刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#21

訴因変更の要否(312条1項・最決平成13年4月11日)

訴因変更の要否を扱う回。訴因と異なる認定には原則訴因変更(312条1項)を要し、要否は訴因の2機能で段階的に判断する(最決平13・4・11)。縮小認定は訴因変更不要であることも押さえる。

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第3章 公訴 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 訴因変更とは何か——制度の全体像 〔短答・論文共通〕

訴因変更とは、起訴状に記載された訴因または罰条を、審理の途中で変えることです。根拠条文は312条1項です。

刑事訴訟法312条1項(訴因変更)の板書 図:訴因変更の制度全体像(主体・範囲・効果)

【条文】刑事訴訟法312条1項(訴因変更) 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。

刑事訴訟法312条1項(条文カード) 図:312条1項(訴因変更)全文カード

条文から読み取れるポイントは3つです。

  • 主体は検察官。「検察官の請求があるとき」とあり、変更を申し出るのは検察官です。何を裁くかを検察官に委ねるという当事者主義の帰結です。
  • 変更できる範囲は「公訴事実の同一性を害しない限度」。全く別の事件に変えることはできません。この外枠の中身は次回(#22)で扱います。
  • 裁判所は「許さなければならない」。義務です。裁判所は検察官の訴因しか審理できない(訴因対象説)から、訴因と違う事実で有罪にしたければ、まず枠を引き直す必要があります。変更すると被告人に反論を準備する機会が保障され、必要なら公判手続を停止して準備期間も与えられます(現行312条7項)。

2. 今日の問い——いつ変更が「必要」になるか 〔論文〕

本回の核心は「訴因と認定がズレたとき、いつ変更が必要か」です。

まず、何がズレたら問題になるかという対象の話があります。かつては罪名など法律の構成が変わるときだけ問題という説(法律説・公訴事実対象説)もありましたが、現在の判例・通説は事実説です。訴因は検察官が主張する具体的な犯罪事実ですから、罪名だけでなく日時・場所・方法といった事実のズレも、すべて変更が必要か検討する対象になります。

要否の問い(板書) 図:「いつ変更が必要か」——要否の問いの立て方

3. 要否の段階的判断——3ステップ(コア) 〔論文〕

事実が少しでもズレたら毎回変更を要するとすれば裁判が遅延します。他方、ズレ放題では被告人が不意打ちを受けます。ここで前回(#20)で学んだ訴因の2つの機能——識別機能防御機能——が判断の軸になります。

要否の3ステップ(板書) 図:識別機能→防御機能(一般的重要性)→防御機能(実際の審理)の3段階

判例はこの2機能を順番に当てて、次の3ステップで判断します。

ステップ1:識別機能の目 そのズレは、審判対象の画定に関わるか(罪となるべき事実か)。別の事件になるレベルであれば、変更が必要です。関わらないならステップ2へ。

ステップ2:防御機能の目(一般的重要性) そのズレは、一般的に見て被告人の防御にとって重要か。どうでもよい事実(盗品の色が少し違う程度)であれば変更は不要。重要な事実ならステップ3へ。

ステップ3:防御機能の目(実際の審理) このまま認定すると、被告人に不意打ちになるか。防御の準備をしていなかったという実質的な不利益の危険があれば、原則変更が必要です。ただし被告人が十分に争っていた場合は例外的に変更なしでも違法ではありません。

4. リーディングケース——実行行為者の認定(最決平成13・4・11) 〔論文〕

この3ステップを確立した代表判例が最決平成13年4月11日(第三小法廷決定・刑集55巻3号127頁)です。

  • 事案:共謀して人を殺した事件。起訴状は「被告人が自ら手を下して刺した」(実行行為者=被告人)と記載。ところが裁判所は「実は共犯者が刺した、被告人は指示しただけ」と認定したくなった。

3ステップに当てはめます。

  • ステップ1:共謀共同正犯では、誰が手を下したかは事件の画定に不可欠ではない(日時・場所・共謀の内容で事件は特定できる)。画定に必要な事項ではない。
  • ステップ2:「自ら刺したか、指示にとどまるか」は反論の仕方が全く異なるため、一般的に防御上重要。→ 原則変更が必要。
  • ステップ3:「誰が刺したか」は通常その裁判の最大の争点。被告人はすでに十分反論済みで今さら不意打ちにはならず、より不利益ともいえない。→ 例外的に変更なしでも違法ではない

最決平成13・4・11(訴因変更の要否) 図:最決平13・4・11 判旨カード(実行行為者の認定)

判例の言葉(要旨):

実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項である。したがって、検察官が訴因において実行行為者を明示した場合には、それと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要する。もっとも、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、訴因より不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく認定することも違法ではない。

5. 縮小認定——大は小を兼ねる 〔短答・論文共通〕

殺人で起訴された被告人を、訴因変更なしに傷害致死として認定できる場合があります。これが縮小認定です。

縮小認定(板書) 図:縮小認定——大きな事実の中に小さな事実が含まれる関係

殺人は「殺意ありの暴行で人を死なせた」という大きな事実、傷害致死は「殺意なしの暴行で人を死なせた」という小さな事実です。大は小を兼ねる関係のとき、訴因変更は不要です。

理由も2機能で説明できます。

  • 識別機能:大きな枠を立てた時点で、中の小さな事実も審判対象に入っている。
  • 防御機能:重い罪(殺人)に対して防御できていれば、それに含まれる軽い罪(傷害致死)の防御も尽くされている。

縮小認定が認められる代表例(左で起訴→右で認定・変更不要):

起訴罪名認定罪名
殺人未遂傷害
殺人既遂傷害致死
強盗致死傷害致死
殺人既遂同意殺人
窃盗既遂窃盗未遂
酒酔い運転酒気帯び運転

逆方向(軽い罪→重い罪)は被告人に不利になるため、訴因変更が必要です。

6. あてはめ早見表——罪名が変わっても必ず必要とは限らない 〔短答頻出〕

あてはめ早見表 図:訴因変更の要否・典型パターン一覧

あてはめの対照図(板書) 図:同一罪名内のズレ・罪名変更・共同正犯⇄単独犯の要否対照

典型パターンを3グループで整理します。

グループ1:同じ罪名の中で中身がズレる場合

  • 行為のやり方や結果のズレ → 原則必要
  • 被害額が減った(縮小認定)→ 不要
  • 動機や経緯のズレ → 原則不要(刑の重さの事情にすぎない)
  • 過失犯で過失の態様に基本的な違い(ブレーキ操作ミスvs前方不注視)→ 必要(弁解の中身が別物)

グループ2:罪名が変わる場合

  • 事実も変わる(単純収賄→受託収賄、1項詐欺→2項詐欺)→ 必要
  • 事実は同じで法的評価だけ変わる(詐欺vs背任)→ 不要
  • 罪数のみ変わる → 不要

グループ3:共同正犯⇄単独犯のズレ

  • 共同犯→単独犯(責任が重くなる)→ 必要
  • 単独犯→実行に加わった共同正犯(縮小認定)→ 不要
  • 単独犯→実行に加わらない共謀共同正犯(行為が別物)→ 必要

7. 要否を破ったら——逸脱認定の効果 〔論文〕

変更が必要なのに手続を飛ばしたときは、2パターンの問題が生じます。

逸脱認定の効果(板書) 図:訴因逸脱認定(378条3号)と争点逸脱認定(379条)の比較

パターン1:訴因逸脱認定 訴因の枠の外の事実を変更なしに認定する場合(「Aを殴った」で起訴され「Bを殴った」と認定)。訴因対象説では頼まれていない事件を判決したことになり、不告不理の原則に反します。

【条文】刑事訴訟法378条3号(絶対的控訴理由) 審判の請求を受けない事件について判決をしたこと。

刑事訴訟法378条3号(絶対的控訴理由) 図:378条3号(絶対的控訴理由)全文カード

判決への影響を問わず、無条件で破棄されます(絶対的控訴理由・一発アウト)。

パターン2:争点逸脱認定 訴因の枠の中だが、誰も争点にしていなかった事実を黙って認定する場合。不意打ちにはなりますが、枠の中なので378条3号にはなりません。

【条文】刑事訴訟法379条(相対的控訴理由) 前条の場合を除いて、審判が法令の違反があってその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとき。

刑事訴訟法379条(相対的控訴理由) 図:379条(相対的控訴理由)全文カード

判決に影響したときに限り破棄となります(相対的控訴理由)。争点逸脱認定の場合、認定するためには事前に「ここも問題になりうる」と争点を表に出す措置が必要です(最決昭和58年12月13日)。

なお、判決でAかBか絞れないときの択一的認定という論点もあります。同じ罪の中での択一的認定は許されますが、異なる罪で「殺人罪か死体遺棄罪か」といった択一的認定は許されません。


短答ひっかけ

  • 訴因と違う認定は原則としてまず訴因変更が必要。勝手な認定は逸脱認定で違法。
  • 要否の判断は3ステップ(①審判対象画定か、②一般的に防御上重要か、③実際の審理で不意打ちか)で行う。訴因の2機能がそのまま当てはまる。
  • 縮小認定(より軽い方向・大は小を兼ねる)は、被告人に不利益がないため訴因変更不要。逆方向は必要。
  • 罪名が変わっても、法的評価だけなら変更不要。事実が変わるなら必要(例:単純収賄→受託収賄=「請託」という事実が加わるから必要)。
  • 最決平成13・4・11は「判決」ではなく「決定」(第三小法廷決定)。
  • 訴因逸脱認定は378条3号(絶対的控訴理由)、争点逸脱認定は379条(相対的控訴理由)——場所が違えば出口も違う。

📝 論文の型|訴因変更の要否 〔論文〕

【コア規範】 裁判所は訴因に拘束されるから、訴因と異なる事実の認定には原則訴因変更(312条1項)を要する。①審判対象の画定に必要な事項(罪となるべき事実)は原則変更を要する。②それ以外でも一般的に被告人の防御にとって重要な事項を検察官が明示した以上、実質的に異なる認定には原則変更を要する。ただし審理経過に照らし不意打ちを与えず、訴因より不利益でもない場合は例外的に不要(最決平13・4・11)。縮小認定(認定事実が訴因に論理的に包含される場合)は不要。

【復元キー】 ①原則=訴因と異なる認定には訴因変更(312①・裁判所は訴因に拘束)→②審判対象の画定に必要な事項(罪となるべき事実)は原則変更要→③一般的に防御上重要な事項を明示→実質的に異なる認定は原則変更要→④例外=不意打ちでなく・より不利益でないなら不要(平13・4・11)→⑤縮小認定(大は小を兼ねる)は不利益なし→不要。

【フル論証】 裁判所は訴因に拘束されるから、訴因と異なる事実を認定するには原則として訴因変更(312条1項)を要する。もっとも、いかなる食い違いについても変更を要するとすれば訴訟が遅延し相当でない。そこで、①その事実が審判対象の画定に必要な事項(罪となるべき事実)であれば原則として訴因変更を要する。②それ以外の事実でも、一般的に被告人の防御にとって重要な事項については、検察官が訴因において明示した以上、実質的に異なる認定には原則として訴因変更を要する。ただし審理の経過に照らし被告人に不意打ちを与えず、かつ訴因に比べてより不利益とはいえない場合には、例外的に訴因変更を経ずに認定しても違法ではない(最決平13・4・11)。なお認定事実が訴因に論理的に包含される(縮小認定)場合は、防御上の不利益がなく訴因変更を要しない。

答案の型(訴因変更の要否) 図:答案の型カード(事例→問題提起→規範→あてはめ)

規範カード(訴因変更の要否) 図:コア規範・復元キーカード

【事例あてはめ(最決平13・4・11)】

  • 事例:「甲が自ら被害者を刺殺した」という殺人共同正犯の訴因で起訴。審理で「刺したのは共犯者乙、甲は共謀・指示」と認定。
  • 問題提起:実行行為者を被告人から共犯者へ変更して認定するのに訴因変更手続を要するか。
  • あてはめ:共謀共同正犯では実行行為者が誰かは審判対象の画定に不可欠とまではいえない(①)。もっとも自ら手を下したか指示にとどまるかは一般的に防御上重要(②)。しかし本件ではその点が最大の争点として十分審理され、被告人に不意打ちでなく、より不利益ともいえない(③)。よって例外的に訴因変更手続を経なくても違法ではない。

今日の地図(保存版)

今日の地図・まとめ(板書) 図:今回の全体まとめ——要否の3ステップと各論点の位置づけ

  • 訴因変更の根拠:312条1項。検察官の請求で、公訴事実の同一性の範囲内で。裁判所は義務的に許可。
  • 要否の対象:事実説(判例通説)——罪名だけでなく日時・場所・方法のズレもすべて検討対象。
  • 要否の判断(最決平13・4・11の3ステップ):
    1. 審判対象の画定に必要(識別機能)→ 原則必要
    2. 一般的に防御上重要(防御機能・一般論)→ 原則必要
    3. 実際の審理で不意打ち(防御機能・具体論)→ 例外的に不要あり
  • 縮小認定:より軽い方向=大は小を兼ねる=不利益なし=変更不要。
  • 罪名変化の注意点:事実が変わるなら必要、法的評価のみ変わるなら不要。
  • 逸脱認定の効果:訴因逸脱=378条3号(絶対的控訴理由)、争点逸脱=379条(相対的控訴理由)。

次回は #22「訴因変更の可否(公訴事実の同一性)と訴因変更命令」。今回「外枠だけ」と言った公訴事実の同一性(基本的事実同一説・非両立性基準)の中身に踏み込み、訴因変更の3本柱を完成させます。

参照条文

  • 刑事訴訟法312条1項(訴因変更)
  • 刑事訴訟法378条3号(絶対的控訴理由)
  • 刑事訴訟法379条(相対的控訴理由)

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