刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#2

手続の全体像

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骨格1つの事件は、どの順で進み、何に縛られるのか

  • 1 地図:捜査 → 公訴の提起 → 公判 → 裁判 → 確定・執行。起訴猶予や略式命令で、途中から道が短くなる事件もある。
  • 2 捜査:始まるのは事件の時ではなく、捜査機関に犯罪の嫌疑が生じた時(通報などはきっかけ=端緒)。集めるのは犯人と証拠。捜査の対象になった人=被疑者。
  • 3 身柄の時間表:逮捕 → 送致48時間 → 勾留請求24時間(通じて72時間まで)→ 勾留10日+延長10日 → 起訴か釈放。裁判官が判断するのは、主に逮捕状・勾留・延長の場面。
  • 4 起訴:するのは原則として検察官だけ(247条)。有罪にできても起訴しない選択がある(248条)。起訴された時から被告人。
  • 5 公判:冒頭手続 → 証拠調べ → 弁論手続 → 判決。判断の材料は、法廷で調べた証拠。
  • 6 判決から先:控訴 → 上告 → 確定 → 執行。確定した事件は、もう一度裁けない(一事不再理)。再審は、有罪とされた人を救う方向にだけ開く。
  • 7 登場人物:請求(検察官)・防御(被疑者・被告人と弁護人)・判断(裁判所)の三面。被害者は当事者ではない。
  • 8 無罪推定:有罪が確定するまで、被疑者も被告人も無罪と推定される。意義=①刑罰の先取り禁止 ②疑わしきは被告人の利益に。
  • 9 拘束と矛盾しないか:逮捕・勾留は刑罰ではなく手続上の処分。それでも重い制約なので、期限・要件・裁判官の審査の3つで縛る。

⚠ 被疑者=逮捕された人、ではない(捜査の対象になった時から)/24時間は受け取った時から、72時間は拘束された時から/「最大20日」は起訴前の勾留の日数(逮捕の72時間は別)/保釈は起訴後だけ

手続の地図:5つの区間

事件は、捜査から確定・執行まで、決まった順に進みます。ただし、全部の区間を通るとは限りません。

区間何をするか節
捜査犯人を見つけて確保し、証拠を集める第2・3節
公訴の提起検察官が「裁判にかけるか」を決める第4節
公判法廷で証拠を調べ、主張をぶつけ合う第5節
裁判裁判所が判決を言い渡す。不服なら控訴・上告第6節
確定・執行判決が確定し、有罪なら刑を執行する第6節
  • 注意:区間の「裁判」は、公判の最後の手続「判決」と同じ場面です。判決と、それへの不服申立てをまとめた区切りです。なお「裁判にかける」「刑事裁判」というふだんの言い方の「裁判」は、この区間ではなく、起訴された後の公判・判決(不服申立てを含む)の手続全体を指すことが多いです。
  • 途中で道が短くなる事件:事件は表の順に進みますが、起訴されなければ公判に進みません。起訴されても、事実を争わない事件には、手続を簡単にする仕組みがあります。
    • 例:駅前の事件(深夜の繁華街で口論の末に殴り、全治2週間のけが=傷害)で、初犯・深い謝罪・示談成立 → 検察官が起訴猶予にすれば、公判には進みません(第4節)。
    • 例:殴った人が事実を認め、略式手続に異議が無いと書面で示した → 検察官は簡易裁判所に略式命令を請求でき、簡易裁判所は公判を開かずに罰金を科すことができます(461条・461条の2)。略式命令で主刑として科せるのは100万円以下の罰金・科料だけ(執行猶予や没収なども付けられる)ですが、傷害罪には罰金刑もあるので、対象になりえます。
    • 例:「認めても否認しても、捜査・起訴・公判・判決の流れは同じ」は誤り → 公判を開かない略式手続のほか、公判を簡略にする即決裁判手続・簡易公判手続があります。

捜査:いつ始まり、何を集めるか

捜査は、捜査機関が犯罪があると考えた時に始まり、犯人と証拠の両方を集めます。

  • 始まり:「事件が起きた時」ではなく、捜査機関が犯罪があると思料するとき=犯罪の嫌疑が生じた時です(189条2項)。
    • 例:殴打は午前1時、通行人の110番は午前1時20分 → 警察が内容を確かめて犯罪の嫌疑が生じた時に、捜査が始まります。事件が起きた午前1時からではありません。
  • 端緒:捜査が始まるきっかけのことです。通報のほか、職務質問、被害者の告訴(被害者などが捜査機関に犯罪を申告し、処罰を求めること)などがあります。被害者など以外の人が同じことをするのは告発です。
    • 例:上の110番が端緒です。110番が無く、翌朝、被害者が自分で交番に届け出た → その届出が端緒になり、嫌疑が生じれば捜査が始まります。
  • 集めるもの:犯人と証拠の2つを、同時に集めて確保します。
    • 例:通行人の目撃証言、防犯カメラの映像、被害者の供述、現場の見分結果は、どれも証拠です。

189条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)2項:司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。

  • 担当:第一次的には司法警察職員(主に警察官)です。検察官も、必要と認めれば自分で捜査できます(191条1項)。
  • 被疑者:捜査の対象になった人です。逮捕されているかどうかは関係ありません(第4節の表)。
    • 例:殴った人が逮捕されず、呼び出しに応じて警察署で話を聴かれているだけ → 捜査の対象なので、この人も被疑者です。

身柄の時間表:逮捕から起訴まで

逮捕の後は、段階ごとに期限が決まっています。期限内に次へ進めなければ、釈放です。

  • 前提:逮捕するには、原則として、裁判官があらかじめ出す逮捕状が要ります(199条1項)。現行犯逮捕など、逮捕状の要らない例外もあります。逮捕した後も、拘束を続けてよい時間は、次の表のとおり段階ごとに区切られています。
段階誰が・何をするか期限(数え始め)条文
通常逮捕裁判官が出した逮捕状で逮捕する―199条
送致司法警察員が弁解を聴き、必要なら検察官へ送る(不要なら釈放)48時間以内(身体を拘束された時から)203条1項
勾留請求検察官が弁解を聴き、必要なら裁判官に勾留を請求する(不要なら釈放)24時間以内(被疑者を受け取った時から)205条1項
逮捕の上限この間に起訴すれば、勾留請求は要らない。勾留請求も起訴もしなければ釈放72時間(身体を拘束された時から)205条2〜4項
勾留裁判官が被疑者に直接会って言い分を聴き(勾留質問)、勾留するか決める10日(勾留を請求した日から)。起訴しなければ釈放207条・61条・208条1項
勾留延長裁判官が「やむを得ない事由」を認めれば、検察官の請求で延長する延長の合計で10日まで208条2項
起訴後勾留中に起訴されると、被告人の勾留に切り替わる。保釈を請求できるのはここから起訴の日から2か月(その後1か月ずつ更新できるが、更新は原則1回まで=最長3か月。重い罪などの例外あり)60条2項・88条1項
  • 司法警察員:司法警察職員(第2節)のうち、検察官への送致や釈放を決める権限を持つ人です。
  • 留置:逮捕による身柄拘束を、そのまま続けておくことです。
  • 逮捕と勾留の違い:逮捕=身柄を確保する最初の短い措置/勾留=その後のより長い拘束です。
  • 裁判官が判断する場面:主に、逮捕状を出すとき・勾留するとき・延長するときです。48時間・24時間の期限ごとに裁判官が判断するわけではありません。
  • 逮捕の期限の数え方:48時間と72時間は身体を拘束された時から、24時間は検察官が被疑者を受け取った時から数えます。
    • 例:月曜22時に逮捕 → 送致の期限は水曜22時。火曜10時に検察官が受け取れば、勾留請求の期限は水曜10時です。
    • 例:警察が水曜22時ぎりぎりに送り、検察官がその時に受け取った → 検察官の24時間は木曜22時まで。逮捕から72時間ちょうどで、2つの上限が重なります。
  • 72時間の中で起訴したとき:検察官は、ふつうは勾留を請求するか、釈放するかを選びます。ただ、その時間内に起訴したなら、勾留請求は要りません。勾留請求も起訴もしないまま時間が切れれば、釈放です。
    • 例:逮捕の翌日に起訴した → 勾留請求は要りません(205条3項)。起訴の後は、裁判官が被告人に事件を告げて言い分を聴き、勾留するか釈放するかを決めます(280条2項)。

205条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。2項:前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。3項:前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。4項:第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

  • 勾留の期間:勾留を請求した日から10日以内に起訴しなければ、釈放です。やむを得ない事由があれば、延長は通じて10日までです(208条)。
    • 例:4月1日に勾留を請求 → 10日は4月10日までです。実務では、請求した日も休日も数えます。
    • 例(逮捕から通しで・最長の場合):3月30日の夜に逮捕 → 72時間ぎりぎりの4月2日に勾留を請求 → 延長も全部使うと4月21日まで。逮捕の日も1日目に数えると23日間で、これが起訴前の拘束の原則的な最長です(逮捕の約3日+勾留20日)。
    • 例外:内乱・騒乱などの罪は、延長のあとさらに5日まで延ばせます(208条の2)。駅前の傷害には使えません。

208条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:第二百七条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。2項:裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

  • 起訴後の勾留:20日などの期限は、起訴前の被疑者の勾留の話です。勾留中に起訴されると、被告人の勾留として続きます(60条2項)。
    • 被告人を勾留できる理由(住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれ)は、起訴前と同じです(60条1項)。
    • 例:20日目に起訴された → 釈放されず、被告人の勾留として続きます。まず起訴の日から2か月、必要なら1か月の更新(原則1回)があります。「最大20日で必ず出られる」は誤りです。
  • 保釈:勾留されている被告人を、保証金を納めさせたうえで釈放する制度です(93条1項・94条1項・96条)。逃げたり呼び出しに応じなかったりすれば、保証金を失うおそれがある、という仕組みで出頭を確保します。
    • 請求できるのは勾留されている被告人側です(88条1項)。被疑者の勾留には保釈がありません(207条1項ただし書)。
    • 例:勾留中の被疑者の家族が保釈を請求した → 起訴前なのでできません。起訴されれば、本人・弁護人・配偶者・親子・兄弟姉妹などが請求できます。

起訴:誰が、必ず起訴するのか

起訴できるのは、原則として検察官だけです。有罪にできても、あえて起訴しない選択が認められています。

  • 公訴の提起:条文上の言い方で、ふだんは「起訴」と呼びます。
原則中身条文
国家訴追主義訴えるのは国家。被害者などの私人は、刑事裁判を起こせない247条
起訴独占主義起訴するのは、原則として検察官だけ。捜査した警察官は起訴できない247条
起訴便宜主義有罪にできる見込みがあっても、あえて起訴しないことができる248条
  • 起訴独占主義の例外:検察官が起訴しないと決めても、検察官以外の手で起訴に至る道が2つあります。どちらも私人が自分で起訴する制度ではありません。
    • 検察審査会:衆議院議員の選挙権を持つ人の中からくじで選ばれた11人の検察審査員でつくる機関です(検察審査会法4条)。検察官の不起訴に納得できない被害者などが、審査を申し立てられます(同法2条2項)。
      • 2度の審査:1度目の審査で「起訴が相当」と議決しても(起訴相当の議決)、起訴するかどうかは検察官が改めて決めます。検察官がまた起訴しなければ、2度目の審査に進み、そこで「起訴すべき」と議決(起訴議決)すると、検察官の判断によらずに起訴へ進みます(検察審査会法41条の2・41条の6)。
      • 例:駅前の事件が起訴猶予になり、被害者の申立てで、検察審査会が2度の審査を経て起訴議決をした → 裁判所が弁護士を指定し、その指定弁護士が起訴します(検察審査会法41条の6・41条の9・41条の10)。
    • 付審判:公務員の職権濫用などの罪に限った制度です。告訴・告発をした人が、検察官の不起訴に不服なとき、地方裁判所に「審判に付してほしい」と請求できます(262条1項)。裁判所が審判に付す決定をすると、起訴されたとみなされ(267条)、裁判所が指定した弁護士が検察官の役を務めます(268条)。
      • 例:取調べで警察官から暴行を受けたと告訴したが、検察官が不起訴にした → 告訴した人が付審判を請求できます(特別公務員暴行陵虐罪=刑法195条は、262条が挙げる罪の1つ)。

247条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第二章 公訴(247〜270条)公訴は、検察官がこれを行う。

  • 起訴猶予:248条を根拠に、検察官が「今回は起訴しない」と決める処分の呼び名です。
    • 考慮するもの:犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況
    • なぜ裁量を与えるのか:機械的にすべて起訴すると、更生の機会を奪ったり、裁判所や当事者の負担を増やしたりする場合があるからです。

248条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第二章 公訴(247〜270条)犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

(1) 被疑者と被告人

被疑者被告人
何者か犯罪の嫌疑をかけられ、捜査の対象になっている人公訴を提起された人
いつから捜査の対象になった時から(逮捕の有無は関係ない)起訴された時から
立場捜査を受ける(まだ有罪と決まっていない)訴えられた本人として法廷で争う(まだ有罪と決まっていない)
  • 同じ人を指します。起訴を境に呼び名が切り替わります。
  • 被疑者も被告人も、刑事訴訟の当事者として、手続上の権利・義務の主体です。被疑者も、弁護人の援助を受けられます。
  • 注意:「被告」は民事訴訟で訴えられた人の呼び名です。刑事では、必ず「被告人」です。

公判:法廷で何をするか

公判は、冒頭手続 → 証拠調べ → 弁論手続 → 判決の順に進み、法廷で調べた証拠で結論を出します。

  • 公判準備:起訴の後、検察官は立証を準備し、弁護人に証拠を開示します。裁判員裁判の対象事件は、必ず公判前整理手続で争点と証拠を整理します(裁判員法49条)。
手続何をするか
①冒頭手続人定質問(人違いでないかの確認=刑訴規則196条)の後、検察官が起訴状を読み上げ、裁判長が被告人に黙っていられる権利などを告げ、被告人・弁護人が言い分を述べる(起訴状の朗読から後は291条)。これで何が争われているか(争点)が明らかになる
②証拠調べ法廷で証拠を取り調べる。公判審理の中心
③弁論手続検察官が意見(論告)、弁護人が意見(弁論)を述べ、最後に被告人が最終陳述をする
④判決裁判所が判断を言い渡す
  • なぜこの順か:先に争点を明らかにしないと、どの証拠を調べるべきかが決まらないからです。条文も、証拠調べは冒頭手続が終わった後と定めています(292条)。
  • 公判中心主義:捜査段階の供述調書(取調べで話した内容を捜査機関が書き取った書面)に頼りきるのではなく、法廷の証拠調べを通じて心証(裁判官が証拠から得る「この事実はあった(なかった)」という判断)を形成すべきだという考え方です。
    • 捜査段階で集めた資料も、法廷に出されて、初めて判断材料になります。
    • 直接主義:判断する裁判所が、自分で法廷で直接取り調べた証拠を基に判断する、という原則です。公判中心主義は、どこで心証をとるか(捜査の書類ではなく法廷で)に注目した言い方で、実質的には直接主義・口頭主義(口頭でのやりとりを基に審理する原則)を実現するものだと説明されます。
  • 証拠のルール:何でも証拠にできるわけではなく、特別なルールがあります。
    • 伝聞法則:法廷での供述の代わりに書面を出したり、他人から聞いた話を証言したりしても、原則として証拠にできません(320条1項)。もとの話をした人に法廷で問いただせず、見間違い・言い間違いを確かめられないからです。例外は321条以下に定められています。
      • 例:目撃者Aから「Bが殴るのを見た」と聞いたCが、法廷でその話を証言する → Aの話の正しさを法廷で確かめられないので、原則として証拠にできません。
    • 自白法則:強制・拷問・脅迫による自白など、任意にされたものでない疑いのある自白は、証拠にできません(319条1項)。根拠は、うその自白を防ぐため、取調べでの人権侵害や違法を抑えるためなど、いくつかの説明があります。
      • 例:長時間眠らせずに問い詰め、「認めれば帰す」と迫って得た自白 → 任意でない疑いがあれば、証拠にできません。
    • 補強法則:自白が唯一の不利益な証拠なら、有罪にできません(319条2項)。証拠として使える自白でも、それを裏付けるほかの証拠(補強証拠)が要る、という意味です。自白法則が「使えない自白」の話なのに対し、こちらは「使える自白でも、それだけでは足りない」という話です。
      • 例:被告人が法廷で「私が殴りました」と認めたが、自白のほかに、それを裏付ける証拠が何も無い → 有罪にできません。
    • 違法収集証拠排除法則:違法な捜査で集めた証拠を、証拠から排除するというルールです(判例)。違法を見逃して証拠に使えば、同じ違法な捜査を招くおそれがあるからだと説明されます。ただし、どんな違法でも排除されるわけではありません。判例は、証拠物について、押収などの手続に違法があっても直ちに証拠から外すのではなく、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、かつ、証拠に使うことが将来の違法捜査の抑制の見地から相当でないと認められる場合に、証拠にできないとしています。

判決から先:上訴・確定・執行

不服があれば控訴・上告で争えます。争わなくなると判決は確定し、同じ事件はもう一度裁けません。

  • 控訴:第一審の判決に不服があれば、検察官・被告人のどちらからでも(351条1項)、高等裁判所に申し立てます。期間は14日です(373条)。
  • 上告:控訴審の判決に不服があれば、さらに最高裁判所に申し立てます。
  • 確定:上訴が無いか、上訴が尽きると、判決が確定します。
    • 例:傷害罪の有罪判決に、どちらも控訴しないまま14日の控訴期間が過ぎた → 判決は確定します。期間は、判決を言い渡した日の翌日から数えます。
  • 執行:有罪判決で、刑の執行猶予が付かなければ、刑が執行されます。これが最後の区間です。
    • 執行猶予:刑を言い渡すが、一定の期間その執行を見合わせる、というものです。取り消されずにその期間を過ごせば、刑の言渡しは効力を失います(刑法27条1項)。
    • 例:確定しても、無罪や、執行猶予付きの判決なら、刑務所には行きません。
  • 一事不再理:確定判決を経た事件で、同じ人をもう一度起訴すると、免訴の判決で打ち切られます(337条1号)。免訴は、有罪・無罪の判断に入らずに手続を打ち切る判決です。
    • 根拠:憲法39条(既に無罪とされた行為や、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない)です。
    • 理由:いつまでも蒸し返せると、手続に終わりが来ないからです。
    • 例:有罪が確定した後、同じ殴打でもう一度起訴された → 免訴です。
  • 再審:有罪の確定判決に対し、言渡しを受けた者の利益のためにだけ、見直しを求める制度です(435条)。一事不再理を破って、改めて処罰するための制度ではありません。
    • まず再審を開くかどうかを決め、開くと決まれば、裁判をやり直します(448条1項・451条1項)。
    • 例:有罪が確定した後に、無実を示す新しい証拠が見つかった → 有罪とされた人の側から再審を請求できます。
    • 例:無罪が確定した後に、有罪を示す新しい証拠が出た → 有罪にやり直す再審はありません。

登場人物:三面構造

手続の登場人物は、請求する側・防御する側・判断する側の三面で捉えます。

立場誰駅前の事件では
請求する側検察官「この人を裁判にかけてください」と求める
防御する側被疑者・被告人と弁護人殴ったとされる人と、その弁護人
判断する側裁判所判決を言い渡す
  • 三面の形:訴える側と裁く側を分けた形で、弾劾主義と呼びます。
    • 当事者主義は別の話です。起訴の後、主張と立証を、裁判所ではなく検察官と被告人(弁護人が支える)が主導する考え方です(裁判所が主導する職権主義と対比)。
  • 被疑者・被告人:防御する側の中心です。刑事手続は、被疑者・被告人(氏名が分からないままのこともある)を対象に進むので、その人がいなければ成り立ちません。加害者がすぐ決まらない事件でも、嫌疑のかかった人が被疑者になります。
    • 例:口論が殴り合いになり、双方がけがをした → どちらが加害者か、すぐには決まりません。双方が被疑者になりえます。
    • 例:起訴された後に被告人が亡くなった → 裁判所は決定で公訴を棄却し(公訴棄却=有罪・無罪の判断に入らずに、起訴を退けて手続を終えること)、手続は終わります(339条1項4号)。
  • 弁護人:被疑者・被告人の側に立って防御する、法律の専門家です。
  • 司法警察職員(主に警察官):三面の外で、捜査を担当します。集めた証拠は、検察官が起訴するかを決める材料になります。
  • 当事者:公判で向き合う当事者は、請求する側の検察官と、防御する側の被告人です。裁判所は判断する側で、当事者ではありません。弁護人は、被疑者・被告人を支える立場です。
    • 被疑者も、手続上の権利・義務の主体という意味では当事者と呼ばれます(第4節(1))。
  • 被害者:当事者ではありません(三面のどれでもない)。
    • 例:被害者が「起訴してほしい」と思っても、自分で起訴はできません(第4節)。
    • ただし、証拠の重要な情報源になり、検察審査会に申し立てることもできるなど、手続に深く関わります。
  • 裁判員:重大な事件では、裁判所の判断に、国民から選ばれた裁判員が加わります。対象事件では、公判前整理手続が必須です(第5節)。
    • 例:駅前の傷害は、裁判員裁判の対象ではありません。被害者が後に亡くなれば傷害致死(3年以上の有期拘禁刑)になり、故意の犯罪で人を死なせた罪として対象になります(裁判員法2条1項2号)。

無罪推定の原則

罪に問われている人は、有罪が確定するまで無罪と推定されます。被疑者にも被告人にも及びます。

意義中身
①刑罰の先取り禁止有罪判決が確定するまで、刑罰を先取りして科さない。逮捕・勾留は手続上の処分で、刑罰ではない
②利益原則事実があったかどうか明らかにならないとき、被告人に不利益な事実は認定しない(「疑わしきは被告人の利益に」)
  • ②が働く場面:有罪にするには、犯罪の証明が要ります。証明が無いときは、裁判所は無罪を言い渡さなければなりません(336条)。
    • 合理的な疑い:有罪にするには、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証が要ります。反対の事実の疑いを全く残さないことまでは要らず、抽象的な可能性としての疑いが残っても、健全な社会常識に照らしてその疑いに合理性がないと一般的に判断されれば、有罪にできます(最決平成19年10月16日)。たとえば「別人の可能性も理屈の上ではありうる」というだけでは、合理的な疑いになりません。
    • 例:犯人を示す証拠は目撃者の「犯人は赤い服」という証言だけで、被告人はその時刻に青い服を着ていたと防犯カメラで確かめられた(ほかに決め手は無い)→ 理屈の上の可能性ではなく、証拠から「別人ではないか」という疑いが出ています。「殴ったのはこの人」に合理的な疑いが残るので、有罪とは認定されず、無罪です(336条「犯罪の証明がないとき」)。

(1) 根拠

  • 国際的な根拠:無罪推定は、日本が締結した条約(国際人権B規約14条2項)に明記され、世界人権宣言11条1項にもある原則です。
    • 日本が締結した条約と確立された国際法規は、国内でも誠実に守る義務があります(憲法98条2項)。

98条(抜粋)|日本国憲法 第十章 最高法規(97〜99条)2項:日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

  • 実定法上の根拠(日本の憲法・法律の中の根拠):憲法31条に求められます。刑事手続は、国家が刑罰で人の生命・自由・財産を奪ってよいかを決める手続だからです。
    • 31条は、刑罰を科すには法律の定める手続によることを求めます。その手続で有罪と決まる前に有罪と扱えば、この要求が空になる、と整理できます。

31条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

  • 判例:最高裁は、②の利益原則を「刑事裁判における鉄則」と呼びました(白鳥事件の決定)。
    • この判示は、有罪確定後に再審(第6節)を開くかどうかの判断の中のものです。再審を開く理由となる新しい証拠は、ほかの証拠と合わせて見て、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせれば足りる、とし、そこにもこの鉄則が適用されるとしました。
    • つまり、新しい証拠だけで無実まで証明できなくても、ほかの証拠と合わせて確定判決の認定に合理的な疑いが生じれば、再審を開く理由になりうる、ということです。
    • ただし、その事件の結論は、再審を開かないというものでした(判断の基準を示した決定です)。

無罪推定と身柄拘束は矛盾しないか

逮捕・勾留は刑罰ではないので矛盾しません。ただし重い人権制約なので、3つの歯止めで縛られています。

  • 矛盾しない理由:逮捕・勾留は、捜査や裁判を成り立たせるために身柄を一時的に確保する手続上の処分です(第8節の意義①)。
  • それでも歯止めが要る理由:刑罰ではなくても、重い人権制約であることに変わりはないからです。
    • 例:勾留されたあと有罪になった → 勾留は刑罰ではありませんが、自由を奪われていたことに変わりはないので、勾留されていた日数の全部か一部を、刑に算入できます(刑法21条)。
3つの歯止め内容
期限48時間・24時間・72時間、勾留10日+延長10日(第3節の表)
要件罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのどれかに当たることなど(60条1項・207条1項)
裁判官の審査勾留の請求は、捜査する側とは別の第三者である裁判官が判断する。理由がなければ釈放を命じる(207条)
  • 期限が無ければ、警察や検察官の判断だけで拘束を続けられてしまいます。時間の数字は、まだ有罪と決まっていない人の拘束を、必要な範囲にとどめる仕組みです。
  • 要件と裁判官の審査:勾留できるのは、要件がそろうときだけです。そろわないと裁判官が判断すれば、勾留状は出されません。
    • 例:殴った人に決まった住居があり、証拠も押さえられていて、隠滅や逃亡のおそれがうかがえない → 勾留の要件を欠く方向です。欠くと判断されれば、裁判官は勾留状を出さず、釈放を命じます。

207条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)5項:裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

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