超法規的違法性阻却——条文にない「適法」
条文のない超法規的違法性阻却を扱い第3章を締める回。根拠は実質的違法性論。自救行為・義務の衝突・推定的承諾・安楽死の4類型を整理し、いずれも判例は限定的であることを押さえる。
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第3章 違法性 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
35・36・37条・被害者の同意に当てはまらないが、実質的に違法でないとして阻却される事由。第3章の締め。
総説——なぜ条文なしで阻却できるか
実質的違法性論(#20):形式的に構成要件に該当しても、違法性の実質を欠けば阻却される。その実質を、結果無価値は法益衡量(優越的利益)で、行為無価値は社会的相当性(社会倫理規範の枠内か)で測る。この一般原理から、条文にない阻却事由=超法規的阻却が認められる。
自救行為(自力救済)
権利を侵害された者が自力で権利を回復する行為。原則禁止(権利保護は国家が独占=法治国家)。例外的に違法性阻却される要件:
- 過去の権利侵害が存在すること
- 国家機関の救済を待てない緊急性・補充性
- 手段の相当性
正当防衛との違い:正当防衛は現在(急迫)の侵害への反撃/自救行為は侵害が過去に終わった後の事後的な権利回復(時間軸が違う)。
【判例】最判昭30・11・11 自己の借地内に他人が不法に増築した家屋の軒先を切除した事案。たとえ相手の増築が不法で、放置による損害が大きくても、自救行為として違法性は阻却されないとした。→ 判例は自力救済を極めて限定的にしか認めない(原則は国家の手続による)。
義務の衝突
複数の作為義務が衝突し一方しか履行できない場合(例:2人の溺者の一方しか救えない)。高価値の義務を履行すれば違法性阻却。同価値の義務ならいずれを履行しても違法性阻却。不作為版の緊急避難に近い特殊類型。
推定的承諾
現実の同意はないが、事情を知れば当然同意したであろうと客観的に判断できる場合(例:留守宅の火事で無断で立ち入り消火)。客観的に同意が推定できれば違法性阻却(現実の意思表示は不要)。
安楽死(違法性阻却の限界事例)
| 名古屋高判昭37・12・22(6要件) | 東海大事件 横浜地判平7・3・28(積極的安楽死4要件) |
|---|---|
| ① 不治の病で死期が目前 | ① 耐えがたい激しい肉体的苦痛 |
| ② 苦痛が見るに忍びない程甚だしい | ② 死が避けられず死期が迫る |
| ③ もっぱら死苦の緩和目的 | ③ 苦痛除去に方法を尽くし他に代替手段なし |
| ④ 本人の真摯な嘱託・承諾 | ④ 生命短縮を承諾する本人の明示の意思表示 |
| ⑤ 原則として医師の手による | (名古屋6要件を自己決定権重視で4要件に整理) |
| ⑥ 方法が倫理的にも妥当 |
→ 両事件とも結論は要件を満たさず有罪(名古屋=⑤⑥欠如/東海大=①④欠如)。安楽死が適法とされるハードルは極めて高い。
📝 論文の型|自救行為
★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)
自力救済は国家の権利保護独占の建前から原則禁止される。もっとも、法律上の手続を待っては権利実現が不可能・著しく困難となる緊急やむを得ない場合に、必要の限度で行う自救行為は例外的に違法性が阻却される。具体的には、①過去の権利侵害の存在、②国家機関の救済を待てない緊急性(補充性)、③手段の必要性・相当性を要する。
復元キー(趣旨から再構成する鎖)
- 原則=自力救済禁止(国家が権利保護を独占)
- 例外の根拠=手続を待てば回復不可能・著しく困難
- ①過去の侵害(現在の侵害なら正当防衛の領域)
- ②緊急性・補充性=公的救済を待てない
- ③手段の必要性・相当性(過剰な実力回収は不可)
フル論証(正本)
自力救済は、法治国家においては権利の保護を国家が独占する建前から、原則として禁止される。もっとも、法律上の手続による救済を待っていては権利の実現が不可能または著しく困難となる緊急やむを得ない場合に、必要の限度で行う自救行為は、例外的に違法性が阻却されると解する。具体的には、①過去の権利侵害が存在し、②国家機関による救済を待てない緊急性(補充性)があり、③その手段が侵害回復のために必要かつ相当である場合に、違法性が阻却される。
【事例】 甲は乙に自転車を盗まれた直後、転売しようと自転車を引いて立ち去る乙を見つけ、警察を呼ぶ間もなく実力で自転車を取り戻した。
【問題提起】 乙が現に占有する自転車を実力で取り戻した甲の行為について、自救行為として違法性が阻却されないか。
【あてはめ】 乙の窃盗はすでに終了しており、現在の侵害に対する正当防衛ではなく過去の侵害の回復が問題となる(①)。乙が今まさに転売・逃走しようとし、通報や民事手続を待っていては回復が事実上不可能であった(②緊急性・補充性)。甲は自己の自転車を取り戻すにとどまり暴行等は加えていない(③相当性)。よって自救行為として違法性が阻却される。
短答ひっかけ
- 超法規的阻却の根拠=実質的違法性論(#20とつながる)。
- 自救行為は原則禁止・過去の侵害が舞台(現在なら正当防衛)。判例は極めて限定的(昭30・11・11)。
- 推定的承諾=同意が客観的に推定できれば阻却。
- 安楽死は名古屋6要件・東海大4要件で限定的に判断(両事件とも有罪)。
今日の地図(保存版)
- 総論(#20):違法性は推定され、阻却事由の有無で判断する第二関門。結果無価値/行為無価値。
- 条文あり:正当行為35条(#21)・正当防衛36条(#22・#23)・緊急避難37条(#24)。
- 条文なし(超法規的):被害者の同意(#21)・自救行為・義務の衝突・推定的承諾・安楽死(#25)。
- → 次は第3関門、第4章 責任へ。