刑法 ゼロから刑法#41

暴行罪・傷害罪・傷害致死罪(前編)——「殴る」と「ケガ」の境界

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第9章 生命・身体に対する罪 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

身体侵害の3段階——この回の軸 〔短答・論文共通〕

身体侵害の3段階グラデーション。①殴ったがケガなし=暴行罪208(最軽・2年以下)→②ケガをさせた=傷害罪204(15年以下)→③ケガから死なせた=傷害致死罪205(最重・3年以上)。結果が重くなるほど罪も重い。

刑法は身体への侵害を、結果の重さで3段階に分けます。一番下が、殴ったけれどケガはなかった。これが暴行罪です。真ん中が、ケガをさせた傷害罪。一番上が、死なせた傷害致死罪。結果が重くなるほど、条文の刑も重くなります。暴行罪は2年以下、傷害罪は15年以下、傷害致死は3年以上。いい捉え方です。

暴行罪208——「暴行」とは何か 〔短答・論文共通〕

刑法208条(暴行)の全文。保護法益=人の身体の安全。本罪の「暴行」=人の身体に対する不法な有形力の行使(狭義の暴行)。

まず一番下の段、暴行罪。208条を見ます。暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の拘禁刑、もしくは30万円以下の罰金などに処する。そこ、後で山場の鍵になります。今は覚えておいてください。保護法益は人の身体の安全。問題は「暴行」とは何か、です。それも暴行ですが、刑法の「暴行」はもっと広いんです。

暴行の3要素——有形力・不法性・対人性 〔短答・論文共通〕

暴行罪の「暴行」の3要素。(ア)有形力の行使=物理的な力。音・光・熱・電気のエネルギー作用も○(耳元で太鼓を激しく連打=最判昭29・8・20/拡声器で大音量)。非接触も○(石を投げ外れても=最決昭39・1・28)。心理的作用は×(脅し文句・侮辱)。(イ)不法性=日常的に許される接触は除く。(ウ)対人性=人の身体に向くもの。

暴行罪の「暴行」は3つの要素で決まります。まず有形力の行使。これは物理的な力。殴る蹴るは当然ですが、それだけじゃない。音・光・熱・電気も有形力です。耳元で太鼓を激しく鳴らす。これも体に物理のエネルギーをぶつけているので、暴行になる。触らなくても暴行です。判例は、当たらなくても身体に向けた物理力なら暴行とした。たとえば石を投げて外れても同じ。体に向けた力の行使だからです。それは暴行ではありません。言葉は心理への作用で、物理力ではない。2つ目が不法性。日常で許される接触は除きます。落とし物を知らせようと、軽く肩に手をかける。これは暴行でない。人の身体に向くこと。無人の建物を壊すのは器物損壊で、暴行罪でない。保護法益が身体の安全だから、物への力は暴行罪に入らないんです。

暴行概念の4分類——多義語を整理する 〔短答・論文共通〕

暴行概念の4分類比較表。保護法益が広い罪ほど「暴行」も広い。①最広義=人・物への一切の不法な有形力(騒乱罪106)/②広義=+人に対する(公務執行妨害95・強要223・恐喝249)/③狭義=+人の身体に対する(暴行罪208)/④最狭義=+反抗を抑圧する程度(強盗236・不同意性交等177)。

ここで短答最頻出。刑法の「暴行」は罪ごとに広さが違います。覚え方は1つ。保護法益が広い罪ほど、暴行も広い。一番広いのが最広義。人にも物にも向く一切の有形力。騒乱罪です。次が広義。人に向くもの。公務執行妨害や強要、恐喝がこれ。いいんです。面前でパトカーを蹴る。物への力でも人に向いている。3つ目が狭義。人の身体に対するもの。これが暴行罪の「暴行」です。一番狭いのが最狭義。反抗を抑え込む程度の強い暴行。強盗などです。法益と暴行の広さがセットだと押さえれば迷いません。

傷害罪204——「傷害」とは何か 〔短答・論文共通〕

刑法204条(傷害)の全文。傷害=人の生理的機能に障害を加えること(大判明45・6・20・通説)。体の機能を壊したかが基準。

階段の2段目、傷害罪。204条です。人の身体を傷害した者は、15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金。ケガという結果が出たぶん、刑も跳ね上がる。では「傷害」とは何か。判例通説は、人の生理的機能に障害を加えること、と定義します。かみ砕くと「体の機能を壊したか」。これが傷害かどうかの基準です。

傷害の○×の境界——どこからがケガか 〔短答・論文共通〕

傷害の○×の境界。○=長時間の失神/病気をうつす(病毒感染)/キスマーク等の内出血/PTSD・心的外傷後ストレス障害(最決平24・7・24)。×=頭髪を根元から切る(外形が変わるだけで生理的機能の障害はない=暴行罪どまり)。

機能を壊したか、で線を引くと、意外なものも傷害になります。長時間気を失わせる、病気をうつす、キスマークの内出血も傷害。PTSD、心的外傷後ストレス障害も傷害です。判例が認めました。目に見えなくても、精神の機能に障害が出ているからです。髪の毛を根元から切る行為。これは傷害ではなく暴行罪止まりです。でも体の機能は壊れていない。外見が変わっただけ。だから暴行罪。髪も傷害だとする学説もありますが、判例通説は機能障害で線を引きます。

傷害の方法と故意の2分岐——今日の山場 〔論文の骨格〕

傷害の故意の2分岐(4パターン表)。傷害の方法は無限定(殴る等の暴行も、毒・嫌がらせ等の無形的方法も○)。①暴行+傷害の故意あり=傷害罪/②暴行+傷害の故意なし=傷害罪(結果的加重犯=208条の反対解釈)/③無形的方法+傷害の故意あり=傷害罪/④無形的方法+傷害の故意なし=傷害罪不成立(過失傷害209の余地)。

ここが今日最大の山場です。冒頭の問いに戻ります。総論で「故意がなければ故意犯は成立しない」と習いました。しないんです。鍵は、さっき覚えてもらった208条の文言。208条は「傷害するに至らなかったとき」を暴行罪としていました。これを裏返す。傷害するに「至ったとき」は、どうなるか。208条の反対解釈で、暴行の故意のまま傷害結果が出れば傷害罪。これは総論37回の結果的加重犯。軽い罪をやったら重い結果が出た型。だから暴行の故意さえあれば、傷害の故意は要りません。自販機の階段で喩えます。殴るというコインを入れて押す。出てくる商品が、暴行か傷害か死かは、結果次第でランプが点く。自分が押した段より上の結果まで、引き取らされるのが結果的加重犯です。いい着眼。傷害の方法は無限定で、無形的方法でも成立します。嫌がらせを続けて相手を鬱状態にする。これも傷害になりうる。いいえ、そこが分岐点。無形的方法には、下に暴行罪という段がない。段がないから結果的加重犯の土台もない。だから傷害の故意が必要です。表で整理します。暴行で故意あり、なし。無形的方法で故意あり、なし。4つのうち、傷害罪にならないのは無形的方法かつ故意なしの1つだけ。それも過失なら過失傷害209の余地。処理は42回でやります。そこが核心です。208条の反対解釈、必ず押さえてください。

傷害致死罪205——二重の結果的加重犯 〔短答・論文共通〕

刑法205条(傷害致死)の全文と二重の結果的加重犯フロー。暴行(の故意)→傷害→死亡。傷害罪は暴行罪の結果的加重犯、傷害致死罪は傷害罪の結果的加重犯=二重の結果的加重犯。殴る故意しかなくても、傷害を経て死亡すれば傷害致死罪。死亡の故意があれば殺人罪199(#40)。

階段の一番上、傷害致死罪。205条です。身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期拘禁刑。傷害罪の結果的加重犯です。しかも二重になっている。傷害罪自体が、もともと暴行罪の結果的加重犯でしたよね。その傷害罪の、さらに結果的加重犯が傷害致死罪。だから二重です。暴行の故意で殴る、ケガになる、死ぬ。階段を2段上がる形です。なります。殴る故意しかなくても、傷害を経て死ねば傷害致死罪。もし死の故意があれば、それは40回でやった殺人罪199になります。死の予見可能性などの細かい論点は、37回に送ります。

その他の傷害の罪——現場助勢206・凶器準備集合208の2 〔短答〕

その他の傷害の罪(所在のみ)。現場助勢罪206=傷害・傷害致死の現場で勢いを付けた者(野次・煽り)。自ら傷害しなくても、結果発生を前提に処罰。凶器準備集合・結集罪208の2=2人以上が害を加える目的で凶器を準備して集合する等。

傷害の章には、ほかに2つ条文があります。所在だけ押さえます。1つは現場助勢罪206。傷害の現場で勢いをつけた者。結果が出ていることが前提ですが、煽った者も処罰されます。もう1つが凶器準備集合罪208の2。害を加える目的で凶器を準備し集合する。この2つは短答で名前と趣旨を押さえれば十分です。

短答ひっかけ

ここはひっかかる。①暴行=音・光・投石も○/言葉だけ・物への力は×(対人性)②暴行は罪ごとに4段階の広さ③傷害=生理的機能の障害/PTSDは○・頭髪切除は×④暴行で傷害=故意不要(208反対解釈)/無形的方法で傷害=故意必要⑤傷害致死=二重の結果的加重犯(殺意は不要)。

短答でひっかかる所を5つ。①暴行は音・光・投石も入る。でも言葉だけ、物への力は暴行罪でない。対人性で外れます。②暴行は罪ごとに広さが4段階。法益が広い罪ほど暴行も広い。③傷害は生理的機能の障害。PTSDは入り、頭髪切除は入らない。暴行で傷害なら故意不要、無形的方法なら故意必要。逆に注意。⑤傷害致死は二重の結果的加重犯。殺意がなくても成立します。

📝 論文の型

★コア規範:208条の反対解釈により、暴行を加えて人を傷害するに至ったときは、傷害の故意がなくとも暴行の故意があれば傷害罪が成立する/傷害罪204はこの限度で暴行罪208の結果的加重犯を含む/無形的方法による傷害は土台となる暴行罪がないため傷害の故意を要する。

では論文の型。逐語で覚えるのは、太字のキーワードだけ。あとは下の復元キーをたどって、趣旨から組み立て直します。208条は「傷害するに至らなかったとき」を暴行罪とする。その反対解釈で、傷害に至ったときは暴行の故意で傷害罪が成立。傷害罪204は、この限度で暴行罪208の結果的加重犯を含む。ただし無形的方法による傷害は、土台の暴行罪がないので故意が必要。

答案の型:【事例】→【問題提起】→【規範】→【あてはめ】(暴行の故意で殴り傷害結果が生じた事例)。

使い方を型で。殴る故意だけで一発叩き、相手がケガをした事例。問題提起。傷害の故意がないのに傷害罪が成立するか、を立てる。規範を立てて、あてはめ。208条の反対解釈で結果的加重犯を含む。行為者には暴行の故意がある。傷害結果も出ている。よって傷害の故意がなくても、傷害罪が成立する。この順で書きます。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ。身体侵害は結果の重さで3段階=暴行208/傷害204/傷害致死205。暴行=身体への不法な有形力(音・光・投石も○/対人性)。暴行は罪ごと4段階の広さ。傷害=生理的機能の障害(PTSD○・頭髪×)。故意の2分岐=暴行で傷害は故意不要(208反対解釈の結果的加重犯)/無形的方法は故意必要。傷害致死=二重の結果的加重犯。

まとめます。刑法は身体への侵害を結果の重さで3段階に分ける。暴行は身体への不法な有形力。音・光・投石も入り、物への力は除く。傷害は生理的機能の障害。PTSDは入り、頭髪切除は入らない。山場は故意の2分岐。暴行で傷害なら故意不要、無形的方法なら故意必要。故意不要の根拠は208条の反対解釈、傷害罪は暴行罪の結果的加重犯。傷害致死はその二重版。殺意がなくても、傷害を経て死ねば成立する。複数人で殴って、誰の一撃でケガをしたか分からないとき。原則なら全員ケガの責任を免れるはずが、それを覆す同時傷害の特例207。後編で、立証責任をひっくり返すこの例外を通します。

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