構成要件の確定と実行行為
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第2章 構成要件と実行行為 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
窃盗罪の条文を、そのまま開いてみる

六法を丸暗記すれば、犯罪の成立要件は全部わかる——そうではありません。条文を最後まで読んでも、構成要件は決まりません。出来事を1つ、見てください。Aは、コンビニで、陳列棚の商品を上着の内側に入れました。そのまま、レジを通らずに店を出ています。その窃盗罪の条文を、そのまま開いてみましょう。
条文刑法235条
刑法235条(窃盗) 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
しかも、罪の中身を決めているのは、前半だけです。「他人の財物を窃取した者は」、この12文字です。犯罪が成り立つかどうかとは、別の話です。そこで、今日の1つ目の問いです。この12文字が、窃盗罪の構成要件の全部でしょうか。いい勘です。足りない部分を、出どころごとに拾っていきます。ここで1つ、思い出していただきたいことがあります。実行行為の定義を、3つのブロックに分けてお渡ししましたね。真ん中のブロックは、何だったか思い出せますか?それが、今日の2つ目の問いです。なぜ、わざわざ現実的な危険性で絞るのでしょうか。この2つを、窃盗罪ひとつで、最後まで追いかけます。
基本的構成要件——各本条が1つずつ持っている型

まず、言葉を1つお渡しします。刑法各本条が、個別に定めている構成要件を、基本的構成要件と呼びます。235条が窃盗罪、199条が殺人罪、246条が詐欺罪です。罪の数だけ、型が1つずつ用意されています。ただ、名前に引っかかりませんか。そこです。基本的と付くからには、基本でないものがあります。今日の後半で回収します。いまは、名前だけ置いておいてください。
235条の分解①——条文に書いてあるもの

では、235条の言葉を割っていきましょう。まず「他人の」と「財物」。これは何を指していますか。行為が向けられる対象なので、行為の客体と呼びます。次に「窃取した」。これが実行行為です。そこは、成立したあとに何が起きるかを書いた部分です。罪の名前と法定刑は、構成要件の要素ではありません。答案で要素を並べるときは、前半だけを見てください。さて、ここからが本題です。「窃取した」とは、どういう意味でしょうか。もう少し正確には、占有者の意思に反して、財物の占有を移すことです。さっきのAで言えば、店の意思に反して、商品の占有を自分に移したことです。今日は、その理解で十分です。問題は、その中身が、条文のどこに書いてあるかです。「窃取」の中身は、条文に一言も書かれていません。誰の占有か、どこまでが占有かという議論は、窃盗罪の回で扱います。ここが、2つ目の層への入口です。
235条の分解②——書いていないのに要るもの

235条には、書いていないのに要る要素があります。それを、どこから来たのかで分けて、積んでいきます。まず、他の条文から来るものです。235条に、「故意に」という言葉はありましたか。では、傘立ての傘を、自分のものだと思って持ち帰った人はどうでしょう。故意が要ります。それは、どこから来るのか。
条文刑法38条1項
刑法38条1項(故意) 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
前回は、本文から故意犯が原則だと確認しました。今日は、その本文を、235条に足される条文として見ます。故意は、条文にそのまま書いてある成立要件です。根拠は38条1項本文。言葉として暗記せず、条文から取り出してください。次の層は、解釈が取り出すものです。2つあります。1つ目が、結果。占有が現実に移ったことです。条文の言葉に、含み込まれています。商品が、店の手元からAの手元へ、現実に移りました。2つ目が、因果関係です。こちらは条文に一言もありません。中身は、因果関係の回で扱います。そして同じ層に、判例が要求するものがあります。窃盗罪では、不法領得の意思というものが要ります。ざっくり言えば、他人の物を、自分の物のように使うつもりです。どこにも書いてありません。それでも、判例は要求しています。中身は窃盗罪の回です。今日は、こういうものまで足される、という事実だけです。
勝手に足していいのか——解釈と類推のあいだ

条文に書いていない要素を足すのは、類推解釈ではないのか。とてもいい引っかかりです。そこを通らないと、先へ行けません。答えは2つあります。1つ目は、作業の向きが違う、ということです。以前、言葉の可能な意味の範囲を、ゴムひもにたとえましたね。今日やっているのは、その枠の内側で、中身を詰める作業です。「窃取した」という言葉が、もともと予定している中身を確定しています。そこが分かれ目です。枠の外へ出せば、それは類推になります。類推解釈の禁止は、憲法31条を土台にした罪刑法定主義から出てくる原則でしたね。枠の外まで及ぼすことは、その禁止に正面からぶつかります。2つ目の答えは、足す方向です。さっきの不法領得の意思を、思い出してください。あれが要求されると、窃盗罪は成立しやすくなるでしょうか。条件が1つ増えるので、成立しにくくなります。不法領得の意思については、処罰の範囲が狭まる方向です。禁止されているのは、被告人に不利益な方向へ及ぼす類推でした。ただ、こうして足す要素が、いつも狭める方向だ、とまでは言えません。不法領得の意思については、そう言える。そこまでで押さえてください。故意は38条という別の条文から来るので、枠を広げてすらいません。因果関係も、不法領得の意思と同じく、要求されるほど処罰は狭まります。
修正された構成要件——1人で、やり遂げた形しか書いていない

さっき置いておいた「基本的」という言葉を、ここで回収します。235条には、「窃取した者」と書いてありましたね。盗もうとして、財布に手が届かなかった人は、この言葉に入りますか。「した」と書いてある以上、入りません。では、2人で組んで、1人が見張りをしていた場合はどうでしょう。見張りの人は、自分では盗っていません。刑法各本条は、通常、1人でやり遂げた形でしか書かれていません。なぜ「通常」なのかは、最後に1行だけ触れます。まず、やり遂げなかった場合の条文です。
条文刑法43条
刑法43条(未遂減免) 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
「減軽することができる」=必ず減軽されるわけではありません。減軽するかどうかは、裁判所が決めます。そこは間違えやすいところです。ただし書は、自分の意思でやめた場合です。こちらは減軽か免除になります。中止未遂という名前だけ、置いておきます。次は、2人でやった場合の条文です。
条文刑法60条
刑法60条(共同正犯) 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
これが共同正犯です。成立の条件は、共犯の回で扱います。なお、そそのかす側が61条の教唆、手助けする側が62条の幇助です。どちらも60条とは別の条文です。「共犯は60条以下」の「以下」には、今日は入りません。

ここまでを、掛け算の形にしてみましょう。235条に43条が掛かると、窃盗未遂という型ができます。235条に60条が掛かると、窃盗の共同正犯という型ができます。これを修正された構成要件と呼びます。199条でも同じです。「人を殺した者」だけでは、未遂も共犯も拾えません。各本条に書いていないので、総則側で作るしかありません。最後に1行だけ。「通常」と言ったのには、理由があります。以前、危険犯の例で出た内乱罪、77条です。あの条文は、首謀者と、付和随行した者とで、刑を書き分けています。各本条が自分で書いている場合もある、と頭の隅に置いてください。
43条だけでは、未遂は処罰されない

ここで、43条だけを見た人が、必ずする誤解があります。「未遂は、どの罪でも処罰される」という誤解です。この条文を見てください。
条文刑法44条
刑法44条(未遂罪) 未遂を罰する場合は、各本条で定める。
この1行が、大きな仕事をしています。43条は、未遂だったときに刑をどうするかを決めているだけです。その罪の未遂を処罰するかどうかは、各本条が決めます。243条が、罰すると定めています。だから、窃盗未遂は処罰されます。どの罪の未遂を罰するかも、あらかじめ法律が決めてあります。答案でも、未遂を論じる前に、処罰規定を確認してください。
235条の中に、2種類の要素がある

もう一度、235条に戻ります。同じ条文の中に、性質の違う要素が入っているからです。まず「財物」。それが目の前にあるかどうかは、どう決めますか。見れば分かります。このように見れば分かる要素を、記述的構成要件要素と呼びます。では「他人の」はどうでしょう。見れば分かりますか。誰の所有かは、法律のうえの評価を経ないと決まりません。こういう要素を、規範的構成要件要素と呼びます。評価を経なければ、当てはまるかどうかが決まらない要素です。そして、規範的な要素には、2つのタイプがあります。1つは、いまの「他人の」のように、法律のうえの評価が要るもの。もう1つは、社会の常識や価値観による評価が要るものです。後のほうは、少しあやふやに見えます。そこが問題になります。代表例が、この条文です。
条文刑法175条1項前段
刑法175条1項前段(わいせつ物頒布等) わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の拘禁刑若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。
この罪の中身は各論で扱います。今日は、この言葉だけを借ります。最後に、混ぜてはいけない軸を1つ。記述的か規範的かは、評価が要るかどうかの軸です。客観的か主観的かは、外から見えるかどうかの軸でした。
意味が動くとはどういうことか——決めるのは誰か

では、その「わいせつ」は誰が決めるのか。判例が、正面から答えています。この判決は、4つのことを言っています。順に見ていきましょう。
判例最大判昭和32年3月13日(大法廷判決・刑集11巻3号997頁)
チャタレー事件——わいせつ性を判断するのは誰か この判断が法解釈すなわち法的価値判断に関係しており事実認定の問題でないということである。 裁判所が右の判断をなす場合の規準は、一般社会において行われている良識すなわち社会通念である。 かような社会通念が如何なるものであるかの判断は、現制度の下においては裁判官に委ねられているのである。 なお性一般に関する社会通念が時と所とによつて同一でなく、同一の社会においても変遷があることである。
そこが1つ目です。証拠で決まる、事実の話ではありません。法律の解釈、つまり法的な価値判断だと言っています。2つ目。基準は社会通念、世の中の常識だとしています。3つ目。裁判官に委ねられている、と書かれています。社会通念は、一人ひとりの感覚の平均値ではありません。それに、誰かが最後に確定しなければ、有罪か無罪かが決まりません。その役割を、制度として裁判所に置いている、ということです。そして4つ目。いちばん見ていただきたいのが、最後の一文です。社会通念は、時と所によって同じではなく、変わっていく。判決文そのものに、書き込まれています。現に、20年以上あとの判例では、「その時代の」という言葉が枠組みに入りました。その判断の枠組みを、見てください。
判例最判昭和55年11月28日(第二小法廷判決・刑集34巻6号433頁)/〔 〕は省略した部分
四畳半襖の下張事件——わいせつ性の判断枠組み 文書のわいせつ性の判断にあたつては、当該文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、右描写叙述の文書全体に占める比重、文書に表現された思想等と右描写叙述との関連性、文書の構成や展開、さらには芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、これらの観点から該文書を全体としてみたときに、主として、読者の好色的興味にうつたえるものと認められるか否かなどの諸点を検討することが必要であり、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、〔わいせつ文書の定義部分は省略〕といえるか否かを決すべきである。
そこを見ていただきたかったんです。明確性の原則ですね。通常の判断能力を有する一般人が基準でした。実は、いまの判例が、そこにも答えています。175条の構成要件は、不明確であるとはいえない、としています。いま見た判断枠組みが、示されているからです。何を見て決めるのかが分かれば、一般人にも基準が読み取れます。ただし、この2つの判例が答えたのは、社会の常識で測るタイプの言葉についてです。もう1つ、評価が要る要素は、別の問題も生みます。どの程度まで意味が分かっていれば、故意があるといえるのか。これは、故意の回で扱います。今日は、名前だけ置いておきます。
実行行為——最初に検討する部品

ここから、話が一段変わります。ここまでは、型そのものを確定する話でした。ここからは、確定した型の部品を、1つずつ詳しく見ていきます。実行行為です。いちばん最初に検討する部品です。定義を、正確に置きます。
⭐ 論文で書く規範:実行行為の定義(3つのブロック) ① 特定の構成要件に該当する ② 法益侵害の現実的危険性を有する ③ 行為 一文にすると「特定の構成要件に該当する法益侵害の現実的危険性を有する行為」 (規範(通説で立てる))
以前に見たときと同じ文です。一字も動かさないでください。とくに、「結果発生の現実的危険性」と縮めてはいけません。なぜそうなのかは、今日の後半で見ます。もう1つ、この定義を使うときの前提があります。条文の側は、抽象的に書かれています。「窃取した」「人を殺した」。一方、実行行為かどうかを判断するのは、目の前の具体的な行為です。陳列棚の商品を上着に入れて、レジを通らずに店を出る。あるいは、相手に向けて銃を撃つ。この具体的な行為のほうです。この往復が、実行行為についての構成要件該当性の判断です。
なぜ現実的危険性で絞るのか——絞らなかった世界

では、今日の2つ目の問いに答えます。絞らなかったらどうなるかを見るのが、いちばん早いです。実行行為とは、結果に結びついた行為だ。そう決めたとします。Aは金物店の店員です。客のBに、包丁を1本売りました。Bは、その包丁でCを刺し、Cは亡くなりました。結果への寄与は、確かにあります。では、Aは殺人の実行行為をした人でしょうか。しかも、もっと遠くまで遡れます。Bを駅まで乗せた運転手はどうでしょう。Bを産み育てた親は。これが1つ目のこぼれ方です。原因の糸は、どこまでもたぐれます。では、2つ目のこぼれ方です。逆に、「殺そうとして何かをしたか」で決めたら、どうでしょう。今度は別の人が、恨んでいる相手を殺そうとして、毎晩、呪いをかけたとします。この物差しなら、呪いも入ってしまいます。殺すつもりで、毎晩、何かをしているからです。そこで、物差しを入れます。

その行為に、法益侵害の現実的な危険性があるか、で見ます。包丁を売る行為そのものに、Cの生命を害する現実的な危険はありますか。ありません。危険を作ったのは、刺したBのほうです。その行為だけで法益が害されうるか、で見分けます。では、呪いに、人の生命を害する現実的な危険はありますか。どちらも、ここで落ちます。これが、この絞りの働きです。包丁を売る行為と、包丁で刺す行為。線は、ここに引かれています。今日話しているのは、その一段手前です。原因として寄与しただけでは実行行為とは言えない、という話です。因果関係そのものの判断は、因果関係の回で扱います。なお、呪いのような行為の理論的な扱いは、不能犯という論点です。名前だけ置いておきます。中身は、未遂の章です。

そして、ここからが、いちばん大事なところです。この絞りは、どの段階で効いていますか。構成要件該当性・違法性・責任、この3つの関門でしたね。では、もしここで切らなかったら、どうなるでしょう。違法性か、責任のところで外すことになります。ただ、その人はいったん「構成要件に該当する」と言われます。捜査や起訴の対象になりうる、ということです。構成要件の段階で切れば、そもそも犯罪の入り口に立ちません。そこです。この絞りは、暗記のための定義ではありません。国民の自由を守るための線です。型に当たらなければ、検討さえ始まらない。以前見た保障機能と、同じ線の上です。
特定の構成要件に該当する——実行行為は罪ごとに違う

先に進む前に、1つ確かめさせてください。なぜ実行行為を、現実的な危険性で絞るのか。ご自分の言葉で言えますか?——絞らないと、原因として寄与しただけの人まで入ってしまうから。そして、構成要件の段階で切らないと、自由が守られないから。それが言えれば、今日の山は越えています。では、定義の残りのブロックに戻ります。出来事で見ましょう。Aが、平らな場所で立っているBの腕を、強く引いて転倒させました。これは、傷害罪の実行行為でしょうか。人の身体を害する危険は、ありそうです。では、同じ行為は、殺人罪の実行行為でしょうか。死ぬかもしれない、と言われると無理があります。平地で腕を引く行為に、人の生命を害する現実的な危険は、通常ありません。そこです。「危険な行為一般」というカテゴリーは、ありません。危険は、罪ごとの型に照らして測ります。答案でも、何罪の実行行為にあたるか、と書き出してください。もう1つ、「法益侵害の」という言い方についてです。結果の発生を要件にしない罪も、ありましたね。挙動犯です。構成要件的結果の発生を、要件にしない罪でした。たとえば、住居に無断で立ち入る行為です。条文は、その先に何か結果が起きたことまでは求めていませんでした。そこにも実行行為はあります。「結果発生の危険」では、届きません。ただ、結果が要る罪でも、話は終わりません。この言い回し自体に、学説上の議論があります。抽象的危険犯だった、建物を燃やす罪を思い出してください。こちらは法益侵害の発生までは要件にしない罪でした。焼損という結果は起きても、まわりの人たちの安全は、まだ壊れていません。法益侵害と、構成要件的結果は、必ずしも一致しないんです。答案では、判例・通説どおりの語順で書けば、それで足ります。
実行行為が決まって、はじめて言えること

最後に、今日の位置を確認します。実行行為は、起点です。これが決まってはじめて、いつ着手したと言えるのかを語れます。その行為と結果が結びつくか、も語れます。順番を逆にすると、答案が崩れます。そして、この実行行為には、引っかかる場面が2つあります。1つ目。何もしていないのに、実行行為があると言えるでしょうか。2つ目。自分で手を下していないのに、実行行為をしたと言えるでしょうか。前半で足したことも、後半で絞ったことも、やっていることは同じです。処罰される範囲を、法律があらかじめ決めた線の内側に確定する。それだけです。今日は、2つだけ持ち帰ってください。構成要件は、条文そのものではありません。そして、実行行為の絞りは、自由を守るための線です。
参照条文
- 刑法235条
- 刑法38条1項
- 刑法43条
- 刑法60条
- 刑法44条
- 刑法175条1項前段