刑法 ゼロから刑法#20

違法性総論——「悪い」とはどういうことか

第二関門=違法性の全体像を作る回。構成要件該当で違法性は推定され、阻却事由の有無を消極的に判断する。結果無価値論と行為無価値論の対立、条文ある/超法規的な阻却事由の地図を描く。

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第3章 違法性 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

構成要件(第一関門)の次は違法性(第二関門)。今回はその全体像=地図を作る回。

違法性とは

  • 第二関門。構成要件に該当すれば、原則として違法性が推定される(構成要件の違法性推定機能)。
  • だから第二関門では、違法性を一から立証し直すのではなく、違法性阻却事由(正当化事由)があるかを検討する=消極的判断
  • 形式的違法性=形式的に法(行為規範)に違反すること。それだけでは「なぜ悪いか」が不明。/実質的違法性=違法の中身(なぜ悪いか)を問うもの。実質的違法性の理解が、阻却の一般的根拠・超法規的阻却・可罰的違法性の前提になる。

違法性の本質(結果無価値 vs 行為無価値)

観点結果無価値論(法益侵害説)行為無価値論(規範違反説/二元説・判例多数)
刑法の機能法益保護のみ法益保護+社会倫理秩序の維持
無価値の中心結果(法益侵害・危険)行為+結果
違法性の実質法益侵害またはその危険社会的相当性を逸脱した法益侵害・危険
阻却の一般原理法益衡量(=法益権衡/優越的利益)社会的相当性(説)
主観的違法要素否定的(故意は責任段階)肯定的(構成要件的故意を認める)

→「無価値」=価値がない=悪い、の意味。どこに「悪さ」の中心を置くかで、違法性阻却の判断基準(法益衡量か社会的相当性か)も、主観的違法要素を違法判断に入れるか(→#22 正当防衛の「防衛の意思」に直結)も変わる。本シリーズは判例の傾向に沿い行為無価値(二元説)を基本に進める(※判例が学説として一方を採用宣言しているわけではない。学界では結果無価値論も有力)。

違法性阻却事由の体系

  • 条文あり:正当行為(35条=法令行為・正当業務行為)・正当防衛(36条)・緊急避難(37条)。
  • 条文なし(超法規的違法性阻却事由):自救行為・義務の衝突・推定的承諾・安楽死 など(→#25)。
  • 共通する根拠=法益衡量(法益権衡)/社会的相当性を満たすこと。条文はその典型を書いたもので、根拠を満たせば条文外でも適法になりうる。
  • 35条の射程:条文上は①法令行為②正当業務行為のみだが、通説は被害者の承諾・推定的承諾・治療行為・義務の衝突も35条で説明(→#21)。

〔条文〕刑法35条・36条1項・37条1項(e-Gov 現行・逐語)

  • 35条:法令又は正当な業務による行為は、罰しない。
  • 36条1項:急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
  • 37条1項:自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。

可罰的違法性

形は犯罪でも、法益侵害がごく軽微なら刑罰に値する違法性を欠き、犯罪不成立になりうる。

【判例】一厘事件(葉煙草一厘事件)大判明43・10・11(刑録16-1620) 自家栽培の葉煙草ごく少量(価格一厘相当)を消費した専売法違反につき、零細な違法行為は特殊な事情のない限り不可罰として無罪。可罰的違法性理論の原点。

(対比:マジックホン事件 最決昭61・6・24 は、損害わずか約10円でも「軽微性だけでは違法性は阻却されない」とした。軽微性=即不可罰ではない点に注意。)

短答ひっかけ

  • 違法性は推定され、阻却事由の有無で判断する(消極的判断)。
  • 結果無価値(法益衡量)と行為無価値(社会的相当性)で阻却の基準が変わる。
  • 可罰的違法性:ごく軽微な侵害は犯罪不成立になりうる(一厘事件)。ただし軽微=即不可罰ではない(マジックホン)。

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