構成要件的過失——「うっかり」はどこから罪か
主観的構成要件要素のもう一つの柱=過失を扱う回。過失犯は例外的処罰(38条1項但書)で本質は注意義務違反。①予見可能性②回避可能性③回避義務違反と具体的予見可能性説を押さえる。
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第2章 構成要件 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
主観的構成要件要素のもう一つの柱が過失。故意がなくても、過失犯処罰規定があれば処罰される。
過失とは
- 例外的処罰:38条1項ただし書。過失犯は「法律に特別の規定がある場合」のみ処罰(過失致死210条・業務上過失致死傷211条・過失傷害209条等)。
- 過失=注意義務違反。
- 新過失論(通説・実務)=予見可能性を前提とした結果回避義務違反を過失の本質とみる。旧過失論は予見可能性(予見義務違反)を中心に過失を捉える。
過失の要件(新過失論)
- 結果の予見可能性(結果回避義務の前提)
- 結果回避可能性(前提)
- 結果回避義務違反(中核)=過失犯の実行行為
→ 注意義務の基準者は2段階:構成要件的過失は行為者と同じ立場・職業の一般通常人を基準とする(客観的注意義務・客観説)。責任過失は行為者個人の能力を基準とする(主観的注意義務)。後者は責任論(責任段階)で問題となる。
予見可能性の程度
- 危惧感説:内容の特定しない一般的・抽象的な危惧感で足りる → 処罰が広がりすぎると批判。
- 具体的予見可能性説(通説・判例):特定の構成要件的結果、および結果に至る因果関係の基本的部分について具体的に予見可能であることを要する。
【判例】最決平12・12・20(生駒トンネル火災事件) 具体的に炭化導電路が形成される経過まで予見できなくても、誘起電流が本来流れるべきでない部分に流れ続けて火災に至る可能性は予見できたとして予見可能性を肯定。因果経過の基本的部分の予見で足りる(細部のメカニズムまでは不要)。
(北大電気メス事件・札幌高判昭51・3・18は、漠然とした危惧感では足りず具体的予見可能性が必要とした代表例。)
結果回避義務と予見可能性の関係(義務の限界・監督管理過失)
予見可能性があれば原則として結果回避義務が生じるが、次の場面で義務が否定・軽減され、または義務の主体が監督・管理者に及ぶ。
- ① 許された危険:予見可能性が認められても、社会的に有用・必要な危険行為(自動車交通・危険を伴う手術等)については、結果回避義務が否定される。社会的有用性・必要性・予想される危険の可能性等を総合考慮して判断する。新過失論の存在理由そのもの(有用な行為まで過失犯にしないための理論)。
- ② 信頼の原則:相手(被害者・第三者)が適切に行動することを信頼するのが相当な場合、相手の不適切な行動による結果について結果回避義務が軽減・否定される(許された危険の一類型・主に交通事故)。要件=①信頼の存在・②信頼の相当性。例:交差点で他の車が交通法規を守ると信頼してよいとして過失を否定(リーディングケース=最判昭42・10・13 刑集21巻8号1097頁・第二小法廷)。なお相手が子ども等で飛び出しが予想される場面では信頼が相当でなく、原則は働かない。
- ③ 監督過失:直接行為者が過失を犯さないよう監督する注意義務に違反する過失(例:現場監督)。監督者の過失は間接的(監督過失→直接行為者の過失→結果)。判例は二重の予見可能性(直接行為者の過失行為+結果の予見)を要求。十分な指示があれば監督者にも信頼の原則が働きうる。
- ④ 管理過失:監督者による物的・人的な管理体制の不備それ自体を過失とする場合(例:ホテル火災の防火管理体制の不備)。監督者の過失は直接的(+監督過失も併せて問題となりうる)。大規模火災事件などで短答・論文頻出。
📝 論文の型|過失(新過失論)
★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)
過失とは結果回避義務違反をいい、結果発生の予見可能性を前提に、結果を回避すべき義務に違反したことをいう(新過失論)。ここでの予見可能性は、内容の特定しない一般的危惧感では足りず、特定の構成要件的結果および結果に至る因果関係の基本的部分について、行為者と同じ立場の一般通常人を基準に具体的に予見可能であることを要する(具体的予見可能性説)。
復元キー(趣旨から再構成する鎖)
- 過失の中心=結果回避義務違反(新過失論。旧過失論は予見中心)
- 前提=予見可能性(なければ回避義務も課せない)
- 予見の程度=具体的予見可能性(抽象的危惧感では不可)
- 対象=特定の結果+因果関係の基本的部分
- あてはめ=「通常人ならこの結果を予見し回避できたか」
フル論証(正本)
過失とは、結果回避義務違反をいう。すなわち、結果発生の予見可能性を前提として、結果を回避すべき義務に違反したことをいう(新過失論)。ここでの予見可能性は、内容の特定しない一般的・抽象的な危惧感では足りず、特定の構成要件的結果および結果に至る因果関係の基本的部分について、行為者と同じ立場の一般通常人を基準に具体的に予見可能であることを要する(具体的予見可能性説)。
【事例】 自動車を運転していた甲は、見通しの悪い交差点で減速せずに進入し、横断中の歩行者乙をはねて死亡させた。
【問題提起】 甲に過失(過失運転致死)が認められるか。
【あてはめ】 見通しの悪い交差点では、横断者と衝突して死亡させる可能性を、通常の運転者なら具体的に予見できた(予見可能性)。甲は減速・徐行して衝突を回避すべき義務を負っていたのに、これを怠った(結果回避義務違反)。よって甲に過失が認められる。
短答ひっかけ
- 過失犯は例外処罰(処罰規定がある罪だけ)。
- 新過失論=予見可能性+結果回避義務違反(回避義務違反が中核)。旧過失論は予見可能性が中心。
- 予見は因果の基本的部分でよい(漠然とした危惧感では足りない)。
- 基準者は2段階:構成要件的過失=一般通常人/責任過失=行為者個人。
- 結果回避義務の限界=許された危険・信頼の原則。監督過失=二重の予見可能性/管理過失=ホテル火災型(管理体制の不備)。
今日の地図(保存版)
- 【客観面】実行行為(#8)・不真正不作為犯(#11)・因果関係(#13/#14/#15)=犯罪の「外側」。
- 【主観面】構成要件的故意(#16)・事実の錯誤(#17/#18)・構成要件的過失(#19)=犯罪の「内側」。
- 構成要件=犯罪の「型」。客観・主観の両面が揃って構成要件の検討は完結。次は第3章 違法性(#20 違法性総論:行為無価値/結果無価値)。