刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#16

GPS捜査(新類型・最大判平29)

GPS捜査(最大判平29・3・15)を扱う回。継続的・網羅的な行動把握と私的領域への侵入ゆえ強制処分で令状なしは違法、現行令状では賄えず立法的措置が望ましいとされたことを押さえる。

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第2章 捜査 ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前提の復習——強制処分とは(#6・昭51) 〔短答・論文共通〕

まず土台を1つだけ思い出します。第6回でやった話です。捜査には任意と強制があり、強制には令状が要りました。最決昭和51年3月16日。覚えるべき規範です。「意思を制圧し、重要な権利利益を実質的に侵害」するか、で分けます。そこ大事。昭51は「有形力を意味するものではない」と明言しました。だから力を使わなくても、強制処分になりうる。この土台の上に、GPSを載せていきます。

事案——車にGPS、約6か月半、19台 〔事案〕

事案です。広域で窃盗を繰り返すグループがいました。警察は被疑者らが使う車に、こっそりGPS端末を付けます。取っていません。承諾なし、そして令状もなし。しかも対象は車19台、期間は約6か月半にわたりました。GPSとは衛星の電波で位置を特定する装置です。これを使った捜査が、令状なしで許されるか、が争点です。

結論はどっち?——「公道だから任意」への反論 〔短答・論文共通〕

ここで素朴な反論が出ます。追うのは公道の移動だけだと。多くの人がそう感じます。カギは、さっきの「点」と「線・面」の違いです。一回の尾行は点。GPSは生活の軌跡という線・面を丸ごと取る。質の違いが2つあります。これが結論を変えます。

「点」と「線・面」——質の違い

1つ目。継続的・網羅的に、行動がまるごと分かること。どの病院、誰の家、どの集会か。生活のすべてが浮かびます。2つ目。他人の所持品である車に、勝手に機械を付けること。歩く姿を見るのと、持ち物に手を入れるのは、段階が違う。うまい喩え。だから「公道だから軽い」では片づきません。

最高裁の判断①——なぜ強制処分か 〔論文の骨格〕

では、最高裁の判断を読みます。平成29年3月15日、大法廷判決です。15人の裁判官全員で出す、特に重要な判決です。

最大判平成29年3月15日(GPS捜査・強制処分性)

まず、個人の行動を「継続的、網羅的に把握する」と述べます。そのうえで、合理的に推認される意思に反して。「私的領域に侵入する捜査手法」だと位置づけました。結論は「個人の意思を制圧して」。「憲法の保障する重要な法的利益を侵害するもの」。よって「特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分」だと。令状なしで行ったので、この捜査は違法となりました。

「私的領域」とは——憲法35条 〔短答・論文共通〕

根っこは憲法35条です。条文を見ましょう。

憲法35条(住居等の不可侵)

「住居、書類及び所持品」への侵入・捜索・押収を守る規定です。鋭い。そこで判決はこう広げました。保障は、これらに「準ずる私的領域」に侵入されない権利も含む、と。だからGPSが侵すのは、35条が守る重要な法的利益なんです。

最高裁の判断②——なぜ令状で賄えないか 〔論文の骨格〕

ここで当然の疑問。強制処分なら令状を取ればよかったのでは?普通はそう考えます。でも最高裁は、それも難しいとしました。

最大判平成29年3月15日(令状の限界・立法措置)

GPSは画面で位置を読む点では、検証と同じ性質を持ちます。でも、車に端末を付けて追う点は、検証では捉えきれない。もう1つ、令状には呈示の建前があります。強制処分は、原則として相手に令状を見せて行います。110条です。そこ。秘かに行う必要があり、事前の令状呈示を想定できない。「見せて堂々と入る」令状とは、設計思想が逆なんです。だから「令状を取ればOK」では終わりませんでした。

最高裁の判断③——だから立法措置が望ましい 〔短答・論文共通〕

現行法の枠では無理がある。そこで最高裁はこう締めます。「立法的な措置が講じられることが望ましい」。令状で何とかせよ、ではなく、新しい型を作れ、と。司法が、解決を立法に委ねた。珍しくて重い判断です。昭51の「有形力に限らない」が、現代で効いた瞬間です。

📝 論文の型|新類型の捜査手法の適法性(GPS捜査) 〔論文〕

  • 【コア規範】(逐語暗記は太字だけ)強制処分とは、相手方の意思を制圧し、重要な権利・利益を実質的に侵害・制約する処分をいう(最決昭51・3・16/有形力に限らない)。GPS捜査は、個人の行動を継続的・網羅的に把握し、合理的に推認される意思に反して私的領域に侵入するもので、強制の処分にあたる(最大判平29・3・15)。検証では捉えきれず事前の令状呈示も想定できないため現行の令状では実施しえず、立法的措置が望ましい
  • 【復元キー】①判断順=強制/任意→強制なら法定主義+令状→現行令状で賄えるか ②強制処分=意思を制圧+重要な権利利益の実質的侵害(昭51・有形力不問)③GPS=継続的・網羅的把握+私的領域への侵入(平29)④現行令状で賄えない=検証では捉えきれない+事前呈示を想定できない ⑤帰結=令状なきGPSは違法・立法的措置が望ましい。

では、新しい捜査手法が出たときの解き方を型にします。逐語で覚えるのは太字のキーワードだけ。あとは趣旨から復元します。3段で考えます。

新類型の処分——思考枠(覚える規範)

第1段。強制処分か任意処分か。昭51の基準で切る。第2段。強制処分なら、2つの関門があります。

刑事訴訟法197条1項(強制処分法定主義)

1つは強制処分法定主義。197条1項但書、法律の定めが要る。もう1つは令状主義。裁判官のチェックを通すこと。第3段。現行の令状の枠で、その手法が賄えるか。だから違法、かつ立法待ち。3段が全部ダメな珍しい例です。

答案の型——あてはめの流れ

答案では、この事例を当てはめてみせます。問題提起、規範、あてはめ、の順で書きます。継続網羅と私的領域侵入を指摘し、強制処分と認定する。そして現行令状で賄えないと示し、違法と結論づける。それが狙いです。リモート捜査や顔認証にも応用できます。

短答ひっかけ

最後に、誤解しやすい点を3つ確認します。1つ。強制処分は有形力を使うものに限られる?2つ。違法とされたのは何か。捜査全体ではありません。令状なしのGPS捜査そのものが、強制処分なのに無令状だから違法。それも誤り。現行の検証許可状では賄えない、が判旨でした。ここまで言えて、この判例を理解したと言えます。

まとめと次回予告 〔まとめ〕

まとめます。GPS捜査は継続網羅の把握と私的領域への侵入を伴う。だから強制処分で、令状なしは違法。最大判平成29年3月15日です。しかも現行の令状では賄えず、立法措置が望ましいとされました。その3段の型で解く。今日いちばん持ち帰ってほしい道具です。おとり捜査です。機会提供型と犯意誘発型で、適法か違法かが分かれます。GPSとは逆に、おとりは任意捜査です。

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