正当防衛②——過剰防衛と誤想防衛
正当防衛の裏側=ぴたりとハマらない3類型(過剰防衛・誤想防衛・誤想過剰防衛)を整理する回。過剰防衛は刑の任意的減免、誤想防衛は故意阻却。分かれ目は反撃が過剰かどうか。
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第3章 違法性 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回(成立要件)の「裏側」。ぴたりと正当防衛にハマらない3類型を整理する。
過剰防衛(36条2項)
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
- 防衛の相当性を超えた場合。犯罪は成立し、刑は任意的減免(1項の「罰しない」=不処罰とは違う)。
- 減免の理由:急迫不正の侵害による恐怖・驚愕・興奮で、強く非難できないため。
- 2タイプ:質的過剰(手段がやりすぎ=素手の相手に刃物)/量的過剰(侵害終了後も攻撃を継続)。
【判例】最決平20・6・25(量的過剰の事例) 殴りかかられて反撃し相手を転倒させた(第1暴行=正当防衛)後、相手が倒れて動かなくなったのを認識しながら腹部を蹴る等の暴行を加えた(第2暴行)。侵害終了を認識したうえ防衛の意思ではなく専ら攻撃の意思で加えた第2暴行は第1暴行と分断され、別個の犯罪(傷害罪)として評価される(全体を1個の過剰防衛とはしない)。
誤想防衛(事実の錯誤→故意阻却)
急迫不正の侵害がないのに「ある」と誤信して反撃。誤信どおりなら反撃が相当だった場合は、「正当防衛にあたる事実」を誤信している=事実の錯誤。故意は悪さを基礎づける事実の認識だから、正当防衛と思っている以上その認識を欠き、故意が阻却される(故意犯不成立。不注意があれば過失犯の余地)。
誤想過剰防衛(故意犯成立+36条2項準用)
侵害を誤信し、かつ反撃が誤信した侵害に対してすら過剰だった場合。
【判例】最決昭62・3・26(勘違い騎士道事件) 酩酊した女性を介抱する男性を見て、女性が暴行されていると誤信し、空手の回し蹴りで男性を死亡させた。回し蹴りは誤信した侵害に対する防衛手段としても相当性を逸脱していることが明らかであるとして、傷害致死罪の成立を認めたうえ、36条2項を準用して刑を減軽した(最決昭41・7・7を引用)。 → 過剰性を基礎づける事実を認識していれば故意は阻却されず、過剰防衛と同様の心理状態に照らし2項を準用する。
※ 判例原文の文言は「刑法36条2項により」(字面上は適用的)だが、現実の急迫不正の侵害が存在しない以上、本来の過剰防衛規定をそのまま適用できないため、答案・学説では「準用」と整理するのが一般的。
誤想防衛 vs 誤想過剰防衛(区別が最重要)
| 観点 | 誤想防衛 | 誤想過剰防衛 |
|---|---|---|
| 状況 | 侵害を誤信+反撃は(誤信前提では)相当 | 侵害を誤信+反撃が過剰 |
| 法的処理 | 事実の錯誤→故意(責任故意)阻却 | 故意犯成立+36条2項準用 |
| 結論 | 故意犯不成立(過失犯の余地) | 故意犯成立・刑は任意的減免 |
| 代表判例 | (事実の錯誤の一般論) | 最決昭62・3・26 |
→ 分かれ目は「過剰かどうか」。
📝 論文の型|誤想過剰防衛
★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)
急迫不正の侵害がないのにあると誤信し、かつ反撃が誤信した侵害に対しても過剰であった場合(誤想過剰防衛)、侵害が存在しない以上正当防衛は成立しない。行為者が過剰性を基礎づける事実を認識していれば故意は阻却されず故意犯が成立するが、急迫不正の侵害を誤信して反撃したという過剰防衛と同様の心理状態に照らし、36条2項を準用して刑を任意的に減免できる。
復元キー(趣旨から再構成する鎖)
- 侵害が客観的に不存在 → 正当防衛(1項)は不成立
- 過剰性の事実を認識 → 故意は阻却されない(故意犯成立)
- ただし侵害ありと誤信=過剰防衛と同じ心理状態
- そこで36条2項を準用(刑の任意的減免)
- 誤想「単純」防衛(過剰でない)は故意阻却=別物と区別
フル論証(正本)
急迫不正の侵害が客観的に存在しないのにあると誤信し、かつ反撃が誤信した侵害に対しても過剰であった場合、これを誤想過剰防衛という。侵害が存在しない以上、正当防衛(36条1項)は成立しない。もっとも、行為者が過剰性を基礎づける事実を認識していた場合には故意は阻却されず故意犯が成立する。そのうえで、急迫不正の侵害を誤信して反撃に及んだという過剰防衛と同様の心理状態に照らし、36条2項を準用して刑を任意的に減軽・免除できると解する(最決昭62・3・26参照)。
【事例】 甲は、Aが酩酊した女性Bに暴行を加えていると誤信し(実際はAがBを介抱していた)、Bを助けるためAの顔面を空手の回し蹴りで強打し、頭部の傷害により死亡させた。
【問題提起】 急迫不正の侵害がないのに過剰な反撃をした甲を、いかに処断すべきか。
【あてはめ】 客観的にはAの侵害は存在せず正当防衛は成立しない(誤想)。もっとも回し蹴りは誤信した侵害に対する防衛手段としても相当性を明らかに逸脱しており(過剰)、甲はその過剰性を基礎づける事実を認識していたから故意は阻却されず傷害致死罪が成立する。そのうえで、侵害を誤信して反撃したという過剰防衛と同様の心理状態に照らし、36条2項を準用して刑を減軽できる。
短答ひっかけ
- 過剰防衛=犯罪成立+任意的減免(1項は不処罰)。
- 量的過剰は侵害終了の認識+攻撃意思への転換で分断されうる(平20・6・25)。
- 誤想防衛=故意阻却 / 誤想過剰防衛=故意犯成立+36条2項準用(昭62・3・26)。