刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#15

任意同行と実質的逮捕/承諾による捜索

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骨格言葉と結論がずれる2つの場面は、強制処分の2段のどこで決まるか

  • 1 地図:強制処分か=①重要な権利・利益への実質的な侵害・制約(類型的=捜査の必要性を持ち込まない)→ ②自由な意思決定に基づく同意・承諾(個別具体的)。前半=①を人身の自由に当てはめる/後半=②と、その限界。
  • 2 足場:任意同行=198条1項本文の出頭要求。逮捕・勾留されていなければ、出頭を拒み、いつでも退去できる(但書)。この自由が事実として消えれば実質的逮捕。
  • 3 物差し(解説書の整理):6つの客観的事情(①時間・場所 ②方法・態様 ③取調べ時間・監視 ④逮捕の準備 ⑤拒否・退去希望 ⑥属性)を総合し、一般人の立場から見て、本人が抵抗なく応じていたと認められる状況か。捜査の必要性(事件の重さ・嫌疑)で結論を動かさない(⑤の説得の限界だけは事案の重大性に応じる)。
  • 4 富山地決:「帰りたい」の申出が無くても、監視つきで深夜に及ぶ取調べ → 少なくとも夕食時の午後7時以降は実質的逮捕。
  • 5 効果:時間制限の起算点が前倒し。富山地決は制限時間内でも「それ自体重大な瑕疵」として勾留請求の却下を支持。緊急逮捕の要件を事実上そなえ制限時間も守っていれば重大な違法ではない、とするのが裁判例の大勢ともいわれる(解説書)。
  • 6 承諾の3段:承諾留置=許されないと考えられている/承諾家宅捜索=同意が本物でも実施すべきでない(解説書・犯罪捜査規範108条)/自動車・所持品=任意の承諾があれば可。
  • 7 車の中を調べた事件:説得に応じず、「取りあえず調べるぞ」と告げられて4人が調べる間、黙って眺めていた → 任意の承諾は無いとした原判断を是認・違法。承諾があれば適法、が前提(解説書の読み)。
  • 8 答案の型:前半=6事情で実質的逮捕かを決めてから相当性へ/後半=対象を分け、自動車・所持品なら承諾の任意性を見る。

⚠ 該当性は全部が類型的ではない(同意・承諾の段は個別具体的)/「時間内でも却下」は富山地決の判断で一般則ではない/住居は承諾の質では救えない(解説書の立場)/車の事件は「黙っていたら承諾ではない」という一般則ではない

地図:強制処分かを2段で問う

強制処分かは、①実質的な侵害・制約(類型的)→ ②同意・承諾(個別具体的)の2段で問います。前半は①を任意同行に、後半は②とその限界を扱います。

段問うこと判断方法この回の場面
①重要な権利・利益への実質的な侵害・制約があるか類型的:法定の強制処分(逮捕・捜索など)と同視しうる性質か。捜査の必要性・事件の重さは持ち込まない前半:任意同行が実質的逮捕か(人身の自由)
②自由な意思決定に基づく同意・承諾があるか個別具体的:その場の言動・状況から後半:承諾による捜索(私的領域)。ただし承諾留置・承諾家宅捜索に注意
その後任意処分として相当か(比例原則)個別具体的:必要性も乗せる―
  • なぜ問うか:強制の処分は、刑訴法に特別の定めがある場合でなければできません(197条1項但書)。強制処分に当たれば、令状などの法定の手続が要ります。当たらなければ任意処分で、相当性の問題に進みます。
  • 2つの段で、見るものが違う:①の侵害・制約は類型的に見ます。①があっても、②の承諾があったかは、その場の事情から個別に見ます。
    • 例:トランクの中の物を、警察官が一つずつ取り出して調べた → ①物を探す行為として、捜索と同視しうる方向です。②運転者が「断ってもよい」と告げられたうえで自分から開けたのか、取り囲まれて言わされたのかで、結論が分かれます。
  • 本人の意思をどの段で見るか:解説書は段を明示していませんが、その書き方から読むと、前半と後半で違います(このノートの整理)。
    • 任意同行は、もともと本人が応じることで成り立つ捜査です。前半の問いは、その「応じた」が形だけで、帰る自由が事実として失われていなかったか、です。だから本人が自分から応じ続けていたかは、拘束の有無を決める事実の一部として、①の総合の中で見ます。解説書も、実質的逮捕かどうかを①の言葉(人身の自由の実質的な侵害・制約)で結論づけています。
    • 後半では、家や車の中を探られること自体は①の侵害に当たります。そのうえで、本人がその侵害を受け入れた(権利を放棄した)かを、②で見ます。
前半:任意同行後半:承諾による捜索
本人の言葉「帰りたい」と言わなかった「見てもらって構いません」と言った
守られる権利・利益人身の自由私的領域に侵入されない権利
結論それでも実質的逮捕とされうる住居:同意が本物でも令状を取るべき(解説書)/自動車・所持品:承諾が任意なら適法
  • 共通する目印:言葉だけでは決まりません。前半は、状況から人身の自由が奪われていたかを見ます。後半は、対象(住居か、車・持ち物か)と、承諾が生まれた状況を見ます。

任意同行の足場:198条1項

任意同行は、198条1項本文の出頭要求として行う任意捜査です。但書の「いつでも帰れる」が事実として無くなれば、実質的逮捕です。

  • 任意同行:捜査機関が被疑者に、警察署などへ一緒に来るよう求め、本人が応じて同行することです。逮捕ではないので、令状は要りません。
198条1項本文但書
内容被疑者の出頭を求め、取り調べることができる逮捕・勾留されていなければ、出頭を拒み、出頭後いつでも退去できる
役割任意同行の法的な足場「いつでも帰れる」という建前の根拠
  • いつでも帰れる:逮捕・勾留されていない被疑者は、出頭を断れますし、出頭した後もいつでも帰れます(198条1項但書)。
    • 例:「任意同行に応じたら、取調べが終わるまで帰れない」は誤り → 逮捕・勾留されていなければ、出頭後いつでも退去できます。
  • 実質的逮捕:任意を装って同行させ、退去を許さないなど、帰る自由が事実として失われていれば、名前は任意同行でも中身は逮捕です。
    • 令状主義を守っていなければ(逮捕状も無く、現行犯逮捕・緊急逮捕の手続も踏んでいなければ)、違法な逮捕です。緊急逮捕の要件が事実上あった場合の扱いは第5節。

198条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

  • 職務質問に伴う同行は別の場面:その場での質問が本人に不利・交通の妨害になるとき、警察官が付近の警察署などへの同行を求めるものです(警職法2条2項)。根拠が198条とは違います。
    • 例:夜の繁華街で職務質問を始めたら人だかりができたので、近くの交番で続けるよう求めた → 警職法2条2項の同行です。殺人の被疑者に、事情を聴くため警察署へ来るよう求めた → 198条1項の任意同行です。

物差し:6つの客観的事情(①を人身の自由に当てはめる)

6つの客観的事情を総合し、一般人の立場から見て、抵抗なく同行に応じていたと認められる状況かを判断します(解説書の整理)。

(1) 4つの軸から6つの事情へ

動画で目安として使った4つの軸(態様の強さ・時間・場所・退去の自由)と、6つの事情は次のように対応します。④⑥は軸の外の目盛りです。

4つの軸6つの客観的事情
態様の強さ② 同行の方法・態様
時間① 求めた時間/③ 取調べ時間
場所① 求めた場所/③ 監視状況
退去の自由⑤ 同行拒否・退去希望の有無・内容
(4つの軸には無い)④ 逮捕の準備状況(捜査機関側)/⑥ 属性(対象者側)

(2) 6つの事情と、強制性に傾く例

事情見ること強制性に傾く例
① 同行を求めた時間・場所いつ・どこで求めたか深夜に自宅を訪ねて求める(深夜でも、路上でその場で事件が分かって求めたなら、強制性は否定されやすい)
② 同行の方法・態様同行のさせ方大勢で取り囲む、命令口調、行き先を告げない、腕をつかむ、警察車両に乗せる
③ 同行後の取調べ時間・監視状況どれだけ長く、どれだけ見張ったか長時間に及び、トイレや休憩のときも見張りを続ける
④ 逮捕の準備状況捜査機関が逮捕に向けて動いていたか「もう逮捕状が出ている」と告げて同行させる/時間を稼ぐために逮捕を遅らせる
⑤ 同行拒否・退去希望の有無・内容本人の拒否・申出と、捜査側の応じ方拒否・退去希望や、弁護人・家族への連絡の希望を聞き入れない
⑥ 被疑者の属性断ることができる相手か若年者・病気の人
  • 出どころ:6つの事情は、解説書が「一般に挙げられる」ものとして整理しています。最後の物差しも解説書の言い方です。
  • ⑤の説得:拒否や退去希望があっても、捜査官が説得して考え直すよう求めること自体は許されます。ただし、その程度には事案の重大性などに応じた限界がある、と解説書は添えています(必要性を持ち込まないこととの関係は、解説書は述べていません)。重大性が出てくるのは、⑤の中で「説得がどこまで許されるか」を測る場面です。
    • 例:被疑者が夕方「今日はもう帰ります」と言った。警察官が「もう少しだけ」と説得し、本人がうなずいて残った → 説得自体は許されます。同じ申出に、出口に立って「話が終わるまで帰せない」と言った → 聞き入れていないので、⑤は強制性に傾きます。

(3) 総合考慮でも「類型的」

  • 類型的:その捜査が、法定の強制処分(ここでは逮捕)と同視しうる性質かを、客観的に見比べることです。解説書は、実質的逮捕かどうかも強制処分該当性の判断なので類型的に行う、とします。
    • ①でも6つの事情は具体的に拾います。⑤の拒否や⑥の属性も、その人が置かれた状況が逮捕と同じ性質の拘束になっていたかを測る材料です。類型的の中身は、この「逮捕と同視できるか」という比べ方と、事件の重さ・必要性を入れないことです。
    • 物差しの「一般人の立場から見て、抵抗なく応じていたと認められる状況か」は、同じ問いを本人の応じ方に着目して言い直したものです(判断は一般人の立場から常識的に。言い直しという位置づけはこのノートの整理)。
    • ②は、①の侵害があることを前提に、その人のその場の承諾が自由な意思によるものか(承諾の中身)を問います。
  • 外すのは必要性:事件の重さ・嫌疑の強さ・捜査の必要性は持ち込みません(ただし⑤の説得の限界は、事案の重大性に応じるとされます。上の(2))。6つの事情(行為と状況の中身)は全部拾って総合します。
    • 例:「重大事件で嫌疑も濃いから、監視つきの長時間取調べでも実質的逮捕ではない」は誤り → 事件の重さ・嫌疑は①に持ち込みません。拒否や退去希望が無い場面なら、店先の万引きでも重い事件でも、同じ時間・同じ監視で答えは同じです。
    • 本人が拒んだか、自分から応じていたかも、⑤などの事情として、この総合の中で見ます。
      • 例:長時間でも任意捜査とされた事件があります。捜査官の手配した宿に4夜泊め、5日間取り調べた殺人事件。最高裁の多数意見は、監視などから応じざるを得ない状況に置かれていた一面もあり、方法として必ずしも妥当とはいい難いとしつつ、他面、本人の申出もあって初日の宿泊を願う答申書を出させていたこと、拒否や帰宅の申出の証跡も、捜査官が帰宅を拒んだ事実も無いことから、本人がその意思で容認し応じていたと認めました。解説書は、最高裁がこの事件を強制処分に当たらない(任意捜査)と判断した、と紹介し、本人が取調べや宿泊に同意していたことを重視して、抵抗なく同行に応じていたと認められる状況だったと読みます(実質的逮捕ではない=①の判断)。この容認の認定(答申書・申出や制止が無いこと)には、必要性は出てきません(このノートの整理)。そのうえで最高裁は、容認していたことと、速やかに弁解を聴く必要性などを総合して、任意捜査として許される限界を超えた違法とまではいえない、としました。これは第1節の「その後」の段=相当性の判断で、必要性が出てくるのはこちらです(2裁判官の意見は、実質的逮捕とまでは直ちにいい難いとしても、任意捜査の方法として著しく不当で違法とした=相当性の問題)。
      • 例:これに対し富山地決(第4節)は、申出が無いことだけでは任意とせず、意思確認・退室・連絡の機会を与えた資料が無いことを重く見ました。2つを並べると、時間の長さではなく、自分から宿泊を願い出た答申書のように本人の意思をうかがわせる資料があったかが、違いとして読めます(このノートの整理。申出が無いことは、富山では任意の根拠にされませんでした)。
  • 結論の形:人身の自由はそれ自体重要な権利・利益です。6つの事情に照らして実質的に侵害・制約されていれば、実質的逮捕です。同じ時間の長さでも、ほかの事情で評価が動きます。
    • 例:窃盗の疑いで任意同行に応じたBが、平日の午後から深夜まで約12時間取り調べられた。常に警察官が付き添い、部屋を出られない。途中で家族に1度電話したが、「帰りたい」とは言っていない → 電話できたことは実質的な制約を弱める側に働きますが、③監視の重さが上回り、実質的逮捕に傾きます。
    • 例:同じ12時間でも、1時間おきに自由に外へ出られ、Bの方から「もう少し続けたい、話したいことがある」と申し出た → 人身の自由の実質的な制約は否定される方向です。
    • 例:前者で、Bを呼ぶ前から逮捕状の準備が進んでいた → ④も同じ向きに働き、さらに実質的逮捕に傾きます。

富山地決:申出が無くても実質的逮捕

本人が「帰りたい」と言っていなくても、監視つきで深夜まで続いた取調べは、少なくとも夕食時の午後7時以降、令状によらない違法な逮捕とされました。

事実任意同行後の長時間の取調べ(富山地決昭54・7・26。細部は解説書の設例による)

  • 被疑者は朝、自宅の前で任意同行を求められ、警察署で取調べを受けました。取調べは、事実上の監視のもとで深夜まで続きました。
  • 被疑者は「帰りたい」とは言っていません。警察官が帰る意思を確かめたり、自由に部屋を出たり外へ連絡したりする機会を与えたと認める資料もありませんでした。
  • 翌日の午前0時20分ごろ、逮捕状で逮捕され、勾留が請求されました。裁判官が勾留請求を却下し、検察官が不服を申し立てました(準抗告)。富山地裁はこれを退け、却下を維持しました。
  • 判断の筋:通常なら、遅くとも夕食時には帰りたいと思うはずです。それなのに上の機会を与えた資料が無い。監視つきで深夜に及ぶ長時間の取調べは、任意だとする特段の事情が無い限り、任意の取調べとは認められない、としました。
  • 線の引き方:「少なくとも」夕食時の午後7時以降、という言い方です。
  • この回の目印:本人の言葉ではなく、時間の長さ・監視の状況と、意思の確認や退室・連絡の機会を与えたと認める資料が無いことから決めています。
    • 例:同じ流れでも、夕食時に警察官が「今日は帰りますか」と確かめ、本人が「続けてください」と答えた。部屋の出入りも電話も自由だった → 決定が「無い」と指摘した事情がそろい、実質的逮捕とはされにくい方向です。
    • 例:朝の同行の時点で「もう逮捕状が出ている」と告げていた → ④が加わり、午後7時より前から実質的逮捕とされる方向に動きえます。

任意同行後の長時間の取調べ富山地方裁判所決定実質的逮捕と評価された事案「少なくとも夕食時である午後7時以降の取調は実質的には逮捕状によらない違法な逮捕であったというほかはない。」「約5時間にも及ぶ逮捕状によらない逮捕という令状主義違反の違法は、それ自体重大な瑕疵」である。

実質的逮捕の効果:時計の起算点が動く

実質的逮捕とされると、逮捕の時点が前に動き、時間制限の起算点が前倒しになります。富山地決は、間に合っていても勾留請求の却下を支持しました。

  • 逮捕後の時間制限:勾留=逮捕に続けて、被疑者の身体をさらに長く(原則10日・208条1項)拘束することで、検察官が請求し、裁判官が決めます。逮捕から勾留請求までには時間制限があります。司法警察員は、身体を拘束された時から48時間以内に検察官へ送致する手続をします(203条1項)。検察官は、受け取ってから24時間以内、かつ身体を拘束された時から72時間以内に勾留を請求します(205条1項・2項)。
  • 起算点:逮捕状で逮捕した時ではなく、実質的に逮捕された時から数えます。前倒しの時計で間に合わなければ、勾留請求は却下されます(やむを得ない事情による遅延と認められる場合を除く・206条)。
    • 例:月曜の午前9時からの取調べが実質的逮捕とされ、逮捕状の執行は月曜の午後11時、勾留請求は木曜の午前10時だった → 逮捕状の執行から数えれば59時間ですが、実質的逮捕から数えると73時間で、72時間(205条2項)を超えます。
  • 間に合っていたとき:被疑者の勾留は、逮捕に続けて請求する仕組みです(207条1項・逮捕前置)。逮捕に違法があっても、勾留請求が必ず却下されるわけではありません。なぜ逮捕の違法が勾留に響くかは説明が分かれますが、いずれにしても、勾留請求を却下するのは、令状主義の精神に反するような重大な違法が先行するときに限る、とするのが一般です(解説書)。そこで、時間を守っていても、実質的逮捕の違法が重大かが問われます。
    • 原則:任意同行と言いながら実質的逮捕をした場合は、原則として重大な違法とされます(解説書)。
    • ただし(裁判例の大勢ともいわれる):実質的逮捕の時点で緊急逮捕の要件を事実上そなえ、そこから制限時間も守っていれば、却下するほど重大な違法ではない、とされます。緊急逮捕=一定の重い罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、急いでいて逮捕状を求められないとき、理由を告げて令状なしに逮捕し、直ちに逮捕状を求めるものです(210条1項)。その時点で令状なしに逮捕できたのなら、誤りは手続の選び方にとどまる、と実務はみます(解説書の紹介)。
    • 富山地決:制限時間を守っていても、約5時間の令状によらない逮捕はそれ自体重大な瑕疵だとして、却下を支持しました(下の表)。緊急逮捕の要件があったかを論じたかは、解説書の紹介からは分かりません。
    • 学説では、緊急逮捕の要件が事実上あっても、違法な実質的逮捕が先行した以上は却下すべきとする見解も有力です。
富山地決裁判例の大勢ともいわれる考え方(解説書の紹介)
見た点実質的逮捕の午後7時から数えても、制限時間は守っていた①実質的逮捕の時点で緊急逮捕の要件を事実上そなえていた ②そこから制限時間も守っていた(例:東京高判昭54・8・14)
結論約5時間の令状によらない逮捕は「それ自体重大な瑕疵」で、制限時間を守っても治らない → 却下を支持①②がそろえば、勾留請求を却下するほど重大な違法ではない
  • 解説書の整理:重大な違法かは裁判例の考え方も分かれ、一律の基準は示しにくいとされます。
    • 例:前の例と同じ事案で、送致が水曜の午前8時、勾留請求が同じ日の午後5時なら、受け取りから9時間・実質的逮捕から56時間で、どの制限にも間に合います → それでも、実質的逮捕の違法が勾留請求を却下するほど重大かは別に問われます。大勢の考え方なら、月曜9時の時点で緊急逮捕の要件が事実上あったかで結論が変わります。
  • 注意:「制限時間を守っても、実質的逮捕があれば必ず却下」と一般化しないようにします。富山地決は時間を守っていても却下を支持しましたが、大勢ともいわれる考え方では、緊急逮捕の要件が事実上あり、制限時間も守っていれば却下しません。

後半:承諾には3段ある(②の段とその限界)

同意・承諾があれば、権利・利益の放棄として任意処分が原則です。ただし侵害の程度が大きい承諾留置は許されないと考えられ、承諾家宅捜索も実施すべきでない、と解説書はします。

  • 承諾捜索そのもの:捜査機関に悪用されるとして、許さない見解もあります。解説書は、自由な意思に基づく同意があれば理論上は任意捜査で、全部に令状を求めるとかえって非効率・本人の負担にもなるとして、認めます。

(1) 3段の線引き

守られる権利・利益対象結論理由
人身の自由承諾留置(同意を得て、警察の留置施設に泊まらせる)同意があっても許されないと考えられている人身の自由への侵害の程度が大きい
私的領域(強)承諾家宅捜索(住人の承諾を得て、令状なしに家の中を捜索する)。女子を裸にする承諾捜索も同じ同意が本物でも実施すべきでない=令状を取る(解説書。設例の検討では、令状なしの自宅の捜索は違法)私的領域に侵入されない権利への侵害の程度が大きい
私的領域(弱)自動車・所持品の承諾捜索任意の承諾があれば可(任意捜査)侵入の度合いが家宅ほど高くない。職務質問に伴う所持品検査や、任意提出(221条の領置)さえ認められる
  • 女子を裸にする身体検査:犯罪捜査規範107条は、女子の任意の身体検査を、裸にしないときを除いて禁じています。
  • 対象ごとに分ける:同じ同意・承諾でも、何に向けたものかで、表のどの段に当たるかが変わります。
    • 例:本人が「今夜は家に帰りづらいので、署の留置場に泊めてください」と頼んだ → 同意があっても、留置施設に泊まらせることは許されないと考えられています(承諾留置)。
      • 留置施設は、逮捕・勾留された人を収容する警察の施設です。人身の自由への侵害の程度が大きいので、同意があっても許されないとされます。第3節の宿泊事件の宿は捜査官が手配したふつうの宿で、本人がその意思で容認し応じていたと認められ、違法とまではいえないとされました(方法として必ずしも妥当でない、との指摘つき)。
    • 例:盗品の時計を探すため、本人の「どこでも見てください」という言葉だけで、自宅の部屋と、本人が提げていたスポーツバッグを調べた。時計はバッグから出た → 部屋の捜索は同意があっても違法、バッグは承諾が任意なら任意捜査として許され、時計の押収はそれ自体違法にならない方向です(解説書の設例の検討の考え方)。

(2) 住居は、なぜ同意では足りないか

  • 犯罪捜査規範108条:住居などの捜索は、承諾が得られると認められる場合でも、捜索許可状を取って行う、と定めています。
    • 犯罪捜査規範:警察官が捜査で守る心構え・方法・手続を定めた国家公安委員会規則です。法律ではありません。
    • 解説書は、承諾家宅捜索を実施すべきでない結論に、この規定を「参照」として添えています。結論の理由は、侵害の程度です。
    • 例:「本人が心から納得して書面にも署名したなら、令状なしで自宅を捜索できる」は誤り(解説書の立場)→ 住居は、同意が本物でも令状を取って捜索すべきです。承諾の質では救えません。

108条(人の住居等の任意の捜索の禁止)|犯罪捜査規範 第四章 任意捜査(99〜117条)人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶につき捜索をする必要があるときは、住居主又は看守者の任意の承諾が得られると認められる場合においても、捜索許可状の発付を受けて捜索をしなければならない。

立場承諾家宅捜索の扱い理由
1つ目の見解同意があっても許されない類型的に強制処分に当たる(任意処分に落ちない)
2つ目の見解同意があっても令状によるべき理論上は任意処分だが、政策的に令状主義の下で行うべき
高裁判決(福岡高判平5・3・8)それ自体は違法ではない。ただし、完全な自由意思による承諾かを、より慎重に判断するこの事案では承諾が認められず、違法
  • 最高裁の判例は無い:判例がどちらの見解に立つかは、決まっていません。
  • 解説書の結論との関係:解説書自身は、侵害の程度が大きいことを理由に「実施すべきでない」と結論するだけで、2つの見解のどちらに立つかは述べていません。どちらの見解でも、令状なしの承諾家宅捜索は許されない、という結論は同じです。
  • 高裁判決の位置:2つの見解はどちらも「令状なしは許されない」側です。高裁判決は「承諾家宅捜索も違法ではない」が前提なので、どちらの見解とも立場が違います(解説書の紹介による)。
    • 例:同じ住居でも、高裁判決の考え方なら、承諾が完全に自由なものかを慎重に審査する問題になります。答案では、どちらの立場に立つかを示します。

(3) 自動車・所持品:承諾は任意か(②の当てはめ)

  • 見るもの:言葉ではなく、その言葉が生まれた状況です。
    • 渋々の承諾でも、自由な意思決定でありえます。身体の束縛や強い心理的圧迫による自由の拘束があった、といえる客観的な状況があれば、任意の承諾は否定されます(大阪高判昭61・9・17)。
      • 例:車を止められた運転者Bが、路上で警察官3名に取り囲まれた状態で、車内について「どうぞ、見てもらって構いません」と言った → 囲まれた物理的な状況が、自由な承諾といえない方向に働きます。
      • 例:同じ「どうぞ」でも、断ってもよいと告げられたうえで、Bが車内を見せることを書面に書いて署名した → 自由な承諾といえる方向です。
      • 例:警察官4人が車を囲み、「見せるまで帰さない」と言い続けた末の「どうぞ」 → 強い心理的圧迫による自由の拘束があったといえ、任意の承諾は否定される方向です。
    • 黙示の承諾もありえますが、明確でないと、あとで否定されやすくなります。

車の中を調べた事件:黙っていた運転者

警察官4名が車内を丹念に調べる間、本人は黙って眺めていましたが、任意の承諾は無かったとする原判断を最高裁が是認し、違法としました。承諾があれば適法であることを前提にしている、と解説書は読みます。

事実自動車の中を調べた事件(最決平7・5・30)

  • 深夜、青信号で発進しない車にパトカーが停止を呼びかけると、車は発進して約2.7km走ってから止まりました。運転者は免許証を携帯しておらず、覚醒剤の前歴があり、しゃべり方も普通と違いました。
  • 警察官が約20分、所持品や車内を調べたいと説得しましたが、応じません。応援の巡査部長も、捜査用の車の中で説得を続けました。
  • 車内に白い粉があるとの報告があり、立会いを求めると、本人は「あれは砂糖ですよ。見てくださいよ。」と答えました。その粉の予試験では、覚醒剤は出ませんでした。
  • その直後、巡査部長は本人に「車を取りあえず調べるぞ」と告げ、他の警察官には「相手は承諾しているから、車の中をもう一回よく見ろ」と指示しました。警察官4名が座席を倒すなどして調べ、運転席の下から覚醒剤を見つけました。本人は様子を眺め、異議も口出しもしませんでした。

自動車の中を調べた事件最高裁判所決定任意の承諾はなかったとされた警察官が本件自動車内を調べた行為は、被告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたものというべきところ、右行為に対し被告人の任意の承諾はなかったとする原判断に誤りがあるとは認められないから、右行為が違法であることは否定し難い……

  • 判文の前提:「承諾がない限り限度を超える」という言い方は、承諾があれば適法になることを前提にしています(解説書の読み)。
  • 枠組み:判文の枠組みは職務質問に付随する所持品検査として許されるかで、刑訴法上の捜索そのものではありません。
    • 所持品検査=警察官が職務質問(不審な人を停止させて質問すること・警職法2条1項)に付随して、相手の持ち物を調べることです。承諾を得て行うのが原則です(最判昭53・6・20。承諾が無くても、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、必要性・緊急性などに照らして相当な限度で許される場合があります)。これに対し平7決定の最高裁は、座席を倒すなどして車内を丹念に調べた行為を、承諾が無い限り所持品検査の限度を超えるとしました(捜索に当たるとまでは言っていません)。
    • 解説書は、車の中を調べたこの行為を自動車の捜索として読み、「承諾があれば適法」という前提を、自動車の承諾捜索(第6節(1)の3段目)の例として引きます。
  • 一般則ではない:最高裁は、原判断を是認しただけです。「黙っていれば承諾ではない」というルールを立てたわけではありません。
    • 原判断の理由づけは決定文からは詳しく分かりません。事実としては、約20分の説得に応じなかったこと、粉の予試験で覚醒剤が出なかった直後に、巡査部長が「取りあえず調べるぞ」と告げ、他の警察官に「相手は承諾しているから」と指示して、4人が調べたことがあります。
    • 例:この事件では、黙って眺めていたことは、任意の承諾があったことになりませんでした(原判断の是認)。
    • 例:粉の検査への立会いを求められて「見てくださいよ」と答えていても、その後の車内全体の調べに任意の承諾は無かったとする原判断が是認されました(粉への言葉がどこまで及ぶかを、最高裁が論じたわけではありません)。答案では、承諾が何に向けられたものかを、対象ごとに確かめます。
  • 証拠の扱い:車内の調べは違法で、それに基づく現行犯逮捕も違法、採尿手続も違法性を帯びます。しかし調べの違法の程度は大きくなく、その後の同行・採尿は任意だったので、採尿手続の違法は重大でないとして、尿の鑑定書の証拠能力を肯定しました(車内の覚醒剤そのものは判断していません)。
    • 例:同じ「黙っていた」事実が、ここでは逆の向きに働きました。本人が明示的に異議を唱えていないことが、嫌疑や必要性・緊急性と並んで、違法は大きくないとする事情の1つに使われました。

答案の型:段を取り違えない

前半は6つの事情で実質的逮捕かを決めてから先へ進み、後半は対象を分けてから承諾の任意性を見ます。

前半:任意同行後半:承諾による捜索
1権利・利益を特定する(人身の自由)対象と権利を特定する(住居か、自動車・所持品か)
26つの事情を積む(捜査の必要性は持ち込まない)住居 → 同意があっても令状によるべき(解説書の立場)=令状なしなら違法(高裁判決の立場なら、承諾の任意性を慎重に審査する)/自動車・所持品 → 捜索と同視しうる侵害・制約があることを確かめる(職務質問に付随する場面で、捜索に至らない調べなら所持品検査の問題になり、承諾が無いときは、強制にわたらず相当な限度内かで適否を決める=最判昭53・6・20。車の事件は、判文では所持品検査の限度の問題として書かれ、解説書は自動車の承諾捜索の例として読む=第7節)
3実質的な侵害・制約があるか=実質的逮捕かを結論する自由な意思決定に基づく承諾があるかを、状況から判断する(個別具体的)
4実質的逮捕なら:令状によらない逮捕で違法 → 起算点・勾留請求への影響/そうでなければ:任意捜査としての相当性(比例原則)任意の承諾があれば任意捜査/無ければ令状によらない捜索で違法
  • 相当性の4行(権利・利益の特定 → 実質的な侵害に至っていないことの確認 → 必要性 → 権衡)は、前半で「実質的逮捕ではない」と決めた後に使います。
  • いちばん危うい答案:1〜3行目を飛ばして、いきなり必要性と相当性を書く答案です。
  • 後半で混ぜない:承諾の任意性は、第1節の②の段(同意・承諾)の話です。①の「侵害・制約があったか」を決める材料ではありません。前半で本人の応じ方を①の総合に入れるのとは扱いが違います(第1節)。

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