刑法ゼロから刑法#79

身分犯の共同正犯と業務上横領

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第9章 共犯 ⑯/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の結論と、今日の2つの問い

前回の結論と、今日の2つの問い 図:前回の結論と、今日の2つの問い

前提の確認です。65条1項は真正身分犯の共犯の成立と科刑を、2項は不真正身分犯の共犯の成立と科刑を定めたものと読みます(判例・通説)。そう読める理由は条文の言葉の違いにあります。1項は「身分によって構成すべき犯罪行為」、つまり身分が罪そのものを作る場合を書き、2項は「身分によって特に刑の軽重があるとき」、つまり身分が刑の重さだけを動かす場合を書いている、からです。この回では、ここまで当然のように使ってきた「1項は共同正犯にも使える」という前提そのものを問い直します。

会社の経理を任されている人が、部外者の友人と組んで、預かっているお金を使い込んだ場合、友人のほうは何の罪になるのか——まさにそれが、今日の後半のテーマです。経理担当者のように会社のお金を預かっている人は、業務上横領罪という重い罪になります。では、お金を預かってすらいない友人は、どうなるのか。先に答えの形だけ言うと、友人に科される刑は、どの考え方でも単純横領罪の刑です。割れるのは、成立する罪の名前のほうです。答えを出すには、まず1項の「共犯」という言葉の中身を確定させる必要があります。

問題の所在——65条1項の「共犯」に共同正犯は含まれるか

65条の全文と、今日の争点 図:65条の全文と、今日の争点

条文刑法65条

65条 1項「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」 2項「身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。」

これまで、1項は共同正犯にも使えるという前提で話を進めてきました。ですが、1項の条文をよく見ると、そこにあるのは「共犯とする」という言葉だけです。「共犯」を、教唆犯・幇助犯だけを指す狭い意味で読むのか、共同正犯まで含む広い意味で読むのかで、結論が変わります。ここに、否定説と肯定説の対立があります。

否定説——「共犯」は教唆・幇助に限る

否定説の理由——無身分者は実行行為をなしえない 図:否定説の理由——無身分者は実行行為をなしえない

否定説は、65条1項の「共犯」を、教唆犯・幇助犯に限定します。理由は、真正身分犯の実行行為は、身分のある者にしかできないという点にあります。身分のない者が、身分犯の実行行為そのものを行ったとは言えない以上、正犯である共同正犯にはなれない、という発想です。

肯定説(判例・多数説)——利用による因果性

肯定説の理由——利用して因果性を及ぼす 図:肯定説の理由——利用して因果性を及ぼす

これに対して、判例・多数説である肯定説は、1項の「共犯」の範囲に共同正犯も入ると考えます。根拠は、身分のない者であっても、身分のある者の行為を通じて、真正身分犯が守ろうとする利益を侵害することはできる、という点にあります。たとえば、公道を走れるのは、運転免許を持つ人だけです。免許のない人が、免許を持つ人の隣に座り、一緒にハンドルを握って危険な運転をしたとします。免許のない人は、自分では「免許を持つ者による運転」という行為そのものはできませんが、免許を持つ人の運転を利用して、危険という結果を一緒に作り出しています。だから、免許のない人も、その運転に加わった者として扱ってよいはずです。

この発想は、共同正犯の処罰根拠と同じです。共同正犯が自分ではやっていない結果まで責任を負うのは、相互利用補充関係のもとで、結果に物理的または心理的な因果性を及ぼしているからです。相互利用補充関係とは、互いに相手の行為を自分の計画に組み込み、自分1人では足りない部分を相手に埋めてもらう関係をいいます。共同正犯として責任を負う根拠が、自分の手で実行行為をやることではなく、この関係を通じて結果に因果性を及ぼすことにあるなら、身分のない者が身分のある者を利用して因果性を及ぼしている以上、共同正犯として扱わない理由がありません。

論文で書く規範:肯定説(判例・多数説) 身分のない者であっても、身分のある者の行為を通じて、真正身分犯が守ろうとする利益を侵害することはできる。だとすれば、65条1項の「共犯」は、教唆犯・幇助犯に限られず共同正犯まで含むと解すべきである。 (規範(判例で立てる))

判例——旧強姦罪と身分のない共犯者

当時の強姦罪は、行為の主体が男性に限られていた 図:当時の強姦罪は、行為の主体が男性に限られていた

この肯定説を採ったのが、次の判例です。当時の強姦罪は、行為の主体が男性に限られる真正身分犯でした。現行の177条、不同意性交等罪は主体の限定がなく、身分犯ではありません。今日扱う判例は、あくまで当時の規定についての判断です。女性が男性と共謀して、被害者に強姦行為に及んだという事案で、女性に共同正犯が成立するかが争われました。

判例最決昭40・3・30

決定(65条1項の「共犯」と共同正犯) 強姦罪は、その行為の主体が男性に限られるから、刑法六五条一項にいわゆる犯人の身分に因り構成すべき犯罪に該当するものであるが、身分のない者も、身分のある者の行為を利用することによつて、強姦罪の保護法益を侵害することができるから、身分のない者が、身分のある者と共謀して、その犯罪行為に加功すれば、同法六五条一項により、強姦罪の共同正犯が成立すると解すべきである。

身分のある者の行為を利用して保護法益を侵害できる、という理由をそのまま述べたうえで、身分のない者にも65条1項によって共同正犯が成立すると結論づけています。1項の「共犯」には共同正犯が含まれる——以下は、この結論を前提にした業務上横領罪の場面です。

業務上横領罪の構造——二重の身分

253条には、2つの身分が重なっている 図:253条には、2つの身分が重なっている

条文刑法252条1項

横領(252条1項) 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の拘禁刑に処する。

条文刑法253条

業務上横領(253条) 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の拘禁刑に処する。

舞台を変えます。会社の経理担当者が、預かっているお金を使い込んだ場面です。単純横領罪、252条1項は、自分が占有している他人の物を横領した者を処罰します。占有者でなければ、そもそもこの罪は成立しません。占有者であることは真正身分です。253条は、その占有が業務上のものであれば、刑を10年以下に引き上げます。業務者であることは、なくても252条は成立するので、刑を加重するだけの不真正身分です。253条には、占有者という真正身分と、業務者という不真正身分が、1つの条文の中に重なっています。

非占有者の罪責——判例の考え方

経理担当者と、部外者の友人 図:経理担当者と、部外者の友人

冒頭の問い(経理担当者と部外者の友人)に戻ります。経理担当者を、業務上の占有者としてF、お金を預かってすらいない部外者の友人をCと置きます。CがFと共謀して、Fが保管するお金を一緒に使い込んだ場合、Cの罪責はどうなるでしょうか。Cは占有者でも業務者でもないのだから単純横領罪の共同正犯になる、と考えるのは、後で見る「対する考え方」の結論です。これに対し、判例はもう少し込み入った処理をします。判例は、65条の一般論、成立と科刑を分けないという建前を保ちながら、業務上横領罪の場面についてだけ、成立と科刑をあえて分離します。理由は、業務上の占有者という身分を、253条という1つの罪を作る1つの身分としてまとめて扱うからです。まとめた身分で罪名を決めるので1項で253条が成立し、253条は業務者の刑を重くする規定でもあるので、刑だけを2項で動かします。

論文で書く規範:判例の考え方(業務上の占有者に加功した非占有者) 非占有者が業務上の占有者と共同して横領した場合、65条1項により業務上横領罪(253条)の共同正犯が成立する。しかし、業務者たる身分のない者に対しては、同条2項により単純横領罪(252条1項)の刑を科すべきである。 (規範(最判で立てる))

Cには、業務上横領罪の共同正犯という罪名が成立しますが、実際に科される刑は、単純横領罪の刑にとどまります。

判例——村長・助役と収入役の横領

村長と助役が、収入役の保管する寄附金を横領した 図:村長と助役が、収入役の保管する寄附金を横領した

この処理を示したのが、次の判例です。村長Cと助役D、どちらも占有者でも業務者でもない立場の2人が、学校建設資金の寄附金を業務上保管していた収入役Fと共謀し、その保管金を一緒に使い込んで横領しました。

判例最判昭32・11・19

判決(業務上の占有者に加功した非占有者の罪責) 被告人両名はかかる業務に従事していたことは認められないから、刑法六五条一項により同法二五三条に該当する業務上横領罪の共同正犯として論ずべきものである。しかし、同法二五三条は横領罪の犯人が業務上物を占有する場合において、とくに重い刑を科することを規定したものであるから、業務上物の占有者たる身分のない被告人両名に対しては同法六五条二項により同法二五二条一項の通常の横領罪の刑を科すべきものである。

判例は、先ほど見たとおり、業務上の占有者という身分を、253条という1つの罪を作る1つの身分としてまとめて扱います。だから、身分のない村長と助役にも、まず1項で業務上横領罪の共同正犯という罪名を成立させます。そのうえで、判決が述べるとおり253条は業務者について刑を重くする規定でもあるので、刑の部分だけを2項で単純横領罪の刑に落とすのです。

対する考え方——身分を分けて当てはめる

占有者と業務者を、最初から2つに割る 図:占有者と業務者を、最初から2つに割る

対する考え方は、業務上横領罪について判例のような特殊な扱いをする必要はないと考えます。占有者という身分と、業務者という身分を最初から2つに分け、真正身分である占有者の点でのみ1項を適用し、不真正身分である業務者の点は2項を適用します。占有者という真正身分の点は、1項でCにも及びます。一方、業務者という不真正身分の点は、2項でCには及びません。だから、Cには端的に単純横領罪の共同正犯が成立し、業務上横領罪の成立自体は認めません。

判例と対する考え方の緊張関係

一般論では分けないのに、ここだけ分けている 図:一般論では分けないのに、ここだけ分けている

ここが試験でのひっかけどころです。判例は、一般論としては成立と科刑を分離しないという建前を保ちながら、業務上横領罪という二重の身分の場面についてだけ、成立と科刑を分離しています。対する考え方は、この緊張を、身分を占有者・業務者の2つに割って個別に65条を当てはめれば、そもそも分離という特殊な操作をしなくて済む、という形で解消します。

山場——3人の登場人物を同じ物差しで処理する

占有者だが業務者でない者は、どちらの考え方でも結論は同じか 図:占有者だが業務者でない者は、どちらの考え方でも結論は同じか

ここで、もう1人登場させます。知人から、旅行の間だけ私物のカメラを個人的に預かった隣人Gです。Gは占有者ですが、仕事として他人のものを預かる業務者ではありません。Gが、そのカメラを一人で売ってしまった場合、判例と対する考え方とで、罪名・刑は同じになるかを確かめます。

F(業務上の占有者)・G(占有者のみ)・C(非占有者)の3段表 図:F(業務上の占有者)・G(占有者のみ)・C(非占有者)の3段表

Gについては、判例でも対する考え方でも、253条は成立せず、252条1項の単独正犯で一致します。Gは一人で横領しているので、身分のない者が加わったときに働く65条の出番がそもそも無く、業務者でないGには253条の重い刑の要件が欠けるだけだからです。考え方が割れるのは、身分のない者が加わったときだけです。Cについては、判例では253条の共同正犯が成立し、刑は252条1項の刑。対する考え方では、最初から252条1項の共同正犯が成立し、刑も252条1項の刑です。罪名だけが違い、科される刑はどちらも単純横領罪の刑で同じになります。

ここが、業務上横領罪をめぐる論点の核心です。1つの身分としてまとめて扱うか、2つに割って当てはめるかで、成立する罪名は変わりますが、非占有者が実際に受ける刑は、どちらの考え方でも変わりません。

今日の地図(保存版)

今日の到達点——身分犯の振り分けフロー 図:今日の到達点——身分犯の振り分けフロー

今日を振り返ります。65条1項の「共犯」には、共同正犯も含まれます。身分のない者も、身分のある者の行為を利用して、結果に因果性を及ぼしているからです。非占有者の罪責をめぐっては、判例が成立と科刑をあえて分ける考え方を採り、対する考え方は身分を2つに割って個別に当てはめます。どちらの考え方でも、非占有者が実際に受ける刑は、単純横領罪の刑で変わりません。身分犯と共同正犯については、これで一区切りです。

参照条文

  • 刑法65条
  • 刑法252条1項
  • 刑法253条

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