刑法ゼロから刑法#8

構成要件要素

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問い:構成要件は、どんな要素(部品)でできているか。外から見える部品と、行為者の頭の中の部品は、それぞれ何か。

骨組み

構成要件=処罰に値する行為を、社会通念に基づいて類型化したもの(条文の型)。犯罪は ①構成要件該当性 → ②違法性(違法性阻却事由が無いか)→ ③責任(行為者を非難できるか)の順に確かめ、ここで並べる部品はすべて①の中身。

  1. 1大別:客観的構成要件要素=外見的に認識されうる/主観的構成要件要素=行為者の内面(外から認識できない)
  2. 2実行行為(定義):特定の構成要件に該当する/法益侵害の現実的危険性を有する/行為
  3. 3構成要件的結果・因果関係:結果=構成要件要素になっている結果(殺人罪なら人の死亡)。因果関係=結果犯では、条文に書かれていなくても例外なく必要
  4. 4その他:行為の主体・客体、罪によっては行為の状況(の「公然と」)
  5. 5構成要件的故意(通説):客観的構成要件要素の認識・認容。積極的な意欲は不要
  6. 6構成要件的過失(新過失論):予見可能性を前提とした結果回避義務違反の行為
  7. 7目的犯:目的が構成要件要素(「行使の目的で」)。目的=認識・認容を超える主観=主観的超過要素(構成要件の中・故意の外)
  8. 8傾向犯:内心の傾向が構成要件要素。従来の代表例(強制わいせつ罪=最判昭45が性的意図を要すると判示)は現行でない=は不同意わいせつ罪(令和5年改正)/最大判平29が昭45を変更(性的意図を一律に成立要件とするのは相当でない)

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。2〜4が客観、5〜8が主観。7の目的(8の傾向も含める整理あり)は故意を超える主観だが、構成要件の中にある(故意の外にあるだけ)。

1客観的構成要件要素と主観的構成要件要素学説

  • 分かれ目は1つ:外見的に認識されうるもの(他人が見て分かる)=客観的/行為者の内面に関するもので外から認識できないもの=主観的。
  • 「客観=事実、主観=評価」という分け方ではない(条文の言葉には評価が要るものもある)。
  • 刑法理論の客観主義・主観主義(犯罪の何に評価の的を向けるかの立場の対立)とは別の話=こちらは部品を置く場所の区別。
重要な部品
客観的構成要件要素特に重要=①実行行為 ②構成要件的結果 ③因果関係/以上に加え ④その他(主体・客体・状況)
主観的構成要件要素①構成要件的故意 ②構成要件的過失 ③目的犯の目的 ④傾向犯の傾向

客観で「特に重要」とされるのは①〜③の3つ。④は「以上に加え」て構成要件要素とされるもの。客観4つ・主観4つは重要なものの数え方で、構成要件要素がこれで全部という意味ではない。

×にされやすい形
  • 「客観的構成要件要素は事実、主観的構成要件要素は評価である」(分かれ目は外から認識できるか)
  • 「構成要件要素の客観・主観の区別は、刑法理論の客観主義・主観主義の対立のことである」

2実行行為の定義学説

  • 定義:特定の構成要件に該当する法益侵害の現実的危険性を有する行為。3つに割って覚える。
  • ①特定の構成要件に該当する=その罪の条文の型に当たる。②法益侵害の現実的危険性を有する=その罪が守る利益(殺人罪なら人の生命)を害する現実的な危険を持つ。③行為=故意の行為だけでなく、過失の行為・しないこと(不作為)も含む。
  • 罪ごとに中身が決まる:殺人罪の実行行為は、条文の言葉でいえば「人を殺す」行為、場面でいえば具体的な殺害の手段(金属バットで殴る等)。どの手段も、生命を侵害する現実的危険を持つことで殺人罪の実行行為になる。
  • 実行の着手()=未遂犯になるかの線(未遂犯=犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合)。
  • この定義は「法益侵害の現実的危険性」の言葉のまま覚える。ただし、実行の着手は、通説では「構成要件的結果発生の現実的危険性を含む行為を開始した時点」と説明される。教材はこの2つの言い方を対比して論じておらず、「結果発生の危険」という言い方そのものが誤りなのではない。

金属バットで後頭部を思い切り殴る → 生命を害する現実的危険がある=殺人罪の実行行為。殺したいと思っていても、指で肩を軽くつつくだけ → 生命を害する現実的危険は無い=殺人罪の実行行為に当たらない。

×にされやすい形
  • 「殺意があれば、どのような行為でも殺人罪の実行行為に当たる」(行為そのものに法益侵害の現実的危険性が要る)
  • 「実行の着手を『構成要件的結果発生の現実的危険性を含む行為を開始した時点』とする説明は、実行行為の定義に反し誤りである」(通説はそう説明する)

3構成要件的結果・因果関係学説

  • 構成要件的結果=構成要件要素になっている結果。殺人罪()なら人の死亡。
  • 因果関係=実行行為と構成要件的結果をつなぐ関係。結果犯(結果の発生を要件にする罪)で必要。
  • 条文に「因果関係」とは書かれていないことが多い(も「人を殺した」だけ)。それでも結果犯では、解釈上例外なく必要な構成要件要素。
  • 並び:実行行為 → 構成要件的結果 → その2つをつなぐ因果関係。

甲が殺意をもって乙をバットで殴り、乙は倒れたが命に別状はなかった。その後、乙が全く別の原因で死亡した → 「人の死亡」はそろっているが、殴打と死亡をつなぐ因果関係が問題になる。因果関係が否定されれば、殴った者との関係では結果が発生しなかったものとして扱われ、殺人罪(既遂)は成立しない。

×にされやすい形
  • 「因果関係は、条文に明記されている罪でだけ要求される」(結果犯では条文に無くても例外なく必要)

4その他:主体・客体・状況条文

  • 行為の主体・行為の客体、罪によっては行為の状況も構成要件要素(名前は「その他」でも立派な構成要件要素)。
  • :公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。→ 「公然と」が行為の状況。
  • 主体には、誰でもなれる罪と、一定の身分が要る罪がある。
  • 名誉毀損罪は、社会的評価が現実に下がったことまでは要らない(判例・通説=抽象的危険犯。抽象的危険犯=法益侵害の危険が現実に発生したことを構成要件要素としていない犯罪)。結果が要るか(結果犯/挙動犯)と、現実の侵害が要るか(侵害犯/危険犯)は別の分け方。この回でから拾うのは、状況(「公然と」)などの部品。

駅前で大勢に聞こえる声でうわさを言う → 「公然と」に当たる。本人だけに面と向かって言う → 通常は欠ける方向。本人以外の知人1人に言っても、そこから広く伝わる可能性があれば「公然と」に当たりうる(最判昭34・5・7)。

×にされやすい形
  • 「構成要件要素は実行行為・結果・因果関係に限られ、行為の状況は構成要件要素ではない」
  • 「名誉毀損罪が成立するには、被害者の社会的評価が現実に低下したことが必要である」

5構成要件的故意:認識・認容学説

  • 定義(通説):客観的構成要件要素の認識・認容。結果の発生などを積極的に意欲していたかは問わない。
  • 故意の根拠は(罪を犯す意思がない行為は、罰しない)。故意は、構成要件要素としての構成要件的故意と、責任要素としての(責任の段階で要求される)責任故意からなる(多数説)。ここで扱うのは構成要件的故意。
  • 故意に認識のほかに何が要るかには争いがあり、「仕方がない」といった認容を要するとする認容説が多数説。認容説では、認識はあっても認容が無ければ故意は無く、認識ある過失になる。
Bが死ぬかもしれないと思って殴った構成要件的故意
「殺してやる」と強く望んでいたある
望んではいないが「それでも構わない」ある(意欲は不要)
「死ぬかもしれないが、自分の殴り方なら死なせずに済む」認容が無い=認容説では故意なし(認識ある過失)
×にされやすい形
  • 「構成要件的故意があるといえるには、結果の発生を積極的に意欲していることが必要である」
  • 「結果の発生を望んでいなかった以上、故意は認められない」

6構成要件的過失:予見可能性を前提とした結果回避義務違反学説

  • 定義:予見可能性を前提とした結果回避義務違反の行為。過失とは注意義務違反のこと(の文言も「業務上必要な注意を怠り」)。
  • この定義は新過失論の整理:過失を単なる主観ではなく、第一次的には行為そのもののあり方とみて、第一次的には構成要件要素とし(責任要素でもある)、注意義務の中心を客観的な結果回避義務とする。
  • 過失の置き場は説によって違う:旧過失論=責任要素/新過失論=第一次的には構成要件要素。過失を構成要件要素に数えるのは新過失論の整理による。
  • そのうえで、過失を(外から認識できない内面に関する)主観的構成要件要素の列に並べるのは教材の分け方。新過失論でみる過失の中身は心理状態に尽きず、予見可能性を前提にしつつ、中心は結果回避義務に違反した行為。
  • 予見可能性が全く無ければ、結果回避義務は課せない(予見可能性は不要ではない)。
旧過失論新過失論(この回の定義)
過失とは非難に値する心理状態(「うっかりしていた」)第一次的には行為そのもののあり方
置き場責任要素第一次的には構成要件要素(責任要素でもある)
注意義務予見義務客観的な結果回避義務が中心

工場で、安全装置を確認せずに機械を動かし同僚が負傷 → 確認すべきだったのに怠った=結果回避義務違反の行為。機械に製造元も知らない内部の欠陥があり、点検手順を全部守っても避けられなかった → 予見できず、回避義務も課せない=過失は否定される方向。

出題学生Cの立場:過失犯を故意犯と異なる構造の犯罪類型とみる立場(⑥)から、予見可能性は結果回避義務の前提であり、結果発生の原因となる事実の認識ないし認識可能性があれば結果回避措置を義務付けてよい(⑦)と考える(正答:⑥a・⑦g)

×にされやすい形
  • 「新過失論では、結果回避義務違反があれば、予見可能性が無くても過失が認められる」(予見可能性が前提)
  • 「構成要件的過失は、結果を予見しなかったという心理状態そのものをいう」(それは旧過失論の見方)

7目的犯と主観的超過要素:条文

  • 目的犯=一定の目的が構成要件要素になっている罪。
  • :行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は三年以上の拘禁刑に処する。
  • 目的犯の目的=客観的構成要件要素の認識・認容を超える特別の意欲。認識・認容を超える主観的要素を主観的超過要素という。
  • はみ出すのは故意の枠からであって、構成要件の外ではない=目的も主観的構成要件要素。故意(偽造していることの認識・認容)とは別に認定する。
  • 通貨偽造の「行使の目的」=偽造通貨を真正なものとして流通に置く目的。自分で使う目的に限らず、他人に渡して使わせる目的でもよい。
  • 同じ「行使の目的で」の例:公文書偽造()。目的を書く条文はほかに、事後強盗(「…取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために」)、身の代金目的略取等(「…財物を交付させる目的で」)。
  • 主観的超過要素の典型は目的犯の目的。傾向犯の傾向(項目8)も含めて主観的超過要素と呼ぶ整理もある。
通貨を精巧に偽造した偽造の認識・認容があるか構成要件的故意故意が無いいいえはい行使の目的があるか真正な通貨として流通に置く目的(自分で使う・他人に使わせる)148条1項に当たらない見せ金・舞台の小道具いいえはい148条1項の構成要件に当たる
故意(認識・認容)がそろっても、行使の目的が無ければ148条1項の型に当たらない。目的は故意を超える主観=主観的超過要素。

同じ精巧な偽札でも、店で代金に使う・知人に渡して使わせるつもりなら「行使の目的」がある。札束があるように見せるだけ(見せ金)や、舞台の小道具に使うつもりなら、どれほど精巧でもは成立しない。

出題身の代金目的誘拐罪は、安否を憂慮する者の憂慮に乗じて財物を交付させる目的を主観的要素とする目的犯である(○)【見解】共犯の成立には正犯の行為が構成要件に該当し違法であることを要する、に従うと、甲が乙を唆して私文書を偽造させたが乙に行使の目的がなかった場合、甲に私文書偽造罪の教唆犯は成立し得ない(○)

×にされやすい形
  • 「偽造の認識・認容があれば、行使の目的が無くても通貨偽造罪は成立する」(目的は故意とは別の要件)
  • 「目的犯の目的は故意の枠を超えるので、構成要件要素ではない」(故意の外だが構成要件の中)
  • 「自分では使わず、他人に渡して使わせる目的で偽造した場合は、行使の目的が否定される」

8傾向犯:最判昭45・1・29 と 最大判平29・11・29判例

  • 傾向犯=行為者の特定の心情・内心の傾向を構成要件要素とする犯罪。
  • 従来の代表例は強制わいせつ罪(当時の)。最判昭45・1・29 は同罪の成立に性的意図を要すると判示し(法廷意見は「傾向犯」の語を使っていない)、教材はこの判例を根拠に同罪を傾向犯に分類していた。これは罪名も判例も現行でない。
  • ①罪名:は令和5年法律第66号(2023-07-13施行)で不同意わいせつ罪に。②判例:最大判平29・11・29 が昭45を変更(判決が対象にしたのは平成29年改正前の=強制わいせつ罪)。
  • 最判昭45・1・29(逃げた内妻の手引きをしたと信じた女性を脅迫し、仕返しのため裸にして写真を撮った事案・破棄差戻し):
  • 刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、
    婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである。
  • 最大判平29・11・29(13歳未満と知りながらわいせつな行為をした事案。性欲を満たす意図ではなく金銭目的だったという弁解が排斥できなかった・上告棄却):
  • 行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,
    …もはや維持し難い。
  • そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。
  • 本件の行為(13歳未満の被害者に陰部を触るなどした行為)について:
  • 当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかであり
  • 「成立要件ではない」と「判断で一切考えない」は別:わいせつな行為かどうかの判断で、行為者の目的などの主観的事情を考慮すべき場合はあり得る。
  • 試験で押さえるのは2点:傾向犯=行為者の内心の傾向を構成要件要素とする主観的構成要件要素の類型(名前と定義)/強制わいせつ罪に性的意図を要求した最判昭45は、最大判平29で変更済み。
最判昭45・1・29最大判平29・11・29
性的意図強制わいせつ罪の成立に必要一律に成立要件とするのは相当でない(判断要素として考慮すべき場合はあり得る)
事案の結論報復目的の裸体撮影・性的意図の認定なし → 認定された事実では強制わいせつ罪に当たらない(他の罪に問う余地と、性的意図が証明されれば同罪で処断できる余地があるとして破棄差戻し)性的性質が明確な行為 → 客観的にわいせつな行為・強制わいせつ罪成立(上告棄却)

出題性的意図を有さず、専ら侮辱・報復のため乙を脅迫して裸にし写真撮影した場合、強制わいせつ罪(出題時の言葉)が成立することはない(×)

×にされやすい形
  • 「判例は、強制わいせつ罪の成立には、性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図を要するとしている」(最大判平29が変更)
  • 「最大判平29以後、行為者の目的などの主観的事情は、わいせつな行為かどうかの判断で一切考慮されない」(考慮すべき場合はあり得る)
  • 「は強制わいせつ罪を定め、性的意図を要する傾向犯の代表例である」(罪名も判例も古い)

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