刑法 ゼロから刑法#42

過失致死傷罪・業務上過失致死傷罪——「業務」とは何か

⬇ 印刷用PDF

第9章 生命・身体に対する罪 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

故意犯と過失犯——刑はぐっと軽くなる 〔短答・論文共通〕

故意犯と過失犯の法定刑グラデーション。殺人199(死刑〜)|傷害致死205(3年以上)|——ここから過失——|過失致死210(罰金50万円以下)|過失傷害209(罰金30万円以下・科料)|ところが業務上・重過失211だけ別格に重い(拘禁刑5年まで)。「うっかり」は軽い、でも業務だけ跳ね上がる。

過失犯は、故意犯にくらべて刑がぐっと軽くなります。人を死なせても、過失致死は罰金。殺人や傷害致死とは桁が違う。過失の中身、予見できたか避けられたかは総論19回の話。今回はその枠組みを各罪に当てるだけ。各論は条文と刑を押さえます。よく気づきました。業務上過失だけ、別格に重い。拘禁刑5年まで。うっかりは軽いはずなのに、なぜ業務だけ跳ね上がるのか。これが軸です。先に渡しておきます。重さの理由が、業務の定義を決めます。

過失傷害209・過失致死210 〔短答・論文共通〕

刑法209条(過失傷害)の全文。1項=過失で傷害=30万円以下の罰金又は科料。2項=告訴がなければ公訴を提起できない(親告罪)。

まず軽い方から。過失傷害罪、209条です。過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金または科料。そして2項に注目。告訴がなければ起訴できない、とあります。過失傷害は親告罪。ここ、後で引っかけになります。

刑法210条(過失致死)の全文。過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金。死なせても罰金どまり——故意がないから。

次が過失致死罪、210条。過失で人を死亡させた者は50万円以下の罰金。死なせる故意がないからです。結果は重いけれど、責められ方は軽い。ただし210条には親告罪の規定がありません。

傷害致死との区別と親告罪の引っかけ 〔短答・論文共通〕

区別と引っかけの整理。①傷害致死205=暴行・傷害の故意あり+死は過失(結果的加重犯/#41)。過失致死210=暴行の故意すらない純然たる過失。→「殴る気があったか」で峻別。②親告罪の差=過失傷害209Ⅱは親告罪/過失致死210は非親告罪。死なせた方が国家が当然に訴追。

ここで前回の傷害致死と区別します。どちらも人が死にます。傷害致死は、殴る・ケガをさせる故意があって、死は予定外。過失致死は、殴る故意すらない。純然たるうっかりです。暴行の故意があれば205、なければ210。ここが峻別点。もう1つ、短答の引っかけ。さっきの親告罪です。では死なせた過失致死210は親告罪でしょうか。正解。死なせた方は国家が当然に訴追する。傷害は親告、致死は非親告。

業務上過失致死傷罪211——なぜ別格に重いのか 〔論文の骨格〕

刑法211条(業務上過失致死等)の全文。前段=業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金。後段=重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。前段「業務上」と後段「重過失」が同じ刑で同居する。

では別格に重い211条。業務上過失致死傷罪です。業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は拘禁刑5年まで。同じ「うっかり死なせた」のに、業務上だと桁が変わる。そこが核心です。理由を押さえると、業務の定義まで一気に分かります。

加重根拠→定義の演繹フロー。業務者は活動の性質上、人の生命・身体に危害を及ぼす結果を起こしやすい立場→だから通常人より特に重い注意義務(最判昭26・6・7・通説)→ゆえに「業務」は危険を起こしやすい行為に限定される=定義の③(危害のおそれ)が導かれる。「なぜ重いか」が「何が業務か」を決める。

業務者は、その活動の性質上、人を死傷させる結果を起こしやすい。危険を起こしやすい立場だからこそ、特に重い注意義務を負う。これが加重根拠です。判例も通説もこの理解です。そして大事なのは、この理由が業務の定義を逆算で決めること。危険を起こしやすい行為だから重くする。だから業務の定義も、危険を起こしやすい行為に絞り込まれる。暗記でなく演繹で出ます。いい質問。業務者でなくても過失致死傷は成立する。身分があると重くなる。これが不真正身分犯。65条2項の処理は36回でやったので送ります。

「業務」の3要素——この回の山場 〔論文の骨格〕

「業務」の3要素 定義カード(最判昭33・4・18)。①社会生活上の地位に基づく=万人共通の自然的・日常的行為でない(×家庭の炊事・育児/○娯楽目的の狩猟・建設・医療。職業に限らない)。②反復継続して行う=反復継続の「意思」があれば足り、初回の行為でも業務。③他人の生命・身体に危害を加えるおそれがある=加重根拠からの限定(危険を起こしやすい行為に絞る/ホテルの火災防止管理も○)。

では業務の定義。判例は3つの要素で決めます。最判昭33年です。1つ目、社会生活上の地位に基づく行為であること。そこが落とし穴。職業に限りません。でも万人共通の行為は除く。家庭の炊事や育児は、誰もが日常でやる自然的な行為だから業務でない。娯楽の狩猟、建設、医療。社会生活上の地位に基づく活動です。加重根拠を思い出して。炊事育児は危険を起こしやすい立場とは言えない。2つ目、反復継続して行うこと。ここも誤解が多い。いいえ。反復継続の「意思」があれば足ります。初回でも業務です。これから続けるつもりで始めた以上、最初の行為も業務に含まれる。冒頭の猟師が初日の初猟でも業務になりうるのは、ここが理由です。3つ目、これが一番大事。生命・身体に危害を加えるおそれ。足りません。趣味の反復行為なんて世の中に無数にある。全部重くは不当。だから加重根拠で絞る。危険を起こしやすい行為に限定するのが③です。③は加重根拠の裏返し。ここが演繹の到達点です。応用も1つ。ホテル経営者の火災防止管理も業務にあたるとした判例がある。発火を防ぐ措置を怠れば、客が焼け死ぬ。危険を防ぐ立場そのものが業務です。③を「危険を起こしやすい立場」と広く捉えると腑に落ちます。なお他の条文、業務妨害罪233・234の「業務」は定義が違う。13回の話です。

あてはめ——猟師の初猟 〔論文の骨格〕

あてはめ事案図(自前)。会社員Aは週末だけ趣味で猟をする。シーズン初日、初めての猟で茂みを獲物と誤認して発砲→山菜採りのBに命中→死亡。①狩猟は社会生活上の地位に基づく活動(炊事育児のような万人共通行為でない)○/②今シーズン続ける意思での初日=反復継続の意思あり、初回でも○/③猟銃は人を殺せる=危害のおそれ○。→Aは過失致死210でなく業務上過失致死211前段。

冒頭の問いに戻ります。3要素を当ててみましょう。登場人物は、週末猟師のAと、山菜採りのB。AがBを撃って死なせた。炊事育児のような万人共通の行為ではない。社会生活上の地位の活動。シーズンを通じて猟をする意思で始めた初猟。意思があるので業務。3つそろう。だからAは単なる過失致死210ではなく、業務上過失致死、211前段になります。趣味でも初回でも、業務です。炊事は万人共通の日常行為で①を欠く。業務でなく、せいぜい過失傷害209。加重根拠の演繹が、そのまま当てはめの物差しになります。

重過失致死傷罪211後段 〔短答〕

重過失致死傷罪(211後段)。重大な過失により人を死傷させた者も、業務上過失と「同様」に処断(拘禁刑5年まで)。「重大な過失」=注意義務違反の程度が著しいこと(わずかな注意で容易に結果を避けられたのに怠った場合等)。業務でなくても、過失が著しければ業務並みに重く扱う。

211条後段も見ます。重大な過失で人を死傷させた者も同様に処断。拘禁刑5年まで。業務でなくても、過失が著しければ業務並みに重い。注意義務違反の程度が著しいこと。少し気をつければ簡単に防げた場合など。業務でない人でも、あまりにひどい不注意は重く処罰する受け皿です。

短答ひっかけ

ここはひっかかる。①過失犯は故意犯より格段に軽い(210は罰金50万)が、業務上・重過失211だけ別格(拘禁刑5年)。②傷害致死205=暴行の故意あり/過失致死210=故意すらない。③親告罪は過失傷害209Ⅱだけ・過失致死210は非親告罪。④「業務」=職業に限らない(趣味の狩猟○/炊事育児×)・初回でも意思あれば○・危害のおそれで限定。⑤業務者は不真正身分犯(65条2項は#36)。

短答でひっかかる所を5つ。①過失犯は軽い、でも業務と重過失だけ別格。②傷害致死は暴行の故意あり、過失致死は故意すらない。区別を確実に。③親告罪は過失傷害209だけ。死なせた過失致死210は非親告罪。逆に注意。職業に限らない。趣味の狩猟は入り、家庭の炊事育児は入らない。初回でも反復継続の意思があれば業務。そして危害のおそれで限定する。⑤業務者は不真正身分犯。65条2項の処理は36回で扱いました。

📝 論文の型

★コア規範:211条の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、他人の生命・身体に危害を加えるおそれのある行為をいう/本罪の加重根拠は業務者が法益侵害を惹起しやすい立場にあり特に重い注意義務を負う点にあり、ここから③危険性による限定が導かれる。

では論文の型。逐語で覚えるのは、太字のキーワードだけ。あとは下の復元キーで、趣旨から組み立て直します。まず加重根拠。業務者は法益侵害を惹起しやすい立場にある。だから特に重い注意義務を負う。これが重さの理由でした。そこから業務を定義。社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為で、生命・身体に危害を加えるおそれのあるもの。3つ目の危険性は、加重根拠からの限定。ここまで趣旨で一本につながる。

答案の型:【事例】→【問題提起】→【規範】→【あてはめ】(週末だけ趣味で猟をするAが初日の初猟で誤って人を死なせた事例)。

使い方を型で。週末猟師のAが、初日の初猟で誤って人を撃って死なせた。問題提起。Aの過失致死は、業務上過失致死211にあたるか。規範を立てて、あてはめ。狩猟は社会生活上の地位に基づく活動。続ける意思での初猟だから反復継続の意思があり、猟銃は危害のおそれ大。よって業務にあたり、Aには業務上過失致死罪が成立する。この順で書きます。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ。過失致死傷は故意がないぶん軽い(過失傷害209=罰金30万・親告罪/過失致死210=罰金50万・非親告罪)。傷害致死205とは暴行の故意の有無で区別。業務上過失211だけ別格に重い(拘禁刑5年)=加重根拠は危険を起こしやすい立場の重い注意義務。「業務」=①社会生活上の地位(趣味の狩猟○・炊事育児×)②反復継続の意思(初回も○)③危害のおそれ(加重根拠からの限定)。重過失も業務並み。

まとめます。過失致死傷は故意がないぶん、刑がぐっと軽い。過失傷害209は罰金で親告罪、過失致死210は罰金で非親告罪。傷害致死との区別は、暴行の故意があるかどうか。ここで峻別。業務上過失だけ別格に重い。理由は危険を起こしやすい立場の重い注意義務。その加重根拠から、業務の3要素が出る。社会生活上の地位、反復継続、そして危害のおそれ。3つ目が加重根拠からの限定でした。「なぜ重いか」が「何が業務か」を決める。実は、自動車の運転で人を死傷させた場合は211ではありません。かつての業務上過失から、いまは自動車運転死傷行為処罰法という特別法へ。過失運転と危険運転、悪質な運転をどう重く罰するか。43回で通します。

刑法 全体ロードマップへ →