刑法 ゼロから刑法#15

因果関係③——判例で学ぶあてはめ

「危険の現実化」を有名判例で実際に当てはめる回。あてはめは2段階(元の危険の認定→介在事情が新たな死因・危険の変質を生んだか)で書く。大阪南港・高速道路・米兵ひき逃げで体得。

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第2章 構成要件 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

#14で学んだ「危険の現実化」を、有名判例で実際に当てはめる回。事案を読んで→どの類型か見抜き→評価語で当てはめるを体得する。

危険の現実化・3類型(おさらい)

  • ① 直接実現型:行為の危険が直接結果に実現(介在事情の危険性を上回る)。
  • ② 間接実現型:介在事情が行為に誘発された等、結びつきが強い。
  • ③ 危険状況設定型:行為が設定した危険状況が結果に結びつく。
  • 否定:3類型のいずれにも当たらない。

📝 論文の型

介在事情がある事案(特に直接実現型)は、「危険性が高い→肯定」と要約せず、次の2段階で認定するのが論文では現実的:

  1. 第1段階=元の危険の認定:実行行為に「結果発生に十分な因果力のある危険」が存在し、それが結果発生時まで継続していたことを認定する。
  2. 第2段階=介在事情の評価(否定方向の2要素を潰す):介在事情が
    • 新たな死の原因を作ったか(別ルートで結果を引き起こしたか)、
    • ② 元の危険な状態を変質させ、別の危険として結果に至らせたか、 を検討し、いずれも否定であれば、元の危険がそのまま結果に現実化した=直接実現型として因果関係を肯定する。

あてはめ文例(大阪南港型):「甲の暴行は乙の死因となる傷害を形成し、結果発生に十分な因果力のある危険が死亡時まで継続していた(第1段階)。介在した第三者の暴行は、新たな死の原因を作ったものではなく、また元の危険を変質させて別の危険として結果に至らせたものでもなく、死期をいくらか早めたにすぎない(第2段階)。よって元の危険がそのまま現実化したといえ、因果関係は肯定される。」

治療拒否型(最決平16・2・17)も同じ型:被害者の治療拒否は元の傷害の危険を減少させなかっただけで、新たな死因も危険の変質も生じさせていない→肯定。 ⇔ 否定例(米兵ひき逃げ・後掲)は、第2段階で「異常な介在行為が最初の行為とは別の死の原因になった(①に当たる)」ため因果関係が否定される。

① 直接実現型|大阪南港事件(最決平2・11・20・肯定)

事案:甲の暴行で乙に死因となる傷害が形成され放置→第三者がさらに暴行し死期が早まって死亡。

あてはめ:甲の暴行は乙の死因を直接形成しており危険性が高い。第三者の暴行は死期を早めたにすぎず、危険を変質・増幅させていない。よって甲の行為の危険が直接結果に現実化したといえ、因果関係は肯定(直接実現型)。 → 治療を拒んで悪化した事案(最決平16・2・17)も、介在事情が「危険を減少させなかっただけ」で直接実現型として肯定。

② 間接実現型|高速道路侵入事件(最決平15・7・16・肯定)

事案:甲らが深夜、長時間にわたり執拗に暴行→被害者が隙を見て逃走し、高速道路に侵入して走行車に轢かれ死亡。

あてはめ:高速道路への侵入はそれ自体極めて危険で一見異常にもみえる。しかし被害者は激しく執拗な暴行を受け極度の恐怖から必死の逃走過程でとっさに選択した行動であり、暴行から逃れる方法として著しく不自然・不相当であったとはいえず、甲らの暴行に誘発されたものと評価できる。よって甲らの暴行の危険が結果に現実化したといえ、因果関係は肯定(間接実現型)。

【そのまま覚える・誘発の決め台詞】(最決平15・7・16) 「被害者の行動は,被告人らの暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえず,被告人らの実行行為によって誘発されたものと評価できる。」 → 間接実現型は、この「誘発された」を認定できるかが勝負。一見異常な介在行動でも、この一文で因果関係を肯定できる。

③ 危険状況設定型|トランク監禁致死事件(最決平18・3・27・肯定)

事案:被害者を自動車後部トランクに監禁し路上で停車中、後続車が前方不注意で追突し被害者が死亡。

あてはめ:トランクは人を防護する機能がなく、軽微な追突でも死亡する危険が高い。路上停車中に追突されることは十分あり得る。甲はこの危険な状況を創出しており、第三者の重い過失が介在しても、設定した危険が結果に現実化したといえる。よって因果関係は肯定(危険状況設定型)。

否定|米兵ひき逃げ事件(最決昭42・10・24・否定/①②③をすべて否定)

事案:車で衝突させ被害者を屋根に乗せ走行中、同乗者が引きずり降ろして死亡。死因が衝突時か転落時か確定できなかった。

あてはめ(①②③をすべて否定するのが論文の型)

  • ①直接実現型か:はねた行為が死因となった傷害を形成したと認定できない(死因不明)→ ①にあたらない。
  • ②間接実現型か:死因を作った可能性のある同乗者の引きずり降ろしは、故意ある別個独立の犯罪行為であり、被告人の行為にこれを誘発する危険が備わっていたとは評価できない→ ②にあたらない。
  • ③危険状況設定型か:同乗者の独立の行為であり、被告人が設定した危険状況の現実化ともいえない→ ③にあたらない。
  • → ①②③のいずれにも当たらないため因果関係は否定(最高裁で因果関係を否定した唯一の事件。業務上過失傷害罪にとどまる)。

あてはめで使える評価フレーズ

  • 危険性:「〜は死因を直接形成しており、危険性が高い」
  • 異常性:「〜は経験則上通常予想しうる/予想できず異常性が高い」
  • 寄与度:「〜は死期を早めたにすぎず、結果への寄与度は小さい」
  • 誘発:「〜は行為者の暴行に誘発された行動であり、著しく不自然・不相当であったとはいえない」
  • 否定の締め:「死因がいずれの行為により生じたか確定できない以上、行為の危険が結果に現実化したとはいえない」

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