刑法 ゼロから刑法#26

責任能力と原因において自由な行為

第三関門=責任の入口。責任能力(弁識+制御・39条/41条)と、無能力を自ら招いた原因において自由な行為を扱う回。同時存在の原則とその修正(責任モデル)、心神耗弱への適用可否まで押さえる。

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第4章 責任 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

構成要件・違法性の次は責任=第三関門。今回は責任能力と、原因において自由な行為。

責任とは

  • 犯罪論の第三関門(構成要件該当→違法性→責任)。違法でも、行為者を非難できなければ罰しない
  • 責任主義=「責任なければ刑罰なし」。責任の本質=適法行為ができたのにあえて違法に出たことへの非難可能性(規範的責任論)。

責任能力(39条・41条)

39条1項 心神喪失者の行為は、罰しない。 2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。 41条 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。

  • 責任能力=弁識能力(行為の違法性を弁識する)+制御能力(弁識に従い行動を制御する)。
  • 精神の障害により欠如心神喪失(不可罰)/著しく減退心神耗弱(限定責任能力・必要的減軽)。
  • 14歳未満(41条)は能力を問わず一律で責任なし。理由=年少者の可塑性(矯正可能性)による政策的判断(×能力が一般に低いから、は短答のひっかけで誤り)。
弁識能力制御能力責任能力
ありあり責任能力あり(完全)
あり著しく減退心神耗弱(限定)
著しく減退あり心神耗弱(限定)
あり欠如心神喪失(無能力)
欠如欠如心神喪失(無能力)

→ ひっかけ:弁識ありでも制御が欠如なら、心神耗弱ではなく心神喪失

  • 責任能力は法律判断=最終的に裁判所が決める。精神鑑定に法的に拘束されないが、鑑定の前提・公正さに疑問がなければ十分に尊重して認定すべき(最決昭58・9・13/最判平20・4・25)。

同時存在の原則と原因において自由な行為

  • 同時存在の原則=責任能力は実行行為時に存在しなければならない(非難の対象は責任能力ある状態の違法行為だから)。
  • 原因において自由な行為=責任無能力・限定責任能力の状態を自ら招いて結果行為に出た場合。原則を貫くと不処罰・必要的減軽になり不当→完全な責任を問えるか。

2つの構成

観点構成要件モデル(間接正犯類似・通説)責任モデル(意思決定の実現過程)
実行行為原因行為(飲酒等)結果行為そのもの
同時存在の原則そのまま維持例外的に修正
責任の根拠無能力の自分を道具として利用結果行為が責任能力ある意思決定の実現過程
弱点原因行為を実行行為とすると飲酒の段階で未遂が成立=着手が早すぎる同時存在の原則を緩め責任主義と緊張
心神耗弱(限定責任能力)への適用道具といえず否定が素直(→39Ⅱの減軽のまま)意思決定の実現過程といえれば適用肯定
  • 心神耗弱(限定責任能力)への適用可否:論文準拠先(予備過去問・第6問=乙が心神耗弱状態で殺害した事案)がまさにこの論点。修正説(同時存在の原則を緩和)なら、結果行為時に心神耗弱でも完全な責任を問いうる(大谷説等)。間接正犯類似説は、心神耗弱状態の自己を「道具」とはいえないから適用否定が素直(39Ⅱの減軽にとどまる)。

【判例】最大判昭26・1・17(病的酩酊・最高裁大法廷) 病的酩酊に陥る素質を自覚しながら多量に飲酒した者には飲酒を抑止する注意義務があり、心神喪失下で人を死亡させた行為であっても、原因たる飲酒についての過失責任を問いうるとした。 (※ 最決昭43・2・27 は別事件=酒酔い運転で心神耗弱に陥った者につき、飲酒時に運転の意思があれば39条2項による減軽をすべきでないとした決定。混同に注意。)

📝 論文の型|原因において自由な行為

★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

責任能力は実行行為時に存在すべきである(同時存在の原則)。もっとも、責任無能力等を自ら招いた場合に責任を否定するのは不当だから、結果行為が責任能力ある状態でなされた意思決定の実現過程にあると評価できる場合には、原因行為時の意思決定に責任非難を遡らせ完全な責任を問いうる(責任モデル)。①原因行為と結果(結果行為)との因果関係②原因行為時から結果行為時までの故意の連続を要する(故意犯)。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 原則=同時存在の原則(責任能力は実行行為時に)
  2. 自ら招いた無能力で免責は不当 → 原則を修正
  3. 修正の根拠=結果行為は責任能力ある意思決定の実現過程(責任モデル)
  4. 要件①=原因行為と結果との因果関係
  5. 要件②=故意の連続(原因行為時→結果行為時)

フル論証(正本)

責任能力は実行行為時に存在しなければならない(同時存在の原則)。もっとも、責任無能力・限定責任能力の状態を自ら招いた場合にまで完全な責任を否定するのは不当である。そこで、結果行為が責任能力ある状態でなされた意思決定の実現過程にあると評価できる場合には、同時存在の原則の趣旨(非難可能性の確保)は満たされるから、同時存在の原則を修正し、原因行為時の意思決定に責任非難を遡らせて完全な責任を問いうると解する(責任モデル)。具体的には、①原因行為と結果行為・結果との間に因果関係があり、②原因行為時から結果行為時まで故意が連続していること(故意犯の場合)を要する。

【事例】 甲は、Aを殺害しようと決意したが、しらふでは決行できないと考え、勢いをつけるため大量に飲酒して心神喪失状態に陥り、その状態でAを刺殺した。

【問題提起】 結果行為(刺殺)時に責任無能力であった甲に、殺人罪の完全な責任を問えるか。

【あてはめ】 甲は責任能力ある状態でA殺害を決意して飲酒し(原因行為)、その意思のまま心神喪失下で刺殺した(結果行為)から、結果行為は責任能力ある状態の意思決定の実現過程といえる。飲酒と刺殺・死亡の因果関係があり、殺意も原因行為時から結果行為時まで連続している。よって同時存在の原則を修正し、甲に殺人罪の完全な責任を問いうる。

短答ひっかけ

  • 心神喪失=弁識or制御の欠如で不可罰/心神耗弱=著しく減退で必要的減軽(弁識ありでも制御欠如は心神喪失)。
  • 責任能力は実行行為時に必要(同時存在の原則)。
  • 自ら招いた原因において自由な行為では完全な責任を問える(心神耗弱でも修正説なら適用可)。
  • 責任能力は法律判断=裁判所は鑑定に拘束されない。
  • 41条(刑事未成年)の理由は可塑性による政策的判断(×能力が一般に低いから=誤り)。

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