共謀の射程
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第9章 共犯 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
受け直し——今日は解消の続きではない
図:前回の解消と、今日の入口
前回、共犯関係の解消を扱いました。着手前は原則として表明と了承で足り、着手後は防止する措置まで必要になる、という話でした。今日は、共謀の射程を扱います。実は、続きというより、もっと手前に立つ問題です。その前に、1つ確かめます。前回の共犯関係の解消で、着手前に解消が認められるために、最低限必要だった2つの要素は、何だったでしょうか?離脱の意思の表明と、他の共謀者による了承です。今日は、この解消とは別の入口から、似たような場面を見ていきます。設例から入ります。
問題の所在——止めなかった者は、後の行為まで負うのか
図:AとBは、殴りかかったXに共同で反撃した
設例です。AとBは、Xに突然殴りかかられました。2人は身を守るため、共同でXに暴行を加えて反撃しました。
図:Xが倒れたあとは、Aだけが暴行を続けた
やがてXが転倒して、抵抗する様子がなくなりました。侵害は、そこで終了したと見てよい状況です。ところが、Aだけが、恐怖や怒りから、なおもXへの暴行を続けました。Bは、それを止めもせず、ただ見ていました。Aのその部分は、量的過剰防衛になりうる暴行罪です。過剰防衛の回で見た、侵害が収まったのに反撃をやめずに続けた、量的過剰の場面です。なぜ、ここでBまで問題になるんでしょうか。侵害が終わったあと、Bがしたのは、Aを止めなかった、ということだけです。これが、今日の問いにつながります。Bは、Aが続けた暴行について、共同正犯になるのでしょうか。
解消の枠組みで処理すると——違和感
図:Bに解消の要件を当てはめると
Bが取った行動を、前回学んだ解消の枠組みに当てはめてみます。Bは、Aに対して離脱の意思を表明したわけでもなく、防止する措置も何も取っていません。このまま解消の枠組みで押し通すと、Bにも、Aが続けた暴行の共同正犯が成立しそうに見えます。なぜ、これに違和感を覚えるんでしょうか。Bは、Xへの反撃には協力したけれど、そのあとAが1人で続けた暴行までは話し合っていない。その感覚が、今日の出発点です。
鍵の問い——そもそも最初の合意に入っていたか
図:解消という考え方の前提を問い直す
実は、解消という考え方は、ある前提のうえに成り立っています。解消は、いったん成立した共犯関係から、あとで抜けることです。だとすれば、抜ける前提として、その範囲の共犯関係が、最初から成立していたことが必要です。Bは、そもそもその範囲の共犯関係に入っていなかったのではないか。そこを、ABの最初の合意の中身に戻って確かめます。ABが話し合ったのは、何だったでしょうか。Xの侵害から身を守るために、2人で反撃しようという話です。ABが合意したのは、Xの侵害に対する防衛行為という、適法な行為についてだけです。侵害が終わったあとにAが続けた暴行は、防衛にあたらない、違法な行為です。
⭐ 論文で書く規範:適法行為の共謀と違法行為の共謀 共同で行う防衛行為という適法な行為についての共謀と、共同で行う暴行という違法な行為についての共謀とは、規範的にまったく異なるものとして扱われる。 (規範(通説で立てる))
規範的に異なる、というのは、見た目の動作が同じでも、法的な評価としては別物だ、という意味です。たとえば、2人が、暴れる野良犬から近所の子供を守るために、一緒に犬を追い払うことに決めたとします。犬は逃げていき、子供はもう危なくありません。それなのに、1人が頭に血が上って、逃げていく犬をさらに追いかけて棒で叩き続けたとします。もう1人は、追いかけませんでした。なぜ、追いかけなかったほうの人にまで、叩いた責任があるとは言えないのでしょうか。最初に決めたのは、子供を守るために犬を追い払うことだけで、犬が逃げたあとに追いかけて叩くことなんて、話し合いに出ていないからです。これは、途中で抜けた話ではありません。そもそも、最初からその話に入っていなかったんです。
ABの設例も、同じ形をしています。Xの侵害に対する防衛行為についての共謀と、侵害終了後の暴行についての共謀は、規範的に別物ですから、Bの共謀は、後者には及んでいなかった、というべきです。この、共謀がどこまで及ぶかという問題を、共謀の射程と呼びます。ただし、これはあくまで一般論としての整理です。実際に、この場面がどう判断されたか、判例を見てみます。
山場——侵害終了後の暴行と新たな共謀
図:反撃行為と追撃行為、4人のうち何が起きたか
事案はこうです。深夜の路上で、酒に酔った男性Vが、被告人らの仲間の女性の長い髪をつかみ、幹線道路を横断した先の駐車場入口まで引きずり回しました。被告人を含む男性4人は、髪を放させようとして、Vを殴ったり蹴ったりしました。この反撃行為が、最初の場面です。Vは髪を放したあとも悪態をつきながら、なお応戦する気勢を見せて、駐車場の奥へ下がりました。4人は、ほぼ一団となって、Vを追いました。Vはまだ応戦する構えを見せていました。4人のうちの1人を、Cと呼びます。Cは、仲間の殴りかかりを2度、制止しました。ところが、その直後、別の1人であるDが、Vの顔を殴りました。Vは転倒して、頭を打ち、重傷を負いました。これが、追撃行為です。
被告人は、自分では暴行しておらず、制止もしていません。反撃行為には加わりましたが、追撃行為には、ただその場にいただけです。原審は、反撃行為から追撃行為までを一連の行為とみて、被告人にも、過剰防衛による傷害罪の共同正犯を認めました。しかし、最高裁は、これを破棄しました。判断は、2段に分かれます。1段目は、侵害が続いていた間と、侵害が終わったあとを、分けて考えることです。判決は、侵害が続いていた間を、侵害現在時と呼んでいます。2段目は、侵害が終わったあとの暴行について、何を問うかです。
判例最判平6・12・6
侵害現在時と侵害終了後——新たな共謀の要否 相手方の侵害に対し、複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び、相手方からの侵害が終了した後に、なおも一部の者が暴行を続けた場合において、後の暴行を加えていない者について正当防衛の成否を検討するに当たっては、侵害現在時と侵害終了後とに分けて考察するのが相当であり、侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には、侵害終了後の暴行については、侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであって、共謀の成立が認められるときに初めて、侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し、防衛行為としての相当性を検討すべきである。
図:離脱ではなく、新たな共謀を問う——2段の判断
なぜ、離脱ではなく新たな共謀を見るんでしょうか。離脱は、いったん入った関係から抜けたかを見る発想です。判例は、侵害現在時の暴行と、侵害終了後の暴行を、はじめから分けて考えています。そう分ける理由は、さきほどの鍵の問いで見たとおりです。侵害現在時に共にしていたのは、防衛行為という適法な行為についての意思で、侵害終了後の暴行は違法な行為ですから、その意思の中にはもともと入っていません。入っていなかった関係からは、抜けるということ自体が考えられないんです。後者について問うべきは、抜けたかどうかではなく、新たにその暴行についての合意ができたかどうかです。
この事案では、新たな共謀は認められませんでした。共謀共同正犯の成立要件の回で見たとおり、共謀は、現場での瞬間的な意思の連絡でも、言葉にしない黙示のものでも足ります。ただ、この事案では、4人が一団となってVを追ってはいますが、それだけでは、追撃という具体的な暴行についての意思の連絡があったとまでは言い切れません。Cが2度も制止していたことからも、全員が追撃に同意していたとは断定できません。被告人が、追撃のきっかけになったVの罵声を聞いていたという証拠もありません。新たな共謀が認められない以上、被告人は、侵害現在時の反撃行為についてだけ責任を負います。反撃行為は正当防衛ですから、被告人は無罪です。
もし新たな共謀が認められていたら、そのときに初めて、反撃行為から追撃行為までを一連の行為として全体でとらえ、防衛行為として相当だったかを検討します。原審のように全体を一連でとらえるのは、新たな共謀が認められた場合の話、ということです。この判断が使えるのには、前提があります。侵害現在時の暴行が正当防衛と認められる場合、という限定です。最初から違法な暴行を一緒に始めていた場面は、この判断の外にあります。そちらは、このあと整理する順番で考えます。
射程の判断要素——総合考慮
図:共謀の射程を見分ける4つの物差し
今の判例は、この事案に即した判断でした。もう少し一般化して、共謀の射程が及ぶかどうかを、どう見分けるかを整理します。公式というより、物差しです。次の4つを、総合的に考慮して判断する見解があります。
⭐ 論文で書く規範:共謀の射程の判断要素(総合考慮) 当初の共謀と実際の行為との共通性(被害者・行為態様・侵害法益)、関連性(機会の同一性・時間的場所的近接性)、犯意の継続性、動機や目的の共通性などを、総合的に考慮して判断する見解がある。 (規範(有力な見解で立てる))
共謀共同正犯の成立要件の回で、計画の基本的な部分が共通していれば責任が及び、別の犯罪にすり替われば及ばない、と見ました。4つの物差しは、その基本的な部分が共通しているかを、事実から細かく言うための道具です。たとえば、PとQが、空き家に忍び込んで金品を盗むことだけを共謀したとします。現場で、Pが、予想外に家人と鉢合わせして、驚いた家人に暴れられたことに腹を立て、家人に暴行を加えたとします。Qは、離れた場所で見張りをしていて、そのことを知りませんでした。なぜ、この場合は射程が及びにくいと言えるんでしょうか。4つの物差しを、順に当ててみます。まず共通性です。被害者は同じ家人ですが、行為の中身は窃盗と暴行でまったく違います。侵害法益、つまりその罪で侵される利益も、窃盗は財産、暴行は身体の安全で、違います。次に関連性です。同じ家の中の出来事ではありますが、Pが暴行に出たのは、鉢合わせという予想外の出来事がきっかけで、最初の計画とのつながりは薄いといえます。3つ目は犯意の継続性です。金品を盗もうという当初の犯意がそのまま続いたのではなく、暴れられて腹を立てたことで、暴行の犯意が新しく生まれています。4つ目は動機や目的です。当初の目的は金品でしたが、暴行の動機は怒りで、重なっていません。この場合、Qの共謀の射程は窃盗にとどまり、暴行にまでは及ばない、と判断されやすい事案です。被害者が同じでも、それだけでは射程に入りません。1つの要素だけでなく、全体を見て判断します。
振り分けフロー——射程・解消・錯誤
図:3つの入口を、どの順番で確かめるか
ここまでの話を、実際に使える手順として整理します。他の共犯者が、当初と違うことをした、あるいは途中でやめなかった、という場面に出会ったら、どう考えればいいでしょうか。今日と前回で、2つの道具を学びました。まず問うのは、その行為が共謀の射程内かどうかです。射程外なら、その部分については、そもそも共同正犯は成立しません。あとは、新たな共謀が成立していないかだけを確かめます。射程内なら、そこで初めて、前回学んだ共犯関係の解消があるかを問います。射程内であっても、途中で因果性を遮断していれば、その後の結果は帰責されません。
射程内で、解消も認められないときに残るのは、認識と実際に起きたことが食い違う場面、つまり共犯の錯誤の問題です。これは、別の回で扱います。なぜ、この順番を守る必要があるんでしょうか。射程は、最初の共謀による因果性が、どの行為にまで及んでいるかという問題であって、認識のズレを扱う錯誤の問題ではないからです。ここで、解消の枠組みと射程の枠組みを、並べて比べておきます。
図:解消の枠組みと射程の枠組みの違い
解消の枠組みは、共犯関係がいったん成立していたことを前提に、そこから抜けられたかを問います。射程の枠組みは、そもそも、その行為が最初の合意に含まれていたかを問います。同じ「止めなかった」という事実でも、どちらから問うかで、答えが変わります。だからこそ、他の共犯者がやめなかった場面では、まず射程から確かめる必要があるんです。
設例の結論
図:Bは無罪、Aだけが暴行罪
冒頭の設例に戻ります。AとBがXの侵害に共同で反撃し、侵害が終わったあとにAだけが暴行を続け、Bは何もしなかった、という場面です。ABが最初に合意したのは、Xの侵害に対する防衛行為だけです。侵害終了後の暴行について、Aとあらためて意思を通じ合った事情がない限り、新たな共謀は認められません。なぜ、Bは無罪になるんでしょうか。Bは、Xへの反撃についてだけ責任を負い、それは正当防衛にあたるので不可罰だからです。Aだけが、侵害終了後の暴行について、量的過剰防衛になりうる暴行罪を負います。解消の要件を持ち出す前に、そもそもその行為が共謀に含まれていたかを確かめる。この順番が、今日の核心です。なお、この論点は、論文で論点になりうる場面です。
今日の地図(保存版)
図:今日の到達点
今日を振り返ります。共犯関係の解消と、共謀の射程は、問う順番が逆でした。解消は、いったん成立した共犯関係から抜けられるかという問題です。射程は、そもそも、その行為が最初の合意に含まれていたかという問題です。判例は、侵害現在時と侵害終了後を分けて、後者については新たな共謀の有無を検討する。今日の言葉で言い直すと、新たな共謀が無い限り、後の行為は当初の共謀の射程外にとどまる、ということです。共通性・関連性・犯意の継続性・動機目的の共通性を総合的に見て射程を判断し、射程内なら解消、それでも帰責されるなら錯誤という順で考えます。最後に1つ、確かめてください。二人が窃盗だけを共謀していて、一方が現場で予想外に被害者へ暴行を加えました。もう一方は、そのことを知りません。もう一方の共謀の射程は、暴行にまで及ぶでしょうか?
被害者は同じでも、行為の中身も、暴行に出たきっかけも違います。ですから、射程は暴行までは及ばないと判断されやすい場面です。