刑法ゼロから刑法#8

構成要件要素

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第2章 構成要件と実行行為 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事実無根のうわさ話に、部品はいくつ隠れているか

駅前で起きたこと

前回の第一関門は、構成要件該当性でした。条文の型に、必要な部品が全部そろっているか——その判定です。今日は、その中身(部品)を1つずつ拾っていきます。Aは、駅前の広場で、大勢が行き交う中、Bの話をしました。「Bは過去に横領で捕まった」という、事実無根の話です。この出来事を、ある条文に当てはめてみます。

条文刑法230条1項

刑法230条1項(名誉毀損) 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、 三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

今日は、まずこれを数えてみましょう。「公然と」「事実を摘示し」「名誉を毀損した」——3つか4つに区切れそうです。「摘示」は、具体的な事実を示す、という意味です。この部品を、これから名前つきで整理していきます。はい、まずは存在だけを、確認してもらいました。先に言っておくと、部品の種類は、全部で8つです。しかも、そのうち半分は、目には見えません。ここから、部品を2つのグループに分けていきます。

客観と主観——分かれ目はただ1つ

他人が見て分かるか、それだけの基準

さっき数えた部品は、実は全部、同じグループです。はい、どれも、外から見て、他人にも分かるものです。これを、客観的構成要件要素と呼びます。ただ、これだけで、処罰が決まるとは限りません。犯人の頭の中に、何があったかを、聞かれることもあります。駅前の話でいえば、Aが「大勢に聞かれている」と分かっていたかどうか。これを、主観的構成要件要素と呼びます。分かれ目は、たった1つの基準です。他人が見て分かるか、本人の頭の中か。それだけです。ただ、ここは注意が必要です。「客観=事実、主観=評価」ではありません。条文の言葉には、評価が要るものもあります。それは別の回で。なお、刑法の理論の回で出てきた客観主義・主観主義は、犯罪の何に評価の的を向けるか、という立場の対立でした。今日の客観・主観は、部品を置く場所の話です。別物として持ってください。今日は、この基準だけ、持ち帰ってください。

客観の主役3つ——行為・結果・因果関係が並ぶ理由

行為、結果、そしてその2つをつなぐもの

客観側の要素の中でも、特に重要なものが3つあります。1つ目が、実行行為です。2つ目が、構成要件的結果です。そして3つ目が、その2つをつなぐ、因果関係です。はい、この順番のまま、一直線に並んでいます。行為が無ければ、結果は生まれません。だから、行為が先頭に来ます。そして、行為と結果がつながっているかが、最後です。駅前の話でいうと、Aが大声で言いふらした——まず、この行為があります。そして、その2つがつながっているか。答案でも、この順で検討します。はい、これから1つずつ、見ていきましょう。

実行行為——定義を3つに割って持ち帰る

事件その2——Aが、Bを金属バットで殴った

新しい出来事です。Aは、かねてから恨んでいたBを殴りました。金属のバットで、後頭部を、思い切り殴打しました。Bは、それによって脳挫傷を負い、死亡しました。「人を殺した」、あの型です。前回、全文を見ましたね。まず、Aがバットで殴った、この行為に注目しましょう。実行行為には、正確な定義があります。

実行行為の定義——3つのブロック

この定義、一息で覚えようとすると、つまずきます。だから、3つのブロックに分けて説明します。1つ目のブロックは、「特定の構成要件に該当する」です。その犯罪の条文の型に、当たっているという意味です。前回の「第一関門=構成要件該当性」も同じ言葉ですが、あちらは全体の判定、こちらは部品を1つ選ぶときの目印です。2つ目のブロックが、いちばん大事です。「法益侵害の現実的危険性を有する」です。はじめの回で出てきた、法律が守ろうとしている利益のことです。ここでは、Bの命ですね。ここで、注意してほしいことがあります。これは、「結果が起きる危険」ではありません。「法益そのものが害される危険」です。バットで殴った時点では、まだBは死んでいません。でも、その行為自体が、命という利益を害する危険を持っています。この違いは、あとの回で決定的に効いてきます。「結果発生の危険」と縮めると、崩れる場面が出てきます。最後、3つ目のブロックが、「行為」です。前回、故意だけでなく、過失も、しないことも「行為」に入る、と見ましたね。その「行為」を、そのまま入れておいてください。この3つを合わせたものが、実行行為の定義です。事件でいえば、バットで後頭部を殴打する行為が、命という法益を侵す、現実的な危険を持つ行為です。だから、この行為は、実行行為に当たります。なぜ結果ではなく法益侵害で定義するのか。世の中には、結果の無い犯罪もあるからです。結果に頼らない定義でないと、それを説明できません。はい、この絞り込みの中身は、別の回で扱います。今日は、この定義そのものを、正確に持ち帰ってください。

結果と因果関係——条文になくても要る理由

Bの死亡という結果

バットで殴られたBは、そのあと脳挫傷で死亡しました。この「Bの死亡」が、2つ目の部品です。正確には、構成要件的結果と呼びます。199条という型の中で、要求されている結果だからです。では、3つ目の部品を見ましょう。殴った行為と、死亡という結果をつなぐ関係のことです。

条文に書かれていないのに要る要素

199条を見返しても「因果関係」という言葉はありません。実は、条文には直接、書かれていません。それでも、結果犯という種類の犯罪では、解釈によって必要とされます。結果犯とは、結果の発生を要件にしている犯罪のことです(分け方そのものは次回まとめて扱います)。「よって死亡させた」のような言葉が無くても、例外なく要求されます。行為と結果がつながっていなければ、その結果はその行為のせいだとは言えないからです。だから、明文が無くても、当然に要求されます。これは構成要件の中身を詰める回にもつながる話です。因果関係の判定の中身は、別の回で扱います。今日は「書かれていないのに要る」という事実だけ、覚えておけば十分です。

「その他」も部品——主体・客体・状況

230条1項に戻る——部品の答え合わせ

さっきの、駅前の出来事に戻りましょう。230条1項に残っていた部品を、名前つきで回収します。「人の」は、行為の対象、客体と呼びます。そして「公然と」、これが行為の状況です。主体・客体・状況、これらを「その他」の要素と呼びます。名前は軽くても、立派な構成要件要素です。ここで、試しに事情を変えてみましょう。もし、誰もいない部屋で、AがBに1対1で言っただけだったら。その場合、「公然と」という状況が欠けている可能性があります。そもそも、230条という型に当たらないかもしれません。この判定の厳密な中身は、また別の回で扱います。今日は、状況も部品の1つだ、という感覚だけ持ち帰ってください。行為の主体についても、ひとつだけ触れておきます。犯罪には、誰でもできるものと、一定の身分が要るものがあります。はい、その中身も、別の回で扱います。今日は名前だけです。

主観へ——構成要件的故意は「認識・認容」

客観の部品表が完成——次は主観へ

ここまでで、客観側の部品は、全部そろいました。全部、他人から見て分かるものでした。ここから、主観側に移ります。はい、こちらは4つあります。1つ目が、構成要件的故意。2つ目が、構成要件的過失。3つ目が、目的犯の目的。4つ目が、傾向犯の傾向です。まずは、1つ目の故意から見ていきましょう。定義は、こうです。客観的構成要件要素の認識・認容。事件で確かめましょう。Aは、バットで殴れば、Bが死ぬかもしれないと分かっていました。「死ぬかもしれない、それでもいい」、こう思っていたとします。死ぬかもしれないと認識しています。それでもいいと認容している状態です。ここが大事な注意点で、「絶対に殺してやる」と強く思う必要はありません。積極的な意欲までは、要りません。認識して、それでも構わないと思っていれば足ります。望んでいたかどうかで線を引くと、こうなります。「死ぬかもしれない、それでもいい」と思って殴った人が、故意から外れてしまいます。ここを取り違えると、あとの回で必ずつまずきます。故意の中身をもっと詳しく扱う回で、また戻ってきます。それと、これは構成要件レベルの故意だという点も大事です。前回の地図では、故意は第一関門の中身、と置きましたね。今日見ているのは、その第一関門の中の故意です。置き場所を混ぜないために、そこだけ区切っておきます。

構成要件的過失——予見可能性を前提とした義務違反

事件その4——工場での事故

主観の2つ目、構成要件的過失を見ましょう。工場で働くAが、機械の安全装置を確認せずに稼働させました。その結果、同僚のBが、大怪我を負いました。わざとではありません。ここで問われるのが、過失です。過失の定義は、2つに分けて説明します。1つ目は、「予見可能性を前提とした」です。危険を予測できたはずだ、ということが前提になります。そして2つ目が、「結果回避義務に違反する行為」です。危険を避けるために、確認する義務があったのに怠りました。この、義務に違反する行為そのものを、過失と呼びます。ここが大事なポイントで、「うっかり」「不注意」とは言い換えません。過失は、「義務に違反する行為」という、行為の話だからです。判断の対象が変わります。「うっかり」だと、心の中をのぞく話になります。行為で捉えるなら、「安全装置を確認すべきだったのに、しなかった」。ここを見れば足ります。単なる心の緩みではなく、やるべきことを怠った、という行為で捉えます。なぜこの定義になるのかは、別の回でじっくり扱います。

目的犯——故意だけでは足りない場面

事件その3——闇市場で使う偽の一万円札

3つ目の事件です。Aは、精巧な偽の一万円紙幣を大量に刷りました。しかも、闇市場で使うためでした。

条文刑法148条1項

刑法148条1項(通貨偽造及び行使等) 行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、 無期又は三年以上の拘禁刑に処する。

まず、Aが「偽造した」という行為があります。そして、Aは自分が偽造していることを、認識・認容していました。行為と故意、両方そろっています。ここが、今日いちばんの注意点です。それだけでは足りません。条文には、もう1つ、独立した要件があります。「行使の目的で」、この部分です。これは、故意の認識・認容とは別に必要な要件です。「偽造していると分かっていた」だけでは、足りません。「使うつもりだった」という、もう1段の意欲が要ります。同じ偽の一万円札でも、精巧さを試したいだけで刷って、手元に置いたままだったとします。認識も認容もあります。でも「行使の目的」はありません。そうなると、148条1項という型には当たりません。

故意の枠から、はみ出す主観

故意の枠からはみ出す主観を、主観的超過要素と呼びます。こういう目的が要件になっている犯罪を、目的犯と呼びます。この「行使の目的」を「動機」と呼ぶのは、よくある間違いです。「動機」ではありません。動機は、原則として構成要件要素ではありません。でも「行使の目的」は、条文に明記された独立の要件です。「動機」と呼んでしまうと、主張・認定すべき要件を、丸ごと落としてしまいます。故意だけを確認して、目的を見落とす。これが、今日いちばんの落とし穴です。238条、事後強盗罪も同じ構造を持っています。ここでは名前と場所だけ、覚えておいてください。通貨偽造と、事後強盗、それぞれの回でまた扱います。目的犯では、故意の外に、もう1つの主観が要ります。

傾向犯——教材が古くなっている場所

かつての理解と、今の理解

主観、最後の4つ目、傾向犯の傾向を見ましょう。犯人の心の中にある、特定の傾き。それが要件になっている犯罪を、傾向犯と呼びます。ここでは具体的な事案には立ち入りません。今日は、この名前だけ持ち帰ってください。ただ、ここで、大事な話をします。かつて、傾向犯の代表例として、ある犯罪が挙げられていました。現在の176条に当たる犯罪です。わいせつな心情、これが要件だとする、昔の判例(最判昭45・1・29)がありました。ここで2つ、現行法の話をします。1つ目、176条は今、罪名も要件も作り直されています。現在の見出しは、「不同意わいせつ」です。そして2つ目。さっきの、心情を必要とした判例です。これは、最高裁が後になって、大法廷で判断を変更しました(最大判平29・11・29)。大法廷は、通常より大きな会議体で、判例を変えるときなどに開かれます。故意のほかに、行為者の性的な意図まで一律に要件とするのは相当でない。こう判断が変わったんです。傾向犯という考え方自体は、今も残っています。でも、「176条が今もそのままの代表例だ」というのは危ういんです。罪名も、判例も変わったことに、気づかないままになります。参照した教材が古いまま、答案に書いてしまう。これが、いちばん損をするパターンです。176条の今の中身(8つの類型や詳しい要件)は、別の回で扱います。参照は、更新されるまで待ってくれません。

部品表で答え合わせ

客観4つ、主観4つ——今日の部品表

では、今日拾った部品を、1枚の表にまとめましょう。客観側は、4つです。実行行為、構成要件的結果、因果関係、そして「その他」です。主観側も、4つです。構成要件的故意と、構成要件的過失。それから、目的犯の目的と、傾向犯の傾向です。このうち目的と傾向は、故意の枠からはみ出す主観=主観的超過要素でした。今日は、この8つの名前と、位置を持ち帰ってください。冒頭の230条1項に戻ると、全部説明が付きます。「人の」が客体、「公然と」が状況です。「事実を摘示し、名誉を毀損した」の部分に、実行行為が含まれます。次回は、この部品のうち「結果」に着目します。結果の有無や種類によって、犯罪がいくつかのグループに分かれます。

参照条文

  • 刑法230条1項
  • 刑法148条1項

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