刑法 ゼロから刑法#10

実行行為——「現実的危険性」とは

客観的要素の1つ目=実行行為を扱う回。実行行為とは結果発生の現実的危険性をもつ行為で、予備と未遂の境=実行の着手(43条)が未遂処罰の出発点であることを押さえる。

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第2章 構成要件 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

第一関門「構成要件」の客観的要素の1つ目が実行行為である(#8で実行行為・結果・因果関係の3つと地図化した、その1つ目)。犯罪の”実行”がどこから始まるかを「結果発生の現実的危険性」で線引きし、処罰してよい行為の入口を画する概念。

実行行為の定義

【規範】実行行為 実行行為とは、特定の構成要件に該当する、(構成要件的)結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。

キーワードは「現実的危険性」。実行行為は、ただ「何かをやった行為」ではない。結果(法益侵害)を現実に引き起こす危険をもった行為に限られる。

  • 例:殺人で「人に向かって歩く」は行為だが実行行為ではない。「拳銃を人に向けて撃つ」が実行行為。

なぜ「現実的危険性」で絞るのか=処罰の入口を画す

危険のない行為まで処罰すると、処罰範囲が際限なく広がる。

  • 例:藁人形に釘を打って人を呪い殺そうとしても、死の現実的危険はない。これを殺人の実行として罰すると、刑法が内心や迷信まで処罰することになってしまう。

刑法は法益を守る一方で、人の行動の自由も守る(罪刑法定主義・自由保障=#3・#5と地続き)。だから「結果を現実に起こしうる危険のある行為」だけに絞り、ここを処罰してよい行為の入口とする。

  • 判別:弾の入った拳銃を人に向けて引く=危険性あり(実行行為)/空と分かる玩具の銃を向ける=危険性なし(実行行為でない)。その行為が結果を現実に起こしうるかで線を引く。
  • ※「危険をいつの時点で・誰の目線で測るか」という判断方法は、未遂犯の「実行の着手時期」や不能犯で本格的に争う論点=#29(未遂犯)へ。本回は「危険性で画す」という意義まで。

予備と未遂の境=実行の着手

包丁を例に、時間の流れで見る。

段階扱い
準備=予備包丁を買う・研ぐ現実的危険性が薄い。原則不可罰(殺人予備罪201条など、特別な予備罪のある犯罪のみ例外)
実行の着手 → 実行行為(未遂振りかぶって切りかかる現実的危険性が一気に高まる。ここから”実行”。未遂のはじまり
既遂刺して、死亡結果が発生

予備(準備)と未遂の境目が「実行の着手」である。

【条文】刑法43条(未遂減免) 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

実行に着手して」が未遂処罰の出発点。つまり実行行為に着手したかどうかが、未遂を罰せるかの分かれ目になる。実行行為は、未遂の起点でもある。

  • ※実行の着手の具体的な時期の判断基準(実質的客観説/窃盗の物色 最判昭23・4・17/クロロホルム 最決平16・3・22/特殊詐欺 最判平30・3・22)、および予備罪の一覧・語呂は、未遂犯の核心論点=#29(未遂犯)へ。本回は「予備/未遂の境=着手があること」「予備は原則不可罰」までに留める。

例外類型の予告(作為が原則)

実行行為は普通「何かをする=作為」の形で問題になる(作為が原則)。ただし例外が2つある。

  • 不作為でも実行行為性が問題になる場合(不真正不作為犯=親が溺れる子を見殺し)→ #11(c2-5)
  • 間接正犯=他人を道具に使って実行する場合(道具理論)→ #12(c2-6)

短答ひっかけ

  • 実行行為=単なる行為ではなく「現実的危険性」が必要。
  • 予備(準備)未遂(実行の着手)は別。境目が実行の着手で、準備だけなら原則不可罰(特別の予備罪がある罪のみ処罰)。
  • 実行行為は作為が原則。何もしない「不作為」(不真正不作為犯・#11)や、他人を道具に使う「間接正犯」(#12)でも実行行為性が問題になる。

参照条文

  • 刑法43条(未遂減免)

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