刑法 ゼロから刑法#27

違法性の意識——「知らなかった」は通用するか

責任故意の中心=違法性の意識を扱う回。38条3項は現実の意識は不要と読むが意識の可能性は必要(制限故意説)。法律の錯誤は相当の理由があれば不成立、むささび(法律の錯誤)とたぬき(事実の錯誤)で線を引く。

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第4章 責任 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

責任のもう一つの柱が責任故意、その中心が違法性の意識法律の錯誤

責任故意とは

構成要件的故意(事実の認識・#16)とは別に、責任段階で問われる故意。中身は2つ:

  • 違法性の意識(の可能性) ← 今回の本題
  • 違法性阻却事由の不存在の認識(誤れば誤想防衛=#23)

38条3項

法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

文言上は「違法性の意識は不要(不要説の根拠)」と読めるが、学説は「現実の違法性の意識が不要」と言ったにとどまり、違法性の意識の可能性まで不要としたものではない、と限定解釈する。

違法性の意識の要否(学説)

学説違法性の意識の位置づけ帰結・批判
不要説意識も可能性も不要(法の不知は許さず)故意成立/批)処罰が広がりすぎる
厳格故意説現実の違法性の意識が故意の要件欠けば故意阻却/批)確信犯が不可罰に
制限故意説(伝統的通説)意識は不要だが意識の可能性は責任故意の要件可能性なければ故意阻却
責任説意識の可能性を故意とは独立の責任要素とする可能性なければ責任阻却(故意は残る)

→ いずれにせよ「違法性の意識の可能性は必要」という点では一致(可能性すらない者は非難できないから)。伝統的通説は制限故意説だが、近時は責任説が有力化しており、判例実務では制限故意説と制限責任説の結論が一致して両者の区別は明確でない。本シリーズは制限故意説を基本とする。

法律の錯誤(違法性の錯誤)

違法性の意識を欠く場合=法律の錯誤。2類型:①法律の不知(規範の存在自体を知らない)②あてはめの錯誤(規範は知るが自分の行為は当たらないと誤解)。

カギは「相当の理由」。違法性を意識できなかったことに相当の理由(確実な資料・根拠)があれば犯罪不成立の方向。

  • 所管官庁の公式見解・確立した判例を信頼 → 相当の理由が認められやすい。
  • 弁護士・警察官個人の意見にすぎない → 否定されにくい。

むささび事件 vs たぬき事件

観点むささび=もま事件(大判大13・4・25)たぬき=むじな事件(大判大14・6・9)
錯誤の種類法律の錯誤(法律の不知)事実の錯誤
理由一般人なら「もま=むささび」と認識でき違法性を意識しうる当時 一般にたぬきとむじなは別物と考えられていた
故意故意あり故意なし
結論有罪無罪

→ 同じ「別物と思った」でも、一般人を基準に、違法性を意識しうる事実認識があれば法律の錯誤(故意あり)、一般人も別物と認識していたなら事実の錯誤(故意なし)。

百円札模造事件(最決昭62・7・16)

百円札に似たサービス券を作った事案(警察官の知人にも相談)。最高裁は「違法性の意識を欠くにつき相当の理由があれば犯罪は成立しないとの見解の採否について立ち入った検討をするまでもなく、本件は相当の理由があるとはいえない」として有罪。 → 可能性必要説の採否を留保しつつ、否定もしなかった(含みを残した)。最高裁が可能性必要説を排斥していない点が受験のポイント。「決定」であって判決ではない。

📝 論文の型|違法性の錯誤(制限故意説)

★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

違法性の意識(現実の認識)は責任故意の要件ではない(38条3項本文)。もっとも、違法性の意識の可能性すらない場合は反対動機形成の余地がなく非難できないから、違法性の意識の可能性は責任故意の要件となり、これを欠けば故意責任が阻却される(制限故意説)。可能性の有無は、錯誤に陥ったことに相当の理由があったか(確実な資料・根拠に照らす)で決する。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 出発点=現実の違法性の意識は不要(38条3項本文)
  2. しかし可能性ゼロなら反対動機を作れない → 非難不能
  3. そこで違法性の意識の可能性を責任故意の要件に(制限故意説)
  4. 欠けば故意責任が阻却
  5. 判断=錯誤に相当の理由(公的見解は○・私人の意見は×)

フル論証(正本)

違法性の意識(現実の認識)は責任故意の要件ではない(38条3項)。もっとも、違法性の意識の可能性すらない場合には、規範に直面し反対動機を形成する余地がなく、行為者を非難できない。そこで、違法性の意識の可能性は責任故意の要件となり、これを欠けば故意責任が阻却されると解する(制限故意説)。そして、違法性の意識の可能性の有無は、違法性の錯誤に陥ったことに相当の理由があったか否か(確実な資料・根拠に照らして判断する)によって決する。

【事例】 甲は、新たな営業形態が規制に触れないかを所管官庁に照会し、担当部署から「適法」との公式見解を得たうえで営業したが、実際にはその行為は法令に違反していた。

【問題提起】 違法性を意識していなかった甲について、責任故意が阻却されないか。

【あてはめ】 甲は、所管官庁の公式見解という確実な資料・根拠に照らして自己の行為を適法と信じており、違法性の錯誤に陥ったことに相当の理由がある。よって違法性の意識の可能性を欠き、責任故意が阻却される。これに対し、依拠したのが弁護士や警察官個人の非公式な意見にすぎない場合は、相当の理由を欠き、責任故意は阻却されない。

短答ひっかけ

  • 38条3項=現実の違法性の意識は不要、と読む。
  • 通説(制限故意説)=違法性の意識の可能性は必要
  • 法律の錯誤は相当の理由があれば犯罪不成立になりうる。
  • むささび=法律の錯誤・故意あり/たぬき=事実の錯誤・故意なし

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