刑法ゼロから刑法#84

幇助犯の成立要件

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第9章 共犯 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の受けと今日の問い

すでに殺す気になっている友人に、ピストルを差し出しただけ 図:すでに殺す気になっている友人に、ピストルを差し出しただけ

今日扱うのは幇助犯です。まず、こんな場面を考えてください。Aが、すでに人を殺す気になっている友人に、頼まれてピストルを差し出しただけ。決意させたわけではありません。もとから殺す気だった相手に、道具を渡しただけです。それでも罰せられるとしたら、なぜでしょうか。決意させていないのに罰せられる理由が無いように思える、そこが今日の出発点です。先に答えを言っておきます。共犯の処罰根拠の回で見たとおり、共犯も、自分で手を下してはいなくても、正犯の実行を通じて、法益侵害という結果を正犯と一緒に引き起こしたから罰せられます。刑法が守ろうとする利益を傷つけた点では、正犯と変わらないからです。ピストルを渡したAも、その道具で友人の実行を容易にし、結果に手を貸しています。ただ、決意まで生み出した教唆より関与が一段軽いので、刑は減軽されます。62条・63条の文言をそのまま分解すると、どんな条件で成立し、どう罰せられるのかが、順番に見えてきます。

幇助犯の意義——教唆との区別

幇助とは何か——62条1項の出発点 図:幇助とは何か——62条1項の出発点

その前に、前々回見た教唆の意味を確認しておきます。

条文刑法62条1項

刑法62条1項 「正犯を幇助した者は、従犯とする。」

他人を唆して、犯罪を実行する決意を生じさせること、でした。もともと決意していた人を後押ししても、教唆にはならない、という話でした。今日いちばん最初に置くのが、この条文です。正犯を幇助した者は、従犯とする。幇助犯は、条文上は「従犯」と呼ばれます。幇助とは、自分では手を下さず、正犯の実行行為をやりやすくすることです。区別基準は1点だけ、正犯者にすでに決意させたか否かです。教唆はいまだ決意を有しない者に決意を生じさせる場合、幇助はすでに決意を有する者を援助する場合です。冒頭の場面で言えば、友人はすでに殺す気になっていました。Aがピストルを渡したのは、その決意を後押しした、つまり実行を容易にしただけです。何も考えていない人に火をつけるのが教唆で、もう燃えている火をあおるだけなのが幇助でした。今日は、その「あおる」側を見ていきます。

成立要件の全体像——「幇助した」を、分解する

62条1項「幇助した」を4つに割る 図:62条1項「幇助した」を4つに割る

「幇助した」という言葉を割ると、教唆犯のときとまったく同じ並びの4つの要素が出てきます。客観①幇助行為があったこと、客観②その正犯が実行行為に出たこと、客観③既遂罪の幇助犯として問うなら正犯の結果まで発生したこと、主観④幇助犯の故意です。62条1項の解釈で新しく足した基準ではなく、条文どおりの成立要件です。「覚える規範」として暗記するものではありません。今日は①から④まで、この順番で見ていきます。

要件①——幇助行為

物質的幇助と精神的幇助 図:物質的幇助と精神的幇助

要件①の幇助行為から見ます。幇助行為は、大きく2つに分かれます。1つは物質的幇助です。金銭の貸与、凶器の提供、犯行現場への案内など、形のある援助です。冒頭のピストルを渡す行為も、これにあたります。もう1つは精神的幇助です。助言や奨励など、形のない援助です。「大丈夫、うまくいくよ」と背中を押す言葉をかけるようなケースが典型です。ただし精神的幇助が成立するには、正犯者の側が、その声かけを幇助行為として認識している必要があります。誰にも届かない独り言で応援しても、実行を容易にしたとは言えないからです。

実行行為が終わった後の援助は、幇助にあたらない 図:実行行為が終わった後の援助は、幇助にあたらない

もう1つ、幇助行為には大事な限界があります。実行行為が終了した後になされた援助は、「幇助」にはあたりません。これを事後従犯と呼びます。幇助は、正犯の実行行為を容易にする行為でした。実行行為がもう終わっているなら、これから容易にすべき実行行為自体が残っていません。だから幇助犯の枠には入らないんです。たとえば、Bが窃盗を終えて逃げているところをAが車で送ってあげても、その援助は窃盗罪の幇助にはなりません。窃盗罪の幇助犯にはなりませんが、それで何も問われないわけではありません。逃げるBをかくまえば犯人蔵匿罪、Bが盗んだ物だと知りながら引き取れば盗品等罪という、別の構成要件のもとで、今度はAがその罪の正犯として問われる余地があります。中身はそれぞれ別の回に譲りますが、「事後従犯は幇助にならない」で終わりではなく、別の罪の正犯になりうる、という着地だけ覚えておいてください。

要件②——正犯の実行行為(従属性)

従属性は、教唆犯の回の結論をそのまま使う 図:従属性は、教唆犯の回の結論をそのまま使う

要件②に進みます。ここは、従属性の回で確立し、前々回の教唆犯の回でもそのまま当てはめた話が、ここでも当てはまります。いくら幇助行為があっても、被幇助者が実際に実行に移していなければ、幇助犯は成立しません。冒頭の例で言えば、ピストルを受け取った友人が結局実行しなかったなら、Aは幇助犯になりません。なお、幇助行為と正犯の実行行為との間に因果関係が要るか、要るとしてどの程度かという論点も残っています。今日は、従属性、つまり正犯が実行に着手していることが必要だという点だけ押さえてください。

要件③——正犯結果の発生

実行の着手で未遂、結果発生で既遂 図:実行の着手で未遂、結果発生で既遂

要件③です。正犯が実行に着手した時点で、幇助者には未遂罪の幇助犯が成立します。そこからさらに正犯が結果まで発生させれば、幇助者には既遂罪の幇助犯が成立します。教唆犯のときとまったく同じ段階構造です。冒頭の例で言えば、友人がピストルを撃ったが外れたなら、Aは殺人未遂罪の幇助犯、命中して相手が死亡したなら殺人罪の幇助犯です。幇助行為は1回だけでも、正犯の進み具合次第で、幇助者に問われる罪名の段階が変わります。ここまでが、62条1項の「幇助した」を分解した要件①から③です。

要件④——幇助犯の故意

故意の考え方は、教唆犯の回とそろえる 図:故意の考え方は、教唆犯の回とそろえる

要件④、幇助犯の故意です。故意の内容や、最初から未遂に終わらせるつもりで手を貸す、いわゆる未遂の幇助の可罰性は、前回見た教唆犯の故意、実行認識説と結果認識説の対立と、同じ考え方で処理します。実行認識説は、正犯が実行行為に出ることまで分かっていれば故意として足りるとし、結果認識説は、結果が発生することまでの認識・認容を要求します。冒頭の例で言えば、友人は引き金に指をかけたところで張り込み中の警察官に必ず取り押さえられると知りながら、失敗に終わらせるつもりでAがピストルを渡した場合、実行認識説なら幇助犯の故意があり、結果認識説なら故意が欠けます。ここを丸ごと繰り返しはしません。今日は、その物差しが実際にどう使われるか、現代的な応用例を1つ見ておきます。

中立的な技術・道具の提供と幇助犯の故意 図:中立的な技術・道具の提供と幇助犯の故意

ピストルや凶器のような、悪用のために作られた道具ならまだ分かります。でも、誰でも使える普通の技術や道具を提供しただけの人にも、幇助犯が成立することがあるんですか。あります。ファイルを共有できるソフトウェアを開発して公開した人が、利用者の一部による著作権侵害の幇助犯にあたるかが争われた事件で、最高裁が判断を示しています。

判例最決平23・12・19

ソフトの提供と幇助犯の故意 ①「当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識、認容しながら、その公開、提供を行い、実際に当該著作権侵害が行われた場合」 ②「当該ソフトの性質、その客観的利用状況、提供方法などに照らし、同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で、提供者もそのことを認識、認容しながら同ソフトの公開、提供を行い、実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたとき」 →①・②のいずれかに限り、当該ソフトの公開、提供行為が幇助行為に当たる

この判断では、二つの場合があります。一つは、具体的な著作権侵害が行われようとしていると分かっていながら提供し、実際に侵害が起きた場合。もう一つは、そのソフトの性質や利用状況、それにどう提供したかといった事情から見て、例外的とはいえない範囲の人が侵害に使うだろうという高い蓋然性があり、提供者もそれを認識、認容しながら提供して、実際に侵害が起きた場合です。この事件では、後者の場合について、提供者にその認識、認容があったとは言えないとして、幇助の故意が否定されました。こうした限定を付けている理由は、ほとんどの人が適法に使う技術なのに、誰かが悪用しうると知っていただけで提供者を罰すると、技術を開発して世に出すこと自体が止まってしまうからです。要件④の幇助犯の故意を、こういう現代的な場面に当てはめると、二つの場合がある、という応用例として押さえておいてください。深入りはここまでにします。

山場——「正犯の刑を減軽する」の意味

「正犯の刑を減軽する」=正犯の法定刑を減軽した幅で決める 図:「正犯の刑を減軽する」=正犯の法定刑を減軽した幅で決める

条文刑法63条

刑法63条 「従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。」

ここからが今日の山場です。従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。教唆犯は正犯と同じ幅の法定刑で処罰されましたが、幇助犯はそこからさらに減軽されます。しかも、これは裁判官が減軽するかどうかを選べる裁量的減軽ではなく、必ず減軽しなければならない必要的減軽です。「正犯の刑を減軽する」が正犯の宣告刑より必ず軽くなるという意味かどうか、そこが誤解しやすいところです。教唆犯の意義を扱った前々回、法定刑と宣告刑の違いを見ました。法定刑は条文が定める刑の幅、宣告刑は裁判官が実際に言い渡す1つの刑でした。63条が言っているのは、正犯に本来あてはまる法定刑の幅そのものを、軽くした範囲で処断するという意味です。つまり幅の話であって、宣告刑どうしの大小を直接決めているわけではありません。

幅を減軽するだけなら、幇助犯の宣告刑が正犯より重くなることもあるんですか。あります。窃盗罪の法定刑は10年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金でした。これを法律上の減軽、つまり68条が決めた割合で刑の幅を引き下げるルールにかけると、上限が半分になり、5年以下の拘禁刑、または25万円以下の罰金という幅にずれます。でも、その減軽された幅の中でどこに落ち着くかは、また個別の事情次第です。だから、正犯が反省して罰金で済み、幇助者の方が悪質さから減軽後の幅の中でも重い拘禁刑を言い渡される、ということもありえます。そろうのは減軽された幅であって、宣告刑の大小関係ではありません。この読み方からは、もう1つ帰結が出てきます。減軽の出発点は、正犯に適用すべき法定刑、つまり条文の幅であって、正犯に実際に言い渡された刑ではありません。だから、正犯が現実に処罰されなくても、幇助犯は独立に処罰できます。冒頭の例で言えば、友人が逃げたまま捕まらなくても、Aは幇助犯として処罰されます。これは、従属性の回でまとめた「違法は連帯的に、責任は個別的に」ともつながっています。

教唆犯との対比——61条・62条・63条 図:教唆犯との対比——61条・62条・63条

教唆犯と並べると、対比がはっきりします。教唆犯は、決意そのものを生み出したので、正犯と同じ法定刑の範囲で処罰されました。幇助犯は、すでにある決意を後押ししただけなので、正犯の法定刑を減軽した範囲で処罰されます。関与の重さの違いが、そのまま処分の重さの違いに表れているわけです。もう1つ、処分に関わる条文があります。64条です。拘留・科料しか法定刑に無いような、ごく軽い罪については、教唆・幇助を処罰する特別の規定が無ければ、幇助者を罰しません。教唆犯のときと同じ、あまりに軽い罪にまで処罰を広げすぎないための歯止めです。ここまでをまとめます。すでに決意している者を後押ししても、それは正犯と一緒に結果をつくり出した関与にあたるので罰せられる。ただし、教唆より関与が一段軽いので、正犯の法定刑を減軽した幅で処罰される。これが「正犯の刑を減軽する」の意味です。

諸類型——間接幇助・再間接幇助

間接幇助・再間接幇助——明文の有無で対比する 図:間接幇助・再間接幇助——明文の有無で対比する

最後に、幇助に似た形の2つの類型を並べます。1つ目は間接幇助です。幇助犯を幇助すること、つまり幇助している人をさらに後押しする関与です。間接教唆は61条2項に明文がありますが、幇助にはそういう条文があるかどうか、そこが対比のポイントです。幇助には、間接幇助を処罰する明文の規定がありません。たとえば、CがAに頼まれてピストルの入手先を教え、Aがそのピストルを友人に渡した場合です。Cが直接手伝ったのはAですが、その援助はAを通じて、結局は友人の実行を容易にしています。だから、正犯の実行を容易にしたと認められる場合は、62条1項の「正犯を幇助した」にあたり、本来の幇助犯として処罰してよいというのが、判例・通説の立場です。2つ目は再間接幇助です。間接幇助者を、さらにもう一段幇助することです。理論上は処罰しうると考えられていますが、関与が正犯の結果までどれだけ影響したかという因果関係の証明が難しく、成立を認めた判例は無いとされています。教唆犯では間接教唆が条文に明記されていたのに対して、幇助では明文が無いまま解釈で処罰範囲を広げている、という違いも、あわせて押さえておいてください。

今日の地図(保存版)

今日の到達点——62条・63条の2つの部品 図:今日の到達点——62条・63条の2つの部品

今日を振り返ります。幇助とは、自分では手を下さず、正犯が実行行為をやりやすくする関与のことでした。教唆との違いは、すでにある決意を後押ししたか、決意そのものを生み出したかの1点でした。成立要件は、①幇助行為、②正犯の実行行為への従属性、既遂罪なら③正犯結果の発生、④幇助犯の故意でした。①には物質的幇助と精神的幇助の分類があって、実行行為が終わった後の援助は幇助にあたらない、というのが事後従犯でした。処分については、「正犯の刑を減軽する」とは、正犯にあてはまる法定刑の幅を軽くした範囲で刑を決めるという意味でした。決意を生み出していなくても、正犯と一緒に結果を引き起こしたから罰せられ、教唆より関与が一段軽いから刑が減軽される。これが、冒頭の問いへの答えです。

減軽されるのは正犯の宣告刑ではなく法定刑です。正犯に適用すべき法定刑を減軽した幅で、幇助者の刑が決まります。だから、幇助者の宣告刑が正犯の宣告刑より重くなることもありえます。

参照条文

  • 刑法62条1項
  • 刑法63条

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