過失致死傷罪・業務上過失致死傷罪——「業務」とは何か
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第9章 生命・身体に対する罪 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
故意犯と過失犯——刑はぐっと軽くなる 〔短答・論文共通〕

過失犯は、故意犯にくらべて刑がぐっと軽くなります。人を死なせても、過失致死は罰金。殺人や傷害致死とは桁が違う。過失の中身、予見できたか避けられたかは総論19回の話。今回はその枠組みを各罪に当てるだけ。各論は条文と刑を押さえます。よく気づきました。業務上過失だけ、別格に重い。拘禁刑5年まで。うっかりは軽いはずなのに、なぜ業務だけ跳ね上がるのか。これが軸です。先に渡しておきます。重さの理由が、業務の定義を決めます。
過失傷害209・過失致死210 〔短答・論文共通〕

まず軽い方から。過失傷害罪、209条です。過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金または科料。そして2項に注目。告訴がなければ起訴できない、とあります。過失傷害は親告罪。ここ、後で引っかけになります。

次が過失致死罪、210条。過失で人を死亡させた者は50万円以下の罰金。死なせる故意がないからです。結果は重いけれど、責められ方は軽い。ただし210条には親告罪の規定がありません。
傷害致死との区別と親告罪の引っかけ 〔短答・論文共通〕

ここで前回の傷害致死と区別します。どちらも人が死にます。傷害致死は、殴る・ケガをさせる故意があって、死は予定外。過失致死は、殴る故意すらない。純然たるうっかりです。暴行の故意があれば205、なければ210。ここが峻別点。もう1つ、短答の引っかけ。さっきの親告罪です。では死なせた過失致死210は親告罪でしょうか。正解。死なせた方は国家が当然に訴追する。傷害は親告、致死は非親告。
業務上過失致死傷罪211——なぜ別格に重いのか 〔論文の骨格〕

では別格に重い211条。業務上過失致死傷罪です。業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は拘禁刑5年まで。同じ「うっかり死なせた」のに、業務上だと桁が変わる。そこが核心です。理由を押さえると、業務の定義まで一気に分かります。

業務者は、その活動の性質上、人を死傷させる結果を起こしやすい。危険を起こしやすい立場だからこそ、特に重い注意義務を負う。これが加重根拠です。判例も通説もこの理解です。そして大事なのは、この理由が業務の定義を逆算で決めること。危険を起こしやすい行為だから重くする。だから業務の定義も、危険を起こしやすい行為に絞り込まれる。暗記でなく演繹で出ます。いい質問。業務者でなくても過失致死傷は成立する。身分があると重くなる。これが不真正身分犯。65条2項の処理は36回でやったので送ります。
「業務」の3要素——この回の山場 〔論文の骨格〕

では業務の定義。判例は3つの要素で決めます。最判昭33年です。1つ目、社会生活上の地位に基づく行為であること。そこが落とし穴。職業に限りません。でも万人共通の行為は除く。家庭の炊事や育児は、誰もが日常でやる自然的な行為だから業務でない。娯楽の狩猟、建設、医療。社会生活上の地位に基づく活動です。加重根拠を思い出して。炊事育児は危険を起こしやすい立場とは言えない。2つ目、反復継続して行うこと。ここも誤解が多い。いいえ。反復継続の「意思」があれば足ります。初回でも業務です。これから続けるつもりで始めた以上、最初の行為も業務に含まれる。冒頭の猟師が初日の初猟でも業務になりうるのは、ここが理由です。3つ目、これが一番大事。生命・身体に危害を加えるおそれ。足りません。趣味の反復行為なんて世の中に無数にある。全部重くは不当。だから加重根拠で絞る。危険を起こしやすい行為に限定するのが③です。③は加重根拠の裏返し。ここが演繹の到達点です。応用も1つ。ホテル経営者の火災防止管理も業務にあたるとした判例がある。発火を防ぐ措置を怠れば、客が焼け死ぬ。危険を防ぐ立場そのものが業務です。③を「危険を起こしやすい立場」と広く捉えると腑に落ちます。なお他の条文、業務妨害罪233・234の「業務」は定義が違う。13回の話です。
あてはめ——猟師の初猟 〔論文の骨格〕

冒頭の問いに戻ります。3要素を当ててみましょう。登場人物は、週末猟師のAと、山菜採りのB。AがBを撃って死なせた。炊事育児のような万人共通の行為ではない。社会生活上の地位の活動。シーズンを通じて猟をする意思で始めた初猟。意思があるので業務。3つそろう。だからAは単なる過失致死210ではなく、業務上過失致死、211前段になります。趣味でも初回でも、業務です。炊事は万人共通の日常行為で①を欠く。業務でなく、せいぜい過失傷害209。加重根拠の演繹が、そのまま当てはめの物差しになります。
重過失致死傷罪211後段 〔短答〕

211条後段も見ます。重大な過失で人を死傷させた者も同様に処断。拘禁刑5年まで。業務でなくても、過失が著しければ業務並みに重い。注意義務違反の程度が著しいこと。少し気をつければ簡単に防げた場合など。業務でない人でも、あまりにひどい不注意は重く処罰する受け皿です。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を5つ。①過失犯は軽い、でも業務と重過失だけ別格。②傷害致死は暴行の故意あり、過失致死は故意すらない。区別を確実に。③親告罪は過失傷害209だけ。死なせた過失致死210は非親告罪。逆に注意。職業に限らない。趣味の狩猟は入り、家庭の炊事育児は入らない。初回でも反復継続の意思があれば業務。そして危害のおそれで限定する。⑤業務者は不真正身分犯。65条2項の処理は36回で扱いました。
📝 論文の型

では論文の型。逐語で覚えるのは、太字のキーワードだけ。あとは下の復元キーで、趣旨から組み立て直します。まず加重根拠。業務者は法益侵害を惹起しやすい立場にある。だから特に重い注意義務を負う。これが重さの理由でした。そこから業務を定義。社会生活上の地位に基づき、反復継続して行う行為で、生命・身体に危害を加えるおそれのあるもの。3つ目の危険性は、加重根拠からの限定。ここまで趣旨で一本につながる。

使い方を型で。週末猟師のAが、初日の初猟で誤って人を撃って死なせた。問題提起。Aの過失致死は、業務上過失致死211にあたるか。規範を立てて、あてはめ。狩猟は社会生活上の地位に基づく活動。続ける意思での初猟だから反復継続の意思があり、猟銃は危害のおそれ大。よって業務にあたり、Aには業務上過失致死罪が成立する。この順で書きます。
今日の地図(保存版)

まとめます。過失致死傷は故意がないぶん、刑がぐっと軽い。過失傷害209は罰金で親告罪、過失致死210は罰金で非親告罪。傷害致死との区別は、暴行の故意があるかどうか。ここで峻別。業務上過失だけ別格に重い。理由は危険を起こしやすい立場の重い注意義務。その加重根拠から、業務の3要素が出る。社会生活上の地位、反復継続、そして危害のおそれ。3つ目が加重根拠からの限定でした。「なぜ重いか」が「何が業務か」を決める。実は、自動車の運転で人を死傷させた場合は211ではありません。かつての業務上過失から、いまは自動車運転死傷行為処罰法という特別法へ。過失運転と危険運転、悪質な運転をどう重く罰するか。43回で通します。