刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#36

捜索・差押え①令状の請求と領置

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第2章 捜査 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

あの紙には何が書いてあるのか

警察官が家の中から段ボール箱を運び出し傍らに紙切れが一枚置かれている様子から始まる導入板

今日から、新しいテーマに入ります。これまでは、人の身体を拘束する捜査、逮捕と勾留を見てきました。ここからは、物を集める捜査、捜索・差押えです。誰が、どうやってあの紙を手に入れるのか。今日は、令状を取る側を見ます。先に、今日の答えを言っておきます。物を集める捜査でも、相手が手放した物を受け取るだけなら、令状は要りません。意思に反して奪うときだけ、裁判官の令状が要ります。なぜ、そこで線を引くのか。それが、今日の一本の軸です。

押収の総論——捜索・差押え・領置

物を探す処分を捜索占有者の意思に反して奪う処分を差押え占有者が手放した物を受け取る処分を領置と定義し押収がこの2つの総称であることを示す板

捜査の全体像を見た回で一度出した言葉ですが、今日使えるところまで整理します。物を「探す」処分が、捜索です。見つけた物を、占有者の意思に反して強制的に「持って帰る」処分が、差押えです。領置は違うんですか。違います。領置は、占有者が自分から手放した物を「持って帰る」処分です。差押えと領置をまとめた総称が、押収です。そして、奪うのか受け取るのかによって、令状の要不要がまるで変わります。ちなみに、差押えの対象は、原則として有体物です。この原則が、あとで見る電子データの話にもつながります。今日はこれを、1つの事件で通して見ていきます。例えば、会社員のAさんの自宅に、何者かが侵入し、指輪などの貴金属が盗まれました。捜査線上に、Aさんの元同僚Bが浮かびます。

順番に見ていきます。

領置①——遺留物と任意提出物

事件現場近くの公園で見つかった空の小物入れを通行人が届け出る場面を遺留物の領置として示す板

領置の根拠条文を見てください。

条文刑事訴訟法第221条

刑事訴訟法第221条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる

「遺留した物」って、落とした物、ということですか。少し違います。占有を放棄した物、という意味です。犯行当日、Aさん宅の近くの公園で、空になった小物入れが見つかり、通行人が警察に届け出ました。これは、犯人が中身を抜いて捨てた、つまり占有を放棄した物です。遺留物として、令状なしで領置することができます。あとで取りに来る、と書いたメモが入っていた場合は、占有を放棄したとは言えません。まだ取りに戻るつもりがある物は、遺留物には当たりません。勝手に持ち帰れば、それこそ令状の要る強制的な取得になってしまいます。

領置②——任意提出できる者の範囲と還付

被害者Aさんが自分のスマホの写真データが入ったSDカードを自ら差し出す場面を任意提出物の領置として示す板

任意提出ができるのは、所有者、所持者、つまり自分のために占有している人、そして保管者、他人のために占有している人、この3者です。被害者のAさんが、「犯人が触ったドアノブを、自分のスマホで撮った写真データがあります」と、SDカードを差し出しました。これは、所有者による任意提出物の領置です。保管者というと、持ち主じゃない人が出す場合もあるんですか。あります。例えば、Bが盗んだ指輪の一部を質屋に持ち込んでいた場合、質屋の店主は、指輪の所有者ではありませんが、今その物を預かっている保管者として、任意に提出できます。

今、現実に占有している人かどうかが基準です。一度、警察が受け取った物は、もう返ってこないんですか。戻ってきます。留置の必要がなくなれば、還付する義務があります。222条1項が準用する123条1項の規律です。押収は、証拠として必要な限度でだけ許される処分です。必要がなくなれば、持ち主の財産権に配慮して返す、という考え方です。つまり、領置は、受け取るまでは任意処分、受け取った後は強制処分、という二段の性質を持ちます。確認したいんですが、被害者が自分から差し出した物は、令状がいる、いらない、どっちですか。いりません。領置には、令状は要りません。

強制処分には根拠が要った。では、それだけで足りるか

強制処分には法律の根拠が要るというルールを想起させ根拠だけで足りるのかそれとも別に何か要るのかを問いかける板

ここで、少し思い出してください。強制処分には、法律の根拠が要る、というルールを前に見ましたね。差押えは、相手の意思に反して物を奪う、強制処分です。221条のような法律の根拠はすでにあります。では、ここで思い出してほしいのですが、法律の根拠さえあれば、それで足りるでしょうか?法律の根拠は、どんな処分ができるか、という一般の話です。目の前のこの家に、今、踏み込んでよいか。それは、まだ誰も確かめていません。そこで出てくるのが、第2章で、強制処分法定主義と一緒に名前を見た、令状主義です。

令状主義の趣旨①——憲法35条

引っ越し業者に何でも運んでいいと白紙で頼む依頼と本棚だけ運んでくださいと品目を指定した依頼を対比する板

差押えは、財産権だけでなく、住居や所持品という、私的な領域に踏み込まれない権利、つまりプライバシーも侵害します。捜査機関の自己判断だけに委ねてよいか、という問題です。捜査機関は、事件を追う側です。自分で必要だと決めて、自分で踏み込めるなら、歯止めが働きません。そこで、事件に利害のない裁判官に、踏み込む前に確かめさせます。そこに歯止めをかけるのが、憲法35条です。

条文日本国憲法第35条

日本国憲法第35条 1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

ここから、3つの要素が出てきます。1つ目、「正当な理由」の事前審査。2つ目、「捜索する場所及び押収する物」の明示。3つ目、「各別の令状」、つまり一般令状の禁止です。例えば、引っ越し業者の依頼で考えてください。「家の中の物、好きに全部運んでいいよ」という白紙の依頼と、「リビングの本棚だけ運んでください」という、品目を指定した依頼、どちらが業者に大きな自由を持たせてしまうか。白紙の依頼の方です。各別の令状は、後者、品目を指定した依頼です。一般令状は、前者、何でも運んでいい白紙の依頼です。憲法35条2項は、この一般令状を禁止しています。

令状主義の趣旨②——「正当な理由」の中身

嫌疑があるか、その場所に物がある見込みが高いか、事件と関わりがあるか、今差し押さえる必要があるかという4つの問いに裁判官が正当な理由を分解して審査すると示す板

この一語には、4つの具体的な問いが、畳み込まれています。

論文で書く規範:「正当な理由」の4要件 裁判官は、①特定の犯罪について嫌疑があること、②捜索する場所にその物がある見込みが高いこと、③その物が今回の事件と関わりがあること、④今、差し押さえる必要があること、の4つがすべて認められて初めて令状を発付する。 (通説(憲法35条1項「正当な理由」の解釈))

なぜ、この4つが要るのか。1つずつ理由があります。①は、捜査が特定の犯罪の嫌疑を前提とする、当然の帰結です。②は、目的物が存在しない場所を捜索させても、意味がないからです。③の関連性が要るのは、「特定の犯罪事実」について審査したはずの令状で、「他の犯罪事実」の証拠まで取れてしまえば、令状主義が形骸化するからです。さきほどの、一般令状の禁止という話が、ここに現れています。④は、①から③がそろっても、なお必要性がなければ、発付すべきでない、という最後の歯止めです。例えば、①窃盗の嫌疑がBにあること、②指輪類がB方にあると見込めること、③その指輪類が、Aさん方の窃盗事件の証拠であること、④今、捜索・差押えをする必要があること。この4つを、裁判官が確かめます。

Bの家にある使い古しのノートパソコンが、今回の窃盗事件と何の関係もないなら、③の関連性を欠きます。嫌疑があっても、存在の見込みがあっても、関連性がなければ、その物には令状が出ません。指輪がすでに質屋に売られていた場合は、②の見込みが崩れます。B方にあると見込む根拠がなくなるからです。この場合、B方でなく、質屋の方を対象にするべきです。自白があり、証拠も十分にそろっている場合は、④の必要性が問題になります。嫌疑も、存在の見込みも、関連性もあっても、すでに証拠が十分にそろっていて、重ねて捜索する必要がなければ、令状は出ません。

4つすべてがそろって、初めて発付されます。相手の意思に反して奪うからこそ、ここまで確かめさせるのです。段が違います。あちらは、令状が要る処分かを決める、入口の判断です。こちらは、令状を出してよいかの判断です。今日は、入口を通った先の話です。

令状に書かれる事項——刑訴法219条1項

罪名差し押さえるべき物捜索すべき場所身体物有効期間の4点を軸に一般令状の禁止と結びつけて令状の記載事項を示す板

では、その「正当な理由」を審査した結果、令状には何が書かれるのか。

条文刑事訴訟法第219条第1項

刑事訴訟法第219条第1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名差し押さえるべき物捜索すべき場所、身体若しくは物、提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、捜索若しくは検証に着手し、又は電磁的記録提供命令をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

長い条文ですが、実務の型に沿って、4点だけ押さえます。罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所・身体・物、そして有効期間です。さきほどの、各別の令状、一般令状の禁止に直結します。例えば、罪名も差し押さえるべき物も書かず、「B方を家宅捜索してよい」とだけ書いた令状があったら、どうなるでしょうか。何でも持って行っていい令状になってしまいます。差し押さえるべき物を書かない令状は、まさに、一般令状です。罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所を書かせることで、令状の効力をその範囲だけに縛ります。有効期間も同じです。いつまでも有効な令状は、それ自体が歯止めを失った令状になってしまいます。

それは、電子データを対象にする令状のときに書かれる事項です。中身は別の回で扱います。今日は、この4点を押さえてください。

令状の請求——請求権者

検察官検察事務官司法警察員は令状を請求できるが司法巡査には請求権限がないと示す板 図:検察官検察事務官司法警察員は令状を請求できるが司法巡査には請求権限がないと示す板

誰でも請求できるわけではありません。令状を請求できる人は、法律で限られています。

条文刑事訴訟法第218条第5項

刑事訴訟法第218条第5項 第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。

検察官、検察事務官、司法警察員、この3者に限られます。司法巡査には、令状の請求権限がありません。第1章で見たとおり、刑訴法は、現場で最初に動く人と、その判断に責任を持つ人を分けています。人の住居に踏み込む手続を始めるかどうかは、重い判断です。だから、責任を持つ側の司法警察員に負わせています。警察の中だけでは決められません。警察を外から管理する公安委員会の定めで決まります。その定めでは、巡査部長以上の警察官が司法警察員、巡査が司法巡査です。必要があるときは、巡査を司法警察員に指定することもできます。誰に責任を負わせるかの線引きを、警察の外の委員会に置いている、という形です。

司法巡査は、司法警察員を補助して動く立場です。目の前の捜査を進めている人が、そのまま裁判官に持ち込めると、この家まで踏み込む必要が本当にあるのかを、警察の中で一度確かめる段が消えます。そうなると、請求は現場の勢いのまま増えていきます。現場の司法巡査が捜索の必要を感じたときは、自分では請求せず、司法警察員につなぎます。司法巡査は、捜索そのものにも関われないんですか。関われます。令状が出たあと、実際に家に入って探す場面には、司法巡査も加わります。分けているのは、裁判官に令状を求めるかどうか、という入口の判断だけです。そして、請求するときは、書類だけ出せばいいわけではありません。「正当な理由」があることを裏づける、疎明資料も添えます。

例えば、Bの職場の元同僚の供述や、防犯カメラの記録が、疎明資料になります。疎明と証明は、違うんですか。違います。証明は、裁判官に確信を持たせる程度の立証です。疎明は、一応確からしい、という心証を持たせる程度で足ります。令状の審査で確信までは求めないのは、起訴前の、まだ捜査の途中の段階だからです。

請求書の記載事項——犯罪事実の要旨まで書く

Bの自宅の捜索差押許可状請求書に罪名差し押さえるべき物捜索すべき場所犯罪事実の要旨が並ぶ請求書板

請求書には、令状本体より詳しいことが書かれます。Bの自宅の捜索差押許可状請求書には、罪名は窃盗、差し押さえるべき物は指輪類、捜索すべき場所はB方、そして、犯罪事実の要旨、つまり「Aさんの家に侵入し、指輪等を窃取した」という事実の概要まで書かれます。令状本体にはありません。請求書側にだけ、この記載があります。請求書は、裁判官に判断してもらうための書類です。何の事件で、どこまでの嫌疑があるのか。それが分からなければ、「正当な理由」があるかどうかを判断できません。令状のほうは、実際に家に入るときに、相手に示す紙です。示される相手は、被疑者とは限りません。役割が違うので、書かせる中身も違います。今日は、請求書側に犯罪事実の要旨が必要だ、という書き分けを、役割の違いとして押さえてください。

有効期間は、どのくらいなんですか。原則7日以内です。超える場合は、請求書にその旨と理由を書きます。Bさん以外の人の家を捜索することもあるんですか。あります。被疑者以外の人を対象にするときは、物がそこにあると認めるに足りる状況が、別途要求されます。

令状をオンラインで——法律はできている、施行はこれから

刑事手続の電子化を進める法律はすでに成立しているが令状のオンライン請求発付は2026年9月時点で未施行と示す板

刑事手続の電子化を進める法律は、すでに成立しています。ただ、令状のオンライン請求や発付に関する部分は、まだ施行されていません。今の219条1項も、「裁判官が、これに記名押印しなければならない」のままです。紙の令状が前提になっています。令状のやり取りも、今後オンライン化される予定、という段階です。「もう変わった」と、「変わる予定がある」を、混同しないようにしてください。例えば、遠隔地の裁判所まで書類を持ち込む時間が惜しい、切迫した捜査の場面を考えてください。紙と押印を電子的な方法に置き換えれば、請求から発付までの時間を短くできます。それが、この変更の狙いです。

電子データを出させる命令——電磁的記録提供命令

電子データを対象にする令状は今は電磁的記録提供命令という名前で呼ばれ219条1項の記載にも反映されていると示す板

もう一つ、呼び名の更新があります。電子データを対象にする令状は、今、「電磁的記録提供命令」という名前です。あの部分が、この名前に対応しています。差押えは、目に見える物の占有を取得する処分です。例えば、データがクラウド上のサーバーに保存されていて、物理的に持ち出せない場合を考えてください。そこで、データを保有している人に、電磁的記録を提供させる、という形の命令が必要になりました。この制度の中身、どんな要件で、どんな手続きなのかは、別の回でじっくり扱います。今日は、この名前だけ押さえてください。

今日のまとめ・次回への橋

押収の2類型令状主義の趣旨4要件219条1項の記載事項令状の請求という今日渡した4点を1本にまとめ次回は裁判官の審査に進むと示す板

今日の内容を振り返ります。1つ目。押収には、令状の要らない領置と、令状の要る差押えの、2つの類型があります。分かれ目は、相手が手放したのか、それとも意思に反して奪うのか、でした。2つ目。差押えには、憲法35条の令状主義がかかります。「正当な理由」の4要件と、各別の令状、つまり一般令状の禁止、この2つが中身でした。ここで、一度確認します。Bさんの家を捜索する令状で、裁判官が確かめる4つの問いは、何でしたか。嫌疑があるか、目的物がそこにありそうか、その事件との関連性があるか、そして必要性があるか、でしたね。そして、この4つは1つでも欠ければ、令状は出ません。3つ目。令状には、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、有効期間が書かれます。これらは、一般令状を禁止するための記載でした。4つ目。令状は、検察官、検察事務官、司法警察員だけが請求できます。請求書には、令状本体には書かれない「犯罪事実の要旨」まで書かせます。この差、覚えておいてください。令状には罪名しか書かなくてよい理由、対象の特定はどこまで必要か、そして、被疑者以外の人への捜索も扱います。

参照条文

  • 刑事訴訟法第221条
  • 日本国憲法第35条
  • 刑事訴訟法第219条第1項
  • 刑事訴訟法第218条第5項

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