刑法 ゼロから刑法#22

正当防衛①——成立要件(急迫性・防衛の意思・相当性)

違法性阻却の代表格=正当防衛(36条1項)の成立要件を組み立てる回。正対不正ゆえ補充性・厳格な権衡は不要。差がつく①急迫性③防衛の意思⑤相当性を判例とともに押さえる。

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第3章 違法性 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

違法性阻却の代表格が正当防衛(36条)。今回は成立要件を組み立てる(過剰防衛・誤想防衛は #23)。

趣旨

  • 正は不正に屈する必要はない(被侵害者に退却義務を課さない=法確証の利益)。
  • 正対不正(不正な侵害者への反撃)。次回の緊急避難(37条)=正対正(無関係な第三者への危難転嫁)と対比。
  • この違いから、正当防衛は緊急避難より要件がゆるい(補充性・厳格な法益権衡が不要=後述の相当性)。

刑法36条

1項 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。 2項 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。(過剰防衛=#23)

5つの成立要件(36条1項)

急迫性不正の侵害防衛するため(防衛の意思) ④自己又は他人の権利 ⑤やむを得ずにした行為(相当性)。差がつくのは①③⑤。

① 急迫性

法益侵害が現に存在する間近に押し迫っていること。将来・過去の侵害は×。侵害の予期があった場合:

【判例】最決昭52・7・21(積極的加害意思) 侵害を予期していたというだけでは急迫性は失われない。しかし、その機会を利用し積極的に相手を加害する意思で侵害に臨んだときは、急迫性を欠く。

【判例】最決平29・4・26 36条の趣旨=緊急状況下で公的機関の保護を求めることが期待できないときの例外的許容。侵害に先立つ事情を含めた「行為全般の状況」(凶器準備の有無・回避の容易性・出向く必要性等)から、36条の趣旨に照らし許容されるかで判断。 → 昭52の「積極的加害意思」は、独立要件から総合判断の一考慮要素へと相対化・精緻化された。

② 不正の侵害(対物防衛)

不正」=違法(正対不正の「不正」)。対物防衛=動物の攻撃に正当防衛できるか(=動物の攻撃が「不正の侵害」にあたるか)。呉説は否定(違法は人間の行為について言うもので、動物の攻撃は「不正」でない)。→ 緊急避難(37条)で処理(緊急避難は #24)。 ※ 飼い主に故意・過失があれば、飼い主の「不正の侵害」として正当防衛で処理しうる。

③ 防衛の意思

判例=必要説

<防衛の意思は要るか=偶然防衛> 防衛の意思を知らず、攻撃が結果的に他人を救っていた場合(偶然防衛)を罰すべきか、が必要説/不要説の対立点。判例=必要説。理由=①36条1項の文言「防衛するため」が主観を要求、②違法性の本質=社会的相当性であり、行為者の意思はその相当性判断に影響する。

【判例】最判昭50・11・28 防衛の行為と認められる以上、侵害者への攻撃的意思が併存しても防衛の意思を欠かない(憤激・逆上していても否定されない)。ただし防衛に名を借りて専ら攻撃した場合は防衛の意思を欠く。

⑤ やむを得ずにした行為(相当性)

防衛手段として必要最小限度であればよい。緊急避難と違い補充性不要(他に逃げる手段があっても可)・厳格な法益権衡不要(侵害法益が防衛法益を多少上回っても直ちに過剰でない)。判断の中心は行為態様の相当性(素手に凶器=行き過ぎ=過剰防衛)。なお武器対等の原則は絶対でなく、年齢・体力差等も総合考慮する(年長者・体力で劣る者が素手で迫る相手に菜切包丁で対抗した行為につき相当性を認めた=最判平1・11・13)。

📝 論文の型|正当防衛(36条1項)

★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

正当防衛(36条1項)は、①急迫不正の侵害に対し、②防衛の意思をもって、③やむを得ずにした行為であれば違法性が阻却される。①「急迫」は侵害が現に存在しまたは間近に切迫していることをいい、侵害を予期しその機会を利用して積極的加害意思で臨んだ場合は急迫性を欠く。③「やむを得ず」は防衛手段として必要最小限度をいい、緊急避難と異なり補充性・厳格な法益権衡は不要。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 要件=①急迫不正の侵害 ②防衛の意思 ③やむを得ず
  2. 急迫=現在・切迫/予期+積極的加害意思は急迫性を否定(昭52)
  3. 防衛の意思=必要だが攻撃意思の併存では失われない
  4. ③相当性=必要最小限度(武器対等まで不要)
  5. 緊急避難と違い補充性・厳格な権衡は不要(正対不正だから)

フル論証(正本)

正当防衛(36条1項)は、①急迫不正の侵害に対し、②防衛の意思をもって、③やむを得ずにした行為であれば成立し、違法性が阻却される。①『急迫』とは法益侵害が現に存在しまたは間近に押し迫っていることをいい、侵害を予期していたにとどまらず、その機会を利用し積極的加害意思で侵害に臨んだ場合は急迫性を欠く。②防衛の意思は必要だが、攻撃の意思が併存しても失われない。③『やむを得ずにした』とは、防衛手段として必要最小限度であることをいい、緊急避難と異なり補充性・厳格な法益権衡は不要である。

【事例】 甲は、路上でいきなりAにナイフで切りかかられたため、とっさに傍らの木の棒でAの腕を強く打ち、Aに打撲傷を負わせた。

【問題提起】 甲のAに対する傷害行為について、正当防衛が成立し違法性が阻却されないか。

【あてはめ】 Aのナイフ攻撃は現に存在する急迫不正の侵害(①)。甲はこれを避けるため反撃し防衛の意思が認められる(②)。素手では身を守れない状況で木の棒で腕を打った行為は、ナイフ攻撃に対する防衛手段として必要最小限度といえ相当性を満たす(③)。よって正当防衛が成立し違法性が阻却される。

短答ひっかけ

  • 侵害を予期しただけでは急迫性は失われない(積極的加害意思=昭52/行為全般の状況=平29)。
  • 攻撃の意思が併存しても防衛の意思はある(専ら攻撃ならアウト=昭50)。
  • 正当防衛は緊急避難と違い補充性も厳格な法益権衡も不要

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