刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#37

捜索・差押え②令状の記載と裁判官の審査

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問い:裁判官は捜索差押許可状を出すとき何を審査し、令状に何をどこまで書かせるか。被疑者以外の者の場所や集合住宅では何が変わるか。

骨組み

  1. 1必要性も審査する(昭44決定):「必要があるとき」→ 準抗告(捜査機関の差押処分に対する不服申立て)を受けた裁判所は差押えの必要性も審査できる。犯罪の態様・軽重、証拠としての価値・重要性、隠滅毀損のおそれ、被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに必要がないときにまで是認する理由はない。令状請求の段階でも裁判官は必要性を審査する(解説書)
  2. 2令状は罪名だけ():令状に書くのは罪名・差し押さえるべき物・捜索すべき場所など。犯罪事実の要旨は記載事項でない=書かなくてよい(請求書と逮捕状には書く)。理由=捜査の秘密・被疑者等の名誉の保護
  3. 3罪名の記載の程度(昭33決定):は場所と物の明示まで(正当な理由の明示までは求めない)→ 罪名に適用法条(=罰条)は不要(の解釈)。罪名「地方公務員法違反」の令状を適法とした(講義解説はここから、特別法犯は法令名で足りるとする)
  4. 4物の明示と概括的な記載(昭33決定):「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」も、具体的な例示に附加され、被疑事件に関係があり例示の物件に準じる物を指すことが明らかなら明示に欠けない。本件の場所の記載も明示に欠けない
  5. 5令状主義からの限定と実務(解説書):概括的な記載をするにしても、記載は可能な限り特定すべき。実務は、弊害がなければ罰条・被疑事実を記載する(令状に「請求書記載のとおり」と書き請求書を添付)
  6. 6被疑者以外の者への捜索(・・):被疑者本人は「必要があるとき」/被疑者以外の者は「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」のある場合に限る
  7. 7集合住宅(「各別の令状」):令状は管理権ごとに要る(解説書) → 部屋ごとに令状

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。昭33決定=最大決昭33・7・29、昭44決定=最決昭44・3・18。

昭33決定は1つの決定で3点を判断した:①罪名に適用法条は要らない(項目3)②捜索すべき場所の記載は明示に欠けない ③例示に附加された概括的な記載も物の明示に欠けない(項目4)。

1必要性の審査(昭44決定)判例学説

  • 刑訴法二一八条一項によると、検察官もしくは検察事務官または司法警察職員は「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に差押をすることができるのであるから、検察官等のした差押に関する処分に対して、同法四三〇条の規定により不服の申立を受けた裁判所は、差押の必要性の有無についても審査することができるものと解するのが相当である。
    …差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである場合においては、差押の必要性が認められることが多いであろう。
    しかし、差押物が右のようなものである場合であつても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によつて受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない。
  • 判例の場面は準抗告():準抗告を受けた原裁判所が差押処分を取り消し、検察官が最高裁に抗告した。最高裁は抗告を抗告理由に当たらないとして棄却し、必要性の判示はその理由の括弧書きの中で述べた。述べたのは差押えの必要性。
  • 解説書:裁判官は令状請求の段階でも「正当な理由」の1つとして必要性を審査する。必要性=捜査の必要だけでなく、比例原則に基づき被処分者の不利益と権衡していること。対象が被疑者以外の者なら特に注意が要る。
  • 令状裁判官が発付しないのは明白に必要性がない場合に限られる、というのは解説書の推論(判例が「明らかに」と限定したこと・必要性の判断が流動的で難しいことから)。判例が令状発付の基準として示したものではない。

事件に関係する帳簿でも、写しが十分に取られていて、原本を持ち去ると相手の営業が止まるような場合 → 不利益の程度・証拠価値の要素が「明らかに必要がない」側に動く。

×にされやすい形
  • 「差押物が証拠物と思料される以上、裁判所は差押えの必要性を審査できない」
  • 「判例は、令状を出す裁判官は明らかに必要がないときに限り請求を却下できる、と判示した」(判例は準抗告を受けた裁判所の審査について述べた)
  • 「令状審査での必要性の判断は、比例原則とは関係がない」(解説書は比例原則に基づく権衡と説明する)

2令状の記載事項と「罪名だけ」の理由条文学説

  • :令状には被疑者の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、有効期間、発付の年月日などを書き、裁判官が記名押印する。有効期間は原則7日(刑訴規則300条。相当と認めるときは7日を超える期間も定められる)。
  • 請求書(捜査機関が裁判官に出す・刑訴規則155条1項4号)には「罪名及び犯罪事実の要旨」を書く。犯罪について令状に書くのは罪名だけで、犯罪事実の要旨は記載事項でない(書くことが禁じられているのではない=項目5の実務)。
  • 理由(解説書):捜索・差押えは捜査の初期段階に多く、被疑者以外の者に対して行われることもある → 捜査の秘密と被疑者等の名誉を守るため。ただし常に不要と考えてよいかは議論がある(項目5)。
  • 令状は処分を受ける者に示す(・で準用)。第三者の家を捜索するなら、その第三者に令状が示される。
  • 逮捕状との違いは条文がそう分けている:逮捕状は「被疑事実の要旨」を書く()。憲法も、逮捕の令状には「理由となつてゐる犯罪を明示」を求め()、捜索・押収の令状には場所と物の明示を求める()。
罪名犯罪(被疑)事実の要旨根拠
捜索差押許可状の請求書書く書く刑訴規則155条1項4号
捜索差押許可状書く記載事項でない
逮捕状書く書く

被疑者Bの友人C宅を捜索する令状に「Bが他人の家から指輪を盗んだ」と書けば、令状を示されるCに、捜査の中身とBの容疑が知られる → だから令状には、犯罪については罪名だけを書くことにしてある。

出題捜索差押許可状には、犯罪事実の要旨を記載しなければならない(×)

×にされやすい形
  • 「捜索差押許可状には、犯罪事実の要旨を記載しなければならない」(司法H20-28-ウ)
  • 「逮捕状も捜索差押許可状も、罪名と被疑事実の要旨の両方を記載する」
  • 「請求書も罪名だけを記載すれば足りる」

3罪名の記載の程度(昭33決定①)判例学説

  • 憲法三五条は、捜索、押収については、その令状に、捜索する場所及び押収する物を明示することを要求しているにとどまり、その令状が正当な理由に基いて発せられたことを明示することまでは要求していないものと解すべきである。
    されば、捜索差押許可状に被疑事件の罪名を、適用法条を示して記載することは憲法の要求するところでなく、搜索する場所及び押収する物以外の記載事項はすべて刑訴法の規定するところに委ねられており、刑訴二一九条一項により右許可状に罪名を記載するに当つては、適用法条まで示す必要はないものと解する。
  • 事案の令状の罪名欄は「地方公務員法違反」だけで、適用法条は書かれていなかった → 適法。講義解説はここから、特別法犯は法令名で足りる、とする(決定自体は「適用法条まで示す必要はない」まで)。
  • 適用法条(=罰条)が要らない理由は2段:の要求ではない/の「罪名」も適用法条まで示す必要はない(219条1項の解釈)。
  • 講義解説は、刑法犯なら「殺人罪」「窃盗罪」のような構成要件ごとの一般的な名前で足りる、とする。

「覚醒剤取締法違反」とだけ書き、所持・使用・譲渡のどの条文かを書かない令状でも、罪名の記載として足りる。

出題特別法違反の罪については、被疑事件を特定するため、罪名のほか罰条又は犯罪事実を記載しなければならない(×)

×にされやすい形
  • 「特別法違反の罪は、罪名のほか、罰条又は犯罪事実を記載しなければならない」(司法H23-24-エ)
  • 「令状に罰条を書かないとに反する」

4物の明示と概括的な記載(昭33決定②③)判例

  • そして本件許可状における捜索すべき場所の記載は、憲法三五条の要求する捜索する場所の明示として欠くるところはないと認められ、また、本件許可状に記載された「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」とは、「会議議事録、斗争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモ」と記載された具体的な例示に附加されたものであつて、同許可状に記載された地方公務員法違反被疑事件に関係があり、且つ右例示の物件に準じられるような闘争関係の文書、物件を指すことが明らかであるから、同許可状が物の明示に欠くるところがあるということもできない。
  • 概括的な部分は独立した白紙の指示ではなく、例示に付け加えられたものと読む → 被疑事件との関係と、例示の種類の両方で絞られる。
  • 解説書:「犯罪事実を証すべき物一切」のような記載は極めて包括的で許されない。一方、あまり厳密な特定を求めると捜索・差押えの実施に支障が出る。
  • この決定は記載の明示を判断したもの。令状を持って現場に入り、実際にどこまで持ち去ってよいか(執行の範囲)は判断していない。
概括的な記載の読み方(判例の要件ではない)具体的な例示に附加されたものか例示を並べたあとに続く記載か明示を欠く「犯罪事実を証すべき物一切」型いいえはい例示の物件に準じる物を指すと明らかか令状記載の被疑事件に関係があり、かつ例示に準じる明示を欠く方向いいえはい物の明示に欠けない昭33決定の結論
紫の枠は昭33決定の言葉。決定はこれを2段の要件として並べたのではなく、本件の記載をこう読んで明示に欠けないとした。右上は解説書の例、右下は判例・解説書の言葉ではなく、決定の読み方から引いた整理(例示から何に準じるかが読み取れなければ、明示を欠く方向に動く)。

例示を全部消して「差し押さえるべき物:本件犯罪事実を証明する物一切」とだけ書く → 物の明示を欠く。例示があっても、1つだけで何に準じるかが読み取れなければ、明示を欠く方向に動く(判例・解説書の言葉ではなく、決定の読み方からの整理)。

×にされやすい形
  • 「『本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件』という記載は、例示の有無にかかわらず物の明示を欠く」
  • 「昭33決定が判断したのは、概括的な記載の点だけである」(罰条・場所の記載も判断した)

5令状主義からの限定と実務の手当て学説

  • 一般的な理解(解説書):罰条・被疑事実を必ず書かせると捜査の秘密・名誉を損なうおそれがあり、捜査の初期段階で厳格な特定を求めると証拠の確保が難しい → 概括的な記載もやむをえない。
  • もっとも(令状主義の趣旨から):記載は可能な限り特定すべき。「本件」が何かが令状から分からなければ、目的物と被疑事実との関連性も不明確になる。書かない理由が秘密・名誉への配慮なら、配慮が要らない場合は書いてよいはず。
  • 実務:概括的な記載をするときは、弊害がなければ罰条・被疑事実を記載して「本件」を特定する。例=令状に「請求書記載のとおり」と書き、犯罪事実の要旨の入った請求書を添付する。
  • 解説書の見解:第三者への捜索では書くことの弊害が大きい。被疑者への捜索なら罰条・被疑事実を書いても差し支えない場合が多い。

これは判例の結論への反対説ではない。判例の結論(概括的な記載も明示に欠けない・罰条は要らない)を前提に、令状主義の趣旨からどこまで特定するかの運用の話。

6被疑者以外の者への捜索条文

  • :裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。
  • :被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。
  • がを捜査機関の捜索に準用する。222条1項に読み替えの明文は無く、準用先の「被告人」を捜査段階では「被疑者」と読む。
  • 差の理由(解説書):被疑者本人の場所には押収すべき物の存在を認めるに足りる状況があると推定してよい、という趣旨。推定にすぎないので、審査でそれが破れれば発付すべきでない。被疑者以外の者には推定が働かない → 存在を認めるに足りる状況を積極的に疎明させる。
  • 請求の段階:被疑者以外の者の身体・物・住居等の捜索令状を請求するには、差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供しなければならない(刑訴規則156条3項)。疎明は一応確からしいという心証を持たせる程度で足り、確信までは要らない。
被疑者本人の場所被疑者以外の者の場所
要件必要があるとき押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限る
根拠(で準用)(で準用)
物がある見込みあると推定してよい(破れれば発付すべきでない)推定が働かない
求められる疎明刑訴規則156条3項の資料提供の定めは無い存在を認めるに足りる状況を示す資料の提供(刑訴規則156条3項)

B(被疑者)の友人C宅:CがBから荷物を預かったところを見たという供述など、盗品がC宅に持ち込まれたことをうかがわせる具体的な事情 → 状況が認められやすい方向。「BとCが親しい」というだけ → 足りない。

出題被疑者以外の者の身体・物・住居その他の場所は、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索できる(○)

×にされやすい形
  • 「被疑者以外の者の住居も、必要があるときは捜索できる」(要件を1項の「必要があるとき」にすり替える)
  • 「被疑者本人の住居の捜索にも、被疑者以外の者の場合と同じく、差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況を示す資料の提供が要る」

7集合住宅と各別の令状条文学説

  • :捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
  • 解説書:捜索を受ける場所の管理権ごとに令状が要ると考えられている。理由=捜索は財産的権利・私的領域に侵入されない権利を侵害し、その侵害は管理権ごとに生じる。
  • 集合住宅は部屋ごとに令状が要る。同じ管理権の範囲なら1通の令状で足りる。

アパート301号室の令状で、隣の302号室や下の203号室に「ついでに」入ることはできない → 別の人の管理権だから、別の令状が要る。

×にされやすい形
  • 「同じ建物の中なら、1通の令状で他の部屋も捜索できる」

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