刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#79

訴因変更の要否と判断枠組み

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第3章 公訴 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

二人組の強盗致傷、結局どちらが問題だったのか

起訴状はXが実行者という訴因だが実際にはYが実行した疑いが残ったまま積み残されていた問いを示す板

前回まで、公訴事実の同一性の枠に入っている訴因変更でも、時機や訴訟条件との関係で、なお許されないことがある、というところまで見てきました。今日は、訴因変更には要否・可否・許否という三つの問いがある、という最初の地図に戻ります。今日は、その中でずっと積み残していた、要否です。思い出してほしい事件があります。二人組が被害者を襲った強盗致傷の事件で、起訴状の訴因は「Xが自ら被害者を殴って金品を奪った」というものでした。ところが審理が進むと、実際に殴ったのはYで、Xは指示役だったにすぎない疑いが出てきた、という事件です。

あの事件は共同正犯として扱われ、罪数が一つになるので、可否はほとんど問題にならず、そのままになっていました。念のため確認すると、共同正犯とは、二人以上が共同して犯罪を実行すれば、実際に手を下したのが誰であっても全員が正犯として扱われる仕組みです(刑法六十条)。あの事件で本当に問題になるのは、検察官が訴因を変更しないまま、裁判所が「XまたはYが実行した」という事実を認定してよいか、という要否の方でした。先に答えを言っておくと、誰が手を下したかは、裁く対象そのものは動かしませんが、被告人の防御にとっては重要な点です。だから原則は訴因変更が必要で、審理の中で争点になっていて不意打ちでなく、しかも不利益でもなければ、変更なしでも許されます。動いた事項のレベルで扱いが分かれる、というのが今日の答えです。

なぜ要否が問題になるのか

訴因対象説の下で審判対象は訴因であり訴因と心証がずれても逐一変更を求めると手続が止まるという対立を示す板

検察官が主張する訴因と、証拠調べの結果として裁判所が抱く心証との間には、しばしばずれが生じます。審判対象は訴因そのものだ、という訴因対象説の理解に立つ以上、裁判所は訴因という枠の中でしか事実を認定できません。訴因に書かれた事実と実質的に違う事実を無断で認定すれば、検察官が訴追していない事実で有罪にすることになりかねず、被告人にとって不意打ちになります。ところが、あらゆる微細なずれについて逐一変更を求めると、今度は手続がまったく前に進まなくなります。この両極の間のどこかに線を引く必要がある、というのが要否が問題になる理由です。実際の例で、ずれの大きさによる違いを見てみましょう。

まず、小さなずれです。強盗の訴因に「令和五年六月十日午後十時頃」とあったのに、証拠上は「午後十時半頃」だった。被害額が訴因では「現金五万円」なのに、認定できたのは「現金四万八千円」だった。この程度の日時や金額の誤差は、審判対象にも防御にも影響しません。そのまま認定してかまいません。逆に、大きなずれもあります。窃盗の訴因で起訴したのに、証拠上は「だまして交付させた」という詐欺の事実しか出てこない場合です。これは罪となるべき事実の中身が別の犯罪類型に入れ替わってしまうので、訴因変更なしに認定することはできません。

冒頭の事件がどちらに当たるかが、今日の本題です。共同正犯の訴因で「Xが実行行為をした」と書かれていたのに、証拠上は「XかYか、どちらが実行したか判然としない」という場合。犯罪の骨格、つまり共同正犯として処罰されること自体は変わりませんが、「誰が手を下したか」という個別の事実は動きます。小さなずれと大きなずれの、ちょうど中間に位置する、微妙な場面です。ここで名前を付けておきましょう。訴因に書かれた事実と、認定される事実との間に実質的な食い違いが生じたときに訴因変更が必要になる、という考え方を事実記載説と呼びます。これが通説です。

要否は、検察官ではなく裁判所が先に動いてしまった場面でした。可否や許否は検察官が変更を請求する場面でしたが、要否は、検察官が請求しないまま裁判所が訴因と違う事実を認定してよいかを問う場面です。この線引きを示した決定を見ていきましょう。

実行行為者の食い違いと最高裁の判断枠組み

実行行為者が被告人単独から被告人またはAさんまたは両名という択一的事実に変わった青森の事件で訴因変更なしに認定できるかが争われたことを示す板

保険金目的の放火事件に関連して、口封じのために被害者を殺害したとされた事件です。訴因は、被告人がVの頸部を絞めつけるなどして殺害した、というもので、実行行為者は被告人単独と書かれていました。ところが審理の結果、裁判所は訴因変更を経ないまま、Aさんか被告人か、あるいはその両名が、扼殺や絞殺などの方法でVを殺害した、という択一的な事実を認定しました。この認定が適法かをめぐって、最高裁が判断枠組みを示しました。

判例最決平13・4・11(刑集55巻3号127頁・第三小法廷決定)

青森保険金目的放火・口封じ殺人事件決定 殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。 ……実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、……検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。 しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。

ここからは、判旨そのものではなく、この判旨を整理した枠組みだと思って聞いてください。三つの段落は、二つの段階に整理できます。一段落目が第一段階、二段落目と三段落目が、第二段階の原則と例外です。第一段階は、訴因に書かれた事実のうち、審判対象の画定に必要な事項が動いたかどうかです。ここが動けば、一律に訴因変更が必要です。例外はありません。理由は、ここが動くと審判対象そのものが変わってしまい、検察官が求めていない事件を裁くことになるからです。まず第一段階の具体例を見ておきましょう。窃盗の訴因、つまり他人の財物を窃取した、という事実で起訴されたのに、審理の結果は横領、つまり自己の占有する他人のものを横領した、という事実しか出てこなかったとします。

占有が被告人になかったのか、それとも既に被告人にあったのか、という構成要件レベルの前提そのものが入れ替わってしまいます。これは、事件を識別するための土台が変わることになるので、一律に訴因変更が必要です。これに対して、さっき見た「誰が実行したか」の例は、共同正犯としての成立自体は動きませんから、第一段階には当たりません。

第二段階の防御上重要な事項と例外的に訴因変更が不要になる二つの条件を示す板 図:第二段階の防御上重要な事項と例外的に訴因変更が不要になる二つの条件を示す板

第二段階は、第一段階に当たらない場合です。訴因に明示されていた、被告人の防御にとって重要な事項が動いたかどうか。ここが動けば、原則として訴因変更が必要です。判旨は、実行行為者がだれであるかは「一般的に」被告人の防御にとって重要な事項だ、と述べています。「一般的に」というのは、事件ごとに重要かどうかを個別に判断するという意味ではありません。実行行為者という項目そのものが、類型的に防御上重要だ、という意味です。誰が手を下したかによって、量刑を左右する責任の重さが変わりますし、正当防衛のような主張も、自分が実際に手を下したかどうかで組み立てが変わってきます。だから、個別の事件で争いになっていなくても、実行行為者という項目自体が一律に重要事項として扱われるわけです。

例外がある理由は、判旨自身が三段落目の冒頭で述べています。実行行為者の明示は、訴因の記載として欠かせない事項ではない。裁く対象を決める事項ではないので、防御が実際に害されていなければ、変更の手続まで求めなくてよい、ということです。例外の無い第一段階と、ここが違います。そのうえで判旨は、審理の経過に照らして被告人に不意打ちを与えておらず、かつ認定される事実が訴因記載の事実より不利益でもない、という二つの条件を両方満たす場合には、少なくとも違法ではない、と述べました。『少なくとも』なので、これ以外の場合に例外があり得るかまでは、この決定は判断していません。それぞれ、満たす場合と満たさない場合を対比してみましょう。

まず不意打ちの有無です。満たす例は、公判の早い段階から検察官と弁護人の双方が「実行行為者はXかYか」を争点として明示的に取り上げ、証人尋問や被告人質問の大半がその点に費やされていた場合。これなら被告人は十分に防御の機会を持てています。満たさない例は、実行行為者の点は誰も争わず、専ら共謀の有無だけが審理の対象だったのに、判決で突然「実行行為者はYだった」という認定が出てきた場合です。次に、より不利益でないかです。満たす例は、訴因は「被告人が実行」というものだったのに、認定は「XまたはYまたは両名」という幅を持たせたものにとどまる場合。被告人が単独で実行したと決めつけられるより、不利益とはいえません。満たさない例は、共同正犯の訴因のまま「Yが実行、被告人は実行を担当していない」というものだったのに、判決で「被告人が実行行為者だった」と認定された場合です。これは責任の重さが増す方向の認定になるので、より不利益です。

訴因の二つの機能と、同じ物差し

審判対象の限定と防御の範囲の明示という訴因の二つの機能が要否の判断枠組みの第一段階と第二段階に対応することを示す板

この二段階、実は前に見た話とつながっています。訴因の明示・特定を求める趣旨として、ある判決を見ましたね。覚えていますか?裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防禦の範囲を示す、という趣旨でした。あの判決が示した、その二つの機能が、そのままこの枠組みの二段階に対応しています。審判対象を限定する機能が動くと第一段階、防御の範囲を示す機能が動くと第二段階になる、という形です。つまり、審判対象を限定するために欠かせない事項が動いたかどうかを問うのが、さきほどの決定が『審判対象の画定』と呼んでいた第一段階の中身です。たとえば、さっき見た窃盗と横領の入れ替わりは、この限定機能そのものを壊すからこそ、画定に必要な事項が動いたことになります。訴因の明示・特定の場面で効いていた物差しが、要否の場面でも同じ形で効いているわけです。ここは平13決定自身がそう述べているわけではなく、あとから整理して見えてくる対応関係だという点は分けて聞いてください。

識別説は、前に見たとおり、他の犯罪事実と区別できる程度に訴因が書かれていれば足りる、という考え方でした。その区別に欠かせない事項が動いたかどうかが、第一段階の判断と重なります。

最高裁の事件と、冒頭の事件に当てはめる

実行行為者の食い違いは審判対象の画定に不要だが防御上重要であり争点として顕在化していれば例外的に訴因変更不要になるという当てはめの流れを示す板

まず、この決定そのものの事件で当てはめてみましょう。殺人罪の共同正犯(刑法60条)は、誰が現に実行行為を担当したかを問わず、共謀に関与し正犯として認められれば全員が同じ刑事責任を負う仕組みです。判旨の一段落目が言うとおり、実行行為者が明示されていなくても罪となるべき事実の特定には欠けません。共謀して被害者を殺害した、という事実の骨格があれば、他の事件と区別できるからです。だから、第一段階、審判対象の画定という見地からは、訴因変更は不要です。誰が実行したかが量刑に影響しそうだ、というところが、まさに第二段階です。実行行為者が誰かは、一般に、量刑を左右する事情、いわゆる犯情に影響するので、防御上重要な事項に当たります。だから原則としては訴因変更が必要です。ただし、この事件では、実行行為者が誰かはすでに争点として顕在化しており、多数回の公判で証拠調べが行われていました。被告人には防御の機会があったので、不意打ちではありません。しかも認定された事実は、Aさん単独の可能性も含む択一的なもので、被告人にとってより不利益とも言えません。

だから、訴因変更を経ずに認定したことも、違法ではありませんでした。

冒頭の強盗致傷事件について争点の顕在化の有無で結論が分かれる当てはめを示す板 図:冒頭の強盗致傷事件について争点の顕在化の有無で結論が分かれる当てはめを示す板

では、冒頭の強盗致傷の事件に、同じ枠組みを当ててみましょう。この事件も、二人が共同正犯である以上、実行行為者の特定は審判対象の画定には不要です。第一段階はクリアします。第二段階、防御上重要かどうかは、今の決定の事件と同じ理由で重要と言えます。ここから先は、審理の経過次第で結論が分かれます。二つのパターンを比べてみましょう。一つ目のパターンです。誰が実行したかが審理の中で早くから争点として顕在化し、検察官も弁護人もXとYどちらが実行者かを前提に主張立証を尽くしていて、被告人側にも防御の機会が確保されていた場合。この場合は不意打ちではなく、認定される事実が被告人により不利益でもなければ、訴因変更なしの認定も適法になり得ます。

逆に、検察官と弁護人がともにXの実行行為だけを前提に主張立証を組んでいて、Yの関与は審理の最後の証人尋問で初めて言及された程度にとどまっていた場合です。この場合は、被告人にとって不意打ちに当たり、例外は使えません。原則どおり訴因変更が必要で、これを経ずに認定すれば違法です。争点として顕在化していなければ、訴因変更を経ないままの認定は違法です。その違法を控訴審でどう争うかという構成は、別の回で扱います。

論文の型

審判対象の画定に必要な事項かを先に検討しそれが否定されて初めて防御上重要な事項かと例外要件に進むという答案の順序を示す板

⭐ 論文で書く規範:訴因変更の要否の検討順序 ①訴因に書かれた事実のうち審判対象の画定(=審判対象を限定する機能)に必要な事項が動いたか。動けば一律に訴因変更が必要(検討終了)。②動いていなければ、被告人の防御にとって重要な事項として訴因に明示されていた事項が動いたか。動いていなければ不要。③動いていれば原則として必要だが、審理の経過に照らし被告人に不意打ちを与えず、かつ認定事実が訴因記載事実より不利益でもないという二条件を両方満たすときは、例外的に不要。 (最決平13・4・11に基づく答案の流れ)

検討の順序は、①→②→③の順で崩しません。②を飛ばして、いきなり③の不意打ちの有無だけを論じないことが大事です。防御上重要な事項ですらないなら、そもそも例外を論じる必要がないからです。①を飛ばすのは、もっと危険です。審判対象の画定に必要な事項が動いた場面には例外が無いので、そこで不意打ちかどうかを論じて適法と書けば、結論を誤ります。答案の書き出しは、たとえばこう始めます。「本件では〈事項〉が訴因と異なって認定されているところ、まず①審判対象の画定に必要な事項といえるかを検討する。」この書き出しから、①→②→③の順に進めていく型です。

今日の地図(保存版)

審判対象の画定(=限定機能)に必要な事項と被告人の防御にとって重要な事項という二段階で訴因変更の要否が決まることをまとめて示す板

今日のまとめです。訴因変更の要否は、動いた事実のレベルによって扱いが違います。審判対象の画定に必要な事項が動けば、一律に訴因変更が必要です。そうでなくても、被告人の防御にとって重要な事項として訴因に明示されていた事実が動けば、原則として訴因変更が必要ですが、審理の経過に照らし不意打ちでなく、認定事実が訴因より不利益でもないときは、例外的に不要です。この二段階は、訴因の明示・特定の場面で見た、審判対象の限定と防御の範囲の明示という二つの機能が、そのまま形を変えて効いているものでした。冒頭の強盗致傷の事件も、実行行為者の食い違いは審判対象の画定には関わらず、防御上重要な事項として扱われる、というところまでは今日で答えが出ました。

あとは、争点として顕在化していたかどうかの事案次第、ということですね。

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