刑法 ゼロから刑法#12

間接正犯——道具理論・成立要件

実行行為の例外類型=間接正犯を扱う回。他人を道具として利用する正犯で、教唆との違いは相手に規範的障害があるか。①正犯意思②一方的支配・利用の要件と6類型を整理する。

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第2章 構成要件 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

実行行為は作為が原則だが、他人を”道具”として利用して犯す形でも実行行為になる。これが間接正犯。

間接正犯とは(道具理論)

間接正犯とは、他人を道具として利用し、犯罪(実行行為)を実現する正犯をいう。ピストルで撃つのと同じく、事情を知らない人も犯人にとっては”道具”であり、自ら手を下さなくても道具を使う利用行為に結果への現実的危険性がある=利用者自身の実行行為(道具理論)。道具にされた被利用者は、原則として罪に問われない。

なぜ”正犯”なのか=因果支配(教唆との違い)

手を下していないのに正犯となるのは、利用者が結果までの因果を支配しているから。教唆との違いは「相手が思いとどまれたか(規範的障害の有無)」にある。

  • 教唆=相手は是非を判断でき、やるかどうかを自分で決められる(規範的障害がある=「犯罪だ、やめよう」と踏みとどまれる)。それを乗り越えさせる”そそのかし”。
  • 間接正犯=相手に規範的障害がない(止まりようがない)。利用者が因果を握る → 利用者自身が実行した正犯。

判別例:事情を全部知る友人に「やれよ」と勧める=教唆(相手は自分で決められる)/毒と知らせず手渡して届けさせる=間接正犯(相手は止まれない=道具)。

成立要件(=実行行為性で基礎づける)

間接正犯の正犯性は、利用者の行為に現実的危険性があり実行行為性が認められる点に求められる。具体的には次の2つ(=因果支配を主観と客観に分けたもの)。

  1. ①正犯意思(主観面):特定の犯罪を自己の犯罪として実現する意思。
  2. ②一方的な支配・利用(客観面):被利用者を道具として一方的に支配・利用したこと。その中身は、被利用者に規範的障害がないこと。

①がなく、他人の犯罪を手伝う意思にとどまるなら、教唆犯・幇助犯となる。①②が、間接正犯と共犯(教唆・幇助)の分かれ目である。

6つの類型(被利用者の「何が欠けて道具になったか」)

欠けた部品類型例(→成立する罪・判例)
意思能力是非弁別能力なし幼児に「あの人に渡して」と毒物を持たせる → 殺人
故意故意を欠く毒入りと知らない宅配業者に届けさせる → 殺人
違法性適法行為を利用虚偽の被害届で捜査機関に無実の人を逮捕させる → 監禁(判)
目的目的なき故意ある道具教材見本と偽り印刷業者に偽札を刷らせる → 通貨偽造
身分身分なき故意ある道具公務員が部外者に賄賂を受け取らせる → 収賄
意思の自由意思抑圧/被害者利用偽装心中で被害者を自殺させる → 殺人(最判昭33・11・21)

【判例】最決昭58・9・21(意思を抑圧された者の利用) 日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている12歳の養女に窃盗をさせた場合、たとえ同女に是非善悪の判断能力があっても、子は道具にすぎず、利用者に窃盗罪の間接正犯が成立する。

【判例】最判昭33・11・21(被害者の行為を利用) 「あとで自分も死ぬ」と偽って相手を自殺させた偽装心中では、被害者の意思は真意に添わない重大な瑕疵あるものとして、殺人罪の間接正犯(通常の殺人)が成立する。

短答ひっかけ

  • 道具にされた被利用者は原則不可罰
  • 教唆との区別=一方的な支配・利用と正犯意思があるか(規範的障害の有無=相手が踏みとどまれたか)。
  • 被害者本人・適法に行動した人でも道具になりうる。
  • 実行の着手時期=利用者標準説(利用行為時)/被利用者標準説(被利用者の行為時)の対立 → 深入りは #29(未遂犯)
  • 道具のつもりが被利用者に故意があった等の間接正犯と錯誤#37(共犯の錯誤)。教唆・幇助の中身・正犯と共犯の区別の本論 → #32・#34

📝 論文の型|間接正犯の成立

★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

間接正犯は、①正犯意思を有する利用者が、②他人を道具として一方的に支配・利用し、これにより構成要件的結果発生の現実的危険性を実現した場合に、実行行為性(正犯性)が認められる。被利用者に故意・是非弁別能力等の規範的障害があるときは、原則として道具とはいえない。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 実行行為=結果発生の現実的危険性ある行為(自手でなくてよい)
  2. ①主観面=自己の犯罪として実現する正犯意思
  3. ②客観面=他人を道具として一方的に支配・利用
  4. 「道具」の核=被利用者に規範的障害がない(故意なし・是非弁別なし等)
  5. 着手時期は原則利用行為の開始時(被利用者の行為は因果経過)

フル論証(正本)

実行行為とは、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。そして、他人を利用する場合でも、利用者が①正犯意思を有し、②他人を道具として一方的に支配・利用した場合には、上記の現実的危険性が認められるから、実行行為性が認められると解する。

【事例】 Aは、毒入りと知らない宅配業者Xに毒入りの食品を届けさせ、これを食べた被害者Bを死亡させた。

【問題提起】 自ら手を下していないAに、殺人罪(199条)の間接正犯が認められるか。

【あてはめ】 宅配業者Xには殺害の認識(故意)がなく、規範的障害が認められない。よってAはXを道具として一方的に支配・利用したといえる(②)。Aは自己の犯罪として実現する正犯意思も有する(①)。よって現実的危険性が認められ実行行為性が肯定されるから、Aに殺人罪の間接正犯が成立する。

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