刑事訴訟法とは何か
刑法と刑事訴訟法
刑法は「何が罪か」を、刑事訴訟法は「どう確かめるか」を決めます。
| 刑法 | 刑事訴訟法 | |
|---|---|---|
| 決めること | どんな行為をしたら、どんな犯罪が成立し、どんな刑罰が科されるか | 刑法を目の前の一人に当てはめてよいか、確かめるための手続 |
| 性質 | 要件と効果のルールブック(実体法) | どう確かめるかを決める法律(手続法) |
| 例:自転車盗の疑い | 窃盗罪が成立するか | 警察が家の中を見てよいか |
- 手続なくして刑罰なし:どれだけ疑わしくても、決められた手続を踏まなければ、刑罰は科せません。
- 令状:裁判官があらかじめ出す許可状です。
- 警察が自分の判断だけで踏み込めないよう、第三者である裁判官のチェックを挟む仕組みです。
(1) ほかの手続の法律との違い
- 少年法:少年が起こした事件のための、別の手続です。少年の更生可能性を重視します。
- 民事訴訟法:手続を定める点は同じですが、私人どうしのもめ事の解決が目的です。
- 刑事訴訟法は、国家が人を罰してよいかを扱います。
実体法の目と手続法の目
同じ1つの事件でも、見る目によって問いそのものが違います。
- 実体法の目:何罪が成立するか。
- 答えるための要件は、すでに刑法の条文に書かれています。
- 手続法の目:令状は必要か。どこまで調べてよいか。どんな証拠で立証するか。
- 憲法や刑事訴訟法が、これから順を追って条件を積み上げていきます。
刑事訴訟法1条(目的)
1条は、刑事訴訟法の目的を1文に凝縮した条文です。
1条|刑事訴訟法 第一編 総則この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
| 1条の要素 | 対応する理念 |
|---|---|
| ① 公共の福祉の維持 | ②の言い換えに近い |
| ② 個人の基本的人権の保障 | 適正手続主義 |
| ③ 事案の真相を明らかにし | 実体的真実主義 |
| ④ 適正且つ迅速に | 迅速性(「適正」は②と重なる。「迅速」が独立した3つ目の要請) |
適正手続主義
- 意味:刑事手続による権利・自由の制約は、公共の福祉との兼ね合いの中で、正しいやり方で行われなければならないという理念です。
- なぜ必要か:刑事手続は、国家が個人の権利・自由を強く制約する場面を前提にしているからです。
- 例:家宅捜索、逮捕・勾留による身体の拘束
- 根拠:憲法31条です。
- 刑事訴訟法は、憲法31条が求める「法律の定める手続」の中身を、条文として書き下した法律です。
31条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
実体的真実主義
- 意味:犯罪事実の有無や中身を、正確に明らかにすべきだとする理念です。
- なぜ必要か:刑罰権の行使は、事実に基づかなければ正当化されないからです。
- 例:自転車を盗んでいない人が「なんとなく怪しい」というだけで有罪にされれば、何もしていないのに国家に自由を奪われます。
- 事実を誤ったまま処罰すれば、それ自体が不正義になります。
- 結論:真相を明らかにすることが、刑罰を科す前提です。
(1) 民事訴訟との違い
| 民事訴訟 | 刑事訴訟 | |
|---|---|---|
| 理念 | 形式的真実主義 | 実体的真実主義 |
| 当事者が認めた事実 | それ以上確かめない | 証拠を通じて確かめる |
| 理由 | 私人どうしのもめ事なので、当事者が争わないと決めた以上、踏み込む必要がない | 国家が人を罰する重い判断なので、当事者の合意に委ねると事実に基づかない処罰が起きうる |
- 例(民事):貸したお金の返還を求める裁判で、借りた側も「借りました」と認めれば、裁判所は本当に借りたかをそれ以上調べません。
- 例(刑事):被告人が「盗みました」と認めても、裁判所は証拠を通じて確かめます。
核心司法(「真実」とは何か)
「刑事裁判は事件の真相を全部明らかにする場所」というのは誤りです。
- 核心司法:明らかにすべき「真実」は、次の2つに尽きるという考え方です。
- 刑罰権の有無:刑罰法令の定める犯罪事実を、被告人が本当に行ったか
- 刑罰権の範囲(量):行ったのであれば、刑の重さを決めるうえで重要な事実
- なぜ絞るのか:刑事裁判は、国家が刑罰権を発動してよいかを決める場だからです。
- それ以上を調べると、裁判の目的を超えて、個人のプライバシーを侵害します。
| 自転車盗の例 | 「真実」に含まれるか |
|---|---|
| 本当に盗んだか | 含まれる(有無) |
| 初犯か常習か、反省しているか | 含まれる(量刑にかかわる事情) |
| 交友関係の全て、事件と関係のない生い立ち、無関係な借金トラブル | 含まれない(量刑に直接関わらない限り) |
(1) 訴訟の中で構築された真実
- 裁判所は、過去の出来事に直接触れることはできず、法廷に出された証拠を通してしか事実に近づけません。
- そのため、法廷で組み立てられた事実は、事件の完全な再現ではなく、証拠によって確かめられた範囲での事実です。
(2) 被疑者と被告人
- 被疑者:起訴される前の呼び名
- 被告人:起訴された後の呼び名
- 呼び名が変わるだけで、同じ人を指します。
当事者主義と公判中心主義
核心司法の「有無と量」は、法廷で確かめます。
- 当事者主義:検察官と弁護人の双方が証拠を出し合い、法廷で争ったうえで、裁判所が判断する仕組みです。
- 公判中心主義:捜査段階の供述調書に頼りきるのではなく、法廷の証拠調べを通じて心証を形成すべきだという考え方です。
- 理由:捜査段階の取調べは密室で行われ、検証しにくいからです。法廷なら当事者双方が立ち会い、証拠の出し方も公開されます。
迅速の要請
1条の「迅速」は、適正手続主義とは別の、独立した要請です。
- 迅速性:手続が長引くのを避けるべきだという要請です。
- なぜ急ぐのか
- 理由① 証拠の劣化:長引くほど、記憶は薄れ、証拠は劣化し、誤った判断のリスクが高まります。
- 理由② 当事者の負担:被疑者・被告人の身柄拘束や、社会的に不安定な立場が長く続いてしまいます。
- 根拠:憲法37条1項(公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利)
- 高田事件:手続の遅れがあまりに著しいとして、裁判そのものが打ち切られた最高裁判所の判例です。
- 迅速を怠ると、手続そのものが打ち切られうるほど重い要請だということです。
37条(抜粋)|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2つの理念の関係
2つの理念は、多くの場面では両立しますが、時にぶつかります。
| 実体的真実主義 | 適正手続主義 | |
|---|---|---|
| 役割 | アクセル:真相を明らかにしようと、前に進む力 | ブレーキ:行き過ぎを止める力 |
| こちらだけに振り切ると | 拷問してでも自白させ、疑わしければ捕まえる → 冤罪と人権侵害 | 少しでも手続に問題があれば証拠は一切使えず、犯人を罰することもできない → 処罰そのものの空洞化 |
- 両立する場面:拷問や強制による自白の禁止
- 虚偽の自白を防ぐ(真実)と同時に、被疑者の人権を守る(適正)
- ぶつかる場面:違法な捜索で見つかった重要な証拠物を、裁判で使ってよいか
- この衝突は、違法収集証拠排除法則で調整します。
- 刑事訴訟法のあらゆる制度は、この2つの理念のバランスを取るために作られています。
法源
刑事手続の根拠になる法を法源といい、5つあります。
| 法源 | 内容 |
|---|---|
| 憲法 | 31〜40条の10か条に刑事手続のルール。最上位の規範 |
| 刑事訴訟法 | 憲法31条以下を具体化した、手続の中核 |
| 刑事訴訟規則 | 憲法77条1項に基づいて最高裁判所が定める。刑事訴訟法の大枠を細かく補う |
| 判例 | 法律上の法源かは議論があるが、事実上の法源として機能する |
| 条約 | そのまま適用できる条約の内容。例:外交官の刑事裁判権の免除 |
(1) 刑事訴訟規則
- 国会が作る法律ではなく、最高裁判所が自分で作る規則です。
77条(抜粋)|日本国憲法 第六章 司法(76〜82条)1項:最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
(2) 判例が事実上の法源とされる理由
- 405条2号・3号は、判例と相反する判断をしたこと自体を、上告の理由にしています。
- つまり、判例に逆らった判決は、覆される可能性があります。
- 裁判所ごとに結論がバラバラだと、当事者は結果を予測できず、裁判への信頼も失われるからです。
405条(抜粋)|刑事訴訟法 第三編 上訴 第三章 上告(405〜418条)高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。








図:検察官検察事務官司法警察員は令状を請求できるが司法巡査には請求権限がないと示す板


