刑法 ゼロから刑法#13

因果関係①——条件関係と相当因果関係〔折衷説〕

客観的要素の3つ目=因果関係を扱う回。①条件関係(あれなければこれなし・付加の禁止)→②相当因果関係(折衷説)の2段階で帰責を絞る。判例の主流「危険の現実化」は次回へ。

⬇ 印刷用PDF

第2章 構成要件 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

客観的要素の3つ目。実行行為と結果を結ぶ関係が因果関係であり、その役割は結果を行為者に帰してよいかを絞ること。結果犯ではこれがなければ既遂にならず未遂にとどまる(例:殴打直後の無関係な落雷死では、死は行為に帰せられない)。中身は①条件関係 → ②相当因果関係の2段階の絞り。

1. 条件関係

【公式】条件関係(conditio sine qua non) その実行行為がなければ、この結果は生じなかった、という関係。すなわち「あれなければ、これなし」。 (「あれ」=実行行為/「これ」=現に生じた具体的結果)

注意点(2つ):

  • 「これ」は現に生じた具体的な結果を指す。例:毒で瀕死のVに別人がとどめの一撃を加えて死なせた場合、見るのは”現に生じた死(とどめによる死)“なので、とどめの行為とその死には条件関係がある。
  • 付加の禁止:現実に存在しなかった事実を仮定的に付け加えて判断してはならない。例:道路で寝ていた人をAが車で轢いて死なせた場合、「自分が轢かなくても後続車が轢いたはず」とはいえない(後続車が来たことは現実にはない事実)。したがって条件関係は肯定される。

2. 条件関係が問題になる4類型

類型中身(自前例)条件関係の帰結
① 仮定的因果経過やらなくてもいずれ別原因で同じ結果が(執行直前に遺族が先にボタン)肯定(付加の禁止で処理。仮定の経過は足さない)
② 択一的競合各々単独で致死量の毒を投与(XとY)単純公式だと双方否定→不当→公式は補助にすぎず結果への寄与で肯定(合法則的条件説)
③ 重畳的因果関係各々は半致死量、合わさって致死量双方肯定(一方が欠ければ致死量に届かない)
④ 不作為の条件関係期待された作為があれば結果を回避できたか(「あれあればこれなし」)立証困難→十中八九回避できたといえれば肯定(判例=最決平元・12・15)

② と ③ は対で覚える。より悪質な②(各々単独で致死量)で誰も死の責任を負わないのは、③(合算で致死)で双方肯定されるのと均衡を欠く。だから②は条件公式を補助公式と捉え修正する。

3. 相当因果関係(折衷説)

条件関係だけで因果関係を認めると、処罰範囲が広がりすぎる(例:軽い切り傷でも、搬送先の病院で別の医療事故により死亡すれば、切り傷と死亡が「あれなければこれなし」でつながる)。そこで、社会通念上”相当”な範囲に限定する=相当因果関係説(従来の通説)。

趣旨:因果関係の有無を判断する=構成要件該当性をチェックすること。構成要件は違法・有責な行為を社会通念に基づき類型化したもの。だから「相当か」も社会通念で測る。 → 条件関係があっても、相当性で因果関係は否定されうる(①②は別の関門)。

相当性を、どんな事情を基礎に判断するか(基礎事情)で3説が対立する。

基礎にする事情評価
主観説行為者が認識・予見した(しえた)事情狭すぎ
客観説行為時の全客観的事情+一般人が予見しえた事情広すぎ
折衷説(通説)一般人が認識・予見しえた事情+行為者が現に知っていた事情妥当

【規範】折衷説の基礎事情(暗記) 行為時=一般人が認識しえた事情行為者が現に認識していた事情/行為後=一般人が予見しえた事情行為者が現に予見していた事情を基礎に、相当性の有無を判断する。

理由:構成要件は社会通念に基づく類型→一般人を基礎にする。また有責=行為者への非難可能性→行為者が現に知っていた事情も取り込む。 → 心臓病の例なら、その持病を一般人が気づけたか、または行為者が現に知っていたかで相当性を判断する。知りようのない持病なら、相当性が否定されることもある。

※ 現在の判例の主流は、基礎事情を限定せず行為の危険性が結果に現実化したかで判断する「危険の現実化」。その型・3類型は #14(第2章⑧)具体的判例のあてはめ(大阪南港・米兵ひき逃げ・トランク・高速道路)は #15(第2章⑨) で扱う。

📝 論文の型|因果関係(条件関係+相当因果関係〔折衷説〕)

★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

因果関係は、①条件関係(あれなければこれなし)を前提に、②社会通念上その行為からその結果が生じることが相当といえる場合に認められる(相当因果関係説)。相当性の基礎事情は、行為時は一般人が認識しえた事情+行為者が現に認識していた事情行為後は一般人が予見しえた事情+行為者が現に予見していた事情による(折衷説)。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 因果関係=結果を実行行為に帰責できるかの問題
  2. 第1段=条件関係で事実的につなぐ
  3. 第2段=相当性=その結果が社会通念上「通常ありうる」か
  4. 説の分かれ目=基礎事情の取り方 → 折衷説=一般人認識可能+行為者の現認識
  5. 危険の現実化説(#14)はこの相当性枠を「危険の実現」で再構成したもの

フル論証(正本)

因果関係とは、実行行為と構成要件的結果との間の原因・結果の関係をいい、①条件関係(その行為がなければその結果は生じなかったという関係)を前提に、②社会通念上、その行為からその結果が生じることが相当といえる場合に肯定される(相当因果関係説)。相当性判断の基礎事情は、行為時においては一般人が認識しえた事情+行為者が現に認識していた事情、行為後においては一般人が予見しえた事情+行為者が現に予見していた事情による(折衷説)。

【事例】 甲は乙を軽くこづいたところ、乙は重い心臓病を抱えており、その発作で死亡した。

【問題提起】 甲のこづき行為と乙の死亡との間に、刑法上の因果関係が認められるか。

【あてはめ】 こづき行為がなければ乙は死ななかったといえ、条件関係はある。もっとも、乙の心臓病を一般人が認識しえず、甲も現に知らなかったのであれば、その持病は相当性判断の基礎事情に取り込めない。そのとき、軽くこづく行為から死亡が生じることは社会通念上相当とはいえず、相当性が否定され、因果関係は認められない(事案により可変)。

短答ひっかけ

  • 条件関係があっても、因果関係(相当性)は否定されうる(両者は別段階)。
  • 付加の禁止:なかった事実を足して条件関係を否定しない(「後続車が来たはず」はダメ→条件関係は肯定)。
  • 択一的競合=公式だと双方否定(→補助公式で修正・肯定)/重畳的因果=双方肯定。対で覚える。
  • 折衷説の基礎=一般人基準+行為者が現に知っていた事情

刑法 全体ロードマップへ →