刑法ゼロから刑法#64

共犯の全体像

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第9章 共犯 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入——書いていないのは、うっかりか、わざとか

違法な物を売った人は罰せられる。頼んで買った人は 図:違法な物を売った人は罰せられる。頼んで買った人は

今日は、こんな問いから始めます。違法な物を売った人は、条文で処罰されます。では、それを「売ってくれ」と頼んで買った人は、どうなるでしょうか。頼まなければ、そもそも売買は起きなかったはずです。それなのに、条文は買った人を罰するとは書いていません。書いていないのは、うっかりか。それとも、あえて外したのか。先に答えを言うと、あえて外した、と読みます。なぜそう読めるのかは、最後にもう一度確かめます。まずは、共犯という制度の全体を、1本の軸で見通せるようにしましょう。

今日の地図——共犯の3つの広さ

最広義から必要的共犯・任意的共犯へ 図:最広義から必要的共犯・任意的共犯へ

第9章は、共犯を扱います。まず、共犯という言葉には、広さの違う3段階があります。いちばん広い呼び方が、最広義の共犯です。これは、2人以上で犯罪にかかわる場合を、まとめて指す言葉にすぎません。ここから2つに分かれます。1つが必要的共犯、もう1つが任意的共犯です。この任意的共犯を、広義の共犯と呼びます。これが2段目の広さです。共同正犯、教唆犯、幇助犯の3つです。このうち、教唆犯と幇助犯を、狭義の共犯と呼びます。たとえば、2人で一緒に殴れば共同正犯。殴る気の無かった人をそそのかして殴らせれば教唆犯。殴ろうとしている人に棒を貸せば幇助犯、というイメージです。

共同正犯は、狭義の共犯には入りません。教唆犯・幇助犯は、自分では実行行為をしない点で、共同正犯とは区別されるからです。共同正犯は、あくまで正犯の一種です。60条自身が「すべて正犯とする」と書いています。正犯とは、自ら実行する者のことです。正犯と、狭義の共犯である教唆・幇助との境目をどこで引くかは、実は難しい論点で、これは別の回で正面から扱います。

各則の条文は1人用の型紙 図:各則の条文は1人用の型紙

ここで、たとえで整理します。各則の条文は、いわば1人用に裁断された型紙です。「人を殺した者」という条文は、1人が実行する場面を型にして書かれています。そのままでは当てはまりません。だから、60条以下という追加ルール集を用意して、1人用の型紙を、2人以上で仕立てられるように広げるんです。任意的共犯とは、この「型紙を広げる規定」のことだと思ってください。

なぜ「修正された構成要件」なのか

型を時間で広げるか、人数で広げるか 図:型を時間で広げるか、人数で広げるか

未遂と共犯には、共通点があります。どちらも、各則の条文をそのままでは使えない場面に、型を修正して対応する、という点です。未遂は、各本条が1つずつ持っている型、つまり既遂を想定した基本的構成要件を、時間的に修正したものでした。共犯は、1人でやる型を、2人以上でも使えるように、人数の面で修正したものです。どちらも、修正された構成要件と呼ばれます。235条の窃盗罪は、1人が窃取する場面を型にしています。235条に60条が掛かることで、初めて「窃盗の共同正犯」という型ができました。元の条文の型を土台にしたまま、足りない部分だけを補うからです。たとえば、見張りだけをした人は、自分では何も盗っていないので、235条の「窃取した」には、そのままでは当てはまりません。そこに60条が掛かって、初めて窃盗罪の型で処罰できるわけです。罪名は窃盗罪のままで、答案でも235条と60条を並べて挙げるのは、そのためです。今日は、この60条以下の位置づけを見ていきます。

60条・61条・62条・63条の全文カード

共同正犯(60条) 図:共同正犯(60条)

条文刑法60条

刑法60条(共同正犯) 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

まず60条です。「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。」これが、共同正犯の根拠条文です。ただし、「共同して」がどういう場合を指すのか、実行行為をどこまで分担すれば足りるのか、といった中身は、共同正犯の要件を扱う回に送ります。

教唆犯(61条) 図:教唆犯(61条)

条文刑法61条

刑法61条(教唆) 1項 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。 2項 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。

次に61条、教唆犯です。1項は、人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する、としています。刑の重さは正犯と同じ扱いになります。ただし、あくまで自分では実行しないので、位置づけとしては狭義の共犯です。2項は、教唆者をさらに教唆した者、いわゆる間接教唆も、同じ扱いにすると定めています。

幇助犯(62条) 図:幇助犯(62条)

条文刑法62条

刑法62条(幇助) 1項 正犯を幇助した者は、従犯とする。 2項 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

続いて62条、幇助犯です。1項、正犯を幇助した者は、従犯とする。ここで「従犯」という言葉が出てきますが、これは幇助犯と同じものを指す、条文上の呼び方です。幇助犯と従犯は、別の制度ではなく同じものです。2項は、従犯をさらに教唆した者も、従犯として扱うとしています。

従犯の刑の減軽(63条) 図:従犯の刑の減軽(63条)

条文刑法63条

刑法63条(従犯減軽) 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。

最後に63条です。従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。教唆犯が正犯と同じ刑だったのに対して、幇助犯、つまり従犯は、正犯より軽い刑になります。違いの理由はこうです。教唆は、その気の無かった人に犯罪を決意させる、つまり犯罪そのものを生み出す関与です。幇助は、すでに決意している人の手助けにとどまります。この差が、刑の差になっています。ここまでが、任意的共犯の4か条です。

必要的共犯の2分類——集団犯と対向犯

集団犯と対向犯——同じ向きか、向き合うか 図:集団犯と対向犯——同じ向きか、向き合うか

ここからは、もう一方の道、必要的共犯です。必要的共犯は、各則の条文それ自体が、最初から2人以上を前提に組み立てられている型で、60条以下は経由しません。最初から2人用に裁断された型紙、ということです。必要的というのは、2人以上いないと、そもそもその罪が成り立たない、という意味です。強さの差ではなく、型が最初から何人を必要としているかの差です。必要的共犯は、2つに分かれます。1つが集団犯、もう1つが対向犯です。同じ目的に向かう多数人の集団的行為を、それ自体で1つの型にしたものです。集合犯、多衆犯とも呼ばれますが、これは呼び方の違いにすぎません。例は、内乱罪と騒乱罪です。騒乱罪なら、大勢が集まって暴れ、その地域の平穏を乱す場面で、1人では成り立ちません。

2人以上の、互いに向き合う行為を要件にする型です。例は、収賄罪・贈賄罪、それに、わいせつ物頒布等罪です。集団犯が同じ方向を向いた矢印だとすれば、対向犯は、向かい合う2本の矢印になります。ここに注目してください。収賄罪・贈賄罪は、賄賂を受け取る側にも、贈る側にも、どちらにも処罰規定があります。ところが、わいせつ物頒布等罪は、わいせつな物を頒布する側、つまり送り手にしか処罰規定がありません。同じ対向犯なのに、両方に型紙がある場合と、片方にしか型紙が無い場合がある。ここから、今日いちばん大事な論点に入ります。

片面的対向犯——書いていないことの意味

受け手用の型紙が無い理由は 図:受け手用の型紙が無い理由は

わいせつ物頒布等罪は、送り手だけを処罰する条文です。買った側、つまり受け手には、処罰規定がありません。この受け手を、総則の共犯規定、60条から63条を使って、教唆犯や幇助犯として処罰できないでしょうか。総則を経由すれば、各則が書いていない部分を補えそうにも見えます。そこが問われる論点です。この問いに対する原則的な答えが、立法者意思説と呼ばれる考え方です。

立法者意思説——原則不可罰と例外 図:立法者意思説——原則不可罰と例外

立法者意思説は、こう考えます。受け手の行為は、わいせつ物頒布等罪が成立する場面で、当然予想される行為です。それなのに、各則があえて処罰規定を置いていない以上、これを総則の共犯規定で処罰するのは、法が意図しないところだ、と。買い手は、この罪が起きるたびに、必ず登場する相手です。立法者がその存在に気づかなかったとは、考えにくいですよね。気づいていて書かなかったのなら、それは書き忘れではなく、処罰しないという判断だ、と読むわけです。ですから、原則として、受け手には共犯規定を適用しません。原則、不可罰です。

例外はあります。当然予想される範囲を大きく超える、積極的で執拗な働きかけを行った場合には、例外的に共犯規定の適用がありうる、と整理されています。立法者が見込んで外したのは、普通に買いに来る程度の関与までです。渋る相手を押し切って、犯罪そのものを引き起こすほどの関与は、見込んだ範囲の外なので、外した理由がそこまでは及ばない、というわけです。

AとBの働きかけの違い 図:AとBの働きかけの違い

設例で確かめましょう。Aは、店にあったわいせつな物を、普通に「売ってください」と頼んで買っただけです。当然予想される範囲の関与にとどまるからです。では、Bはどうでしょうか。Bは、渋る売り手に対して、繰り返し、執拗に「売ってくれ」と働きかけ、根負けさせて売らせました。

Bは、Aと同じように不可罰でしょうか 図:Bは、Aと同じように不可罰でしょうか

では、あなたに聞きます。Bは、Aと同じように、不可罰でしょうか?Bのような、当然予想される範囲を大きく超えた積極的・執拗な働きかけは、例外の対象になりうる場面として位置づけられます。同じ「買った」という結果でも、関与の程度によって扱いが動くんです。この考え方の元になった判例を見ましょう。ただし、この判例が扱った事件は、わいせつ物頒布等罪ではありません。弁護士法72条という、刑法典の外の罪です。

判例最高裁判所判決・刑集22巻13号1625頁

依頼者による教唆の成否が問われた事案 弁護士でない者に、報酬を支払う約束で、自分の法律事件の示談解決を依頼し、実際に報酬を支払った者が、非弁護士による法律事件の取扱いを禁じる規定(弁護士法72条・77条)違反の教唆犯として起訴された。同条は、依頼して報酬を与える者の関与を当然予想しており、その関与なしにはこの罪は成立しない。それなのに、依頼者を罰する規定を置いていない以上、これを教唆・幇助として処罰することは、原則として法の意図しないところであるとして、依頼者は教唆犯として処罰できないとされた。

混ぜないでください。わいせつ物頒布等罪は、あくまで問題の所在を示すための例で、この判例が扱ったのは、弁護士法違反の事件です。ただ、条文が当然予想される関与をあえて処罰していない以上、総則の共犯規定を適用しないという理屈そのものは、共通しています。この判例も、例外を認めたわけではありません。判例が言っているのは、「原則として法の意図しないところ」というところまでで、例外の具体的な線までは示していません。さっき見た例外は、あくまで学説の整理です。刑法8条によって、総則の規定は、他の法令の罪にも適用されます。だから、弁護士法違反の事件でも、総則の共犯規定を使うかどうかが問題になったわけです。片面的対向犯のこの扱いは、論文で論点になりうるところです。書いていないのは、当然予想される関与をあえて外したから。だから原則は不可罰です。

共犯者の一部が国外にいる場合

正犯行為地か、共犯行為地か、どちらかが国内なら 図:正犯行為地か、共犯行為地か、どちらかが国内なら

共犯者が何人もいると、居場所が国をまたぐこともあります。以前、場所的適用範囲を扱った回で、「共犯を学ぶ回で改めて扱う」と約束した論点があります。共犯者の一部が国外にいる場合の扱いです。これを遍在説と呼びました。共犯についても、同じ発想を使います。共犯の側から見れば、自分の教唆や幇助が「行為」、それを受けた正犯の実行が「結果」にあたる、と整理できるからです。正犯の実行行為地と、教唆や幇助といった共犯行為が行われた地、このどちらかが国内であれば、日本の刑法を適用できます。たとえば、海外にいる人が、日本にいる知人にメッセージを送って空き巣をそそのかし、知人が国内で盗んだ。この場合、教唆は国外ですが、正犯の実行行為地が国内なので、日本の刑法が及びます。

その場合も、共犯行為が国内で行われている以上、国内犯として扱われます。共犯者の一部が国外にいても、他方の関与が国内で行われていれば、日本の刑法が及ぶ、と押さえてください。

共犯論で問う3つの問い——第9章の地図

第9章で問う3つの問い 図:第9章で問う3つの問い

最後に、これから第9章で扱っていく問いを、地図にしておきます。共犯論は、大きく3つの問いを持っています。1つ目は、処罰根拠です。なぜ、自分で実行していない人を罰せるのか、という問いです。従属性です。共犯が成立するには、正犯側にどこまでの成立が必要か、という問いです。共犯の本質、そして共同正犯の要件です。何を「共同」すれば共同正犯になるのか、という問いです。

今日の地図(保存版)

今日の到達点 図:今日の到達点

今日を振り返ります。共犯には、最広義、広義、狭義という3つの広さがありました。最広義は必要的共犯と任意的共犯に分かれ、任意的共犯が広義の共犯、つまり共同正犯、教唆犯、幇助犯の3つ。うち教唆犯と幇助犯が狭義の共犯でした。60条が共同正犯、61条が教唆犯、62条と63条が幇助犯、つまり従犯です。もう一方の道が、必要的共犯でした。同じ方向を向く集団犯と、向き合う対向犯の2分類でしたね。対向犯の中に、片方にしか処罰規定が無い場合がありました。それが片面的対向犯です。当然予想される関与を、あえて処罰規定から外したと読むのが原則で、原則は不可罰。ただし、積極的で執拗な働きかけは、例外の対象になりうる、というところまで見ました。ここで、思い出しながら答えてみてください。片面的対向犯で、原則として不可罰とされるのは、どのような関与でしょうか?

片面的対向犯で原則として不可罰とされるのは、当然予想される範囲の関与です。当然予想される関与だからこそ、立法者があえて処罰規定を置かなかった、という読み方でしたね。冒頭の問いに戻ります。違法な物を売った人は罰せられるのに、買った人を罰する規定は無い。書いていないのは、うっかりか、わざとか——今日の答えは、あえて外した、です。必ず登場する相手なのに、条文はあえて書かなかった。それが立法者の判断だと読むわけです。

参照条文

  • 刑法60条
  • 刑法61条
  • 刑法62条
  • 刑法63条

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