刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#37

捜索・差押え②令状の記載と裁判官の審査

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第2章 捜査 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

罪名だけ書かれた紙

請求書と令状本体で罪名はどちらも窃盗と書かれるのに犯罪事実の要旨は請求書だけに書かれ令状本体には書かれていないことを並べて示す導入板

請求書には、たしかに犯罪事実の要旨まで書きます。手抜きではありません。今日は、令状を取りに行く側ではなく、審査する側、裁判官の視点から見ます。裁判官が何を確かめ、令状に何を書かせるのか。そこが分かれば、このねじれは手抜きではなく、紙の役割の違いだと分かります。

「正当な理由」を審査する条文

憲法35条1項の正当な理由の中の必要性と2項の各別の令状という今日使う2つの言葉を取り出して意味を添える板

もう一度、この条文を見てください。

条文日本国憲法第35条

日本国憲法第35条 1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

今日使うのは、この2つの言葉です。1つ目、1項の「正当な理由」。この中の4つ目の要素、必要性を掘り下げます。2つ目、2項の「各別の令状」。これは、後半、集合住宅の話で使います。捜査機関の自己判断だけに委ねない、という話でしたね。

必要性の審査——何を見て判断するか

犯罪の態様軽重証拠価値隠滅のおそれ被差押者の不利益という4つの考慮要素を諸般の事情としてまとめ明らかに必要性がないと認められるときにまで差押えを是認しなければならない理由はないという歯止めを示す一覧板

論文で書く規範:捜索・差押えの必要性の判断 捜索・差押えの必要性は、犯罪の態様・軽重、差押物の証拠としての価値・重要性、差押物が隠滅・毀損されるおそれの有無、差押えによって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情を考慮して判断する。これらの事情に照らし、明らかに必要性がないと認められるときにまで、差押えを是認しなければならない理由はない。 (最高裁の必要性審査に関する決定)

考慮要素は1つではありません。犯罪の重さ、証拠としての価値、隠滅されるおそれ、そして相手が受ける不利益。これらを総合的に見ます。だからこそ、最後にもう一つ歯止めが付きます。裁判官が令状を出すべきでないのは、「明らかに必要性がない」と認められるときだけです。この基準は、もともと、差押えを受けた側が不服を申し立てたとき、裁判所が必要性まで審査できるか、という場面で示されました。最高裁は、必要性も審査できるとしたうえで、これらの事情に照らして明らかに必要がないといえるときにまで、差押えを認めなければならない理由はない、と言いました。必要性を積極的に証明させる審査ではなく、明らかに不要なものを止める審査だ、と押さえてください。前回から続いている事件です。他人の家から指輪を盗んだ疑いがかかっているのが、Bです。Bの家を例に考えます。盗んだ指輪をもうすぐネットのオークションに出品する、という具体的な兆候があれば、隠滅のおそれが高く、必要性ははっきり認められます。

一見、急いで捜索する必要は薄く見えます。それでも、共犯者が別にいて証拠を隠すおそれが残っている、といった事情があれば、「明らかに不要」とまでは言えません。この場合、なお発付されることになります。任意捜査の比例原則と名前は似ていますが、別物です。任意捜査の比例原則は、令状の要らない捜査をどこまで許すかの話。こちらは、令状という強制処分を発付するかどうかの話です。どちらも「必要性と不利益の釣り合い」を見る点は共通しますが、段が違います。

なぜ令状には罪名しか書かないのか——請求書とのねじれ

前編の請求書にあった罪名及び犯罪事実の要旨の欄と令状本体219条1項の罪名だけの欄を並べ犯罪事実の要旨の欄が消えることを示す対比板

ここで、冒頭の疑問に戻ります。前回の請求書には、罪名と、犯罪事実の要旨、両方がありました。

条文刑事訴訟法第219条第1項

刑事訴訟法第219条第1項 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名差し押さえるべき物捜索すべき場所、身体若しくは物、提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、捜索若しくは検証に着手し、又は電磁的記録提供命令をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

もう一度見てください。ここに、「犯罪事実の要旨」という言葉はありません。令状本体に書かれるのは、罪名だけです。理由は2つあります。1つ目。捜索は捜査のかなり早い段階、まだ事件の全体像が固まっていない時期に行われることが多く、その場に被疑者以外の人が居合わせることもあります。そこで犯罪事実の細かい経緯まで書いてしまうと、捜査の秘密や、被疑者や関係者の名誉が、現場で見た人に漏れてしまいます。かかりつけ医が専門医に送る紹介状には、病歴の詳しい経過まで書きます。でも、診察室の前の受付表示には、「何科・受診中」としか出ません。廊下を通りかかる人にまで病名を見せる必要はないからです。請求書が紹介状、令状本体が受付表示、と考えてください。

2つ目は、逮捕状との対比です。前に見た逮捕状には、被疑事実の要旨を書かせます。逮捕は、人の身柄を拘束する、特に重い処分だからです。捜索・差押えは、身柄を拘束せず、対象が被疑者本人とは限りません。求められる記載の重さが、そもそも違います。そうとも言い切れません。対象が被疑者本人で、秘密が漏れる弊害が小さいときは、もう少し詳しく書いた方が望ましい場面もあります。ここまでが、冒頭の疑問への答えです。罪名しか書かないのは手抜きではなく、裁判官に判断してもらう紙と、現場で示す紙とで、役割が違うからです。この点は、次の論点でもう一度出てきます。

「差し押さえるべき物」はどこまで書けば足りるか

腕時計型番と現金額を絞って書いたA案と腕時計現金その他本件に関係ありと思料される一切の物品と書いたB案を並べる比較板

罪名の次は、「差し押さえるべき物」の書き方です。さきほど見た憲法35条1項は、令状に「明示」を求めていました。ですから、押収する物ははっきり書かれていなければなりません。あまり厳密に特定しろと言われると、現場が動けなくなります。そこで、どこまで特定すれば足りるかが、問題になります。Bの家に対する令状で、2つの書き方を比べます。A案は、「腕時計、型番◯◯、現金◯◯円」と、品目を絞った書き方です。B案は、「腕時計、現金、その他本件に関係ありと思料される一切の物品」と、具体例のあとに概括的な言葉を続ける書き方です。

B案のような書き方がどこまで許されるか。ここで、最高裁の考え方を見ます。

概括的な記載——最高裁はどう読んだか

ある団体の事務所を捜索した事件で罪名欄に地方公務員法違反とだけ記載され適用法条は記載されず差し押さえるべき物欄に会議議事録闘争日誌指令通達類連絡文書報告書メモと本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件と記載されていた令状を示す事案板

ある団体の事務所が捜索された事件があります。令状の罪名欄には、地方公務員法違反、とだけ書かれていて、適用する条文は書かれていませんでした。差し押さえるべき物欄には、「会議議事録、闘争日誌、指令、通達類、連絡文書、報告書、メモ」と並べたうえで、「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」と書かれていました。この書き方が、対象の明示に欠けるのではないか、が争われました。

論文で書く規範:「差し押さえるべき物」の特定の程度 概括的な記載が「差し押さえるべき物」を明示したといえるかは、記載全体を見て、その文言が具体的な例示に付加されたものにすぎず、被疑事件に関係があり、かつ例示の物件に準じられるものを指すことが明らかであるかによって判断する。罪名に適用法条まで示すことや、令状が正当な理由に基づくことの明示までは、憲法上要求されない。 (最高裁大法廷決定)

最高裁は、この書き方を適法と判断しました。「本件に関係ありと思料せられる一切の文書及び物件」という概括的な部分は、独立した白紙の指示ではなく、直前に並んだ会議議事録や闘争日誌といった具体的な例示に付け加えられたものだ、と読んだのです。例示に準じる物に限られると読めば、対象は事実上絞られている、というのが最高裁の理屈です。あわせて、この決定は、令状に罰条まで書くことは憲法上要求されない、とも言っています。場所や物の記載以外の事項は、刑訴法の規定に委ねられている、という理由です。判断したのは、具体的な例示が並んだうえでの概括的な記載が、明示に欠けないか、という点だけです。その令状を持って現場に入り、実際にどこまで持ち去ってよいのか。執行の場面は、この決定は判断していません。

この読み方への批判、そして当てはめ

本件という言葉が何を指すか不明確なままでは関連性も不明確になるという批判と被疑者本人への令状なら罰条や被疑事実まで書いた方が望ましいという指摘を示す板

この読み方に、反対する意見はないんですか。あります。「本件」という言葉が何を指すか、令状の文面だけからははっきりしません。そうすると、差し押さえる物と被疑事実との関連性も、結局不明確なままだ、という批判です。令状主義は、捜査機関の権限の逸脱や濫用を防ぐための制度です。この趣旨からは、記載はできる限り具体的にすべきだ、という考え方が出てきます。秘密や名誉の弊害が小さい場面、例えば対象が被疑者本人だけのときは、罰条や被疑事実を具体的に書いた方が望ましい、とも言われます。B案に当てはめると、「腕時計、現金、その他本件に関係ありと思料される一切の物品」は、腕時計と現金という具体的な例示に付加されたものと読めば、宝石類など、それに準じる物に限られると解釈でき、直ちに違法とはなりません。

付加する相手の例示が無ければ、この概括的な言葉は、何にでも及ぶ、白紙の指示になってしまいます。その場合は、明示に欠けると判断されることになります。

罪名の記載の程度——罰条まで書くか

刑法犯は殺人罪窃盗罪という構成要件ごとの一般名で足り特別法犯は条文番号ではなく法令名の記載で足りると示す板

今見たとおり、令状に罰条まで書くことは、憲法上要求されません。理由は二つです。一つは、憲法が令状に求めているのが、捜索する場所と押収する物の明示であって、罰条の記載ではないこと。もう一つは、刑事訴訟法の側にも、令状に罰条を書けと定めた条文が一つもないことです。たとえば刑法犯なら、「殺人罪」「窃盗罪」のように、構成要件ごとの一般的な名前で足ります。覚醒剤取締法違反のような特別法犯なら、何条何項という条文番号ではなく、法令の名前を書けば足ります。罪名は、令状がどの事件の権限に基づくかを示す最小限の表示です。細かい条文番号までは、令状本体の役割ではありません。

もう一度、思い出してください

被疑者本人の家に目的物がある見込みは自然に認められるが被疑者以外の人の家ではどうかを問いかける板

ここで前回を思い出してほしいのですが、「正当な理由」の2つ目の要素、目的物がその場所にある見込み、というのがありましたね?Bの家を捜索するなら、盗んだ指輪がそこにある見込みは、当然高いと考えていいんでした。では、Bの家ではなく、Bの友人Cの家だったら、同じように考えていいでしょうか。なんとなく違うと感じたなら、その感覚が正しいです。次の論点は、そこを掘り下げます。

被疑者以外の者への捜索——推定が働かない

222条1項が102条を準用し被告人を被疑者に読み替える構造を示したうえで被疑者本人には必要があるときで足り被疑者以外の者には押収すべき物の存在を認めるに足りる状況が要ると対比する板

捜索・差押えの条文、222条1項は、裁判所が行う捜索・差押えを定めた99条や102条などを準用していて、そこで「被告人」を「被疑者」に読み替えます。その102条を見てください。

条文刑事訴訟法第102条

刑事訴訟法第102条 1項 裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。 2項 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。

「被告人」を「被疑者」に読み替えて読んでください。1項、被疑者本人の身体・物・住居には、「必要があるとき」で足ります。2項、被疑者以外の者の身体・物・住居には、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」がある場合に限られます。なぜこんな差があるのか。被疑者本人の場所なら、押収すべき物がそこにあるだろう、という推定が事実上働きます。ただし、これは推定にすぎないので、裁判官の審査でこの推定が崩れれば、発付すべきではありません。これに対して、被疑者以外の人は、そもそも被疑事実と直接の関わりがないかもしれません。推定は働かないので、「存在を認めるに足りる状況」という積極的な疎明が必要になります。

前回確認したとおり、一応確からしい、という心証を持たせる程度で足ります。確信までは要りません。本人のカルテなら、病歴が書いてあって当然です。でも、たまたま付き添っていた人のカバンの中を調べるのに、「関係する物が入っているだろう」とは言えません。具体的な手がかりが要ります。Cが、Bから荷物を預かったところを見た、という供述のような、盗品がC宅に持ち込まれたことをうかがわせる具体的な事情が必要です。単に「BとCが親しい」というだけでは、足りません。推定が働かない分、より具体的な材料が求められます。

集合住宅——管理権ごとに各別の令状

3階建てアパートの301号室の令状の効力が302号室や203号室には及ばず各部屋の管理権ごとに別の令状が要ると示す板

もう一つ、対象の範囲が問題になる場面があります。Bの家が、3階建てのアパートの301号室だったとします。同じアパートなら、302号室や203号室も、ついでに見ていいんですか。いけません。さきほどの憲法35条2項、「各別の令状」を思い出してください。捜索を受ける場所の管理権ごとに、別の令状が必要だと解されています。捜索は、その場所を管理する人の、財産的な権利や私的な領域に踏み込まれない権利を侵害します。この権利侵害は、管理権を持つ人ごとに発生します。301号室の令状は、301号室の管理権にしか及びません。302号室や203号室は、別の人が管理している以上、別の令状が必要です。

同じ管理権の範囲にある物には、1通の令状の効力が及びます。今日は、「管理権ごとに各別の令状」という原則だけ、押さえてください。

今日のまとめ・次回への橋

必要性の審査罪名のみ記載差し押さえるべき物の特定被疑者以外の者集合住宅という今日渡した5点を1本にまとめ次回は執行の範囲に進むと示す板

今日の内容を振り返ります。1つ目。「正当な理由」の4つ目、必要性は、犯罪の態様・軽重、証拠価値、隠滅のおそれ、被差押者の不利益、これらの諸般の事情から判断されます。明らかに不要と言えない限り、発付されます。2つ目。令状本体には罪名しか書かれません。犯罪事実の要旨は、裁判官向けの請求書だけの記載です。3つ目。「差し押さえるべき物」の概括的な記載は、具体的な例示に付加されたものと読めれば明示に欠けません。例示がなければ、白紙の指示になってしまいます。罰条まで書く必要はありません。4つ目。被疑者本人の場所には「必要があるとき」で足りますが、被疑者以外の者の場所には「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」が必要です。

5つ目。集合住宅は、管理権ごとに各別の令状が必要です。

参照条文

  • 日本国憲法第35条
  • 刑事訴訟法第219条第1項
  • 刑事訴訟法第102条

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