刑法ゼロから刑法#46

自招侵害と過剰防衛

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第6章 違法性 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入——枠からはみ出したとき

今日の問い 図:今日の問い

殴りかかられたので、殴り返しました。相手は倒れました。もう、動きません。それでも、あと一度だけ、踏みつけました。この一続きの出来事を、1個の行為と見るか、2つに切るか。1個と見れば、全体が過剰防衛で、刑が減るかもしれません。2つに切れば、前半は罪に問われず、後半は言い訳のきかない犯罪になります。では、何が切り方を決めているのか。今日は、そこを最後まで詰めます。

骨組みは完成した。今日ははみ出したとき

6要件の地図、今日はこの外側 図:6要件の地図、今日はこの外側

36条1項を、6つに割ったのを覚えていますか。急迫、不正、侵害、自己または他人の権利。防衛するため、やむを得ずにした行為でしたね。前回までで、この6つが全部揃いました。今日は、その骨組みの外側を見ていきます。はみ出し方には、2つあります。

はみ出し方の2つ 図:はみ出し方の2つ

1つ目は入口です。そもそも、土俵に乗らない場合です。自分から侵害を招いた場合や、けんかの場合です。その前半が、この入口です。2つ目は出口です。土俵には乗ったけれど、程度を超えた場合です。過剰防衛です。相当性を欠くと、違法性は阻却されません。ただし、他の要件を満たせば、過剰防衛という別の箱に移ります。まず、入口から見ていきましょう。

入口①——自分で招いた侵害

自招侵害とは 図:自招侵害とは

1つ目、自分で招いた侵害です。自招侵害と呼びます。例えば、AがBの新しい自転車を見て、「ずいぶんみっともないな」とけなしたとします。Bが激怒して、Aに殴りかかってきました。ここでAが殴り返した場合、正当防衛になるでしょうか。Bの攻撃だけを見れば、急迫不正の侵害に見えます。ですが、原則として正当防衛は否定されます。覚えていますか。正当防衛が違法性を阻却する理由は、何でしたか。行為無価値論からは、社会的相当性でした。出てきた一撃だけでなく、そこに至る経緯まで含めて、社会生活のうえで許された行為と言えるかを見ます。正当防衛が特別に許されるのは、落ち度なく突然に侵害を受けて、警察などの公の助けを待っていられない場面に置かれたからです。ところがAは、その場面を自分で作っています。自分で侵害を招いておいて、その反撃をするのは、原則として社会的相当性を欠くんです。

だから、Aの反撃は、原則として正当防衛になりません。

⭐ 論文で書く規範:自招侵害の扱い みずから不正の侵害を招いた者が、その侵害に対して行った反撃には、原則として社会的相当性が認められず、正当防衛は成立しない。 (規範(通説で立てる))

この原則は、学説の整理から立てます。社会的相当性は、前回の相当性とは別のものです。前回の相当性は、枠に乗ったうえで、反撃の程度が釣り合っているかを見ました。今の社会的相当性は、そもそもこの枠に乗せてよい場面かを見ています。入口の話です。

誰が誰に何をしたか 図:誰が誰に何をしたか

図で整理しましょう。Aが先に、Bをけなしています。この順番があるから、Bの攻撃だけを取り出して評価できないんです。例外もあります。

例外——予想を超えた反撃 図:例外——予想を超えた反撃

今度は、Aが軽い調子でBをからかっただけだったとします。ところがBが激高して、近くにあった包丁を持ち出し、Aに切りつけようとしてきました。この場合は、Aの反撃についても、社会的相当性がなお認められる可能性が残ります。招いた責任は、自分がまいた種の大きさまでです。けなしただけの人に、命に関わる反撃まで甘受しろとは言えません。ここから先は、もう「自分で招いた」とは呼べないんです。その部分では、落ち度なく突然襲われた人と、同じ場面に戻ります。軽い挑発に対して、相手が予想を超えて重大な法益を侵害してきた場合です。

「自招侵害は常に正当防衛が成立しない」と言い切ってはいけません。

山場①——判例は「枠を前へ伸ばした」

事案——先に殴って、逃げて、追いつかれて 図:事案——先に殴って、逃げて、追いつかれて

ここで、実際にあった裁判を見ましょう。ごみ集積所で、ごみを捨てていたAに、被告人が声を掛けました。口論になり、被告人がAの左ほおを手拳で1回殴打して、そのまま逃げ出しました。Aは「待て」と言いながら、自転車で追い掛けました。追いついた地点で、自転車に乗ったまま腕を伸ばし、被告人の背中から首のあたりを強く殴打しました。被告人はこれで倒れましたが、起き上がりました。護身用に持っていた特殊警棒で、Aの顔面や、防御しようとした左手を数回殴打しました。Aは顔面のけがと、左手の指の骨折を負いました。Aの攻撃だけを取り出せば、たしかに被告人にとっての急迫不正の侵害に見えます。被告人も、この反撃について正当防衛を主張しました。

最高裁は、正当防衛の成立を否定しました。

判例最決平20・5・20 刑集62巻6号1786頁

最高裁判所——自招侵害と「一連、一体の事態」 「被告人は、Aから攻撃されるに先立ち、Aに対して暴行を加えているのであって、Aの攻撃は、被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから、Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえないというべきである。」

読みどころは、結論そのものではありません。枠の取り方です。Aの反撃だけを取り出して、「急迫不正の侵害への防衛」と評価する。それが自然に見えますよね。最高裁は、そうしませんでした。被告人が先に殴った出来事と、Aが追いついて殴り返した出来事を、切り離しませんでした。「被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所」だと言っています。この関係を、一連、一体の事態と呼んでいます。だから、1つの出来事として、1つの枠に入れました。反撃だけを切り出して、正当と評価することができなくなります。

反撃の場面だけを切り出してよいことにすると、先に手を出して相手を怒らせ、返ってきたところを叩く。それが「正当防衛」になってしまいます。正当防衛が、攻撃の道具に使えてしまうんです。そもそも、反撃してよい状況ではなかった、という言い方をしています。どこですか。「Aの攻撃が被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの」というところです。ここも、必ず押さえてください。

限定句——どこまでも否定するわけではない 図:限定句——どこまでも否定するわけではない

この一言は、限定句です。Aの攻撃が、被告人の暴行の程度を大きく超えるものでないという前提が、付いています。招いた側が、自分の行為よりも桁違いに重い反撃を受けた場合まで、一律に、反撃を正当と評価できないと言っているわけではありません。自招侵害の例外と、この限定句は、同じ発想でつながっています。だからこそ、枠の取り方と一緒に、この限定句もセットで覚えてください。

入口②——けんか

誰が誰に何をしたか——けんかの成り行き 図:誰が誰に何をしたか——けんかの成り行き

もう1つ、同じ考え方が当てはまる場面があります。その場面が、いわゆるけんかです。AとBが、素手で殴り合っていたとします。ところが途中で、Bが突然、近くにあった金属パイプを振り回して襲いかかってきました。ここでAが身を守るために反撃したら、どうなるでしょうか。けんかにも、自招侵害と同じ道具を使います。一撃だけを取り出さず、成り行き全体を見るという道具です。けんかそれ自体が、社会的相当性を欠く行為だからです。さっきの見方を当てはめてください。殴り合いは、お互いが攻撃と防御を繰り返している状態です。どちらも、自分の側から侵害を作り出しています。落ち度なく突然襲われて、公の助けを待っていられない。正当防衛が特別に許される、あの場面ではないんです。

だから原則として、正当防衛は成立しません。

例外——対等な条件が、突然崩れる 図:例外——対等な条件が、突然崩れる

例外は、さきほどの金属パイプの場面です。当初は対等な条件で始まったのに、相手が突然、著しく危険性の高い凶器を持ち出して襲いかかってきた場合です。この場合は、反撃を社会的に相当と評価できる余地が、なお残ります。Aが引き受けたのは、素手の殴り合いまでです。金属パイプで襲われるところまでは、引き受けていません。その瞬間からは、突然襲われた側と同じ場面に立っています。ここでも、一撃だけを見ません。けんかの成り行き全体を見て、対等な条件が崩れた瞬間があったかどうかを見ます。一撃だけを切り出さず、全体を見る。この道具は、共通しています。

出口——36条2項という別の箱

36条2項という別の箱 図:36条2項という別の箱

では、入口から出口へ移りましょう。まず、条文を見てください。

条文刑法36条2項

刑法36条2項(過剰防衛) 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

「することができる」に注目してください。減軽・免除は、しなければならないのではなく、裁判所ができる。これを任意的減免と呼びます。必ず刑が軽くなるとは限りません。過剰防衛とは、急迫不正の侵害に対して、防衛の意思で反撃した場合です。ただし、防衛の程度を超えた場合をいいます。正当防衛の行き過ぎ版、というイメージです。ですが、ここに大きな落とし穴があります。「行き過ぎたら、とりあえず過剰防衛」と思っていませんか。それは、誤りです。

過剰防衛にすらならない場合 図:過剰防衛にすらならない場合

過剰防衛と言えるためには、正当防衛の要件のうち、相当性以外はすべて満たしている必要があります。急迫、不正、侵害、自己または他人の権利、防衛の意思。この5つです。だから、急迫不正の侵害が無い場合や、防衛の意思が無い場合は、過剰防衛にすら、なりません。「とりあえず過剰防衛」という逃げ道は、ありません。もう1つ、位置づけも押さえておきましょう。過剰防衛は、犯罪の成立を否定する要件ではありません。構成要件、違法性、責任がいずれも認められたうえで、量刑の場面で刑を減免する制度です。この位置づけを、まず押さえてください。

2つの過剰——質と量

質的過剰と量的過剰 図:質的過剰と量的過剰

過剰防衛には、2つの種類があります。質的過剰と量的過剰です。まず、質的過剰は、必要以上に、強い反撃を加えた場合です。例えば、Bが素手で殴りかかってきたのに、Aがいきなり金属バットで殴り返した場合です。ここは、過剰防衛が成立しうることに、特に争いがありません。もう1つが、量的過剰です。当初は、防衛の程度の範囲内にある反撃だったのに、反撃を続けるうちに、相手の侵害がすでに収まった、あるいは目に見えて弱まっているのに、それでも同じ強さの反撃をやめずに続けた場合です。強さではなく、いつまで続けたかがキーになります。

そして、ここが今日の軸につながります。質的過剰は、1つの行為が強すぎただけ。切る場所がありません。量的過剰は、時間が延びている。だから、どこで切るかを決めないといけないんです。そして、量的過剰のほうには、処理のしかたに大きな論点があります。ここからが、今日いちばんの山場です。

山場②——枠を後ろで切るかどうかで結論が3通りに割れる

1個と見るか、分断するか 図:1個と見るか、分断するか

量的過剰を、どう処理するか。冒頭の、踏みつけの話ですね。侵害がやんだ時点を境に、行為を分断するかどうかで、結論が変わります。分断しなければ、全体を1個の行為ととらえます。この場合、全体として過剰防衛が成立します。犯罪は成立しますが、任意的減免の余地があります。分断すると、第1行為と、第2行為に分かれます。侵害がやむ前の第1行為は、正当防衛として不可罰です。侵害がやんだあとの第2行為は、もはや防衛行為ではありません。正当防衛としても過剰防衛としても、扱われません。さっきの落とし穴を思い出してください。過剰防衛は、相当性以外の要件が全部そろっていないと使えません。侵害がやんだ後は、急迫不正の侵害がもう無い。しかも、それを分かったうえで続けているなら、防衛の意思もない。だから、過剰防衛の箱にすら入らないんです。

結果として、第2行為は、完全な犯罪として処罰されます。切り方ひとつで、この3つに割れます。自招侵害は、枠を前へ伸ばして、自分が招いた出来事まで取り込みました。量的過剰は、逆に、枠を後ろで切るかどうかを問題にしています。行為をどこで切り取るかという、同じ1本の道具の裏表です。この一連の行為を、1個と見れば、全体が過剰防衛です。刑が減るかもしれません。ですが、倒れて動かなくなった時点で分断すれば、踏みつけた行為だけは、正当防衛としても過剰防衛としても扱われない、独立した犯罪になります。

同じ事実なのに、結論がここまで動きます。判例が、どこで切っているかを見ましょう。

判例はどこで切っているか

事案①——机を押し返し、殴打まで 図:事案①——机を押し返し、殴打まで

まず、1つ目の事案です。勾留中の、同じ部屋の人どうしのトラブルでした。被害者が、折り畳み机を被告人に向けて押し倒してきました。その机を、押し返しました。これが第1行為です。単独で見れば、防衛の手段として相当な範囲でした。ところが、机が当たって転倒し、反撃も抵抗も難しくなった被害者の顔面を、被告人が、手拳で数回殴打しました。これが第2行為です。相当性の範囲を、明らかに逸脱しています。実は、傷害は第1行為から直接生じたものでした。もし分断すれば、けがを生じさせた第1行為は正当防衛で不可罰、けがを生じさせていない第2行為だけが残ります。1個と見るか分断するかで、この傷害を誰の責任にするかまで変わるんです。

判例最決平21・2・24 刑集63巻2号1頁

最高裁判所——一連一体の1個の過剰防衛 「被告人が被害者に対して加えた暴行は、急迫不正の侵害に対する一連一体のものであり、同一の防衛の意思に基づく1個の行為と認めることができるから、全体的に考察して1個の過剰防衛としての傷害罪の成立を認めるのが相当であり」

第1行為と第2行為を、切り離しませんでした。同一の防衛の意思に基づく、1個の行為だと認めました。全体的に考察して、1個の過剰防衛が成立する、としました。任意的減免の対象になります。

事案②——灰皿を投げられ、動かなくなるまで 図:事案②——灰皿を投げられ、動かなくなるまで

もう1つ、別の事案を見ましょう。呼び止められた被告人が、相手方からいきなり殴りかかられ、もみ合いになりました。そのうちに相手方が、アルミ製の灰皿を被告人に投げつけました。相手方は当時76歳、被告人は当時64歳でした。その反動で体勢を崩した相手の顔面を、被告人が殴打しました。これが第1行為です。すると相手は転倒して、後頭部を打ちました。意識を失ったように、動かなくなりました。被告人は、その状態を十分に認識しながら、憤激のあまり、動かない相手の腹部を足蹴りし、踏みつけ、ひざを落としました。これが第2行為です。

最高裁は、この事案をどう見たと思いますか。この灰皿の事案では、最高裁は一体とは見ずに、行為を分断しました。

判例最決平20・6・25 刑集62巻6号1859頁

最高裁判所——分断された第2行為 「第1暴行により転倒した甲が、被告人に対し更なる侵害行為に出る可能性はなかったのであり、被告人は、そのことを認識した上で、専ら攻撃の意思に基づいて第2暴行に及んでいるのであるから、第2暴行が正当防衛の要件を満たさないことは明らかである。……両暴行を全体的に考察して、1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当でなく、正当防衛に当たる第1暴行については、罪に問うことはできないが、第2暴行については、正当防衛はもとより過剰防衛を論ずる余地もない」

ここが、今日いちばんの分かれ目です。

対照——一体か、分断か 図:対照——一体か、分断か

判断の要素を、3つ並べましょう。1つ目、第2行為の時点で、防衛の意思が続いていたか、それとも専ら攻撃の意思だったか。2つ目、行為者が、相手がもう侵害してこないと認識していたかどうか。3つ目、第2行為の態様・程度です。3つとも、同じことを測っています。第2行為の時点で、それがまだ「身を守るための行為」だったか。3つは、その目印です。机の事案では、第2行為も、同一の防衛の意思に基づく行為だと認められました。これに対して灰皿の事案では、相手が更なる侵害行為に出る可能性が無いことを、被告人は認識していました。そのうえで、専ら攻撃の意思に基づいて、第2行為に及んでいます。

だから、分断されました。答案では、この3つを、事実に当てはめて書きます。

⭐ 論文で書く規範:量的過剰の判断要素 第2行為の時点で防衛の意思が継続していたか、行為者が更なる侵害行為に出る可能性がないことを認識していたか、第2行為の態様・程度を総合的に考慮して、行為を1個ととらえるか分断するかを判断する。 (規範(判例の集積から・最決平21・2・24、最決平20・6・25ほか参照))

机の事案は、第2行為でも防衛の意思が続いていて、態様も机を押し返した延長にとどまっていました。だから、一体と判断されました。灰皿の事案は、相手がもう侵害してこないと認識したうえで、専ら攻撃の意思に転じ、態様も踏みつけやひざ落としへと重くなっていました。だから、分断されました。ここで、1つ思い出してください。「もっぱら攻撃の意思」という心のうちは、前回までに、別の名前も含めて何度か出てきました。今日で何回目の登場か、思い出せますか?1つは、前々回、防衛の意思を否定する場面で出てきました。もう1つは、急迫性を否定する、積極的加害意思のところです。

今日で、3回目です。ただし、時点が違います。

もっぱら攻撃の意思——時点が違えば、効く場所が変わる

「もっぱら攻撃の意思」、3つの場面 図:「もっぱら攻撃の意思」、3つの場面

心の中身は同じでも、それが生まれた時点が違うので、壊れる要件が変わります。1つ目は、侵害を予期して、待ち構えていた局面です。来ると分かったうえで、鉄パイプを用意して待ち、その機会に痛めつけてやろうと考えて臨んだ、あの人ですね。急迫性は、失われません。備えていただけだからです。失われるのは、その機会を利用して、積極的に加害する意思まで進んだときでした。急迫という要件があるのは、突然に侵害を受けて、公の助けを待っていられない人を守るためです。機会として待ち構えた人は、その場面に追い込まれた人ではありません。だから、急迫性が否定されました。2つ目は、不意打ちの反撃の最中に、気持ちが変わった局面です。いきなり殴りかかられて、殴り返した。相手はまだ向かってきている。ところが途中で守る気持ちが消えて、この際だから痛めつけてやろう、という気持ちだけになった。

予期していないので、急迫性のほうは残ります。だから、こちらで落ちるのは防衛の意思でした。そして3つ目が、今日の場面です。侵害が終わったあとも、反撃を続けた局面です。予期していた時点、反撃の最中、そして終わったあと。同じ心理状態でも、生まれた時点によって、効く場所が変わります。時点さえ区別できれば、同じ道具として、迷わず使えます。

山場③——なぜ減免されるのかが、切り方の理由になる

任意的減免の根拠、3つの説 図:任意的減免の根拠、3つの説

過剰防衛は、なぜ刑が軽くなったり、免除されたりするのでしょうか。もう少し、正確に見ましょう。根拠として、3つの考え方があります。1つ目、違法性減少説です。防衛の効果が生じている以上、違法性が軽くなる、という説明です。2つ目、責任減少説です。急迫不正の侵害という緊急事態では、恐怖、驚愕、興奮、狼狽のせいで、多少の行き過ぎを犯します。それでも、行為者を強く非難できない、という説明です。3つ目、併合説です。違法性と責任、両方の減少を組み合わせます。責任減少説が通説です。

違法性減少説は、行為者の心のうちを見ません。防衛の効果が生じている以上、違法性が軽くなる、という説明だからです。それだと、このあと見る「恐怖の延長で行き過ぎたのか、もっぱら攻撃したいだけだったのか」という分かれ目を拾えません。併合説は、その2つを積み上げる立場です。今日の判例の分かれ方に効いてくるのは、責任減少説の側です。そして、ここからが、今日いちばんの核心です。責任減少説に立つと、さっきの判例の分かれ方が、導き出せるんです。机の事案を思い出してください。第2行為は、同一の防衛の意思に基づいていました。まだ、恐怖や動揺の延長で、行き過ぎてしまった、と説明できます。

非難を弱める理由が、まだあります。だから、全体が1個の過剰防衛として、任意的減免の対象になります。これに対して灰皿の事案では、相手が、もう侵害してこないと分かっていながら、恐怖や興奮からではなく、もっぱら攻撃したいという気持ちだけで、殴り続けました。恐怖や興奮のせいで行き過ぎた、とは言えません。非難を弱める理由が、そもそも無いんです。だから、分断されて、第2行為は過剰防衛にすらなりません。判例の結論は、暗記事項ではありません。責任減少説という根拠から、そのまま出てくる結論なんです。理由がつながれば、覚えることは、むしろ減ります。最後に、1つだけ触れておきます。今日見た場面には、行為者が客観的な要件を誤って思い込んで反撃する場合も、理屈のうえでは考えられます。これを、誤想防衛・誤想過剰防衛と呼びます。

前回は、防衛のつもりで第三者に当ててしまった場合の学説の1つとして出ました。あちらは向け先がずれる形、こちらは侵害があると思い込む形。どちらも、主観と客観がずれるという同じ構造です。誤想防衛・誤想過剰防衛は、責任のレベルの問題なので、違法性を扱う今日は踏み込みません。

今日の地図(保存版)

今日の到達点 図:今日の到達点

今日を、振り返りましょう。まず、正当防衛の枠にそもそも乗らない、入口の話をしました。自招侵害は、原則、正当防衛が成立しません。ただし、相手の反撃が予想を超えて重すぎる場合は例外です。一撃だけを取り出さず、成り行き全体を見る、という道具でした。さっき見た判例は、自分が招いた出来事まで含めて、反撃を1つの枠に入れました。枠を、前へ伸ばしたんです。相当性以外の要件は、すべて満たしている必要がありました。「とりあえず過剰防衛」はありません。質的過剰は強さ、量的過剰はいつまで続けたかで見分けます。

量的過剰を、1個の行為と見るか、分断するかでした。分断すれば、第2行為は正当防衛としても過剰防衛としても扱われず、完全な犯罪になります。そして、その分かれ方は、責任減少説という根拠から、導き出せるものでした。もっぱら攻撃したいだけなら、その理由が無い。だから、分断される。行為をどこで切り取るか。この1本の軸で、今日は全部説明できました。なお、量的過剰と共犯の関係や、罪数の問題は、別の回で扱います。正当防衛は、これで全体像が完成しました。36条1項の6要件と、36条2項の過剰防衛。すべて出そろいました。

参照条文

  • 刑法36条2項

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