危険運転致死傷罪・過失運転致死傷罪——自動車運転死傷処罰法の2つの顔
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第9章 生命・身体に対する罪 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
2つの顔——分かれ目は「運転の危険性」 〔短答・論文共通〕

まず軸。この特別法には2つの顔がある、と言いました。一つ目、過失運転致死傷5条。これは「うっかり」型。注意を怠った過失犯です。211は5年、こちらは7年。自動車運転だけ特に重くしたものです。二つ目、危険運転致死傷2条3条。これが「わざと危険な運転」型。酒に酔って、暴走して、あおって。危険な運転をわざとやった結果、人を死傷。いいえ、そこが核心。死なせる気は要らない。危険な運転をわざとやれば足ります。法定刑を見てください。2条で人を死なせると1年以上。過失運転とは桁が違う。「死なせる気があったか」ではありません。決め手は「運転行為そのものの危険性」。類型化された危険な運転をやれば危険運転。単なる前方不注意なら過失運転。それはもう運転罪を超えて、殺人罪です。車を凶器に使った殺人。そこは40回。この物差しを持って、まず軽い過失運転5条から見ます。
過失運転致死傷罪5条——「うっかり」型 〔論文の骨格+短答〕

では過失運転致死傷罪、5条です。条文を全文で出します。自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者。法定刑は7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金。趣旨は、車の運転は危険を起こしやすいので特に重くした。ちなみに、なぜ車の運転がもともと211の「業務」に当たるか。はい、それは前回42回の話。よく見ました。そこが短答の引っかけ。次の画面で集中して見ます。

5条ただし書。傷害が軽いときは、その刑を免除することができる。そこが落とし穴です。2つ間違いやすい。まず「免除することができる」。これは任意的。裁判所が裁量で免除できる、というだけ。必ずではありません。「免除される」と書いてあったら、その肢は誤りです。もう一つ。免除できるのは「軽い傷害」だけ。死亡や重傷は免除なし。ありません。だから「軽傷なら必ず免除される」は、二重に間違い。
危険運転致死傷罪2条——「わざと危険な運転」8類型 〔論文の骨格+短答(山場)〕

では山場、危険運転致死傷罪2条。まず柱書を全文で。次に掲げる行為を行い、よって人を負傷させた者は15年以下の拘禁刑。人を死亡させた者は、1年以上の有期拘禁刑。「危険な運転をわざとやった」ことを、これだけ重く見るわけです。では、何が「危険な運転」か。現行法は8つの類型を並べています。

8類型、表で一気に見ます。覚え方は「酩酊・暴走・未熟・あおり・信号・禁止道路」。1号は酩酊運転。酒や薬物で正常な運転が困難な状態で走る。2号は制御困難運転。制御できないほどの高速度で走る。要は暴走です。3号は未熟運転。制御する技能がないのに走る。ここ、後で注意点があります。4号から6号があおり運転。直前への割り込みや、前で急停止させるタイプ。あおりが社会問題になって、停止させる型・高速道路型が追加されました。7号が信号無視。赤信号を殊更に無視して走る。8号は通行禁止道路を走る。まさにそこ。短答の核は「スピード要件がどの号にあるか」です。次で集中。

スピード要件。まず誤解されがちな所から。「危険運転=暴走」と思いがちですが、1号の酩酊と3号の未熟は、スピードを出していなくても成立しうる。1号3号はスピード要件なし。これがまず一つ目のポイント。逆に、それ以外。あおり、信号無視、通行禁止道路は、速度を出していることが要る。正確には「重大な交通の危険を生じさせる速度」。2号はそもそも高速度が中身。誤りです。1号3号があるから。ここが一番の引っかけ。1号3号だけ別と覚える。では各号で、判例まで押さえるべき3つを見ます。
各号の重要ポイント——1号・3号・7号 〔論文の骨格+短答〕

まず1号「正常な運転が困難な状態」。これは単に酔っている、では足りません。アルコールの影響で前方注視や危険への対処ができない状態をいう。平成23年の判例です。運転がまともにできないレベル、というところまで要ります。次が3号、未熟運転。これは無免許のことだと誤解されがちですが、違います。「制御する技能を有しない」こと。取り立てやペーパードライバーでも当たりうる。無免許そのものは、後で出す6条で別に加重します。混ぜないでください。最後に7号、信号無視。条文は「赤色信号を殊更に無視し」とあります。判例は、およそ赤信号に従う意思がないこと、と読みました。平成20年の判例。そこが面白い所。赤信号であることの確定的な認識は、必ずしも要らない。信号の規制自体に従う気がなく、表示を意に介さず突っ込む。それも殊更です。なお平成20年の判例は、まだ刑法の旧208条の2だった時代のもの。今の7号に妥当します。
危険運転致死傷罪3条——運転後に危険に陥った型 〔短答・論文共通〕

危険運転には3条もあります。2条との違いをひと組で押さえます。2条は「最初から」危険な状態。はじめから正常な運転が困難なケースです。3条は、運転を始めたときは「おそれ」の段階。走行中に困難な状態に陥った場合。そういうイメージです。だから2条より一段軽い。12年以下、致死で15年以下。あと3条2項は、政令で定める病気。発作の起こる病気などが対象です。
法的性質——結果的加重犯/故意は基本犯のみ 〔論文の骨格〕

ここが論文の核。危険運転致死傷罪の法的性質は「結果的加重犯」です。はい、37回でやった道具です。基本になる犯罪+重い結果、の組み合わせ。ここでは、基本犯=道交法上の危険な運転。加重結果=人の死傷です。構造はこう。危険な運転をわざとやる故意は必要。でも死傷結果の故意は不要。例えるなら、人混みに火のついた爆竹を投げるようなもの。投げるのはわざと。でも、誰かに当てる気まではなくても危険運転は成立する。それはもう爆竹遊びじゃない。傷害や殺人です。そこで運転罪を超えます。そしてもう一段。基本犯の故意は、どこまで認識すれば足りるか。いいえ。そこが大事。「正常な運転が困難」という評価自体の認識は要りません。足元がふらつく、といった、それを基礎づける事実の認識があれば足ります。ここは結果的加重犯一般論の応用。一般論は37回送り。
無免許加重6条 〔短答〕

6条、無免許加重。2条から5条の罪を、無免許で犯すと刑が重くなります。いいタイミング。まさにそこ。6条の加重は2条3号には及びません。除外されている。3号は「技能がないのに走った」ことを、もう罪の中身として評価済みだから。そこに無免許をさらに重ねると、同じことで二重に重くなってしまう。「未熟運転3号だけは無免許加重なし」。ここも短答で狙われます。
📝 論文の型

では論文の型。逐語で覚えるのは太字のキーワードだけ。あとは復元キーで、趣旨から組み立て直します。まず性質。本罪は結果的加重犯。基本犯=道交法上の危険な運転、プラス致死傷結果。だから基本犯の故意があれば足り、致死傷結果の故意は不要。さらに基本犯の故意は、評価の認識でなく、事実の認識で足りる。ふらつき等の事実を認識していればよく、「正常な運転が困難」の評価まで要らない。そのときは危険運転でなく、殺人・傷害に切り替わる。ここまで一本でつながります。

使い方を型で。Aは飲んで足元がふらつくのを自覚しつつ運転し、歩行者を負傷させた。問題提起。死傷の故意がないAに、危険運転致傷罪2条1号が成立するか。規範を立てて、あてはめ。Aはふらつきという事実を認識=基本犯の故意あり。「正常な運転が困難」との評価の認識は不要。致死傷結果の故意も本罪に不要。よってAに危険運転致傷罪が成立する。この順で書きます。
短答ひっかけ

短答でひっかかる所を整理します。まず①過失運転5条の免除は任意的、軽傷限定。「免除される」と書いてあったら誤り。死亡や重傷は免除なし。②スピード要件は1号3号以外。酩酊と未熟はスピードがなくても成立しうる。③未熟運転3号は無免許とは違う。無免許は6条で別に加重。④その6条の加重は2条3号を除く。二重評価を避けるためでした。⑤7号の殊更は、赤信号の確定的認識まで要らない。⑥致死傷の故意は不要。そこを押さえれば、この回の短答はかなり強くなります。
今日の地図(保存版)

まとめます。自動車運転で人を死傷させたら、刑法でなくこの特別法。2つの顔。うっかりの過失運転5条と、わざと危険な運転の危険運転2条3条。5条は7年、免除は任意的で軽傷だけ。死亡重傷は免除なし。2条は8類型。負傷15年・死亡1年以上。スピード要件は1号3号以外。3条は運転後に困難に陥った型で、一段軽い12年。そして核心。危険運転は結果的加重犯。危険な運転の故意は要るが、死傷の故意は不要。冒頭の、飲んでふらついて運転した人も、危険運転致傷でした。事故を起こして、被害者を放置して逃げたらどうなるか。助けるべき人を見捨てる、遺棄の罪。ひき逃げの事案も絡めて、44回で扱います。