訴因変更の要否と過失犯・争点顕在化
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第3章 公訴 ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
同じ放火でも、火をつけた方法が変わったら
図:前回の2段階の枠組みを一枚で示す板
前回のあの枠組み、覚えていますか?まず、審判対象の画定に必要な事項が動いたか。動けば一律に訴因変更が必要でした。動いていなければ、被告人の防御にとって重要な事項が動いたかを見て、動けば原則必要、ただし審理の経過に照らして不意打ちでなく、認定される事実が訴因よりも不利益でなければ、例外的に不要でした。今日は、その枠組みを、実行行為者以外の事実に当てはめる練習をします。前回の最後に言ったとおり、放火の方法や過失犯で、訴因変更の要否がどう問題になるかを見ていきます。同じ放火でも、火をつけた方法が変わったら、この枠組みはどう働くでしょうか。
放火の方法も、実行行為者と同じく第二段階に入ります。先に答えを言っておくと、動いたのが事件の骨格か、骨格の中を埋める手段かで、第一段階か第二段階かが分かれます。なぜそうなるのかを、放火と過失犯できちんと理由づけしていきます。
放火の方法という事実が動いたとき

まず、現住建造物等放火罪の条文を確認しておきましょう。
条文刑法108条
現住建造物等放火罪 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。
条文には「放火して」「焼損した」としか書かれていません。どうやって火をつけたかという具体的な方法は、条文の文言そのものには出てきません。ある事件では、訴因に、被告人がガスコンロの点火スイッチを作動させて火をつけ、そこからガスに引火させて爆発を起こしたという具体的な方法が記載されていました。第一審は、訴因の範囲内で「点火スイッチを頭部で押し込み作動させた」と認定しました。ところが控訴審は、第一審の認定を退けたうえで、訴因の変更をしないまま、点火の方法を特定せずに「何らかの方法により」ガスを引火、爆発させた、と認定しました。
この認定が適法かをめぐって、最高裁が判断を示しました。
判例最決平24・2・29(刑集66巻4号589頁)
ガス爆発放火・方法認定事件決定 被告人が上記ガスに引火、爆発させた方法は、本件現住建造物等放火罪の実行行為の内容をなすものであって、一般的に被告人の防御にとって重要な事項であるから、判決において訴因と実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要する……求釈明や証拠調べにおける発問等はしていなかったものである。このような審理の経過に照らせば、……『何らかの方法により』引火、爆発させたと認定したことは、……本件審理における攻防の範囲を越えて無限定な認定をした点において被告人に不意打ちを与えるものといわざるを得ない。
判旨が述べているのは、方法は実行行為の内容そのものであって一般的に防御にとって重要な事項だという位置づけと、求釈明も発問もせず「何らかの方法」と認定したことが不意打ちだったという二点までです。ここから先は、判旨そのものではなく、私たちがこの判旨を前回の枠組みに位置づけ直す作業だと思って聞いてください。ガスに引火・爆発させて火を放ったという実行行為の骨格は、訴因でも認定でも動いていません。動いたのは、その骨格の中身をどう埋めるかという、具体的な手段の部分だけです。骨格が動かず手段だけが動いた以上、審判対象の画定という第一段階には当たりません。他方で、その手段は実行行為の内容そのものなので、一般的・類型的に防御上重要な事項として、第二段階に入ります。では、なぜ不意打ちとされたのか。審理の攻防は、点火スイッチをどう作動させたかという特定の方法をめぐって続いていました。そこで判決がいきなり「何らかの方法」とすると、被告人は反論する的を失います。判旨が「攻防の範囲を越えて無限定な認定」と呼んだのは、このことです。
ここで一つ、対比になる例を見ておきましょう。窃盗の訴因で「他人の財布から現金を抜き取った」と書かれていたのに、証拠上は「財布ごとバッグから持ち去った」という認定に変わったとします。奪い方という具体的なやり方が変わっただけなので、これも第二段階の話にとどまります。これに対して、奪った対象そのものが「現金」から「腕時計」に入れ替わるような場合は、骨格そのものが動く話になり得ます。骨格が動くか、骨格の中の手段が動くだけかで、第一段階か第二段階かが分かれる、という物差しは、実行行為者でも放火の方法でも共通しています。
過失犯の訴因は三層でできている

過失犯は、もう一段複雑です。実は、過失運転致死傷罪の条文を見ると、その理由がよく分かります。
条文自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条
過失運転致死傷罪 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
条文には「運転上必要な注意を怠り」としか書かれていません。具体的に何をどう不注意だったのか、その中身は条文のどこにも書かれていないんです。だから、過失の中身は、事件ごとに訴因のなかで具体的に書き込むしかありません。そしてその訴因の過失の記載は、実は三つの層でできています。一つ目は前提事実、注意義務を課す根拠となる事実です。二つ目は注意義務の内容、被告人が何をすべきだったかです。三つ目は過失の態様、注意義務に違反した行為そのものです。自動車の運転を例にしましょう。前提事実は、たとえば「前方に歩行者がいた」という事実です。注意義務の内容は、「前方の動静に十分注意して進行すべき義務」です。過失の態様は、「わき見をして前方を見ていなかった」という、実際にしなかった行為そのものです。

身近な例で、どの層が動くと結論がどう変わるかを見てみましょう。まず、態様が動く例です。訴因は「前方不注意でハンドル操作を誤った」、認定は「わき見をしてブレーキを踏むのが遅れた」だとします。次に、前提事実が動く例です。訴因は「前方に歩行者がいたのに」、認定は「前方に自転車がいたのに」だとします。前方不注視のまま進行したという態様は動いていません。最後に、注意義務の内容が動く例です。訴因は「徐行して安全を確認すべき義務」、認定は「一時停止して安全を確認すべき義務」だとします。どちらの場合も、被告人が実際にしたのは「減速しないまま交差点に入った」ことだとすれば、義務の重さは変わっても、過失の態様は動いていないことになります。
この違いを、実際の判決で見てみましょう。起訴状が挙げていた過失の態様は、雨に濡れた靴を十分に拭かないまま履いたことで足が滑り、クラッチペダルを踏みはずした、というものでした。第一審は、訴因変更手続を経ないまま、前車が一時停止していたのにブレーキをかけるのが遅れた、という別の態様の過失を認定しました。最高裁も、ここで過失の態様が入れ替わったとみました。判旨は、二つの過失が「明らかに過失の態様を異にして」いるとし、続けて、「起訴状に訴因として明示された態様の過失を認めず、それとは別の態様の過失を認定するには、被告人に防禦の機会を与えるため訴因の変更手続を要する」と判示し、訴因変更手続を経ないまま認定した第一審を違法としました。

この判決は、平13決定より前の判例です。平13決定の二段階の枠組みで読み直すと、どう位置づけられるでしょうか。過失の態様が変われば実行行為そのものが変わる、という理解は実際に主張されています。過失の態様は、過失犯の実行行為に相当する部分です。だから、過失の態様が変動する場合は、構成要件レベルの入れ替えとして、審判対象の画定に必要な事項の変動、つまり第一段階に当たるという理解です。これに対して、前提事実や注意義務の内容だけが動いて、過失の態様そのものは動かない場合には、第二段階、防御上重要な事実の変動にとどまるとする見解が有力です。この場合は、不意打ちでなく、認定事実がより不利益でもなければ、訴因変更は不要になり得ます。
放火のときは、火をつけた方法が動いても第二段階でした。過失犯で態様が動くと第一段階になり得るのは、なぜですか?条文の書き方が違うからです。放火罪は「放火して」「焼損した」という行為が条文に書かれていて、それが事件の骨格になります。火をつけた方法は、その骨格の中を埋める手段です。これに対して過失犯の条文は「注意を怠り」としか言わないので、何をしなかったかという過失の態様を訴因に書き込んで、初めて事件の骨格ができあがります。この理解に立つと、過失犯では、過失の態様そのものが骨格にあたるわけです。この理解に立てば、三つの例のうち第一段階に入るのは、態様が動く例だけです。動いている層を先に特定しないと、第一段階なのか第二段階なのかを間違えます。ここで一つ、境界線をもう少し具体化しておきましょう。訴因が「前方を注視しないまま漫然と進行した」、認定が「わき見をして前方を注視しないまま進行した」だったらどうでしょう。
態様の中身は同じで、説明の細かさが違うだけなので、基本的な差異をもたらすとはいえません。さっきのハンドル操作とブレーキのように、実際にしなかった行為そのものが入れ替わったときに、初めて態様が動いたと言えます。過失犯でも結局、動いたのが骨格か、骨格の中身の説明にすぎないかで、第一段階か第二段階かが分かれるわけです。
なぜ不意打ちかどうかを個別に判断してよいのか
図:公判前整理手続と冒頭陳述と求釈明という三つの争点顕在化措置を並べた一覧板
第二段階には、審理の経過に照らして不意打ちでなければ、訴因変更が不要になる例外がありましたよね。あの「審理の経過に照らして」というのを、裁判所が個別に判断してよいなら、被告人の防御は結局その場の運まかせになりませんか?よい疑問です。不意打ちでないと言えるのは、訴因変更という手続を経なくても、他の手段で実質的に争点が示され、被告人が防御の機会を得ていたと言える場合です。そう言える手段が、実はいくつも用意されています。一つ目は、公判前整理手続です。この手続に付された事件では、その中で争点があらかじめ明らかにされます。
前の回では、ここで固めた争点を後から覆す訴因変更は制限されうる、と見ました。今回はその裏側の働きです。二つ目は、通常の手続での冒頭陳述です。検察官・弁護人がそれぞれの主張を早い段階で示すことで、争点が見えてきます。三つ目は、裁判所の訴訟指揮権に基づく求釈明や発問です。審理の経過に伴って争点が変わっていく場合、この求釈明が実際に効いてきます。求釈明は、訴因の特定の場面でも使われた制度で、ここでも同じように働きます。公判前整理手続・冒頭陳述・求釈明のいずれかで、検察官が何を主張し、被告人が何を争うべきかが実質的に示されていれば、訴因変更という書面上の手続を経なくても、防御権は実質的に保障されている、と言えるわけです。逆に、そのどれもが機能しないまま判決が出れば、不意打ちになります。実際にそのどれもが機能しなかった事件を見てみましょう。
判例最判昭58・12・13(刑集37巻10号1581頁)
よど号ハイジャック共謀日時認定事件判決 少なくとも、一二日夜の謀議の存否の点を控訴審における争点として顕在化させたうえで十分の審理を遂げる必要があると解される……被告人に対し不意打ちを与え、その防禦権を不当に侵害するものであつて違法であるといわなければならない。

共謀共同正犯の事案で、被告人・弁護人は第一審以来、ある夜の協議に自分が加わったかどうかを争点にして、アリバイを立証していました。ところが控訴審は、そのアリバイを認めながら、実は協議は別の日に行われ、被告人もそれに加わっていた、という認定をしました。最高裁は、そのような認定をするなら、別の日の謀議の存否を控訴審における争点として顕在化させたうえで審理する必要があったのに、その措置をとらずに認定したことは不意打ちで違法だとしました。共謀の日時が幅を持って「一月十日から十二日」と起訴された事件を考えてみましょう。証拠調べの大半が十一日の謀議に費やされ、被告人側もその日について反証を尽くしていたなら、判決で十一日の謀議を認定しても不意打ちではありません。これに対して、証拠調べで誰も触れなかった十日の謀議を、判決でいきなり認定すれば、争点として顕在化していない事実の認定として不意打ちになります。
争点顕在化措置を、あえて訴因変更のかたちで行うこともあるんですか?あります。実務では、争点を明確にするために訴因変更を使うこともあり、これを任意的訴因変更と呼びます。義務ではありませんが、争点を顕在化させないまま不意打ちの事実を認定することは許されない、という発想から使われる運用です。
具体的防御説と抽象的防御説
図:具体的防御説と抽象的防御説の対比表を識別説・防御権説とは別の対立軸として示す板
具体的防御説・抽象的防御説と、識別説・防御権説は、分けて整理しておきましょう。識別説・防御権説は、訴因にどこまで書けば特定として足りるか、という訴因の特定という場面の対立でした。これから話す具体的防御説・抽象的防御説は、いったん特定された訴因と異なる事実を、訴因変更なしに認定してよいか、という要否の場面の対立です。平13決定より前の学説には、二つの立場がありました。具体的防御説は、認定された事実が訴因と食い違う場面で、実際の訴訟の経過に即して被告人に防御の機会が現に与えられていたかを基準に、訴因変更の要否を判断します。抽象的防御説は、具体的な防御の状況を考慮せず、検察官の訴因と裁判所の認定事実を比較して、一般的・類型的に防御上の不利益が生じうるかどうかで判断します。
具体的防御説だと、訴因変更が不要とされる事案が多くなるため、抽象的防御説の方が防御の保障に手厚い、と主張されていました。ただ、両説とも、訴因が持つ識別機能をそもそも踏まえていないという批判を受けます。なぜかというと、防御の機会だけで決めると、たとえば前回見た窃盗と横領の入れ替わりのように、裁く対象そのものが入れ替わる場面でも、被告人が十分に反論できていれば訴因変更は要らない、という結論になりかねないからです。とくに具体的防御説では、そうなりやすくなります。こうした批判が出される中で、平13決定が、審判対象の画定に必要な事項という第一段階と、防御上重要な事項という第二段階の、二段階の枠組みを示しました。第一段階は識別機能に対応し、第二段階は防御機能に対応します。だから、今日見てきた過失犯の判決や、謀議の日をずらして認定した判決も、当時は具体的防御説・抽象的防御説のどちらかという観点から読まれていましたが、今は平13決定の枠組みでどう位置づけるかを考え直す、というのが今日の作業だったわけです。
論文の型
図:動いた事実が骨格か手段かを特定しそれから①②③の順で検討する答案の流れを示す板
⭐ 論文で書く規範:実行行為者以外の事実への当てはめの検討順序 実行行為に関わる事実が動いたときは、まず動いたのが審判対象の骨格(識別に必要な部分)か、その中の具体的な手段かを特定する(過失犯では、過失の態様を骨格とみる理解が主張されている)。過失犯なら、前提事実・注意義務の内容・過失の態様の三層のうち、どれが動いたかを先に切り分ける。そのうえで、平13決定の①審判対象の画定→②防御上重要な事項→③不意打ちでなく不利益でもないかという例外、の順で検討する。③の例外の場面では、公判前整理手続・冒頭陳述・求釈明のいずれかで争点が具体的に顕在化していたかを示す。 (平13決定の枠組みを実行行為者以外の事実に当てはめる答案の流れ)
放火でも過失犯でも、いきなり審判対象の画定、防御上重要な事項、不意打ちの例外という順番に事実を当てはめようとしない、というのが今日の一番大事なところです。まず、動いたのが骨格なのか、骨格の中の手段なのかを特定します。過失犯なら、その前にもう一段、前提事実・注意義務の内容・過失の態様のどれが動いたのかを切り分けます。過失犯だけ、当てはめの手前にもう一段作業が増えるんです。そこまで特定してから、初めて第一段階、第二段階、例外の順で検討します。例外の場面では、公判前整理手続・冒頭陳述・求釈明のどれで争点が具体的に顕在化していたかを、事実に即して書くことが大事です。
今日の地図(保存版)

今日のまとめです。放火の方法は、実行行為の骨格ではなく、骨格の中の具体的な手段にあたるため、実行行為者と同じく第二段階、防御上重要な事項として扱われます。過失犯は、訴因の過失の記載が前提事実・注意義務の内容・過失の態様という三層でできており、過失の態様が動けば第一段階に相当するという理解が主張され、前提事実や注意義務の内容だけが動く場合は第二段階にとどまるという見解が有力です。第二段階の例外を個別に判断できるのは、公判前整理手続・冒頭陳述・求釈明という、訴因変更以外に争点を顕在化させる手段があるからでした。そして、平13決定の二段階の枠組みは、その前の時代の具体的防御説・抽象的防御説という学説対立を、識別機能と防御機能という軸で整理し直したものでした。
動いた事実のレベルを見極めてから、審判対象の画定、防御上重要な事項、不意打ちの例外という順で当てはめる、というところは前回と同じ型なんですね。
参照条文
- 刑法108条
- 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条