刑法 ゼロから刑法#29

実行の着手時期と予備罪

修正された構成要件の入口=未遂はどこから始まるかを扱う回。実行の着手(43条)は結果発生の現実的危険性が生じた時点(実質的客観説)。複数行為型はクロロホルム事件の密接性で判断し、予備罪も整理する。

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第5章 未遂犯 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

犯罪論3関門の次は、未遂・共犯などの「修正された構成要件」。まずは未遂犯=「未遂はどこから始まるか」。

未遂犯とは

  • 未遂犯(43条)=犯罪の実行に着手して、これを遂げなかった場合。
  • 処罰根拠=構成要件的結果発生の現実的危険性の惹起(客観主義)。
  • 44条=未遂を罰するのは各本条に規定がある罪のみ(なければ不可罰)。
  • 通常の未遂=障害未遂=任意的減軽(43条本文)/中止未遂=必要的減免(43条ただし書・#30)。

43条・44条

43条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。 44条 未遂を罰する場合は、各本条で定める。

実行の着手時期(学説)

  • 主観説:犯意が外部に飛躍的に表動した時点(主観主義)。
  • 形式的客観説:構成要件に該当する行為の一部を開始した時点。
  • 実質的客観説〔通説・判例の方向〕:構成要件的結果発生の現実的危険性が生じた時点。 → 未遂の処罰根拠(現実的危険性)と着手時期が論理的につながる。

実行の着手の判例

  • 窃盗=最判昭23・4・17:侵入後、財物を物色し始めた時点(物色説。占有侵害に密接)。タンスに近寄った時点を着手とした例(大判昭9・10・19)。土蔵・深夜店舗は侵入時点。
  • 放火:引火性の強いガソリンを撒布した時点(焼損の現実的危険。横浜地判昭58・7・20=下級審例)。
  • 当時の強姦罪=最決昭45・7・28:抵抗する被害者をダンプカー運転席に引きずり込もうとした時点(※2023改正で不同意性交等罪に)。

【判例】クロロホルム事件 最決平16・3・22 第1行為(クロロホルムで失神)が第2行為(海中転落)と密接な行為であり、第1行為を開始した時点で殺人に至る客観的危険性が明らかとして、第1行為時点で実行の着手を認めた。密接性=①必要不可欠②自動性(障害となる特段の事情なし)③時間的場所的近接。(#18の早すぎた構成要件実現と同一事件)

【判例】特殊詐欺 最判平30・3・22 現金交付を直接求める文言がなくても、交付の判断の前提となる重要事項につき、交付に直接つながる嘘を一連のものとして述べた段階で詐欺の実行の着手を認めた。だまされたふり作戦で受け子が現金受領前に逮捕でも詐欺未遂。

予備罪

犯罪実行を目的とする準備行為(例:殺人目的で銃を購入)。原則不可罰、重大犯罪のみ処罰。

一覧:内乱予備78・外患予備88・私戦予備93・放火予備113・通貨偽造等準備153・支払用カード電磁的記録不正作出準備163の4Ⅲ・殺人予備201・身代金目的略取等予備228の3・強盗予備237。 → 語呂「支払用の さ・つ・が・な・し・ほ・ご・しろ」(支払用カード準備・殺・通・外・内・私・放・強・代)。

📝 論文の型|実行の着手

★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

実行の着手(43条)は、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為を開始した時点に認められる(実質的客観説)。結果に至る行為が複数予定される場合は、当該行為が後続行為と密接で、開始時点で結果発生の客観的危険が認められるかで判断する。密接性は①後続行為に必要不可欠か ②障害となる特段の事情がないか(自動性) ③時間的・場所的近接性を考慮する。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 処罰根拠=結果発生の現実的危険性の惹起
  2. 着手=その危険ある行為の開始時点(実質的客観説)
  3. 複数行為型 → 第1行為が第2行為と密接かで判断
  4. 密接性=①必要不可欠 ②自動性 ③時間的・場所的近接
  5. クロロホルム=第1行為に着手肯定の代表例

フル論証(正本)

未遂犯の処罰根拠は構成要件的結果発生の現実的危険性の惹起にあるから、実行の着手(43条)は、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為を開始した時点に認められる(実質的客観説)。結果発生に至る行為が複数予定されている場合には、当該行為が後続行為と密接であり、当該行為を開始した時点で結果発生に至る客観的な危険性が認められるかによって判断する。密接性は、①当該行為が後続行為を確実・容易にするため必要不可欠か、②後続行為との間に障害となる特段の事情がないか(自動性)、③両行為の時間的・場所的近接性、を考慮して判断する(最決平16・3・22参照)。

【事例】 甲は、Vを殺害するため、まず(第1行為)クロロホルムで失神させ、約2時間後に離れた場所で(第2行為)Vを自動車ごと海中に転落させて溺死させる計画を実行し、Vを死亡させた。

【問題提起】 第2行為ではなく第1行為の時点で殺人の実行の着手が認められるか。

【あてはめ】 第1行為(失神)はVを抵抗不能にして第2行為を確実・容易にするため必要不可欠(①)、第1行為成功後は計画遂行を妨げる特段の事情がなく(②自動性)、両行為は時間的・場所的にも近接している(③)。よって第1行為は第2行為と密接な行為であり、第1行為開始時点で殺人に至る現実的危険性が認められるから、その時点で実行の着手がある。

短答ひっかけ

  • 実行の着手=現実的危険性が生じた時点(実質的客観説)。
  • 複数行為は密接性で第1行為時に着手(クロロホルム 最決平16・3・22)。
  • 特殊詐欺は現金交付を求める前でも着手(最判平30・3・22)。
  • 予備は重大犯罪のみ/未遂も処罰規定がなければ不可罰(44条)。

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