刑法 ゼロから刑法#9

犯罪の分類

構成要件を複数のものさしで切り分け、分類が既遂時期・時効・共犯の成否を左右することを扱う回。結果犯/挙動犯・侵害犯/危険犯などを整理。108=抽象・110=具体の逆転が頻出。

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第2章 構成要件 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

第一関門「構成要件」は、いくつもの”ものさし”で犯罪を切り分けられる。分類は単なる暗記ではなく、既遂の時期・公訴時効の起算・共犯の成否といった結論を左右する。ここでは4つのものさしを押さえる。

① 結果の要否 — 結果犯と挙動犯

結果犯とは、一定の結果の発生を構成要件要素とする犯罪をいう。殺人罪は「人の死亡」という結果を要する。刑法上の多くの犯罪はこの結果犯である。これに対し挙動犯(形式犯)とは、結果の発生を必要とせず、一定の身体的動作のみで成立する犯罪をいう。住居侵入罪・不退去罪が例である。

結果犯の特殊な形態が結果的加重犯である。故意に基づく基本犯を行ったところ、行為者の予見を超える重い結果が生じた場合に、基本犯より重い刑を定める類型をいう。傷害のつもりが死亡させた傷害致死罪(205条)が典型で、条文に「よって」の文言が用いられることが多い(強盗致死罪240条など)。

② 法益侵害の要否 — 侵害犯と危険犯

侵害犯(実害犯)とは、保護法益を現実に侵害したことが構成要件要素となる犯罪をいう(殺人罪=生命が現実に侵害される)。これに対し危険犯とは、現実の侵害までは要らず、法益侵害の危険が生じれば足りる犯罪をいう(放火罪・内乱罪77条)。

放火罪でいう「危険」とは、周りの建物や人に火が燃え移るおそれ、すなわち「公共の危険」である。この公共の危険を現実に確かめるかどうかで、危険犯はさらに2つに分かれる。

  • 具体的危険犯=危険が現実に発生したことを構成要件要素とする。110条(建造物等以外放火罪)は「公共の危険」の発生が要求されており、これにあたる。
  • 抽象的危険犯=危険が現実に発生したことを要素としない。108条(現住建造物等放火罪)は「公共の危険」の発生を要求せず、焼損すれば成立する。これにあたる。

条文を並べると違いが一目で分かる。108条には「公共の危険」の文字がなく、110条には「よって公共の危険を生じさせた」と明記されている。

【条文】刑法108条(現住建造物等放火罪) 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。

【条文】刑法110条1項(建造物等以外放火罪) 放火して、前二条に規定する物以外の物を焼損し、よって公共の危険を生じさせた者は、一年以上十年以下の拘禁刑に処する。

なぜ逆になるのか——カギは「燃やす対象」の危なさ。 人が住む家(108条)は、燃やせば当然みんなが危ない。だから法は危険の発生をいちいち確かめず、焼損した時点で成立とする(危険を擬制=抽象的危険犯)。一方、自動車など建物以外(110条)は、燃やしても周りに何もなければ危険は生じない。だから「公共の危険が現実に出たか」を要件とする(具体的危険犯)。たとえば山中にぽつんと置かれた車に放火しても、周囲に危険が及ばなければ110条は成立しないことがある(器物損壊にとどまりうる)。

〔超頻出〕108=抽象(焼損で成立)/110=具体(公共の危険が必要)。対象の危なさが違うから要件も逆になる、と理解すれば逆に覚えない。

③ 既遂後の法益侵害 — 即成犯・状態犯・継続犯

このものさしの軸は「既遂のあと、犯罪行為そのものが続いているか」である。

  • 即成犯:既遂と同時に法益侵害が完成し、終了する犯罪(殺人罪)。人が死ねば侵害はそこで完成し、続きようがない。
  • 状態犯:既遂後も法益侵害”状態”は残るが、行為自体は終わっている犯罪(窃盗罪)。残る状態は新たな犯罪を構成しない——盗んだ物を持ち続けても新たな窃盗にはならない(不可罰的事後行為)。
  • 継続犯:既遂後も実行行為と法益侵害が継続する犯罪(監禁罪)。閉じ込めている間、ずっと監禁罪を実行し続けている。

【条文】刑法220条(逮捕及び監禁罪) 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。

継続犯には短答頻出の効果がある。①犯罪行為が終了するまで公訴時効は始まらない。②既遂のあとでも、途中から加わった者に共犯が成立しうる。冒頭の「監禁から10年でも時効未開始」は、まさにこの①の帰結である。行為が続いているかどうかが、時効や共犯の成否を分ける。

④ 主観 — 故意犯と過失犯

故意犯は故意を構成要件要素とする犯罪で、これが原則である。過失犯は過失で足りる犯罪だが、過失致死罪など一定の重大犯罪に限って処罰される例外である。「うっかり」は原則として不可罰、と押さえる。

⑤ 構成要件”要素”の種類 — 記述的と規範的

犯罪そのものだけでなく、構成要件の”要素”にも種類がある。

  • 記述的構成要件要素:見ればわかるもの(例:「人」「物」「殺す」)。
  • 規範的構成要件要素:価値判断が必要なもの(例:「わいせつ」175条・「公然」)。意味内容が社会の常識・価値観で変わりうるため、裁判官の規範的・評価的な価値判断が入る。

→ 規範的要素について「どの程度の認識があれば故意があるといえるか(意味の認識・素人的認識)」は、第2章 故意の回(#15)で扱う。

短答ひっかけ

  • 108=抽象的危険犯/110=具体的危険犯(逆に注意)。
  • 「危険犯」と「結果犯/挙動犯」は別のものさし。放火(108条)は危険犯だが、焼損という”結果”は必要——すなわち危険犯かつ結果犯である。
  • 継続犯は公訴時効が”終了時”から起算される(既遂で終わる即成犯と混同しない)。

参照条文

  • 刑法108条(現住建造物等放火罪)
  • 刑法110条1項(建造物等以外放火罪)
  • 刑法220条(逮捕及び監禁罪)

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