刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#52

合意制度と刑事免責

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第2章 捜査 ㉗/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

組織の末端は捕まっても、上に届かない

組織的な犯罪では上位者の関与を裏づける供述が要るのに供述を得る手段は取調べしか無かったという今日の問いを示す導入板

鑑定嘱託、公務所等への照会、期日前の証人尋問。どれも、物や情報を集める話でした。今日は、組織的な犯罪の話です。例えば、会社ぐるみの不正で、末端の実行役は逮捕できても、指示した上の人物にはたどり着けない。上位者の関与を裏づける証拠は、たいてい、組織の内部の誰かの供述しかありません。ただ、話してもらうための道具は、これまで取調べしかありませんでした。出頭も供述も、最終的には本人の自由です。では、話すと自分が損をする立場の人は、どうしますか。黙りますよね。話す理由が無いんですから。取調べ頼みの捜査には、ここに限界があります。平成28年の改正は、この限界に手を打つ改正の1つでした。

同じ改正で、取調べの録音・録画や、被疑者国選弁護の対象拡大も導入されました。取調べに頼りすぎない捜査へ、という大きな流れの一部です。今日は、その流れの中で生まれた、供述を引き出す2つの新しい仕組みを見ていきます。

供述を得るための2つの新しい仕組みとして合意制度と刑事免責の位置づけを示す板 図:供述を得るための2つの新しい仕組みとして合意制度と刑事免責の位置づけを示す板

1つ目は、被疑者・被告人本人と検察官との交渉。協議・合意制度と呼びます。2つ目は、証人に対して裁判所が一方的に与える、刑事免責です。ただ、相手が誰で、何を恐れているかが違います。そこを軸に、順番に見ていきましょう。

合意制度の全体像——検察官との交渉

一定の財政経済犯罪薬物銃器犯罪について被疑者被告人が他人の刑事事件の解明に協力すれば検察官が処分を軽くする合意制度の定義を示す板

まず、合意制度の全体像です。一定の財政経済犯罪や薬物銃器犯罪で、被疑者・被告人が、共犯者など他人の刑事事件の解明に役立つ真実の供述などの協力をする。その見返りに、検察官が、不起訴にしたり、軽い求刑をしたりする。この合意を、350条の2以下が定めています。そう呼ばれることもあります。ただ、海外の司法取引と同じだと思うと、誤解します。大事な点なので、次の節でじっくり見ていきます。先に、具体例でイメージをつかみましょう。

検査データ偽装を指示した工場長Aと社内メールを保存していた経理担当社員Bという独自の具体例を示す板

ある建設資材のメーカーで、検査データの偽装が長年行われていた、とします。偽装を主導したのは、工場長のAです。ただ、Aの指示を裏づける社内メールを保存していたのは、経理担当の社員Bだけでした。もし、Bが別の横領罪で立件されうる被疑者だったら、どうなるか。この場面を、手続に沿って追いかけていきます。

合意の中身と手続——誰が、何をして、何を得るか

合意の主体は検察官と被疑者被告人で弁護人の同意が必須という350条の2第1項柱書と350条の3第1項の関係を示す板

合意の主体は、検察官と、被疑者・被告人。条文で確かめましょう。

条文刑事訴訟法第350条の2第1項柱書

刑事訴訟法第350条の2第1項柱書 検察官は、特定犯罪に係る事件の被疑者又は被告人が特定犯罪に係る他人の刑事事件(以下単に「他人の刑事事件」という。)について一又は二以上の第一号に掲げる行為をすることにより得られる証拠の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状、当該関係する犯罪の関連性の程度その他の事情を考慮して、必要と認めるときは、被疑者又は被告人との間で、被疑者又は被告人が当該他人の刑事事件について一又は二以上の同号に掲げる行為をし、かつ、検察官が被疑者又は被告人の当該事件について一又は二以上の第二号に掲げる行為をすることを内容とする合意をすることができる。

長い条文ですが、骨組みは、被疑者・被告人が第1号の行為をし、検察官が第2号の行為をする、という約束です。第1号を見てみましょう。

条文刑事訴訟法第350条の2第1項第1号

刑事訴訟法第350条の2第1項第1号 一 次に掲げる行為  イ 第百九十八条第一項又は第二百二十三条第一項の規定による検察官、検察事務官又は司法警察職員の取調べに際して真実の供述をすること。  ロ 証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること。  ハ 検察官、検察事務官又は司法警察職員による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすること(イ及びロに掲げるものを除く。)。

被疑者・被告人がする行為は、3つです。他人の刑事事件の取調べで真実を話すこと。証人として尋問を受けるときに真実を話すこと。そして、証拠の提出などで協力すること。ここで気づいてほしい点があります。350条の2は、どこにも、「自分の罪を認めれば」とは書いていません。これが、さっき触れた誤解を解くポイントです。合意制度は、Bが自分の横領罪を認めれば得をする制度ではありません。BがAの事件の解明に協力するから、その見返りとしてBの処分が軽くなる、という順序です。前者を自己負罪型、後者を捜査・公判協力型と呼びます。日本の合意制度は、捜査・公判協力型だけを採っています。

自分の罪を認めるだけで得をするなら、上位者の検挙に資さないまま、とにかく認めて得をする、という事態を招きかねません。それでは、真相解明がかえって遠のきます。主体の話に戻ります。合意には、弁護人の同意が必要です。

条文刑事訴訟法第350条の3

刑事訴訟法第350条の3 第1項 前条第一項の合意をするには、弁護人の同意がなければならない。 第2項 前条第一項の合意は、検察官、被疑者又は被告人及び弁護人が連署した書面により、その内容を明らかにしてするものとする。

被疑者・被告人が単独で検察官と向き合うと、力の差が大きすぎます。有利な処分を目の前にして、冷静な判断が難しくなる場面です。弁護人が内容をチェックして、本当に応じるべきかを一緒に判断します。この理由は、後で見る巻き込みの危険の歯止めにもつながります。合意は口約束では済まず、検察官・被疑者または被告人・弁護人の3者が連署した書面で内容を明らかにします。

検察官の見返りは不起訴訴因罰条の特定求刑意見即決裁判略式命令請求で対象犯罪は財政経済犯罪や薬物銃器犯罪に限られ死刑無期拘禁刑に当たる罪は除外されることを示す板

検察官の見返りも見ましょう。不起訴にすること、前に見た訴因——「何をしたか」を書く部分——や、罰条——当てはめる処罰規定——を約束どおりに決めて起訴・維持すること、求刑で特定の刑を求める意見を述べること、争いの無い軽い事件をできる限りその日のうちに終える、即決裁判手続を申し立てること、書面だけで罰金を言い渡す、略式命令を請求すること。こうした処分の軽減が主な中身です。どんな犯罪でも合意できるんですか。違います。対象は、一定の財政経済犯罪と、薬物銃器犯罪に限られます。条文は、これを「特定犯罪」と呼んでいます。死刑または無期拘禁刑に当たる罪は、除外されます。

処分の軽減で動機づけるには、重すぎる罪だと釣り合いません。取引の対象になじむ範囲に、あらかじめ線を引いています。なお、こうした犯罪に絡む証拠隠滅や証人への威迫の罪も、対象犯罪に含まれます。

協議から合意まで——弁護人が関わる手続

合意に至る前の協議は検察官と被疑者被告人と弁護人の三者で行うのが原則という350条の4を示す板

合意に至る前に、協議という手続があります。

条文刑事訴訟法第350条の4

刑事訴訟法第350条の4 第三百五十条の二第一項の合意をするため必要な協議は、検察官と被疑者又は被告人及び弁護人との間で行うものとする。ただし、被疑者又は被告人及び弁護人に異議がないときは、協議の一部を弁護人のみとの間で行うことができる。

原則は、検察官・被疑者または被告人・弁護人の3者です。検察官と本人だけで話すことは、できません。ここが、さっきの弁護人の同意の要件とつながります。3者そろって協議するのが原則で、異議が無ければ、弁護人だけとの協議に限って一部を任せられます。協議の中では、検察官が他人の刑事事件について供述を求めます。供述拒否権の告知を受ける点は取調べと同じですが、弁護人が同席する点が違います。証拠にはできません。合意というゴールに至らなかった協議は、無かったことに近い扱いを受けます。

協議合意合意内容書面への連署被疑者被告人の協力行為と検察官の処分軽減違反時の離脱という手続の流れを示す板

ここまでの流れを、1枚にまとめます。最後に、履行と違反の場面も押さえます。検察官が合意に違反したときは、協議での供述や、それに基づく証拠を、証拠として使えません。

条文刑事訴訟法第350条の14第1項

刑事訴訟法第350条の14第1項 検察官が第三百五十条の二第一項の合意に違反したときは、被告人が第三百五十条の四の協議においてした供述及び当該合意に基づいてした被告人の行為により得られた証拠は、これらを証拠とすることができない。

合意のどちらかが違反したときは、相手方は合意から離脱できます。離脱書面という手続で行います。

最大の危険——巻き込みの危険と、3つの歯止め

被疑者被告人が自分に有利な扱いを得るために無関係の第三者を虚偽の供述で巻き込むおそれという合意制度の急所を示す板

ここまでの手続を前提に、合意制度の最大の危険を考えます。被疑者・被告人は、自分の処分を軽くしたいと強く望んでいます。合意制度で一番怖いのは、検察官の側が約束を破ることではありません。被疑者・被告人の側が起こす問題です。何だと思いますか?もっと踏み込むと、無関係の第三者を、虚偽の供述で巻き込むおそれです。これを、巻き込みの危険と呼びます。処分を軽くしてほしいという動機が強いほど、この危険も大きくなります。だから、合意制度には、3つの歯止めが組み込まれています。

弁護人の同意関与虚偽供述等の処罰と自白減免合意内容書面の証拠調べ義務という巻き込みの危険に対する3つの歯止めを示す板

1つ目の歯止めは、もう出てきています。弁護人の同意と、協議への同席です。2つ目は、虚偽供述への処罰です。

条文刑事訴訟法第350条の15

刑事訴訟法第350条の15 第1項 第三百五十条の二第一項の合意に違反して、検察官、検察事務官又は司法警察職員に対し、虚偽の供述をし又は偽造若しくは変造の証拠を提出した者は、五年以下の拘禁刑に処する。 第2項 前項の罪を犯した者が、当該合意に係る他人の刑事事件の裁判が確定する前であつて、かつ、当該合意に係る自己の刑事事件の裁判が確定する前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。

巻き込みの危険の重大さに見合った重さです。一度嘘をついても、裁判が確定する前に自分から認めれば、刑を軽くしたり免除したりできる、という規定です。真実を述べる方向に動機づけています。3つ目は、公判手続の特例です。検察官は、合意した本人の公判でも、その供述が使われる他人の公判でも、合意内容書面の取調べを請求する義務を負います。出さないでおく、という選択はできません。なぜだと思いますか。合意の存在と中身が分かって初めて、その供述に見返りという動機が絡んでいることを踏まえて、反対尋問し、裁判所も信用性を慎重に吟味できます。弁護人の関与、虚偽供述への処罰、合意内容書面の開示義務。この3つが、巻き込みの危険に対する歯止めです。

合意制度の理論的根拠——訴追裁量の中で考える

合意制度は罪の処罰を取引で免れさせる制度ではなく協力行為を犯罪後の情況として訴追裁量の範囲で考慮する制度だという理論的根拠を示す板

罪を犯した人の処罰を、取引で免れさせる制度だと考えると、違和感が残ります。合意制度の理論的根拠は、そこにはありません。

条文刑事訴訟法第248条

刑事訴訟法第248条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

検察官には、犯罪の軽重や情状などを考慮して、起訴するかどうかを決める裁量が認められています。248条は、「犯罪後の情況」も考慮要素に挙げています。BがAの事件の解明に協力した、という事情を、検察官が自分の訴追裁量の範囲内で有利に考慮しているだけなんです。だから、罪を犯した人の処罰そのものを取引で免れさせる制度、ではありません。

刑事免責——証人に、裁判所が一方的に与える

供述する人が起訴の対象ではない証人だったらどうするかという今日後半の問いを示す板 図:供述する人が起訴の対象ではない証人だったらどうするかという今日後半の問いを示す板

ここまでは、被疑者・被告人本人の話でした。では、供述する人が、起訴の対象ではない証人だったらどうなるでしょうか。前回、証人が出頭や供述を拒んだときに使える期日前の証人尋問を見ましたね。あれは、証人に「来てもらう・話してもらう」ための制度でした。では、証人が来て話したくても、「自分が処罰されるのが怖くて話せない」というときは、前回の尋問のままで、話してもらえるでしょうか?

何人も自己が刑事訴追を受けまたは有罪判決を受けるおそれのある証言を拒めるという146条の証言拒絶権を示す板

条文刑事訴訟法第146条

刑事訴訟法第146条 何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。

証言拒絶権、というのがあった気がします。この146条が効いてくると、証人は、自分の別の罪に触れる証言を、正当に拒めます。想定してみましょう。Bは起訴の対象ではないけれど、証言すると、「偽装を知りながら黙認していた」という、自分の別の責任が明るみに出ると恐れて、証言を拒んでいます。ここで、合意制度は使えません。Bは起訴される立場ではないので、「処分を軽くする」という見返りがそもそも存在しません。交渉の材料が無いんです。ここで使うのが、刑事免責です。

検察官が請求し裁判所が決定して証人に免責を与え証言拒絶権を失わせて証言を義務づける刑事免責の定義を示す板

裁判所が、検察官の請求に基づいて、証人に一方的な免責を与えます。そのうえで、146条の証言拒絶権を失わせて、証言を義務づける。これが、157条の2・157条の3が定める、刑事免責です。Bの罪そのものは消えません。免除されるのは、刑罰そのものではなく、「その証言やそこから得られた証拠を、Bに不利益な証拠として使うこと」だけです。条文で確かめましょう。

条文刑事訴訟法第157条の2第1項

刑事訴訟法第157条の2第1項 第1項 検察官は、証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項についての尋問を予定している場合であつて、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮し、必要と認めるときは、あらかじめ、裁判所に対し、当該証人尋問を次に掲げる条件により行うことを請求することができる。 一 尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、証人が当該証人尋問においてした行為が第百六十一条又は刑法第百六十九条の罪に当たる場合に当該行為に係るこれらの罪に係る事件において用いるときを除き、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができないこと。 二 第百四十六条の規定にかかわらず、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒むことができないこと。

請求できるのは検察官です。免責の中身は2つ。1つは、証言とそこから得られた証拠を、証人自身の刑事事件で不利益な証拠にしないこと。もう1つは、146条にかかわらず、証言拒絶権を行使できなくなることです。

条文刑事訴訟法第157条の2第2項

刑事訴訟法第157条の2第2項 第2項 裁判所は、前項の請求を受けたときは、その証人に尋問すべき事項に証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれないと明らかに認められる場合を除き、当該証人尋問を同項各号に掲げる条件により行う旨の決定をするものとする。

この条件で尋問するかどうかを決めるのは、裁判所です。尋問を予定している段階、つまり尋問前の請求です。

条文刑事訴訟法第157条の3

刑事訴訟法第157条の3 検察官は、証人が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのある事項について証言を拒んだと認める場合であつて、当該事項についての証言の重要性、関係する犯罪の軽重及び情状その他の事情を考慮し、必要と認めるときは、裁判所に対し、それ以後の当該証人尋問を前条第一項各号に掲げる条件により行うことを請求することができる。

そのための規定が、157条の3です。証人が実際に証言を拒んだ後、それ以降の尋問について、同じ条件での請求ができます。もう1つ、大事な違いがあります。対象犯罪の限定です。刑事免責には、そうした対象犯罪の限定がありません。合意制度は検察官の処分を動かす取引なので、対象を絞る必要があります。刑事免責は、証人の罪を軽くする制度ではありません。その証言と派生する証拠を証人に不利益に使わないだけで、別の証拠があれば処罰できます。処罰を取引するわけではないので、罪の種類で線を引く必要が無いんです。

尋問前の請求157条の2と尋問後に拒んだ場合の請求157条の3裁判所の決定証人の証言義務供述と派生証拠の不利益証拠化禁止という刑事免責の流れを示す板

流れを1枚にまとめます。同じBでも、自分の処分を恐れる被疑者なら、検察官との交渉。別の罪の発覚を恐れる証人なら、裁判所の免責。相手が誰で、何を恐れているかで、道具が分かれます。

明文の無い刑事免責は認められなかった

アメリカ在住の証人にアメリカの裁判所で嘱託尋問を行うにあたり明文の無い刑事免責で証拠能力が認められるかが争われたロッキード事件を示す板

この157条の2と157条の3は、もともとあった規定ですか。違います。平成28年改正で新しくできた規定です。それより前に、明文の無い刑事免責が使えるかが争われた事件がありました。アメリカに住む証人に、アメリカの裁判所で尋問を嘱託するにあたって、検事総長が不起訴にする旨を宣言し、最高裁もその約束が守られる旨を宣言したうえで、証言を得ました。

判例最大判平7・2・22刑集49巻2号1頁(ロッキード事件丸紅ルート)

明文なき刑事免責と嘱託証人尋問調書の証拠能力 最高裁は、①刑事免責のような制度を採用するかどうかは、必要とする事情の有無、公正な刑事手続の観点からの当否、国民の法感情との適合性などを慎重に考慮して決めるべきであり、②採用するのであれば、対象範囲・手続要件・効果等を明文で規定すべきだとした。③そのうえで、明文規定を欠く以上、この嘱託尋問調書の証拠能力は認められないとした。

明文が無いやり方でも、証言は得られました。ですが、最高裁は、その尋問調書を証拠として認めませんでした。免責のような強い制度を採用するなら、対象や手続、効果を、きちんと法律で定めるべきだ、というのが理由です。なぜ、法律が要るのか。免責は、本来なら処罰の材料になる証言を、その人に対しては使わせない、重い例外です。誰に、どこまで認めるかは、国民の感覚とも関わるので、国民の代表である国会が決めるべきだ、という考え方です。明文が無いまま実質的に免責を与えた結果、得られた証拠の使い道が閉ざされました。この判断を受けて、平成28年改正が、刑事免責の要件と効果を明文化したんです。

裏返すと、最高裁は、刑事免責そのものを許されないと言ったのではありません。否定したのは、法律の根拠が無いまま使うことです。最後に、もう1つだけ確認します。前回見た、期日前の証人尋問にも、刑事免責は及びます。

条文刑事訴訟法第228条第1項

刑事訴訟法第228条第1項 前二条の請求を受けた裁判官は、証人の尋問に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。

この228条1項で、期日前の証人尋問を受け持つ裁判官は、通常の裁判所・裁判長と同じ権限を持ちます。だから、起訴前の期日前証人尋問の場面でも、刑事免責を使えます。

2つの制度の対比とまとめ

合意制度は検察官と被疑者被告人本人との交渉で対象犯罪は特定犯罪に限られ刑事免責は裁判所が証人に一方的に付与し対象犯罪の限定が無いという2制度の対比を示す板

今日見た2つの制度を、並べてみましょう。一方、刑事免責は、裁判所が証人に一方的に与えるもの。交渉の要素は無く、対象犯罪の限定もありません。どちらも、「話すと自分が損をする」状況を取り除いて、話してもらう制度、という点は共通ですね。そして、どちらも、取調べに頼りすぎない捜査へ、という平成28年改正の流れの中で生まれました。

合意制度と刑事免責の要点として主体対象犯罪履行の担保理論的根拠を1枚にまとめた保存版の板

今日の内容を振り返ります。合意制度は、被疑者・被告人が他人の刑事事件の解明に協力する見返りに、検察官が処分を軽くする制度でした。弁護人の同意が必須で、巻き込みの危険には、弁護人の関与、虚偽供述への処罰、合意内容書面の開示義務という3つの歯止めがあります。理論的根拠は、協力行為を「犯罪後の情況」として訴追裁量の範囲で考慮することでした。刑事免責は、証人に対して、裁判所が一方的に免責を与え、証言拒絶権を失わせる制度でした。明文の無い刑事免責を否定した判例を受けて、平成28年改正で明文化されています。

相手が自分の処分を恐れる当事者なら交渉、相手が別の罪の発覚を恐れる証人なら免責。この見分け方を、覚えておいてください。

参照条文

  • 刑事訴訟法第350条の2第1項柱書
  • 刑事訴訟法第350条の2第1項第1号
  • 刑事訴訟法第350条の3
  • 刑事訴訟法第350条の4
  • 刑事訴訟法第350条の14第1項
  • 刑事訴訟法第350条の15
  • 刑事訴訟法第248条
  • 刑事訴訟法第146条
  • 刑事訴訟法第157条の2第1項
  • 刑事訴訟法第157条の2第2項
  • 刑事訴訟法第157条の3
  • 刑事訴訟法第228条第1項

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