刑法 ゼロから刑法#37

共犯の錯誤・過失犯の共同正犯ほか

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第6章 共犯 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

第6章 共犯の締め。残った応用論点をまとめ、最後に共犯全体を総整理する。

今日を貫く軸

共犯の応用論点は「新しい論点」ではない。すでに単独犯で学んだ道具——錯誤論(#17・#18)・過失論(#19)・結果的加重犯——を、共同正犯(60条)にそのまま当てはめ直すだけ。「単独犯ならどう処理したか」を思い出して複数人版に翻訳する。

舞台になる条文=刑法60条(共同正犯)「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」(e-Gov 現行XML 逐語)。過失犯の共同正犯も予備罪の共同正犯も、「過失行為・予備行為がこの『犯罪を実行した』に含まれるか」という60条の解釈問題。

① 共犯の錯誤

共犯者が認識した犯罪事実と、正犯者が実際に実行した事実がズレた場合。処理は単独犯と同じ=法定的符合説(#17)。2つの軸で分けて見る(混同しない)。

ズレの種類処理結論(例)
罪名のズレ<同一構成要件内>法定的符合説で故意阻却せず(#17)Xの共謀→Yを殺害=殺人の共同正犯
罪名のズレ<異なる構成要件>重なり合う限度で軽い罪の共犯(#18)窃盗の教唆→強盗の実行=窃盗の教唆犯
共犯形式のズレ共同正犯>教唆>幇助で重なる限度(軽い形式が成立)教唆のつもりが幇助=殺人の幇助犯
間接正犯と共犯他人を利用する点で重なり、軽い教唆犯で処理道具のつもりが相手に故意=教唆犯
  • 前提=共謀の射程内か(#35)。射程外ならそもそも共同正犯が成立しない(射程→錯誤の順)。
  • 途中知情(間接正犯の被利用者が途中で事情を知る)は受験上の重要度が低く、本回では扱わない(出典も「覚えなくてよい」とする)。

② 過失犯の共同正犯

故意のない過失でも、60条の共同正犯が成立するか。否定すると、どちらの不注意が結果を生んだか不明なとき因果関係を立証できず(過失犯に未遂処罰なし)、2人とも不可罰になってしまう。だから肯否が結論を分ける。

見解過失の本質共同できるか/結論
否定説(旧過失論)過失=うっかりという無意識の心理状態無意識を「共同」できない → 否定
肯定説(新過失論・判例有力)過失=予見可能性を前提とした結果回避義務違反の”行為""行為”なら共同できる → 共同の注意義務に共同して違反(共同義務の共同違反)で肯定
  • 成立要件=共同の注意義務(お互いに相手の注意を見張る相互の監視義務)に共同して違反したこと。
  • 共同の注意義務の前提=同一の法的地位(上司と部下のような上下関係では相互の監視義務を認めにくい)。
  • 判例:メタノール事件(最判昭28・1・23)=共同経営の店で2人が意思を通じて有毒なメタノール含有飲食物を販売=過失犯の共同正犯を認めた初期最高裁。世田谷ケーブル火災事件(東京地判平4・1・23)=ケーブル補修の共同作業で互いに火気確認を怠り出火=業務上失火罪の共同正犯(共同義務の共同違反の典型)。

③ 結果的加重犯の共同正犯

基本犯(傷害)の共同正犯は成立する。加重結果(死亡)まで共同正犯が及ぶか。

  • 判例=過失不要で肯定。基本犯の共謀があれば、共犯の一人の行為から加重結果が生じ、加重結果の予見可能性がなくても、全員に傷害致死の共同正犯(一部実行全部責任)。
  • 学説(通説)=責任主義から、重い結果につき過失(予見可能性)を要求して批判
  • ①と③の合流:ABで傷害を共謀→実行担当Aが殺意をもってX殺害。Bは傷害しか共謀していない=抽象的事実の錯誤(①)=部分的犯罪共同説で傷害の限度で重なる→さらに結果的加重犯(③・過失不要)→A=殺人罪/B=傷害致死の共同正犯

④ 短答の細目(基本軸「責任は個別/一部実行全部責任」の延長)

  • 予備罪の共同正犯=予備行為も60条の「実行」にあたる→成立。目的なき関与者は目的=身分とみて65条1項で共同正犯(真正身分犯)。
  • 共同正犯の中止未遂=自分だけやめても足りず、他の共犯者の実行を阻止する真摯な努力が必要。着手後の刑の減免=中止未遂/着手前の成否=共犯関係の解消(#35)で区別。
  • 共犯と正当防衛=共同正犯でも、過剰防衛の成否は各人ごとに判断(責任は個別・最決平4・6・5。一方は積極的加害意思で急迫性なし、他方は防衛の意思ありと分かれた事案)。

📝 論文の型|過失犯の共同正犯

★コア規範(逐語で覚えるのはここだけ)

過失犯でも、複数人が共同の注意義務を負い、これに共同して違反した(共同義務の共同違反)と評価できる場合には、60条の共同正犯が成立する(肯定説)。共同正犯の処罰根拠である相互利用補充関係は、注意義務の共同遂行という形でも認められるからである。

復元キー(趣旨から再構成する鎖)

  1. 問題=過失に「共同」がありうるか
  2. 肯定の核=共同の注意義務 → その共同違反
  3. 根拠=相互利用補充関係は注意義務の共同遂行でも成立
  4. 効果=各自の単独過失でなく共同正犯(全部について責任)
  5. 「共同の」注意義務といえる作業の一体性があるかで詰める

フル論証(正本)

過失犯においても、複数人が共同の注意義務を負い、これに共同して違反した(共同義務の共同違反)と評価できる場合には、60条の共同正犯が成立すると解する(肯定説)。共同正犯の処罰根拠である相互利用補充関係は、注意義務の共同遂行という形でも認められるからである。

【事例】 甲と乙は、電話ケーブルの補修作業に共同して従事し、トーチランプの火を使用した。両名は退出時に相互に火が消えていることを確認すべきであったのに、いずれもこれを怠り、確認しないまま現場を離れたため、残り火から出火して建造物を焼損した。

【問題提起】 甲・乙の各過失行為について、業務上失火罪の共同正犯(60条)が成立するか。

【あてはめ】 甲・乙は共同で危険な火気作業に従事しており、退出時に相互に消火を確認すべき共同の注意義務を負っていた。両名はいずれもこの確認を怠り、共同して注意義務に違反したといえる(共同義務の共同違反)。よって各自の単独過失にとどまらず、業務上失火罪の共同正犯が成立する(世田谷ケーブル事件・東京地判平4・1・23の枠組み)。

今日の地図(保存版)

  • 総論(処罰根拠=混合惹起説/従属性=制限従属性説)#32
  • 共同正犯・共謀共同正犯(60条・一部実行全部責任・正犯意思)#33
  • 教唆・幇助(61〜64条・正犯の刑/必要的減軽)#34
  • 承継・解消・射程(因果性)#35 / 身分犯(65条1項/2項)#36
  • 錯誤・過失犯の共同正犯(単独犯の道具を60条に当てはめ)#37
  • 全体を貫く軸=因果性正犯意思・身分。これで共犯の全体像がそろった。
  • 次章=複数の犯罪をどう数えるか=罪数論(#38)。

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