判例の4類型——どの型かを選べるようにする(後編)
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第3章 因果関係 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の2つの決め手を、1枚で受ける
図:前回の2つの決め手——今日は、これを型に仕分ける
前回の2つの決め手、覚えていますか?1つ目は、死因を形成したのは誰の行為か。答案に書くときは、形成した、を使ってください。2つ目は、その介在事情を経由する危険性が、行為に含まれていたか。今日は、その道具を使う準備をします。判例を、4つの型に、仕分けていきましょう。初めて見る事件でも、どの型かが分かれば、決め手にすぐ届きます。型は、「行為のあとに、誰の何が挟まったか」で分かれているからです。たとえば、被害者に持病があっただけの事案なら、挟まった行動はありません。そのときは、1つ目の決め手だけで決まる——と、見る前から分かります。
だから型は、答えではなく、探す場所の目印になります。
4つの型の地図——判例を仕分ける引き出し
図:4つの型の地図——判例を仕分ける引き出し
判例を仕分ける、4つの型を確認しましょう。この4つは、私が作った言葉ではありません。教科書が、そのまま使っている言葉です。①被害者の特異体質・隠れた病変が存在する場合。骨粗鬆症の事案が、これでした。②被害者の行為が介在する場合。この型には、代表的な判例が複数あります。柔道整復師の事件や、治療ミスの事件も、ここに入ります。いい疑問です。治療の事件がなぜ②なのかは、あとで似た設例で確かめましょう。この型のいちばん分かりやすい形は——暴行から逃げようとした被害者が、自分で危険な場所に入ってしまう場合です。③行為者の事後行為が介在する場合。
資材置き場の設例が、これでした。④第三者の行為が介在する場合。前回見た、大阪南港事件と、米兵ひき逃げ事件が、ここに入ります。ただし、米兵ひき逃げ事件だけは、④の中で唯一の否定例です。④に挙がる判例のうち、否定は米兵ひき逃げ事件だけです。実は、面白いところなんです。トランク事件は、この一覧に、一度も出てきません。②③④のどこにも、名前が挙がっていません。分類はできます。ただし、自分で位置づける前提です。直接手を下したのは、追突した第三者でしたよね。だから、④に置くのが自然だと、私は考えます。型を自分で選べるようになることが、今日の目標の一つです。では、②の型を、実際の判例で確かめましょう。
ただし、④ではなく、②の実物です。被害者の行為が介在する型を、いちばんはっきり教えてくれます。
高速道路侵入事件——②の物差しを実物で確かめる
図:高速道路侵入事件——暴行から高速道路への進入まで
では、②の実物です。事案から見ていきましょう。被告人4名が、他の2名と共謀して、暴行を加えました。公園で、深夜、約2時間10分。間断なく、激しい暴行を、繰り返しました。そのあと、マンションの居室で、約45分間。断続的に、同じような暴行を、続けています。被害者は、すきをみて、逃げ出しました。靴下を履いたまま、部屋から逃走したんです。被告人らに、極度の恐怖を抱いていました。逃げ出してから、約10分後——追跡から逃れるため、高速道路に進入しました。マンションから、約763メートルないし——約810メートル、離れた場所です。そこを、疾走してきた自動車に、衝突されました。
後続の自動車にも、ひかれて、亡くなりました。ここで、1つ目の決め手を、聞きます。直接、被害者を死なせたのは、追突した車ですよね。では、死因を形成したのは、誰の行為でしょうか。死因を直接作ったのは、運転者——つまり他人の行為です。死因を作ったのが行為者なら、そこで肯定——でも、ここはそうではありません。だから、1つ目では決まりません。死因を直接作ったのが他人のときは、2つ目の決め手に進みます。被害者が高速道路に入ったのは、逃げるためでした。その行動が、暴行の危険の延長線上にあるか——2つ目の決め手で見ます。判旨を、見てみましょう。
判例最高裁判所第二小法廷決定・平成15年7月16日(刑集57巻7号950頁)
高速道路侵入事件 以上の事実関係の下においては,被害者が逃走しようとして高速道路に進入したことは,それ自体極めて危険な行為であるというほかないが,被害者は,被告人らから長時間激しくかつ執ような暴行を受け,被告人らに対し極度の恐怖感を抱き,必死に逃走を図る過程で,とっさにそのような行動を選択したものと認められ,その行動が,被告人らの暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえない。 そうすると,被害者が高速道路に進入して死亡したのは,被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから,被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係を肯定した原判決は,正当として是認することができる。
高速道路への進入は、それ自体、極めて危険な行為だとしています。ただ、そのうえで、長時間、激しい暴行を受けたとも言っています。極度の恐怖の中、必死に逃げる過程で、とっさに選んだ行動だ、と。そして、暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当ではない。前回の3つの事件では、出てこなかった言い方です。2つ目の決め手を、被害者の行動というかたちで問うときの、言い方です。逆に、逃げ方が著しく不自然、不相当だったときは、結論は逆になります。結論として、被害者の死亡は、被告人らの暴行に起因する、とされました。
傷害致死罪です。暴行の結果、死なせてしまった罪、という扱いです。この言い方を、次のセクションで、他の型とも比べましょう。
型は答えではない——結論は2つの決め手に戻る
図:型は答えではない——決め手②は形を変えて同じ問いをする
ここまでで、②の実物を確かめました。今日、いちばん伝えたいことを、話します。4つの型は、答えを教えてくれるものではありません。そこが、誤解しやすいところです。型は、どこを見ればいいかを教える、引き出しのラベルです。結論を決めるのは、いつも、2つの決め手です。2つ目の決め手の、聞き方が、型によって変わるからです。中身は同じでも、聞き方が違います。例えば、③の型——資材置き場の設例でしたね。2つ目の決め手を、どう問いましたか。「発覚を恐れて運んで放置するのは——」「しばしば起きることか」でしたね。では、④の型——南港やトランクでは、どうでしたか。
「追突される、さらに暴行を加えられるのは——」「しばしば生じる事態か」でしたね。ここで1つ、大事なことがあります。③と④は、聞く形が同じです。変わるのは、当てはめる事実——行為者自身の行動か、第三者の行動か、だけです。では、②の型では、同じ問いを、どう言い換えられますか。今日見た、判旨の言葉を、思い出してください。「被害者の行動が、行為から逃れる方法として——」「著しく不自然・不相当であったとはいえないか」。それが、②の型での、2つ目の決め手です。どちらも、介在事情が、行為の延長線上にあるかを、問うています。
①は、2つ目の決め手を、そもそも問いません。行為の後に、何も介在していないからです。1つ目の決め手だけで、肯定に決まります。2つ目に進んだときは、前回の手順どおり、原則は否定です。2つ目を満たせば、例外的に肯定になります。では、いくつかの事例で、練習してみましょう。
混合ミニ事例で選ばせる
図:混合ミニ事例——8問、型を混ぜて出す
では、8問の、混合ミニ事例です。既出の4問と、初めて見る自前の設例4問を、混ぜて出します。答えるのは、2つです。どの型か。そして、1つ目と2つ目、どちらの決め手で決まるか。目的は、正解の数ではありません。迷ったときに、2つの決め手に戻る——その姿勢が、大事です。Q1です。エレベーターで、AがBさんの肩を軽く小突きました。Bさんは骨粗鬆症で、骨折し、亡くなりました。①特異体質・隠れた病変が存在する場合です。決め手は、どちらで決まりますか。骨粗鬆症は、行為の時点で、すでにあった事情です。誰が知っていたかも、関係ありません。結論は、肯定です。Q2です。Aが殺意で、鉄パイプでBさんを殴りました。傷は、軽い打撲で済みました。ところが、夜間救急でカルテを取り違えられ、禁忌薬を投与されました。Bさんは、それで亡くなりました。
④第三者の行為が介在する場合です。決め手は。死因を作ったのは、医師の投薬です。寄与度も、大きいですね。前回の物差しです。介在事情が、結果にどれだけ効いたか、を見ます。では、カルテを取り違えて禁忌薬を投与されることは、しばしば起きる事態でしょうか。経由する危険は、行為に含まれていません。原則どおり、否定です。Aは、殺人未遂にとどまります。Q3です。これは、初めて見る設例です。Aの暴行で負傷したBさんが、病院に行きませんでした。無資格の民間療法師に、通い続けたんです。施術の影響もあって、Bさんは、亡くなりました。
そう見えますよね。ただ、よく考えてほしいんです。手を下したのは、たしかに療法師です。でも、評価すべき介在行為は、何でしょうか。型は、挟まった行動が誰のものかで決まります。施術は、その選択の先に起きています。実は、評価されるのは、「誰に治療してもらうか」を選んだ行動です。それは、被害者自身の行動です。だから、②被害者の行為が介在する場合、になります。治療の中身を評価するなら、③④です。でも、通院先を選んだ行動を評価するなら、②になります。この問題は、型を見極めるところまでが、到達点です。決め手のあてはめは、判例の中身に踏み込む話になるので、ここでは置いておきます。Q4です。Aの暴行で、Bさんが倒れました。そこに、通りすがりの、見ず知らずのCが通りかかりました。Cは、悪ふざけで、Bさんを蹴り上げ、道路に転がしました。そこを、通行中の車にはねられ、Bさんは亡くなりました。
④第三者の行為が介在する場合です。決め手は。死因を作ったのは、Cの行為です。経由する危険は、あったと言えるでしょうか。関連性は、弱いと言わざるを得ません。原則どおり、否定に傾く方向で、考えられます。同じ④でも、しばしば生じる事態かどうかで、結論が変わります。Q5です。Aが殺意で、鉄パイプでBさんを殴打しました。Bさんは、昏倒しました。発覚を恐れたAは、Bさんを資材の陰まで運び、放置しました。冬の夜、屋外にさらされたBさんは、低体温症で亡くなりました。③行為者の事後行為が介在する場合です。決め手は。
死因は、Aの放置です。経由する危険は、あったと言えます。例外的に、肯定です。Aは、殺人罪の既遂になります。Q6です。強盗目的で、Bさんを昏倒させたAがいます。発覚を恐れたAは、今度は、資材の陰ではありません。増水した川に、Bさんを投げ込んで、逃走しました。Bさんは、溺死しました。はい、Q5と、同じ③行為者の事後行為が介在する型です。決め手は。死因は、Aが投げ込んだことです。しばしば起きることと言えますか。Q5と、比べてみてください。Q5より、行為との関連性は、弱いと言えます。原則どおり、否定に傾く方向で、考えられます。
関連性の強さで、結論は、変わります。Q7です。Aの暴行で、Bさんが転倒しました。実は、Bさんは血友病で、出血が止まりませんでした。そのまま、亡くなりました。①特異体質・隠れた病変が存在する場合です。決め手は。結論は、肯定です。最後、Q8です。大阪南港事件です。被告人が暴行を加え、資材置き場に放置しました。生きている間に、何者かが角材で頭部を殴打しました。Bさんは、脳出血で亡くなりました。④第三者の行為が介在する場合です。決め手は。死因は、被告人の暴行です。第三者の暴行は、寄与度が小さいんです。2つ目の決め手の話にすら、なりません。結論は、肯定です。
Q5とQ8は舞台が同じでも、型も決め手も逆——前回、その2つを1枚で比べました。型は、舞台では決まりません。大事なのは、型を当てることより——その中で、決め手を、自分で使えることです。
図:混合ミニ事例——答え合わせ
では、8問を、1枚にまとめておきます。型が同じでも、結論が割れることがある。それが、今日、いちばん体感してほしかったことです。
あてはめフレーズ集
図:あてはめフレーズ集——答案でそのまま使える言い方
締めくくりに、答案でそのまま使える言い方をまとめます。まず、1つ目の決め手を立てるとき。「死因を形成したのは、〜の行為である」。死亡以外の結果なら、寄与度の大小に戻ります。次に、2つ目の決め手で肯定する場合です。行為者自身や、第三者の、事後の行動が介在する型です。「〜という事態は、しばしば起きることであり——」「その介在事情を経由する危険性が、行為に含まれていた」。次は、被害者自身の行動が介在する型です。今日の②の実物、高速道路侵入事件で使った言い方です。「被害者の行動は、〜から逃れる方法として——」「著しく不自然、不相当であったとはいえない」。
最後に、2つ目の決め手で否定する場合です。「経験則上、当然予想しえられるところであるとは——」「到底いえない」。この4つを、持ち帰ってください。初めて見る事件でも、答案の骨格を、自分で組み立てられます。
今日の地図(保存版)
図:第3章 因果関係——ここまでの1本の流れ
では、この章の全体を、1本の流れで振り返りましょう。まず、条件関係——あれなければこれなし、という出発点でした。そこから、条件関係だけでは足りない、という批判が出ました。そのうえで、相当性を判断する材料をめぐって、3つの説が対立しました。主観説・客観説・折衷説の3つです。そして、判例の立場は、危険の現実化です。あてはめの手順として、寄与度という物差しを持ちました。そして今日、その判例たちを、4つの型に仕分けました。新しい枠組みは、1つも増えていません。これまでの道具を、仕分けて、検索しやすくしただけです。
まとめ——次章への送り
図:今日、持ち帰るもの
今日の内容を、まとめます。判例を仕分ける、4つの型でした。①特異体質・隠れた病変、②被害者の行為が介在。③行為者の事後行為が介在、④第三者の行為が介在。そして、②の実物として、高速道路侵入事件を読みました。そして、いちばん伝えたかったことです。型は答えではなく、結論は、いつも2つの決め手に戻ります。死因を形成したのは誰の行為か。経由する危険が、行為に含まれていたか。8問の演習で、実際に、選ぶ練習もしました。最後に、答案でそのまま使える、フレーズ集も持ち帰りました。はい、これで、因果関係の話は、終わりです。次は、第4章、故意と錯誤に進みます。
認識とのズレは、因果関係の錯誤という論点として、次の章で扱います。