意(認容説)と未必の故意
★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)
故意責任の本質は、犯罪事実を認識・認容しながらあえて行為に及んだ点への道義的非難にある。そこで故意(38条1項)は、客観的構成要件要素の認識に加え、結果発生の認容を要する(認容説)。結果発生が不確定でも、その可能性を認識し、かつ認容していれば未必の故意があり、認容なく結果は生じないと軽信したにとどまれば認識ある過失となる。
復元キー(趣旨から再構成する鎖)
- 故意の本質=反対動機を形成できたのにあえてやった非難
- 内容=認識+認容(認容説。認識だけの認識説と対立)
- 未必の故意=結果発生の可能性の認識+認容あり
- 境界の裏側=認識ある過失=認容なく「大丈夫」と軽信
- 切り分け=「結果が起きてもかまわないと思ったか」
フル論証(正本)
故意責任の本質は、犯罪事実を認識・認容して反対動機の形成が可能であったのに、あえて行為に及んだ点への強い道義的非難にある。そこで故意(38条1項)は、客観的構成要件要素の認識に加え、結果発生を認容していることを要すると解する(認容説)。結果発生が不確定でも、その可能性を認識し、かつ認容していれば未必の故意として故意が認められ、認容がなく結果は生じないと軽信したにとどまれば認識ある過失となる。
【事例】 甲は、人混みに向けて拳銃を発砲すれば通行人に当たって死ぬかもしれないと思いつつ、当たってもかまわないと考えて発砲し、通行人乙に命中させて死亡させた。
【問題提起】 甲に殺人罪(199条)の故意(未必の故意)が認められるか。
【あてはめ】 甲は、人混みへの発砲で通行人に当たって死ぬ可能性を認識していた(認識)。そのうえで「当たってもかまわない」と考えており、結果発生を認容していたといえる(認容)。よって甲には殺人罪の未必の故意が認められる。
短答ひっかけ
- 故意は認識+認容(認容説。認識だけの少数説と区別)。意欲までは不要。
- 未必の故意と認識ある過失の境=認容の有無(「かまわない」=故意/「避けられる」と軽信=過失)。
- 規範的要素は素人的認識で足りる(専門知識は不要)。
※送り:事実の錯誤(具体的)→#17/抽象的事実の錯誤(38②)・因果関係の錯誤→#18/責任故意・違法性の意識(38③)→#27。
参照条文
- 刑法38条1項(故意)