刑法 ゼロから刑法#43

危険運転致死傷罪・過失運転致死傷罪——自動車運転死傷処罰法の2つの顔

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第9章 生命・身体に対する罪 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

2つの顔——分かれ目は「運転の危険性」 〔短答・論文共通〕

この特別法の2つの顔。【過失運転5条=うっかり型】注意を怠った過失犯。211(5年)の自動車版を特に重く=7年以下の拘禁刑。【危険運転2条3条=わざと危険な運転型】酩酊・暴走・あおり等の危険な運転をわざとやった結果、人を死傷=結果的加重犯(致死傷の故意不要)。2条致死=1年以上の有期拘禁刑と桁違い。→分かれ目は「死なせる気の有無」でなく「運転行為そのものの危険性・違反性」。死なせる気があれば運転罪を超えて殺人罪。

まず軸。この特別法には2つの顔がある、と言いました。一つ目、過失運転致死傷5条。これは「うっかり」型。注意を怠った過失犯です。211は5年、こちらは7年。自動車運転だけ特に重くしたものです。二つ目、危険運転致死傷2条3条。これが「わざと危険な運転」型。酒に酔って、暴走して、あおって。危険な運転をわざとやった結果、人を死傷。いいえ、そこが核心。死なせる気は要らない。危険な運転をわざとやれば足ります。法定刑を見てください。2条で人を死なせると1年以上。過失運転とは桁が違う。「死なせる気があったか」ではありません。決め手は「運転行為そのものの危険性」。類型化された危険な運転をやれば危険運転。単なる前方不注意なら過失運転。それはもう運転罪を超えて、殺人罪です。車を凶器に使った殺人。そこは40回。この物差しを持って、まず軽い過失運転5条から見ます。

過失運転致死傷罪5条——「うっかり」型 〔論文の骨格+短答〕

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)第5条(過失運転致死傷)の全文。「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」※拘禁刑=2025年6月施行の現行の自由刑(旧来の2種の刑を一本化)。

では過失運転致死傷罪、5条です。条文を全文で出します。自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者。法定刑は7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金。趣旨は、車の運転は危険を起こしやすいので特に重くした。ちなみに、なぜ車の運転がもともと211の「業務」に当たるか。はい、それは前回42回の話。よく見ました。そこが短答の引っかけ。次の画面で集中して見ます。

過失運転5条「免除」の引っかけ。ただし書=「傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる」。①免除は「できる」=任意的(裁判所の裁量)。「免除される(必要的)」は誤り✗。②対象は軽い傷害だけ。死亡・重い傷害は免除なし✗。→「軽傷なら必ず免除される」は二重に間違い。

5条ただし書。傷害が軽いときは、その刑を免除することができる。そこが落とし穴です。2つ間違いやすい。まず「免除することができる」。これは任意的。裁判所が裁量で免除できる、というだけ。必ずではありません。「免除される」と書いてあったら、その肢は誤りです。もう一つ。免除できるのは「軽い傷害」だけ。死亡や重傷は免除なし。ありません。だから「軽傷なら必ず免除される」は、二重に間違い。

危険運転致死傷罪2条——「わざと危険な運転」8類型 〔論文の骨格+短答(山場)〕

自動車運転死傷行為処罰法 第2条(危険運転致死傷)柱書の全文。「次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の拘禁刑に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期拘禁刑に処する。」→負傷でも15年以下、死亡なら1年以上。過失運転(7年)と桁違いに重い。

では山場、危険運転致死傷罪2条。まず柱書を全文で。次に掲げる行為を行い、よって人を負傷させた者は15年以下の拘禁刑。人を死亡させた者は、1年以上の有期拘禁刑。「危険な運転をわざとやった」ことを、これだけ重く見るわけです。では、何が「危険な運転」か。現行法は8つの類型を並べています。

危険運転2条の8類型(現行・令和2年改正後)。1号 酩酊運転=アルコール・薬物の影響で正常な運転が困難な状態で走行【スピード要件なし】/2号 制御困難運転=進行を制御することが困難な高速度で走行【高速度自体が要件】/3号 未熟運転=進行を制御する技能を有しないで走行(≠無免許)【スピード要件なし】/4号 妨害運転・接近型/5号 妨害運転・停止型(令2追加)/6号 妨害運転・高速道路型(令2追加)/7号 信号無視=赤信号を殊更に無視/8号 通行禁止道路を進行。→スピード(重大な交通の危険を生じさせる速度)要件があるのは1号3号以外(4〜8号)。色分け:要件なし=1号3号。

8類型、表で一気に見ます。覚え方は「酩酊・暴走・未熟・あおり・信号・禁止道路」。1号は酩酊運転。酒や薬物で正常な運転が困難な状態で走る。2号は制御困難運転。制御できないほどの高速度で走る。要は暴走です。3号は未熟運転。制御する技能がないのに走る。ここ、後で注意点があります。4号から6号があおり運転。直前への割り込みや、前で急停止させるタイプ。あおりが社会問題になって、停止させる型・高速道路型が追加されました。7号が信号無視。赤信号を殊更に無視して走る。8号は通行禁止道路を走る。まさにそこ。短答の核は「スピード要件がどの号にあるか」です。次で集中。

スピード要件の引っかけ(短答の核)。8類型のうちスピード(重大な交通の危険を生じさせる速度)要件があるのは1号・3号以外=4号〜8号。①1号 酩酊・③3号 未熟=スピード要件なし(ゆっくりでも成立しうる)。②2号 制御困難=そもそも「高速度」が要件。④妨害・⑦信号無視・⑧通行禁止道路=速度を出していることが必要。→「スピードを出していなければ危険運転にならない」は誤り(1号3号は別)。

スピード要件。まず誤解されがちな所から。「危険運転=暴走」と思いがちですが、1号の酩酊と3号の未熟は、スピードを出していなくても成立しうる。1号3号はスピード要件なし。これがまず一つ目のポイント。逆に、それ以外。あおり、信号無視、通行禁止道路は、速度を出していることが要る。正確には「重大な交通の危険を生じさせる速度」。2号はそもそも高速度が中身。誤りです。1号3号があるから。ここが一番の引っかけ。1号3号だけ別と覚える。では各号で、判例まで押さえるべき3つを見ます。

各号の重要ポイント——1号・3号・7号 〔論文の骨格+短答〕

各号の重要ポイント3つ。【1号 正常な運転が困難な状態】=アルコールの影響により前方注視や危険への的確な対処ができない状態(最決平23・10・31)。単に酒気帯び・酔っているだけでは足りない。【3号 未熟運転 ≠ 無免許】=「制御する技能を有しない」=取り立て・ペーパードライバーも該当しうる。無免許そのものは別に6条で加重。【7号 信号無視「殊更に無視」】=およそ赤信号に従う意思がないこと。赤信号であることの確定的な認識は必ずしも要しない(最決平20・10・16/旧208条の2時代の判例)。

まず1号「正常な運転が困難な状態」。これは単に酔っている、では足りません。アルコールの影響で前方注視や危険への対処ができない状態をいう。平成23年の判例です。運転がまともにできないレベル、というところまで要ります。次が3号、未熟運転。これは無免許のことだと誤解されがちですが、違います。「制御する技能を有しない」こと。取り立てやペーパードライバーでも当たりうる。無免許そのものは、後で出す6条で別に加重します。混ぜないでください。最後に7号、信号無視。条文は「赤色信号を殊更に無視し」とあります。判例は、およそ赤信号に従う意思がないこと、と読みました。平成20年の判例。そこが面白い所。赤信号であることの確定的な認識は、必ずしも要らない。信号の規制自体に従う気がなく、表示を意に介さず突っ込む。それも殊更です。なお平成20年の判例は、まだ刑法の旧208条の2だった時代のもの。今の7号に妥当します。

危険運転致死傷罪3条——運転後に危険に陥った型 〔短答・論文共通〕

危険運転2条 vs 3条の対比。【2条】最初から危険な状態で運転(例:はじめから正常な運転が困難)→負傷15年以下・死亡1年以上。【3条】運転開始時は「正常な運転に支障が生じるおそれ」の状態→走行中に「正常な運転が困難な状態」に陥り人を死傷→12年以下の拘禁刑(致死15年以下)。2項=政令で定める病気(統合失調症・てんかん等)による同様の場合。→3条は2条より一段軽い(最初から困難な2条ほどではない)。

危険運転には3条もあります。2条との違いをひと組で押さえます。2条は「最初から」危険な状態。はじめから正常な運転が困難なケースです。3条は、運転を始めたときは「おそれ」の段階。走行中に困難な状態に陥った場合。そういうイメージです。だから2条より一段軽い。12年以下、致死で15年以下。あと3条2項は、政令で定める病気。発作の起こる病気などが対象です。

法的性質——結果的加重犯/故意は基本犯のみ 〔論文の骨格〕

危険運転致死傷罪の法的性質=結果的加重犯(#37の道具)。【基本犯】道路交通法上の罪として構成要件化された危険な運転(酩酊・暴走・あおり等)=この故意は必要。+【加重結果】致死傷=この結果について故意は不要。→だから「死なせる気・ケガをさせる気」がなくても成立する。基本犯の故意は構成要件該当事実の認識で足り、「正常な運転が困難」という評価自体の認識は不要(ふらつき等の事実の認識で足りる)。【分岐】致死傷の故意があれば、危険運転でなく殺人罪(#40)・傷害罪(#41)。

ここが論文の核。危険運転致死傷罪の法的性質は「結果的加重犯」です。はい、37回でやった道具です。基本になる犯罪+重い結果、の組み合わせ。ここでは、基本犯=道交法上の危険な運転。加重結果=人の死傷です。構造はこう。危険な運転をわざとやる故意は必要。でも死傷結果の故意は不要。例えるなら、人混みに火のついた爆竹を投げるようなもの。投げるのはわざと。でも、誰かに当てる気まではなくても危険運転は成立する。それはもう爆竹遊びじゃない。傷害や殺人です。そこで運転罪を超えます。そしてもう一段。基本犯の故意は、どこまで認識すれば足りるか。いいえ。そこが大事。「正常な運転が困難」という評価自体の認識は要りません。足元がふらつく、といった、それを基礎づける事実の認識があれば足ります。ここは結果的加重犯一般論の応用。一般論は37回送り。

無免許加重6条 〔短答〕

自動車運転死傷行為処罰法 第6条(無免許運転による加重)。2条〜5条の罪を無免許で犯したときは刑が加重される。ただし2条3号(未熟運転)を除く。理由=3号は「制御する技能を有しない」ことを既に処罰内容に取り込んでおり、無免許を重ねて加重すると二重評価になるため。

6条、無免許加重。2条から5条の罪を、無免許で犯すと刑が重くなります。いいタイミング。まさにそこ。6条の加重は2条3号には及びません。除外されている。3号は「技能がないのに走った」ことを、もう罪の中身として評価済みだから。そこに無免許をさらに重ねると、同じことで二重に重くなってしまう。「未熟運転3号だけは無免許加重なし」。ここも短答で狙われます。

📝 論文の型

★コア規範:危険運転致死傷罪(2条・3条)は、各号の危険な運転行為(道路交通法上の罪=基本犯)を犯したうえ、さらに致死傷の結果を生じさせた場合を定めた結果的加重犯である/したがって基本犯についての故意があれば足り、致死傷の結果についての故意は不要/基本犯の故意は構成要件該当事実の認識で足り、「正常な運転が困難」という評価自体の認識までは要しない。

では論文の型。逐語で覚えるのは太字のキーワードだけ。あとは復元キーで、趣旨から組み立て直します。まず性質。本罪は結果的加重犯。基本犯=道交法上の危険な運転、プラス致死傷結果。だから基本犯の故意があれば足り、致死傷結果の故意は不要。さらに基本犯の故意は、評価の認識でなく、事実の認識で足りる。ふらつき等の事実を認識していればよく、「正常な運転が困難」の評価まで要らない。そのときは危険運転でなく、殺人・傷害に切り替わる。ここまで一本でつながります。

答案の型:【事例】→【問題提起】→【規範】→【あてはめ】(飲酒で足元がふらつくのを自覚しつつ運転し、歩行者を負傷させた事例。死傷の故意なし)。

使い方を型で。Aは飲んで足元がふらつくのを自覚しつつ運転し、歩行者を負傷させた。問題提起。死傷の故意がないAに、危険運転致傷罪2条1号が成立するか。規範を立てて、あてはめ。Aはふらつきという事実を認識=基本犯の故意あり。「正常な運転が困難」との評価の認識は不要。致死傷結果の故意も本罪に不要。よってAに危険運転致傷罪が成立する。この順で書きます。

短答ひっかけ

ここはひっかかる。①過失運転5条の免除は任意的(「できる」)・しかも軽傷限定(死亡重傷は免除なし)=「免除される」は誤り。②危険運転のスピード要件は1号3号以外にあり=「スピードを出さなければ危険運転にならない」は誤り(酩酊1号・未熟3号は別)。③未熟運転3号 ≠ 無免許(無免許は6条で別途加重)。④6条の無免許加重は2条3号を除く(二重評価回避)。⑤7号「殊更に無視」=赤信号の確定的認識は不要。⑥危険運転は致死傷の故意不要(あれば殺人傷害)。

短答でひっかかる所を整理します。まず①過失運転5条の免除は任意的、軽傷限定。「免除される」と書いてあったら誤り。死亡や重傷は免除なし。②スピード要件は1号3号以外。酩酊と未熟はスピードがなくても成立しうる。③未熟運転3号は無免許とは違う。無免許は6条で別に加重。④その6条の加重は2条3号を除く。二重評価を避けるためでした。⑤7号の殊更は、赤信号の確定的認識まで要らない。⑥致死傷の故意は不要。そこを押さえれば、この回の短答はかなり強くなります。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ。自動車の運転で人を死傷=刑法でなく特別法「自動車運転死傷行為処罰法」。【過失運転5条】うっかり型=7年以下の拘禁刑/免除は任意的・軽傷限定。【危険運転2条】わざと危険な運転8類型=負傷15年以下・死亡1年以上/スピード要件は1号3号以外。【危険運転3条】運転後に困難に陥った型=12年以下で一段軽い。【法的性質】結果的加重犯=基本犯の故意は必要・致死傷の故意は不要(あれば殺人傷害)。【6条】無免許加重(2条3号を除く)。

まとめます。自動車運転で人を死傷させたら、刑法でなくこの特別法。2つの顔。うっかりの過失運転5条と、わざと危険な運転の危険運転2条3条。5条は7年、免除は任意的で軽傷だけ。死亡重傷は免除なし。2条は8類型。負傷15年・死亡1年以上。スピード要件は1号3号以外。3条は運転後に困難に陥った型で、一段軽い12年。そして核心。危険運転は結果的加重犯。危険な運転の故意は要るが、死傷の故意は不要。冒頭の、飲んでふらついて運転した人も、危険運転致傷でした。事故を起こして、被害者を放置して逃げたらどうなるか。助けるべき人を見捨てる、遺棄の罪。ひき逃げの事案も絡めて、44回で扱います。

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